第5話 その鏡に映るのは?

 四月初旬、あたしの目の前に知らない男の子が突然現れた。鏡の中に現れた。それはあたしと全く違う生き方をしてきたというのに初対面とは思えなかった。まるで長年連れ添った友人や兄弟、もとい旦那さんみたいだった。夫婦は味覚まで似るらしく、味覚障害者と仲の良い友人たちにまで罵られたチョコレートを愛食するという奇特な点まで共通していた。

 彼があたしに対し、どのような思いを持っているかまでは分からない。彼の言葉の端々を見ると、あたしのことが嫌いなのかもしれない。ただ、あたし自身は確実に彼に惹かれ始めていた。そうでなければこの胸の苦しさは説明がつかない。

 そう。彼は、あたしにとっての世界そのものになっていた。

 あたしがこれまで見てきた世界は灰色。誰もが微笑みかけてくれるような真っ白な世界でも、全てに反吐が出るような真っ黒な世界でも、自己完結することができる無色透明な世界でもない。何事においても中途半端な灰色。その中途半端さがいいと言う人もいるがあたしはそうは思えなかった。

 もっと、もっと、もっと、より鮮やかな世界がどこかにきっとあるはずだ。いつもそれを探していた。求めていた。――しかし、そこにあたしは不釣り合いだということにとうの昔に気づいていた。あたしは灰色に染まっている。誰からも求められるミケランジェロが描きあげた教会天井絵に意味も生きがいも持たずノウノウと生きている私が混ざり込んでいいいわけがない。混ざり込んだとしても、そこだけ子供の落書きが混ざったように浮き彫りになってしまう。挙句の果てには、あたしの灰色が他を塗りつぶしてしまいかねない。それは、あたしにとっても不本意だった。

 一生、このまま変わり映えのない中途半端な日常を堪能するしかないと、心のどこかで覚悟していた時に彼が現れた。あたしのクレヨンで隅々まで灰色に塗りたくられたキャンパスを彼が鉛筆でなぞると、灰色が剥がれ落ちカラフルな色の下地が次々と現れた。それから、これまで一辺倒だった日常が終わり、小さくではあるが華やかなものに変わった。

 それがどうして、こうなってしまったのだろう。

 多くを望んだことは認める。ただ、これはあまりにもじゃないだろうか。どうしてまた全てを灰色に塗り潰してしまわれたのか。この絵の作者は何処だ。気に入らない点があるのならば、いくらでも払う。なんでもする。だから元に、せめて一筋だけでも。

 もう、彼がいた世界は見つからない。

 どんなに恋焦がれても彼は、現れない。

 こうして鏡に醜い自身の世界が映るようになって五日経った。

 彼が自慢気に話していた洋館や喧嘩の仲裁に入った神社の人に助けを求めたくても、場所が分からない。神社へ向かうとは聞いていたけど、どこのものか分からない。

 知らず知らずのうちに彼は私の心の大きな支えになっていたらしい。その証拠に今日、休み時間の度、碧に「保健室に行こうよ」と勧められている。それを何度も断っていると、徳井くんと碧に両脇を抱えられ強制的に連行された。その際、昔からあたしのことを妹のように手厚く扱う徳井くんに背負われかけた。

 あたしは相当顔色悪かったらしく、丸い体の妙齢に近い女性養護教諭に保健室入るやいなやベッドに寝かされた。ベッド周りのカーテンを閉め切り、体温計を脇に挟められる。体温計の先端部分がひんやりと気持ち良かった。だが、すぐに体温に馴染んでしまった。音が鳴った体温計を私は計測結果を確認してから養護教諭に手渡した。体温は少々低い程度の平熱だった。

 養護教諭は「今はゆっくり体を休めなさい」と言い残して、閉め切ったカーテンの合間を縫って普段の業務へと戻っていった。

 体はどこも悪くない。それはあたしが一番良く分かっている。悪いのは、折れたのは、あたしの心だ。今までひとりきりで騙し騙しやってきた。そんな中、初めて心から相手に気張らないで接することができた。それは今まで無意識のうちに背負わされてきた期待に対し、そぐわない格好は見せられないと無理して自分を酷使してきたあたしにとって、思わずすがってしまいたくなるものだった。気付けば今まで容易にこなしてきた学級委員長という役柄さえ、荷が重くなっていた。

 まるで依存症だ、とあたしは一人乾いた笑みを浮かべる。少しでも気が紛れる気がしたから。

 どうせ取り上げられるのなら与えないで欲しかった。大した趣味を持たないあたしにとって、彼は現実逃避ができる唯一の手段だったのかもしれない。何もない自分はいつも何か面白いことが起きればいいな、といつも心のどこかで願っていた。彼が現れてから一週間もしないうちに喧嘩をした。喧嘩なんて生まれて初めてだった。あたしの願いが産み出したのだから異を唱えるはずがないと浅はかな考えを持っていた。それが起点になったのだろう。彼のことが気になり始めた。同時に周りの人間以上に化けの皮を剥がされるのが恐ろしくなった。

 それからはもう坂道を転がるが如くだった。最初は少々頼りないなと思っていた彼は、日を追うごとに輝きを増していく。それが恋心だと確信したのは、別れるという話になった時だ。今までは割り切って生きていた。あたしなんかじゃどうしようもないんだと。そんなあたしがわがままをしてでも、それだけは、これだけは阻止したかった。その直後、彼に嫌われるのが恐ろしくなった。顔を見るのが怖かった。優しい顔をして、どんなことを考えているのかどうしても頭によぎってしまう。自分がどうしようもない人間だと分かっているからこそ、恐怖は増した。

 いつの間にかあたしは寝てしまっていたらしい。

 カーテンの隙間から壁掛け時計を見ると本日の授業終わり時刻五分前だった。

 珍しく授業を途中退席してしまった。今から向かっても到着するのはホームルーム中だろう。だとしたら、下手に戻って好奇の視線を浴びるよりはここで無為に時間を食い潰していた方が良い。

「あら、目が覚めたの?」

 養護教諭に見つかってしまった。仕切っていたカーテンを開かれる。

 夕暮れの日差しが目に差し込んできた。眩しさに薄目になる。

「もう授業も終わるし、大丈夫ならホームルームぐらい顔を出したら?」

 出たくない。嫌だ。でもそんなこと言えない。

「分かりました。ありがとうございます」

「あ、ちょっと待って」

 保健室から出かけた足を止める。

「何か悩みあるんだったら私でも担任でも、スクールカウンセラーでもいいから相談しなさい。いいわね?」

 社交辞令の笑顔を作る。

「ご心配ありがとうございます。でも一眠りしたらスッキリしましたから大丈夫です」

「そう? 気張らないでね、次期生徒会長さん」

「はい。清き一票を」

 保健室を後にした。

 階段を登る。四階まで登るのが億劫だ。一段一段気が重い。足を止める。

 一体誰に悩みを打ち明けろというんだ。私を知る人の多くは、次期生徒会長というレッテルを貼り付ける。だから彼にも学級委員長以上のことは言わなかった。ただでさえミスをしたら一日中期待と劣等感に押しつぶされてしまうというのに、彼にまで妙な期待を持たれたくなかった。誰に相談したら、この付箋のように気軽に貼り付けられるレッテルもなく取り合ってくれるというんだ。

