第21話 対峙

 捜査3日目も終わろうとしている。

 日はすっかり落ち、空には星々が煌いている。

 遠く神社の方から祭囃子が聞こえてくる。

 今日が夏祭りの日だと気付かされた。

 

 住宅街の公園は静かだった。

 祭から帰ってくる家族連れや学生たちが脇を通りぬけていくけれど

 誰一人公園の中に足を踏み入れようとしない。

 強力な人払いの力だ。


「随分との大勢で来たもんだね」


ベンチに腰掛ける綾瀬先輩はいつもと変わらない様子で僕らに語りかけてきた。


 小町はいない。僕と海野先輩と木野先輩の3人が睨みつけるように綾瀬先輩の表情を見据える。

 さらに僕たちを見つめる大人たちがいた。

 人形屋と、部下が6人。いや、人形が6体というべきか。


「綾瀬、お前」


「甲丙。まあ落ち着きなよ。何から話そうかな」


「先輩は、一体何をしたんですか」


「殺人事件に関しては、何もしてない。僕は無関係だよ。それ以外なら色々とね」


「先輩は僕たちを騙していたんですか」


「嘘を見破る力を持つ君を騙すなんて不可能だろう。僕は別に騙してなんかいないよ。君たち以外に友人がいることが、裏切り行為になるのかな」


「一体何人の人間を魔術師に変えたんだ」


木野先輩が迫る


「僕が変えたわけではないけどねぇ。僕の同志という意味なら、君たち以外にも片手では数えられないくらいいるかな」


「なぜです」


「なぜ?なぜと聞くのかい。答えはきちんと与えているはずなんだよ。思い出してごらん。凛と一緒に来たとき、僕は何て言ったのか」


「そんなこと覚えていないですよ」


「僕はちゃんと覚えているよ。凛君が『貴方はその3人の死を望んでいましたか?そして、野槌清春の死を望んでいますか』という問いに僕はこう答えた。『ノーだよ。彼らが死んでも、妹は帰ってこない。僕が望むことは、もう一度妹をこの手に取り戻すことだけだ。それができないのであれば……それ以外の何かを望むことは……実に空しいことだと理解している』」


「それが」


「君の能力でわかるだろ。これが僕の本心さ。家族を殺された人間が望む唯一のことは、その者が帰ってくることだよ。復讐じゃあない。分からないかな。僕は最初から復讐なんか望んじゃいない。君たちを集めて集会を開く必要なんてないのさ」


「だったら……」


「つまり、綾瀬は、死者を生き返らせる魔法を探していた、そういうことよね」


海野先輩がいう


「正解だよ乙女。僕自身にその力が宿らなかったのは残念だが、他人の能力を解析するこの力。まさに僕を願望を形にしたようだとは思わないかい。僕はただ僕の望む力を求めているだけだよ。『彼女』はかなり近かったけど、やはり本質に問題があったか……いや、これはこっちの話だ」


「そんな……そんなことで……」


「何か問題でもあるかい。君たちの要望には沿った形だろう。僕に責任はない。もっとも、『ギルド』や『公安』から目を逸らす囮として君たちを利用させてもらったことは認めるよ。凛君の本命は『彼女』の方だったんだけど、うまく逢坂の方に引き取ってもらえたのは、我ながらうまくいったとは思っている」


なんなんだ、それは。

僕は僕が信じていた世界が崩れるような想いだった。

拳を握ろうと思っても、僕は誰にこの怒りをぶつければいいのかわからない。


「俺はお前を殴りたいが、考え方の違いと納得もできなくはない。それよりも、小町はどこだ」


「ああ、そうだね。甲丙は正しい。君たちが気にすべきは小町のこれからだと思うよ。小町には『彼女』を付けた。復讐を遂げるには小町一人では心細いからね」


「もったいぶらずに答えろよ」


「OKOK。じゃあ、答えるよ。学校さ。生徒会室に小町はいるよ。小町がそこにいることは野槌にも伝えた。今頃、戦闘が始まってるんじゃないかな。野槌君の兵隊は40人か50人くらいかな」


「悪いですが、僕も話に混ぜてもらっていいですか。お仕事何でね。初めまして人形屋と申します。まあ、セーガクの身分でよくも我々『ギルド』を敵に回してめちゃくちゃやってくれましたね。まあ、賞賛半分、ぶん殴りたいのが半分というところなんですけどね。野槌にはお岩さんやら、僕の部下も何人か着けているんですよ。そこに数十人の兵隊。それだけの戦力を迎え撃つ『彼女』ってのは何者なんですかねぇ」


「僕の忠実な部下だよ」


「まさか、風吹先輩じゃ」


「ご名答。彼女には僕のいない間も仕事に勤しんでもらっていたんだよ。ドリームメーカーを使って、魔術師を量産するという大切なお仕事をね」


「何を言ってるんですか。あの機械を使ってもそう簡単に魔術師を埋めるわけがないんですよ」


「僕の能力は潜在的な魔法の能力を見極めることができるんだよ。逢坂、甲丙、乙女が魔法を使えるのは偶然ではないよ。小町も本質的には魔法を使えたはずなんだが、どうも精神が荒廃していたようで開花しなかったようだね。残念なことだ」


「なるほど。それは随分と便利な能力をお持ちで。つまり、貴方のお仲間が学校に集結しているということですね」


「そうじゃない。あそこにいるのは風吹君だけだよ。僕の能力も僕がいなければ使えないだろう。だから無理やりに装置を使わざるを得なかった。失敗作はもう100人を超えているかな。そろそろ誤魔化しきれなくなったので、あの学校は破棄することにした」


「アンタ、なにをいってんのよ」


「僕は別に善人を気取るつもりはないんでね。棗さえ帰ってくればそれでいいんですよ。弾けるくじがあれば引き続ける。それだけのことですよ」


綾瀬は、今までに一度も見せたことのない邪悪な笑みを浮かべた。


「そこまで白状して、ギルドが貴方は見逃すとも?」


「残念だけど、人形屋さん。『青炎の魔女』は知っているよね。彼女との取引が成立済みだ。僕の能力は極めて有効ということ。これからはギルドに協力する形で『好きにやらせてもらう』 」


「く、上層部は何を考えているんですか!!」


怒りに身を任せる人形屋の姿は意外だった。

綾瀬を止めないと、まだまだ多くの人が死ぬ。

でも、僕たちがすべきは。


「木野先輩、海野先輩。学校へ向かいましょう」


「おう」


「そうね」


僕らは互いの意思を確認すると、公園から飛び出す。


「お待ちなさい。車で送りましょう。僕としても依頼は依頼として、完遂しなければなりませんからね」


僕らを追う人形たとその人形たち。


綾瀬先輩は一度もベンチから立ち上がることなく、僕らを見送る。


「風吹君の能力の正体についてはもう分かっているだろう? 『デスブリンガー』と僕は呼んでいるけど、死体を操る能力だよ。今朝の時点で100体だけど、今日一日フル稼働で作業してもらっていたからなぁ。今だとどれくらいに増えているかな。、ま、せいぜい頑張ってくれよ。興味はないけれど、一応の母校の最後だ。僕に代わって堪能してくれたまえ」


そんな言葉を僕は聞きたくいなかった



























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