第24話 玉座


「荒業になるが、無茶苦茶というほどでもなかろう」


木野先輩の考え付いた作戦は無茶苦茶だった。

生徒会室の真上の部屋から床をぶち抜いて、一気に敵の本陣へとなだれ込む作戦だ。

敵はいちいち細かい命令を与えておらず単に風吹先輩を守れと命令されただけの動く死体が2階にたむろっているというのが僕の予想だ。

40から50体はいる、アイツらを排除して廊下を進むのは不可能に近い。

野槌の一味を追い回すことで、校舎全体に分散された戦力が集結する前にここで決着をつけたい。

作戦は無茶苦茶ではあるが、勝算は十分にある。

カーテンをちぎってロープ代わりにしたが、最悪飛び降りることも覚悟する。


「いくぞ」


木野先輩は床をじっと見つめる。

見つめた時間に比例して威力を増す先輩の能力。

30秒……1分……

ここでなら時間は十分になる。


ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ


白い煙と轟音を上げて崩れ去る床。

しかし、一撃ですべてを破壊することはできなかった。


「もう一度」


今のですべてを察知されてしまったか。いや大丈夫なはずだ。


もう1分だけ。


お願いだ時間をくれ。


ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ


再度の轟音。


二つの部屋は、半径1メートルほどの穴によって、垂直方向に繋がった。


彼女たちにとってみればいきなり天井が崩れ去った状態。

瞬時に対応もできまい。


僕はカーテンのロープ握って勢いよく下の階部屋へと飛び降りる。

続いて海野先輩を僕が受け止める。


木野先輩は小さな爆発を連続して起こすことで僕らをフォローする。


僕は部屋の隅で小さくなって震えている小町を発見した。

よかった、彼女は無事だ。

なら、僕たちが相手にしなければならないのは


「風吹先輩。チェックメイトです」


生徒会長が座るべき執務机。

今や死者の王国の玉座となったそこに悠然と腰を掛ける女子高生。

僕は彼女に刀の切っ先を向け、降伏を迫った。


「生徒会室の天井を壊すなんて、悪い子ね。修理の予算はどこが出すのかしらね」


少女はフフフと静かにわらった。

深々とイスに腰を掛け、焦る様子は全く見られない。


木野先輩が什器を使って入り口をふさぎ、廊下の動く死体が中に入ってくることを阻む


「あら、私が命令しない限り中に入ってはこないわ。無粋じゃない」


「なぜこんなことをしたんですか」


「あら、偶々偶然ね、困っている小町ちゃんを見つけたのよ。だから同情して、死体を隠すのにも協力してあげたし、彼女を捕まえに来た不良どもも殺してあげたんだけど」


「貴方がしたことはそれだけじゃないでしょう」


「ああ、綾瀬君の手伝いの事? 人類の進歩のために犠牲はつきものだぁとか、選ばれた私たちが無能を殺して何が悪いとか、そういう悪役っぽいことを言えばいいのかな。ま、どっちでもいいか。正直言って、ただ綾瀬君を手伝っただけだから、私としては何の感情もないのよねぇ」


「あれだけの人を殺して何の感情もないんですか?」


「それこそ、人類の歴史では幾らでもあるようなことじゃない。イチイチ私の心が動かされたりはしないわよ。人類史レベルで考えてみてはどうかしら」


「そんな。そんな無茶苦茶なことができるんですか、貴方は」


「だから言ってるじゃない。どっちでもいいのよ。ただのお手伝いなんだからさ。さぁて、私を殺したら全部終わりかな。だったら、最後の戦いて奴でもはじめましょうか」


「先輩、命があればよかったと思ってください……それ以上の手加減はできませんから」


「ふふふ、手加減無用って、時代劇の俳優みたいね。面白いわ」


風吹先輩は、くるりと椅子を回転させたかと思うと、そのまま後方の窓に向かって走りだし、そのまま空いた窓から外に飛び降りた。


「幾ら2階からだって……」


僕は慌てて窓際に駆け寄る。


階下に見えるのは何十人という動く死体に身を委ね、受け止められている風吹先輩の姿だった。



「窓から落ちてきた私を全力で受けとめるようにとだけ命令していた兵隊たちよ。どう、贅沢な使い方でしょ」


少女はフフフと静かにわらった。


「畜生」


完全に僕たちの作戦は破たんした。


このまま彼女を追いかけても、すぐ脇に数十の兵隊がいるのだ。

彼らが僕らを攻撃してくるとしたら、僕らに勝ち目はない。


「よし、小町を連れて脱出だけでもするぞ」


木野先輩が叫ぶ。


抵抗する小町を先輩は無理矢理に差さえつけ、気絶させると彼女を担いだ。


「もう一回床を突き破るぞ」


木野先輩の声を背中に聞きながら、僕は悠然とその場を去ろうとする風吹先輩を見つめていた。


「くそ。くそ。くそ」


僕は弱弱しく呟くことしかできなかった。



                   ◇


                  パシャン


突然学校中の電気が消えた。

前触れもなく現れた闇に戸惑うことしかできない僕。


「そのままじっとしていて」


「その声は凛か」


「みなつかまって」


凛に誘導されるまま僕らは一カ所に集められる


「飛び降りるからさ、うまい具合に皆さん私に捕まってくださいね」


「みんなって僕たち4人をかよ」


無茶苦茶なことを言うが、従うしかない。

僕たちは寄り集まって、凛を押しつぶすかのように彼女に抱きついた。


「足は気を付けてくださいね」


高校生4人分の重量を楽々と運搬しながら、窓に近づく凛


そして勢いよく


「ええええええい」


っと外に飛び出した。


「凛、遅いぜ凛。僕は何とかここまで、ここまでやって来たぞ」


「ハイ。小町さんを救ったのは逢坂さんと皆さんです。そして、それで十分です。あとは魔法刑事のお仕事ですから!」


僕たちを下ろすと、凛はゆっくりと風吹先輩へと近づいていく。


「動く死体といえども、視力を使って感知しているのは変わりません。本物のモンスターのように闇夜でも動けるわけじゃないんです」


最後の最後でジョーカーを引いた。


僕たちの勝ちだ













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る