第20話 真相と告白(後編)


「もしもし……やっと出てくれた」


「まぁね。別に逃げたり隠れたりしてるわけじゃないの。ちょっと忙しくて」


「気付いてあげられなくゴメン」


「謝られても、困るよ。結局私の我儘だってことは分かってるつもりだし……」


「あとは僕に任せてくれよ。全部うまくやる」


「無理だよ。もうおしまい。後悔はしてないし」


「本当に後悔してないなら、そこまで追い込んだのは僕だ」


「だから、そういうのは嫌いだなって言ってるよ」


「帰る場所がないなら、僕が帰る場所を用意すべきだったんだ。少しでも諦められない何かがあれば、後悔しない筈はないだろう」


「私たちは所詮ただの幼馴染なんだしさ。家族の代わりとか、そういうの重いよ」


「でも……」


「でも、棗が死んじゃったからかな。残された二人だから、だから守らないといけないのかな」


「そんな……」


「いや、ホントそれって最低よね。最低で最悪。自殺するってそんなにエライわけ?自殺すればさ、生きている人間を束縛して、永遠になれるのかな」


「ゴメン、小町。もっと小町の話を聞いてやるべきだった」


「真君はどこまで私の事分かってくれたのかな?いろいろ調べたんでしょう。いやさ、答え合わせくらいしてあげないと、可哀そうだなって思っちゃって」


「可哀そうって、僕がか」


「そうよ。残念だけど、私は真君に分かって欲しかったみたいな、湿ったこと言うつもりはないからね。私は、あの亡霊と戦ったの。戦って、負けて、死ぬ。そんなとこかな」


「亡霊って棗のことか」


「そうよ。結局、私たちの世界はあの亡霊が作った世界だった。死者の王国だった。あの集まりだってそうじゃない。1年間、棗、棗、棗、棗、棗、棗、棗ってさぁ」


「だから、僕らはもっと小町のことを……」


「いや、ホントそういうのは止めた方がいいよ。私がさ、惨めになるから。ほんと惨め、惨めよね。生きてるって惨めよね。その点、死人は傷つかない。惨めになることはない。延々と美化され、醜さが顧みられることもない」


「醜さ…?」


「別に死人を悪く言うつもりはないのよ。そこは勘違いしないでね。どんな可愛い女の子だって生きている限り女神さまには成れないよね。私はどんなに傷ついても、惨めなっても死んだりはしない。生きて、生きて、生きて、この世界に殺されようと思う。思っていた。あの亡霊に勝つために……でも、もう無理かも。私ってそんなに強くない」