 階段を登る。予想通り、教室はホームルーム中だった。ステージ上の無関心な視線とは別物の、ねっとりと纏わりつく気味の悪い視線を浴びせられた。席に着くと真後ろの席に座る碧に気遣われる。徳井くんからも心配そうな顔で視線を送られていた。

 それから家に帰り、一日保健室にいたことを家族の誰にも言わないで床に就いた。

 鏡にはもう誰も映らない。もう彼との就寝前の会話が楽しめない。

 

 

 

 

 翌日も登校した。何事も無く終わらせた。

 

 

 

 

 その翌日は休日だった。休日だったというのに、あたしは朝早くから目が冴えてしまっていた。布団の中で寝そべったまま鏡を見る。布をかける必要のなくなったそれには、ひどい寝癖のあたしがいた。何かするのでもなく起き上がり、自分の顔を黙って見続ける。眠気が多少残る頭に大人しく従い、何も考えないようにしていると面白みのない携帯の着信音が聞こえた。

「もしもし。碧、どうかした?」

 電話に出ると、親友の声が届く。

「突然なんだけど今日遊びに行かない? 恵一も誘ってさー」

「今日は遠慮しとく。なんだか家でゆっくりしてたい気分なの」

「そう。――恭子、気が向いたらでいいから教えてよ。恵一が気にし過ぎて今にも倒れ込みそうだから」

 今一緒にいるのだろうか。朝早くからご苦労なことだ。

「……気が向いたらね。恵一によろしく言っといて」

 切った。

 あちらの恵一は自分の親友で、こちらの恵一は恋に恋する高校生。あたしは男に生まれた方が気楽で良かったのかもしれない。

必要最低限の身だしなみを整え、暇を潰すため部屋で妹から借りた雑誌を読みふけっているとインターホンが鳴った。勧誘だろうと思い、母に応対を任せていると妹が使いとして飛んできた。

「碧お姉ちゃんが来てるよ。部屋に上げてもいいよね?」

 思わず「え?」と音が漏れる。

 妹が説明を終える前にひょいと碧が顔を出した。

「やあやあやあ、あんなつっけんどんな態度は酷いんじゃないのかい」

 碧はつかつかと歩み寄りあたしの頬を両手でぎゅうと引っ張っる。

 痛い、と言いたかった。だが、うまく発音できず「いひゃい」という情けないものとなってこぼれた。

 それを聞いて碧は口角を上げる。気分が乗ってきたのか頬を縦に、横に動かし始めた。妹の何が起きているか分からない顔がサディズムに目覚めかけている碧の背中に見えた。

「ねえ、私にぐらい何か話してくれても問題ないよね? 私たち親友じゃない」

 あちら側の碧もこんな感じなのだろうか。そうではないことを祈る。そうだとするならば、頼りないなりのエールを送りたい。

 碧はぱっと頬に掴んでいた指を離すと妹を部屋から追い出し、扉を閉めた。

「さて、そろそろ話す気になった?」

 両手の指で摘む仕草をされる。頬が一段とヒリヒリした気がした。

「――分かりました。話します。ただし誰にも言わなければ」

 間髪を入れず答えられる。

「もちろんっ」

 一抹の不安を覚えずにいられなかった。

 説明を始める。ただし、鏡がパラレルワールドに繋がっているなどという眉唾ものをぼかし、出来る限り現実に沿ったものだ。説明を終えた際の親友の顔は、誰がどういう角度で見ても信用ならないニヤついた顔をしていた。

「まさか恭子がいつの間にか恋する乙女になっていたとは思わなんだ」

「なんかその口調ムカつく」

「ごめんごめん、怒らないで」

 碧が軽い口調で謝り、続ける。

「さてさて、その人とは家庭の事情で会えなくなったんだよね。なんだか一昔前のドラマみたいな話」

 自分で話を作っておいてなんだが、少々話を盛り過ぎた感が否めない。どうしてあたしと彼を、ロミオとジュリエットのように家庭の事情で離れ離れにしてしまったのだろうか。それだけではいざ知らず、曲がり角でぶつかって出会ったなどという何世代前の少女漫画だと言いたくなる出会いにしてしまったのだろうか。ああ、あたし自身をとっちめてやりたい。

「ごめんね。古臭くて」

「いいんじゃない。女の子の憧れみたいな恋できて」

「だったらこんなに悩んでない」

「ハッピーエンドに繋がる一歩手前なんだよきっと」

「そうだったら良かったんだけどね」

「そうするために私が来たんでしょう」

 碧は一体どうするつもりなのだろう。何か策があるのだろうか。いや、ない。ついカッとなってやって来たに決まっている。幼馴染みのあたしが言うんだから間違いない。

「とにかく攻めよう。ダメで元々、いちいち難しいこと考えてちゃ捕まえ損ねるって」

 三拍。

「碧って、意外と直情型だよね」

 碧が白い歯を見せる。

「アドバイスだけならなんとでも言えるだけなんだけどね」

「じゃあ、アドバイス貰うよ」

「なんでも来なさい」

 碧は腰に手をあて胸を張った。

「あたしは、頑張ればいいのかな?」

 再び頬を抓られる。

「自分のために、自分ののためだけに頑張りなさい。再開できたら、うんと甘えなさい。――この幸せ者がっ」

 気付くと目の前がぼやけていた。目頭がとても熱い。溢れ出した何かが頬を伝い唇に触れる。塩辛さが舌先に広がった。それが涙だと理解するまで時間がかかった。指を離し慌てふためく碧の様子を妙にスッキリした頭で眺めていると、涙が流れた理由が分かった。

 あたしは、甘えてもいいんだ。頼られるばかりで自分のことは二の次だったあたしでも。

「ありがとう」

 あたしは碧を抱き締めた。碧の癖っ毛が首筋に触れ、くすぐったかったせいで余計に力が込もる。

 碧は「ふう」としょうがないと言いたげにあたしの頭を撫でる。

「まったく、こんな隙だらけで好きだらけな恭子は初めて見たかな」

 それからしばらく胸を借りた。

 収まり、碧から離れる。

「できそう?」

 碧が尋ねた。

「……たぶん」

「自信ないなあ」

 けれどまだまだ自分のわがままを貫く恐怖にはまだ慣れそうになかった。

 

 

 

 

 あたしは今、ここら一帯の神社を梯子している。

 碧に彼に関係があるからと神社の場所を訊いた。気が先走り「この辺にある神社の場所を教えて」と訊いた際は、「神頼みかっ」と呆れられた。

 様々な村が統合してできた今のこの町には、様々な神社が点在していた。その名残が今でも数多くの神社が立地している。元を辿れば一つの神社になると小学校の調べ物学習で誰かが発表していたが、その詳細までは思い出せなかった。おそらく、その本流に詩織さん達がいるのだろう。それを見つける手立てがしらみ潰ししかないのは、なんとも情けない話だ。学校の勉強だけに時間を割いていないで、地元のことにも興味を持つべきだった。手提げカバンをカゴに入れた自転車で走り回りながら後悔した。そして、こんなに汗をかくのなら動き回りやすい格好にすれば良かったとも後悔した。今すぐ飛び出したい気持ちが先走り、制服で飛び出してしまった。

 坂がキツいと碧から聞かされていたため、後回しにしてきた神社の順番がついに回ってきた。自転車を階段脇に置き、登り始める。なかなか終わりが見えないことに気分が滅入りながらも登った。登り切り、鳥居から神社を見回す。

 二対で並ぶ狼の狛犬があたしを用心深そうに睨みつけている。その間を抜けると、濃い茶色がいい味を出している本殿が立地していた。賽銭箱の背中に箒が立て掛けている。よくよく見れば、賽銭箱からぴょこんと頭が飛び出していた。賽銭箱の後ろに回り込むと、すやすやと毛先が軽いボブの巫女さんが箒を胸に抱いて寝息を立てていた。その寝顔は以前鏡越しに見たものだった。

 声をかけると詩織さんは、目を覚ました。

「こんにちは」

 差し障りのない笑顔で挨拶をした。

 詩織さんは今置かれた状況を把握したのか苦笑いを浮かべる。

「どうも」

 照れ臭そうに頬を赤く染めながら立ち上がる。照れを振り払うように声を絞る。

「こんにちは。本日はなんの御用ですか? お祓いならまずはお話を伺いますが、お時間の方は大丈夫ですか?」

「ここに倉掛詩織さんという方はいますか?」

 今日何度目かになる儀礼的な台詞を言う。当然だが、他の神社の巫女さんがしてきた考える素振りが見られなかった。

 巫女さんが自身を指差す。

「あたしが倉掛詩織です」

 ようやく見つけたことにあたしは一寸先すら見通せない暗闇の中で灯りが視界に入ったような気持ちになった。感極まり、詩織さんの両手を取ってしまう。

「ずっと探してました!」

 口にしてから気付く。これはさながら愛の告白なのではないのか、と。

 手を急いで離す。

「違います。それはこういうことじゃなくて……あ、探してはいたんですけど」

 なんて言えばいいのだろう。何を言っていいのか分からず焦っているというのに、焦っているということだけは冷静に見極めている自分がいる。だが、その自分は一つたりとも有効なアイデアを提供してくれない。

 詩織さんが言葉に躓き回っているあたしを見て冷静になったのか、それとも単純にあたしの言動に引いたのか、それはそれは興奮する子供を諌めるような落ち着き払った声をかけられる。

「まずは深呼吸しなさい。いいわね」

 言われるがまま深呼吸を繰り返す。落ち着いたあたしは詩織さんに促されるまま、ここへ来た理由を述べさせられた。

 述べ終えると、詩織さんはため息混じりに呟く。

「一瞬、あの女の子がついにやって来たのかと思ったわ」

「あの女の子?」

 つい聞いてしまう。

「大丈夫、あなたには関係のないことよ。昔、変なこと言い逃げした女の子がいたこと思いだしただけだから」

 変なことと聞いて興味が湧く。だが、今尋ねるべきではないことだと自制した。

 詩織さんが賽銭箱に腰掛ける。

「今聞いた話から察するにできることは一切ないわね」

 伸ばした手を払われた心地がした。それはあたしから希望を奪い去るのに申し分ない言葉で、落涙するのに十分事足りた。

 その様子に詩織さんが急いで付け加える。

「ちょっと待ちなさい。今言ったのは私にできることであって、一切望みがないって訳じゃないのよ」

 望みがあるのだろうか。あたしは今まで背負わされてきた期待を、誰かにしてもいいのだろうか。

「信じてもいいんですか?」

 詩織さんはしばし悩む様子をして、吹っ切れたように言い放つ。

「もう仕方ないわねえ。こうなったら使いたくない人脈もフル活用してでも再会させてやるわ。この私がここまで言ったんだから、もう後戻りはさせないわ」

 嬉しかった。まるで癖になりそうなほど。気を抜けば、あたしという所在すら投げかけてしまいそうなほどに。けれども、今は甘えてはいけない。甘えるのは全てが終わってから。あたしが周りを振り回しているのだから、心構えの放棄だけはしてはいけない。

 あたしは、ぎゅっと拳を握る。

 あと少しだけ、頑張ろう。

「お願いします」

 あたしは深々と頭を下げた。下げながら思う。ここから、変わる。彼があたしの前で嬉々と絵空事を話していたように、あたしもなる。母が朗読する物語に耳を傾けるような一人で想像だけを膨らませる姿勢ではなく、マリオネットのようにぶら下がり指示されるがまま動くのでもなく、あたしという個人が考え抜いた結果のもとで動く。彼がしていたように。

 顔を上げる。

 詩織さんが袖をなびかせながら振り返る。

「まずは外堀から埋めていきましょうか」

 意地悪そうに口角を上げていた。

 それから詩織さんに連れられて、客間に通された。そこには座ったら必要以上に沈み込んでいきそうなクッションが使われた木製の椅子が膝辺りの高さの机を間に挟んで並んでいた。

 詩織さんは携帯でどこかに連絡をし始める。外堀を埋めると言っていたのだから、本丸に連絡しているわけではないのだろう。えらく礼節的な態度だった。通話が終わると、リラックスするためにと言われ他愛のない話を始めた。緊張がほぐれてきた頃、山吹色の着物を纏った男の子が客間に入ってきた。その後ろには枯れ木さえも愛おしそうな頭髪の寂しい中年男性が後に続いた。目が中年男性の顔にいき、驚いた。それは、あたしがよく知る人物でもあった。

「碧のお父さん?」

 碧のお父さんは、目を点にして尋ねる。

「恭子ちゃん?」

 互いに目が点になった。幼稚園以前から親交があり、同性ということもありあたし達自体の仲もよく、何かと夕食を互いの家でとっていた。そのためよく見知っている。市役所勤めだと碧から聞かされていた友人の父親がなぜいるのだろうか。まさか今このタイミングで市役所関係のお仕事でここに来たわけでもないだろう。

 詩織さんの人差し指があたしと碧のお父さんを交互に行き来する。

「あんたたち知り合い?」

「はい。友人の父親です」

「その友人に聞いてここに来たの?」

「一応神社の場所は訊きましたが、ここ以外の神社の場所も挙げられました」

 碧のお父さんが口を挟む。

「娘にはこの業界のことは言っていません」

 チビ助と言われていた男の子が意表をつかれたように頷く。

「なんじゃお主、娘に仕事内容のこと言ってなかったのか」

「当たり前です。こんな胡散臭く、時には危険も伴う仕事言えるわけないでしょう」

 あたしは碧のお父さんに詰め寄り、スーツの布地を握る。。

「危険ってどういうことですか! それって誰かに弟子入りするだけでも危ないんですか!」

 もしそうだとするならば彼に弟子入りを今からでも取りやめるように言わなければ。……彼が以前自慢気に話していたことを思い出す。話を盛っているのだろうと聞き流していたが、実はありのままに起こったことだったのではないのだろうか。そういえば、彼を襲った人物は坂井とかいう中年男性だった。そして、碧の昔の苗字は坂井。