「全部嘘だったんだな。俺は気付けなかった。今日も元気だって言葉も、心配しなくていいって言葉も、自分のことも、家族のことも、進路のことも、将来のことも……」


「まぁね。色々とうまく行かないのが人生よね。ほんとタイミングが悪いよ。あんなことがあったちょうどその時期に、棗、棗、棗、棗、棗、棗、棗ってさぁ」


「…」


「棗、棗、棗、棗、棗、棗、棗ってさぁ。馬鹿みたいじゃない。これじゃあ、アタシが嫉妬してるみたいじゃない。死んでいる人間より、生きている人間の悩みを聞くことのほうがさぁ、世の中にとってプラスよね。社会にとって有用よね。私はそういうことを言いたいだけなのよ。私が可哀そうだとか、私のことを構ってとかさ、そんな小さな人間じゃない。違う、そんな小さな人間なのよ。でも、そんな小ささをべらべら自分でしゃべるような馬鹿な女じゃない。私は常識についてはなしているだけなのに。棗が死んだときだって、我慢したのは私。乱暴された棗は可哀そうだよ。私は嫉妬なんかしていない。私はちゃんと同情している。でも、じゃあ私は何。私は死人より幸せだと思って生きていけばいいわけ。そんな馬鹿な話してないわよね。社会にとって、世の中にとって、それってマイナスじゃない。世界は生きている人間のためにあるんじゃないの。あの件原って奴も馬鹿よ。私のことをなんて言ったと思う?ああ、棗の友達のって。棗の友達だって。どいつもこいつも、棗、棗、棗、棗、棗、棗、棗ってさぁ。私だってびっくりしたわよ、まさか、私のことを覚えているだなんてさ。もしかしたら奴らの事を探ていることもばれてるんじゃないかって。ドキドキ。ドキドキだった。でも、アイツたら私をどこに連れて行ったと思う。それはね、棗を襲ったあの場所よ。ハハハハハハハハハハハハハハハハ。ナンセンスだね。ナンセンス。おまえ、ドンだけ無神経なんだよって。市の方もおかしい。あの場所を1年間もそのままにしてるだなんて。あんなとこ閉鎖してれば、こんなことにならなかたのに。何、棗みたいに私を襲いたかったの?きっと、そうなんでしょうね。棗の代わりに、その友達でもいかってそういうことかな。ハハハハハハハハハハハハハハハハ。死ねて感じよね。まー無神経すぎて腹が立ったんで殺したけどね。ブロックで殴られたくらいで死ぬ方も悪いんだけどさ。死んだ後も、私を睨んでるから、顔面潰してやったんだけどさ。それでもやっぱり私の方を睨んでるのよ。潰して潰して、潰して潰して。何日くらいかかったかなぁ。やっと、睨むのを止めてくれたわ。成仏してくれたっていうなら私も安心。なんでか、豆狸の奴も私に絡んできてさ。こんな所で何をやってるんだ?とかうるさいから突き飛ばしたらトラックに轢かれて死んでやがるの。いや、ドン引きでしょ。冤罪てこうして生まれるんだって思ったわ。女子高生に突き飛ばされて死ぬってありえるのかな。もしかして、自殺かも」


「ゴメン。謝ることじゃなくても、謝らせてくれよ」


「違う、違う。そうじゃないでしょ。探偵はきちんと犯人の自白を最後まで聞くべきなのよ。聞きたいのは、なんで豆狸の死体が歩いたかって話よね。まさか、彼女まで魔法を使えるとは思えなかったって話。守秘義務もあるからなー。名前まで言っていいのかなー。私が困っていると死体を隠してあげるから帰れっていうのよ。普段は話もしたことがなかったから、何で優しくしてくれるのかなと思ったけど。魔法、魔法、魔法よね。みんな魔法が使えるのに私だけ置いてけぼりなのよね。それはそれで運命として受け入れるしかないわけだけど。でもね、魔法なんて所詮は道具なのよ。人間に大切なのはドンな道具を使えるかじゃないくて、道具を使って何ができるかだよ」


「だから、元興寺を殺した。魔法で殺されたかのように見せかけて」


「あの4人は殺され当然だからね。魔法で殺しても、魔法で殺されたように殺しても、『結果は同じ』でしょ。というわけであと一人をどうしようという話になるわけだけど……」


「もういい。帰ってこいよ、小町」


「復讐は私が全部終わらせてあげる。みんなは亡霊のことなんて忘れて幸せに生きなよ」


「待て、どうするつもりなんだ。敵は知ってるだろ。ギルドは……」


「それは大丈夫。野槌ってばさ、もう我慢の限界なんだって。たった4日ほど家に閉じ込められただけで、我慢の限界とかドンだけ甘ったれって話でしょう?なんでも、。部下を集めて犯人を殺しに行くことを計画してるんだって。親ももう面倒見きれないバカ息子よね。だから私が囮になって野槌を殺す」


「綾瀬先輩だな。綾瀬先輩がお前に協力しているんだろ」


「まあ、それは推理ってほどでもないよね。魔術師を幾らでも生み出せる機会があって、私たちだけしか試してないなんて話があると思う?死ぬかもしれない?覚悟がいる?綾瀬先輩って、そんなに優しい人だったかしらぁ。あのシスコンがねぇ……。真君は優しすぎるし、私はそういう真君が好きなんだから。まあ、今回のことを忘れて海野先輩か、凛とか言う女の子と楽しく生きて行ってください。途中随分激昂してしまってゴメン。もしも、どうしても私のことを思い出しちゃうのなら、いつもの、真君と一緒にいる、可愛い私にしてね」


電話という機械は嫌いだ。


一方的に繋がってくる


一方的に断絶する



















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