 この男だったのか。

 そう思うとスーツを握りしめていた手に一段と力が入った。

「魔法自体一般人には知られていないから犯罪に利用されがちなんです。弟子入りは……まあその師匠の方針によりけりですけれどもほぼ大丈夫ですかね」

 真下から睨むような格好で尋ねる。

「本当に本当ですね?」

 両肩に手を置かれる。

「そういう時のために私みたいな公的機関で働いている人がいるのですから」

 彼の話だと、勘違いで実力行使をしたと聞いていたため信用ならない。だがそれは向こう側の話であり、こちら側では何も起きてはいない。ここで問い詰めても仕方ないと、あたしはスーツを掴んでいた力を緩めた。掴んでいたところは、軽く皺になっていて申し訳ない気持ちになった。

 詩織さんが緩んだ口元を抑える。

「本当に彼のことが大好きなのねえ」

 体の芯からどうしようもない熱が込み上がってくる。顔中がじんじんと熱い。あたしは顔を上げることができず俯く。

「変なこと言わないでください」

 詩織さんはニヤけた顔を崩さない。

「いいじゃない別に。青春してて」

 坂井さんが咳払いをする。

「あーとりあえず話を進めましょうか。その平行世界の『彼』という人物と再会したいのですよね?」

 詩織さんが答える。

「そうよ」

 チビ助が続けて口を出す。

「その文書が紛失したことを忘れてはおらぬよな?」

「もちろん」

「ではどうするつもりなんじゃ」

「探すわよ」

「どうするんじゃ」

「徳井の爺さんに力を借りる」

 碧のお父さんが苦い顔をする。

「確かにあの方なら、何か知っているかもしれませんが神出鬼没のあの人が捕まりますかね」

「それは大丈夫よ。坂井さん、あなたの娘って徳井のお爺さんの孫と幼馴染みでしょ?」

 もうどんな新たな事実が発覚しようと、あたしは驚かない。

「しかし、娘に何といって取り次いで貰えばいいんですか」

「そんなの簡単よ。お父さんが仕事で徳井さんのお爺さんと連絡したいから取り次いでって言えばいいのよ」

 碧のお父さんは渋い顔で「やりましょう」と理解してくれた。すぐに携帯で碧に連絡をか始める。

 通話を終える仕草をしてすぐにあたしの鞄の中に入っていた携帯が震えだした。背面には親友の名前が表示されていた。

「もしもし」

 通話を始めると表示された持ち主の声が携帯を通して聞こえてきた。

「あ、恭子? いきなり用事押し付けちゃう形になるんだけど、恵一にお爺さんの所在聞いといて。報われない男子高校生に愛の手を」

 言うだけ言われて切られてしまった。

 どうするべきか皆に目配せする。

「なんだかあたしが取り次ぐことになったんですけど」

 仕方ないと言わんとばかりの空気に耐えかねて、徳井君にメールを打つ。返事はすぐに帰ってきた。『すぐに連絡してみる。分かったら碧に連絡すればいいんだな。もしそうなら連絡はいらない』という内容だった。

 あたしが皆にその旨を報告し、五分ほど待機していると再び碧のお父さんの携帯が鳴った。

 娘との通話を終えたお父さんは、報告を始める。

「えー協力をすることには同意してくれましたが、必要なときに現れるから心配いらんらしいです」

 あたしは恐る恐る尋ねる。

「それは協力を得られたことになるんですか?」

 チビ助君が腕を組み、顔を傾けながら唸る。

「協力すると言っているのだから大丈夫じゃろう。伊達に香奈子を敷地内に住まわせているわけではないじゃろうしな」

 驚きと不安でいっぱいいっぱいになった。

 

 

 

 

 あたしたちはその場は一時解散となった。詩織さんとチビ助君は、神社の倉庫で紛失した書物探し。碧のお父さんは、碧との久しぶりの夕食に間に合わせるため、残った仕事を片付けに仕事場へと向かった。徳井君のお爺さんは、未だ行方知らず。あたしは鏡を持って、トラブルメイカー名高い彼の師匠の元へと向かうことになった。

 話を聞けば夜遅くになると、適性がない人間を遠ざける人避けの結界から正しい対処法を知らない限り朝まで迷い続ける結界に張り変わるらしい。彼から一度もそのような話を聞かなかったということは、少なくとも対処法ぐらいは教えているのだろう。自分の弟子をわざわざ見殺しにするような真似しても仕方が無いだろうし。

 言葉が分かるのであれば、問題無し。ましてや獣と対話しろなどという無理難題をふっかけられているわけでもない。話し合いができるのなら分かり合える。彼から聞いた話から推察するに、ただの面倒くさがり屋に違いない。ただ度が過ぎているらしく、それだけが気がかりだ。

 碧のお父さんに説明を受けた通り、傾斜の厳しい山を登り、洋館に辿り着いた。今日は何かと登りっぱなしの一日だ。神社に、山に。明日は、筋肉痛に悩まされるだろう。

 洋館の外観を見て思う。

 なぜ、鬱蒼とした山の中にこのような立派な作りの洋館を建てたのだろうか。香奈子さんの趣味だろうか。趣味自体は悪くはないが、些か周りの空間と馴染んでいない。ある意味、お化け屋敷に見えないこともないが。いや、洋風外観のお屋敷を忍者屋敷に仕立て上げた持ち主に馴染ませるという感性があるとは思えない。

 大きな扉に手をかけ、「こんにちわー」と引く。思いのほか扉は重く、鈍い音を立てながら開いた。

 彼から聞いていた通り、外観と内装で立派な洋館だとだまくらかす装いだった。開放感のある吹き抜けの天井、大きなシャンデリア、えんじ色の絨毯と階段にあるこげ茶色の手すり。金だけは無駄に使われてそうな豪勢な作りだった。間違っても忍者屋敷だとは思えない作りであった。洋館を見回すと、二階に人影が見えた。それは見間違いだと思えるぐらいハッキリ見えた。物音がしない洋館内は、まるで誰もいないようだった。ただ彼の言葉を信じると、出不精でどうしようもない人間らしいので間違いなくここにいるはずだ。

 あたしはその言葉を信じ、二階へと向かった。けれどもいくつもの扉があり、その影がどこへ向かったか分からなかった。

 彼はこの忍者屋敷をどのようにして脱出したのだったろうか。たしか、碧のお父さん――彼はそのことを知らなかったみたいだから坂井さんと呼んでいた人から逃げていた。手始めに適当な部屋に入ったと言っていた。あたしも前例に習い、階段を登ってすぐ眼の前にある扉を開いた。

 思わず小さくガッツポーズ。

 入った部屋は衣装室だった。使いやすそうな化粧台や大きな姿見などが置かれていた。大きなウォークインクローゼットもある。話に聞いていた通り、最近まで誰も住んでいなかったようで、申し分程度の化粧道具や衣装しか置かれていなかった。例によって良い評判を全く聞かない師匠は部屋の何処を探しても見つからなかった。

 それからウォークインクローゼットの中に入り、奥へと向かった。闇の中、とにかく奥へ奥へと押し入る。壁に両手を当て、えいと力を込める。彼の二の舞にならないようゆっくりと。ガタ、と引っかかりが取れた音がして、壁が回転した。

回転扉をくぐると、そこは八畳ほどの部屋だった。女の子の憧れである天蓋付きのベッドが一番最初に目についた。脱ぎ捨てられた寝巻とともに山となっている布団の脇には、上に押し上げるタイプの窓があり、夕日が差し込み始めていた。部屋の隅にちょこんと置いている小さな机の上にはガラスの灰皿が置いてあり、煙草のツンとした残り香が鼻についた。

 だらしのない人間だと再確認しながら、彼の軌跡を脳内で手繰り寄せる。最初にいた部屋の二つ隣に無我夢中でお邪魔したと言っていた。

 クローゼットの部屋から数えて二つ隣の部屋へと入る。最初からこの部屋に入っていれば良かった。我ながらなかなか要領が悪い。その部屋は書斎だった。本棚には適度な空間が空いていて、端の本が壁に大きくもたれかかっていた。そこら中に埃が山になっており、床に溜まった埃に誰かの足跡が残っていた。その足跡は大きな本棚の前で途切れていた。よくよく見れば、本棚の前の床にだけ埃が積もっていなかった。

 あたしは蜘蛛やらネズミやらが我が物顔で駆け回る部屋から一刻も早く出たくなって、彼がしたように本棚の前に立った。

 なかなか落ちる気配がない。蠢く雑多な生物から逃げたい一心でその場で足踏みをしたけれども、一向に床はその口を開こうとしない。

 気色悪いネズミが足元にやってきた。

 足が固まる。足を振り回して追っ払いたいがどうにも恐ろしくてできない。本棚の本を落として追い払おうと考える。その場に留まっているネズミを下手に刺激してさらに近づかないよう動作を可能な限り緩慢にした。気が遠くなるような数秒の後、ようやく本棚に手が掛かる。数冊の背表紙上部に指を引っ掛け、思い切り引っ張った。

 ネズミが落ちた音に驚いて逃げたのと同時に、あたしは浮遊感に襲われた。

 お尻に痛みが走った。周りを見渡すが、真っ暗で何も見えなかった。あたしが落ちた床は、もう既に閉じられていた。床に手を置くと、一緒に落ちてきたのであろう本が手に触れた。パタパタと手探りで周囲一帯を触れ回ると、他にも数冊見つけることができた。これ以上人様のお宅を荒らすわけにもいかず、見つけたもの全て抱えた。

 まだじんじんとお尻が痛むが、結果的に落ちることができたのでよしとしよう。ネズミのせいか、おかげか、彼が本を引いた瞬間に落ちたと言っていたことを失念してしまっていた。

 目を凝らす。薄明かりが漏れていた。その逆向きに向かえば出口があると彼は言っていた。

 先へと進んでいくと、四つん這いにならないと通れなくなる。抱えた本を床に重ねて押していかねばならなくなったため、余計な手間がかかった。

 壁に突き当たる。本ごと思い切り前へ押し出すと、一人が通れる程度の切り取られたような正方形の壁がパタンと倒れた。

 外は優しい柑橘の色をしていた。闇に慣れた目を撫でるように慣らしてくれた。

 あたしに大きな影が覆い被さる。

 顔を上げると、とても背の高い女性が腰を曲げて四つん這いのあたしを見下ろしていた。

 この人がおそらく師匠なのだろう。あたしでは身長の半分は占めそうな長髪を携えていることに加え、煙草の残り香が、彼の話に登場した師匠の特徴と一致する。

「こんにちは」

 こんな冷や汗をかきながら挨拶をしたのは初めてだ。土壇場に強い人間ならば、もっと気の利いたことが言えるのだろう。いや、ぱっと見て不法侵入と窃盗している格好の人が洒落たことを言えるだろうか。言えるわけがない。

 師匠の反応にあたしは怯えていると、不思議そうに尋ねられる。

「この隠れ道は私と元々の持ち主ぐらいしか知らないのに、よくここまで辿り着いたな。お前は誰だ?」

「話を聞いてもらえればそれも含めてお答えします」

 精一杯の笑顔を作り、師匠に答えた。

 

 

 

 

 再び大きな扉のある玄関を通る。あたしが重いと感じた扉は師匠が前に立つと、意思を持ったかのように勝手に開いた。これも魔法の一つなのかと感心しながら、中へと入る。

 師匠が指を振ると、どこかの部屋から椅子がふわふわと揺れながら飛んできた。その椅子は、長らく使われていなかったのか埃が表面にこびりついていた。

 本を床に置き、埃を払って座る。師匠も腰を置く。

 師匠が足組み、腕組み、ふんぞり返る。

「それで、どうして分かったんだ?」

 あたしは人差し指を立てる。

「その前にいいですか。できればでいいんです。一つお願いを聞いてもらえますか?」

 師匠は淡々と答える。

「話を聞いてから決めることだなそれは」

「……分かりました」

 あたしは彼との出会いと別れを端折りながら説明を始める。

 師匠は表情一つ変えずに聞いていた。

 その変わらない表情に怯えながら説明を続ける。緊張感から句読点なしで言い続けたため、終わる頃には酸素不足で頭がふらついた。

「駄目ですか?」

 気分屋の師匠が初対面のあたしの言うことを聞いてくれるとは思わなかった。彼の言うことを聞いたのは、たまたま気分が向いたためだろう。彼は魔法も使って気を引くことができたが、あたしはただ追いかけただけだ。この人の気分を盛り上げるのには、もう一押し足りない気がする。それでも期待はしてしまう。

 師匠は足を組み直す。

 答えを口にするのだと思い、あたしは身構える。もの言わぬ師匠の目を恐ろしいと感じつつも、必死で見据えた。足は震えていた。

「断る。私に何もメリットがない」

 分かっていた。予想していた。それでいても、なかなか胸にくるものがあった。まだもうこれ以上、何を言っても仕方ない。否定された自分がここにいることが、惨めで堪らなかった。

「分かりました」

 立ち上がり、お辞儀する。彼とあたしの違いを身に染みた。早くこの場から去りたくて振り向く。するとそこには、あたしと身長がさほど変わらないベージュのハットとスーツ姿のこざっぱりした風貌のお爺さんが柔和な笑みを浮かべながら立っていた。その顔に刻まれたシワは、経験深い人生を送ってきていると物語らせているようだった。

 何の気配もなく、いつの間にかそこにいたお爺さんはその笑みを浮かべたまま、あたしに尋ねる。

「お嬢さん、もう諦めるのかい?」

 突然現れたお爺さんに面を喰らって答えられない。そんなあたしを通り過ぎ、師匠の前まで歩む。そして、表情を固め、沈黙した。

 あたしはその様子をただただ視線で追うことしかできなかった。

 師匠が組んでいた足を解く。あたしぐらいしか分かりそうにない具合でお爺さんから目を逸した。

 よほど、このお爺さんが苦手と見える。

 師匠が押し黙るお爺さんに根負けする。

「もうなんなんだ。私が何かしたか?」

 お爺さんは、表情を緩める。

「お前さんが、何もしないのが問題だ」

「何もしてないとは心外だな。つい先日まで、世直しの旅に出てたというのに」

「諸外国で日本人と思われる妙な女性が高笑いしながら、戦場や内乱の中を喧嘩両成敗していたという報告がされているがどうせお前さんなのだろう?」

「さあ、なんのことか私にはサッパリだ」

 あからさまに視線を明後日の方向に飛ばし、知らばっくれた。もしくは開き直ったのか、なかなか堂に入っていた。お爺さんは慣れっこなのか、緩めた表情を崩さない。何か確固たる意思を感じた。

「わしもそれについて問いただす気はない。わしが今日ここへ来たのは、世界一周してる間に積もりに積もった家賃の取り立てだ。催促ではないぞ。さあ、早速耳を揃えて払って貰おうか」

 師匠の「問いただす気はない」で安心した表情がオセロのようにひっくり返る。

「や、今はちょっと手持ちがないから来週の頭にでも」

 しどろもどろで応答する師匠にお爺さんは、笑いかける。

「そういってまたどこかへ逃げるつもりだろう。分かってるとは思うが、わしが本気を出したら逃げれないからな」

「ったく。気味の悪いジーさんだ」

 それについては同意する。

 師匠が悪態つきながら、続ける。

「実際問題、今手持ちはないけどどうするんだ。ジーさん?」

 お爺さんは緩んだ顔でありながらさらに口角を上げた。あたしの肩に手を置く。

「なら、このお嬢さんの言うことを聞いて貰おうかな。お前さんなら朝飯前だろう?」

 師匠に嫌な顔をされる。

「気分が乗らない」

「ならば家賃だな」

 師匠は腕を組み、唸る。

 それほどまでにあたしの手伝いをするのが不服なのだろうか。自分が情けないし、やりきれない。

 師匠が何か思いついたのか、立ち上がる。あたしが座っていた椅子の近くに置いていた本を手に取った。

「これは平行世界について書いてある本だ。これと家賃交換でどうだ?」

 お爺さんは本を受け取り、答える。

「……まあいいだろう。老い先短いこの命、孫の友人のために燃やそうじゃないか」

 あたしなんかのためにそこまで意気込まれるとありがたい反面、なんだか気負いしてしまう。

 お爺さんは本を布に包んでから、あたしに促す。

「さて、お嬢さん行きましょうか」

 あたしはお爺さんを追うように洋館をあとにした。その際、師匠が口にした「無理すんなよ」という言い方が耳に残った。





 神社に再び戻る。

 お爺さんは階段を登るのが辛そうだった。肩を貸しながら、ともに登る。こういう時、男だったら、せめて身長が大きければ良かったと思う。

 夕日がすっかり落ちた頃、頂上にようやく到達した。神社の装いは様変わりしていた。神社全体を祭りで使うような照明が輝いていて、狛犬を直径に石畳に白い石を円形に並べていた。その中心に小さな円があり、その円周から大きな円周へと渦を巻いていた。小さな円の中には、鏡が置かれていた。大きな円の外周に沿うように火のついたろうそくが一定間隔で並べられていた。匂い付きのものなのか、神社一帯に甘酸っぱいみずみずしい香りが広がっている。

 その変容ぶりに戸惑っていると、賽銭箱に座っていた詩織さんが近づいてきた。

「爺さんに言われた通り、もう準備は万端よ。さっさとやっちゃう?」

 いつの間に連絡したのだろうか。電話をかける素振りなど一度も見せなかったというのに。

 お爺さんが答える。

「いんや、まだわしの準備が終わってない。火を消して、先に飯にしよう。お母さんには迷惑をかけるがいいかい?」

「特に問題ないと思うわ。ところでアイツはどうなった?」

 お爺さんは、ため息をひとつ。

「見ての通りじゃ。駄目だった」

「そう」

 予想通りだったのか、詩織さんはさほど悔しそうな表情は見せなかった。

「代わりに手土産持ってきてやったぞ」

「それって、この準備に関係ある話?」

 お爺さんが詩織さんの家があると思われる方向へ歩みながら答える。

「それも含めて飯の時に話そう」

 つかつかと歩いて行くお爺さんを追うべきか、この場でろうそくの火を消すのを手伝うべきか迷っていると詩織さんに呆れたように言われる。

「手伝ってくれると私は嬉しいわよ?」

 詩織さんを手伝うことにした。

 何十本とあるろうそくの火を消すのは、なかなか骨が折れた。規則的に並べられたものを手にとって振るわけにもいかず、腰を下ろして息を吹きかけた。結果、バースデーケーキの火を消すのは向こう数年勘弁したくなった。交流という意味合いを込めて弟に吹く権利を譲ろう。妹が弟に対して羨ましがる顔が目に浮かぶ。ついでに腰も痛くなった。

 一緒にろうそくの火を消していた詩織さんに目を遣る。やはり、喉と腰が辛そうだった。

 彼はあたしの何倍、意固地になったあたしのために喉を痛めたのだろう。たかだか、数分ろうそくの火を消すだけでこんなに息切れしているのだから、数時間は呼びつづけた彼の疲労はこんなもんじゃないはずだ。体験したからこそ、より分かる。彼にはとても悪いことをした。

 詩織さんが喉を押さえながら近寄る。

「それじゃ夕食を食べに行きましょう」

 あたしは自宅へと向かう詩織さんの追った。

 詩織さんのお宅はやけに大きいことさえ除けばクリーム色の外壁を用いたどこにでもありそうな一軒家だった。中に通され、廊下を進むと宴会で使えそうな大きな和室についた。足の短い長方形の机の上に様々な料理が並べられていた。それらの料理をお爺さんとチビ助がつついていた。

 あたしと詩織さんが後ろから話しかけられる。

「ほらほら、立ってないで座って座って」

 あたしと詩織さんの間を料理を乗せたお盆を持った女性が割って入る。それは詩織さんの数十年後の姿を写したような容姿だった。違う点は、長い髪を後ろで束ねていることぐらいだ。その女性はお盆を畳の上に置くとあたしの後ろへ回り込み、両肩に手を置く。あたしが顔だけ振り向くと、そのお顔はそれはもう楽しくて仕方ないという風な笑みを浮かべていた。

「ほらほら、座って。ご飯食べて食べて」

 押されるがままあたしは席につかされる。その前に様々な料理があれやこれやと並べられた。その鬼気にも似た何かにされるがままのあたしは、いつの間にかなみなみと盛られたお茶碗を持たされていた。

「まだまだ持ってくるから一杯食べてね」

 そう女性があたしに言い残し、台所へと向かった。

 あたしは、気抜け口調で詩織さんに尋ねる。

「さっきの方は誰ですか?」

 むすっとした口調で頬杖をつきながら返される。

「私のお母さんよ」

 お爺さんと話していたチビ助君がこれまた愉快そうな口調で入ってくる。

「年の近い子が我が家に来るなんて初めてのことだからの」

 チビ助の頭上に手刀が振り下ろされる。頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 詩織さんのお母さんがこれまた到底この人数では食べ切れない量の食事をお盆に載せてやってきた。チビ助がしゃがみ込んでいるのを意にも介せず食事を並べる。

 この家の人にとっては見慣れた光景なのだろうか。そう解釈しながら、あたしはご飯を箸で一口分放り込んだ。唐揚げとご飯を交互に食べていると、これ以上はないというぐらい幸せそうなお母さんに顔をじっと眺められた。

「なんですか?」

 食べ難くなり、尋ねる。

「ねえ、今日泊まっていかない?」

「いえ、今日はやること終えたら帰ろうかと思ってます」

 まるで駄々をこねる子供のように上目遣いをされる。

「お願い。娘のお友達が一人できたみたいで嬉しいの。娘が友達とお泊り会するの長年の夢だったの」

 お泊り会をしたことのない子はいくらでもいるだろうけど、ここまで母親に切望されているのも珍しい。それなのに、そのお子さんが友人がいないとはなんとも不遇なのだろう。詩織さんが「お母さんっ」と首根っこを捕まえてどこかの部屋へと連れ去っていった。顔を真っ赤に染め上げながら。

 親類で恥ずかしい思いをすることは、あたしにも覚えがある。親はどうして子供の身になって考えないのだろうか。そう、もっと責任感を持つべきなのだ。今日彼と再会できたらそのことで意気投合してやろう。詩織さんのお母さんには悪いけどお暇させてもらって、夜遅くまで語り合おう。

 あたしが特に何かするではないが、意気込む。

 そうしていると詩織さんが片手で額を押さえながら帰ってきた。

「あーもう嫌。あの人」

 気持ちが分かってしまうため、下手にフォローできなかった。

 お爺さんが刺身を醤油に浸しながら言う。

「そろそろ本題に入るか」

 詩織さんも席につき、ふてくされたように握った箸で唐揚げを刺す。それを口にぶっきらぼうに運ぶ。

「そうそれで、どうして繋ぐ方法分かったの?」

 お爺さんは、布に包まれた本を机越しに詩織さんへ手渡した。

 詩織さんがそれを解く。その表紙を見るやいなや目を剥いた。

「ちょっとチビ助、これ見てみなさいよ」

 その本を向こう側にいるチビ助へ放り投げる。料理の海に落としかけながらもキャッチした。

 チビ助がパラパラとページをめくると、目を見開いた。

「これは紛失した書物じゃぞ!」

 机から身を乗り出すように詩織さんが対岸にいるお爺さんへ問いただす。

「これは一体どういうことなの。説明して」

 お爺さんが刺身をもう一切れ醤油に浸す。

「それを今から話そうとしているだろうに。気の早い奴だ」

 お爺さんが刺身を咀嚼しながら答える。

「それは香奈子が持っていた。勝手に借りて忘れてたんだろう」

 詩織さんがチビ助に指差す。

「香奈子に文句の一つでもつけてきなさいよ。紛いなりにも神様でしょ」

 チビ助が机に叩き、小さな体で前に乗り出す。

「紛いなりとはなんじゃ。紛いなりとは。純粋培養百パーセントの産土神じゃ!」

 神様というものは天然物じゃなくていいのだろうか。

「だったらその威厳でアイツに説教の一つでもしてきなさいよ」

「アイツは人の言うことを黙って聞くような奴じゃないじゃろ」

「ええそうね。むしろ天邪鬼よ。でも威厳があればなんとでもなるんじゃないの。できないってことはないんでしょ、その威厳で」

 二人が騒ぎ立てるなか、お爺さんは黙々と刺身に箸をつける。いつの間にかお母さんそーっとあたしの側に近寄る。詩織さんのものと思われるジャージを手に「寝巻きならこっちでいくらでも用意するから泊まっていこうよ」とヒートアップする詩織さんの目に止まらないよう小声で誘われた。すぐさま気付かれて、また首根っこを捕まえられ連行されていったが。

 黙々と食べていたお爺さんに尋ねられる。

「楽しいか?」

 慣れない騒がしさになんと答えようとごまねく。

「楽しめ。悲しみや悩みなんてものは結局のところ耐え忍ぶしかない。楽しめるときは楽しんだ方が人生気楽だぞ」

「心遣いありがとうございます」

 お爺さんがニカッと笑った。

「感謝は孫に言っといてくれ。お前さんのことを昨日一日中心配してたからな」





 夕食を食べ終わり、お母さんの誘惑も断ち、あたしたちは再び境内へとやってきた。

 詩織さんとろうそくに火を点ける作業に移ろうとした。だが、あたしだけお爺さんとチビ助に「話がある」と呼び止められた。詩織さんに悪い気がしたが、快く見送って一人で作業に赴いてくれた。

 チビ助が難しい顔をする。

「少々厳しいこと言うがいいな?」

 あたしは黙って頷いた。

 そんな前置きをされたところで、もうここまで来て引き返すことなど絶対にしない。したところであたしは後悔しかしない。ならば、どんな障害を置かれたところで、前へ進む以外の選択はしない。

 お爺さんが淡々と言う。

「彼に会える可能性というのは、依然低いま――」

 チビ助が怒ったように言葉を遮る。

「おい、今大事なのはそれじゃないだろ」

「わざわざ未来ある若者に言うことでもないだろう」

 チビ助がお爺さんの脇腹に拳を当てた。

「香奈子も大概だが、その家主も相当だな」

「褒め言葉として受け取った」

「だが、言うぞ」

 チビ助が怖い顔で言う。突き放すように。

「このクソジジイは、お主のために魔力全て捨てるつもりなんじゃぞ。それもほとんどの確率でドブにな。それだけならまだいい下手すれば死ぬぞ」

 会える可能性は決して高くないことはなんとなく分かっていた。ただそれが、長い時をかけて培ってきたものを全て無駄にするものとまでは考えていなかった。考えが及ばないどころか、その発想自体なかった。一度が駄目でも、成功するまで何度も繰り返し挑戦すればいいと考えていた。あたしの我儘で人を振り回すことは想定していたが、人が大切にしてきたものを潰すことは完全に想定外だった。

「えと、あたし……そんなことになるなんて知らなくて。……多大なご迷惑をかけるのだったら遠慮します」

 やっぱり、あたしは人を巻き込む素養がない。人は優しいと言ってくれるが、なんてことはない。小心者なだけだ。

 お爺さんがあたしの髪をくしゃくしゃと撫でる。

「何を弱気になってるんだ。どうせ老い先短い人生なんだ。人のため。それも孫の友人のために華々しく散れるんだ。悔いなどあるわけがないだろう。それに先の大戦で戦死していった友にできる自慢話が作れるいい機会じゃないか」

 お爺さんが境内へと戻りながら言う。

「お前さんが心配することといえば、わしが失敗してあの世の戦友たちにしこたま笑われてしまうことぐらいなもんだ」

 あたしは「ありがとうございます」と声を張った。

 お爺さんは、振り向かないまま片手を挙げて応えた。

 チビ助が呆れた口調で呟く。

「なんじゃ、吾輩がせっかく心配してやったというのに、これでは面目なぞあったもんじゃないぞ」

「チビ助君もありがとう。ちゃんと言ってくれて」

 拗ねられる。

「別に結果は変わりはせんじゃろ」

「分からないまま終わってたら、きっと自分がしようとしていることの重みが知らないままだと思うから」

 チビ助が頬を掻く。

「まあ、それで納得しといてやろう」

 チビ助も境内へと歩き始めた。

「さっさといってあの爺さんが笑われないよう手伝ってやるのじゃ」

 あたしはチビ助を駆け足で追い越し、境内へと戻った。戻るとすぐに詩織さんのろうそくに火を灯す作業を手伝った。

 先に戻ったお爺さんは手元に明かりを携えて、魔方陣の中心で書物に目を通していた。よくよく見ると手元の光は、媒体のない光球だった。

 ああ、あれも魔法なんだなと感心していると戻ってきたチビ助に「余所見してないで手を動かすのじゃ」と怒られてしまった。もっとも、そのチビ助も詩織さんに「アンタも手伝いなさい」と怒られていた。

 隣り合わせで最後のろうそくに火を灯した。ふう、と詩織さんが気を緩める。それに合わせてグウというお腹の音が聞こえてきた。そういえば詩織さんはお母さんとチビ助の相手をしていたせいで、豪勢に並べられた料理の数々にほとんど手をつけていなかった。

 顔を背ける詩織さんの肩を指でちょんちょんと叩く。

「お腹減ってるならチョコレートありますけど、食べますか?」

 超絶的に甘ったるいチョコレートだが、何もお腹に入れないよりはいいだろう。

 だが、詩織さんに苦い顔をされた。それも奥歯で苦虫を噛み潰してしまった顔だ。

「私、チョコレート大嫌いなの。昔この世のものとは思えない甘ったるい食べさせられてトラウマになったから」

 詩織さんが言っているチョコレートとは、おそらくあたしが食べさせようとしたものだ。どうにかしてこの味覚の共感者を増やせはしないだろうか。妹にさえ、正気の沙汰ではないという顔をされるこの味覚に共感者を望むというのは、いささか無理があるということなのか。

 お爺さんが円から出て詩織さんに書物を手渡す。それから、あたしに目を遣る。

「始めると危ないから円の中には入らないでくれ」

 魔方陣の中心に戻ろうとするお爺さんの服の裾をチビ助が握る。

「待て。我輩も手伝ってやる」

 お爺さんが顔を曇らせる。

「長い時をかけて回復させてきた力を使ってもいいのか?」

「ふん、同じ事言い返してやるわい」

 二人が円の中心へと進む。

 詩織さんが薄く笑う。

「恭子、あなた面白いこと巻き起こすわね」

「面白いこと?」

「まあ、見てなさい。すぐに分かるから」

 二人が円の中に入る。お爺さんがその場にあぐらを組む。その後ろでチビ助が両手を合わせる。淡い青い光がチビ助の体から発せられる。まるで身に纏っているかのように頭の先から爪先まで薄く発光していた。ほとんど風を感じないにも関わらず、まるで強風に煽られるかのように着物をはためかせる。淡かった光がカメラのフラッシュほど強くなった。

 あたしの視界は遮られた。恐る恐る瞳を開き、暗中への慣れがリセットされた状態で目を凝らして見渡す。視界が慣れ始めると、円の中心にチビ助の姿はなかった。

 その代わり、そこには背丈の大きい端正な顔つきをした長髪の男性がいた。着物をはだけ、上半身は裸だった。腰に巻いた着物は、大きさが不釣り合いなので、まるでスカートを履いているようにも見えた。

 誰なのだろうと思っていると、詩織さんが入れ替わりで現れた男性を指差す。

「どう? あれ、チビ助よ」

 あたしは驚いた。

 あれが本来の姿なのか、あちらが本来の姿なのかあたしには分からない。だが、今のチビ助君はどこからどうみてもチビではない。下手すれば師匠にも並ぶ勢いだ。もしも、あの背丈でそれなりの格好をして街中へと繰り出せば、それはもう大変な騒ぎになりそうだ。主に黄色い声援が大きな身長を避雷針にして飛んでくるだろう。ただ、あたしはあまりにも端正すぎる顔つきは受け付けられなかった。胃もたれししてしまいそうだ。彼に失礼だが、あの庶民的な感じが落ち着いて良い。今のチビ助は遠くから眺めていたい芸術作品だ。

 詩織さんに尋ねる。

「あれは一体なんなんですか」

 核が安定しないあやふやな問い掛けだ。尋ねてから思った。

「ああ、あれは力貸すために低燃費やめてバカ力を出す仕様にしたって言えば分かりやすいかしら」

「――ああ、大人になれば子供よりも食べ物必要ですもんね」

「まあ、とりあえず間違った解釈ではないわね。もっとも私も大昔に一度聞いただけだから曖昧なんだけどね」

 低くなった声でチビ助君が手を振る。

「全盛期なら後光を差すこともできることに加え、狼の姿に変化することもできるぞ」

 自慢のつもりだろうが、つい最近までスーパーナチュラル的なことに一切触れてこなかった人間がその凄さを理解できるわけがない。

 困りきった挙句、愛想笑いで返した。

 お爺さんがチビ助に「そろそろ始めるぞ」と顔をしかめる。

 チビ助があたし達の肩越しに石段へと続く鳥居の奥をチラッと見る。

「誰かさんの準備も整ったみたいだしのう」

 そう薄く笑い、お爺さんの肩に両手を乗せた。

 描かれた魔方陣の線をなぞるように青白い鮮やかな光が発せられる。風が吹き、前髪が小さく揺れた。それはだんだんと激しくなる。神社の周囲に鬱蒼と生い茂っている木々の枝が大きく揺れ始めた。次第に口元を手で覆わないと呼吸すら厳しくなった。それは円の外周から発生していた。ろうそくの火は、これだけの暴風の中だというのに星空へ向かって真っ直ぐ伸びている。中心にいるお爺さんとチビ助君の髪や服は風に煽られるというより、重力から開放されたように棚引いていた。

 隣の詩織さんに目を配る。

 あたしと同じく口元を覆っていた。覆っていた手を口元から離す。息を止めるしかない詩織さんは苦しそうな表情だった。耐えながら、両手を組み合わせる。あたしの浅い知識でも、それは印を組むという行為だということが分かった。幾つかの印を組み、両手の平を前に突き出した。

 すると、呼吸がとても楽になった。一身に受けていた風が吹かなくなっていた。

 周りの木々はまだ激しくざわめいていた。風は未だに収まっていなく、儀式もまだまだ続きそうだった。

 詩織さんがあたしの肩に手を置く。

「大丈夫? まったく、こうなるなら最初に注意しときなさいよ」

 詩織さんが未だ儀式の真っ只中の二人を睨む。

 風が遮断され、視界が良好になった目で詩織さんの視線を追う。

 円の中心にいた二人は歯を食いしばっていた。お爺さんの黄色の肌とチビ助君の青白い肌両方に血管が浮いていた。それは腕に力を入れた際に浮かぶような優しいものではなく、今にも破裂してしまいそうなほど膨張していた。まるで葉脈に過度の養分を流し込み、何倍にも膨れ上がったもののように思えた。

 どんな衝撃的な映画の演出よりも、それは脳裏に焼き付いてしまう光景だった。白目を向いてしまいそうな表情。見ているだけでも耐え難いものだった。動悸が始まり、胸を抑える。

 吐き気を催す。

 詩織さんに背中を摩られる。

「見ないほうがいいわよ」

「でも、あたしが頼んだことだから……」

 ここで目を逸らすのは無責任だ。わがままを言ったんだ。精一杯の誠意ぐらい見せなければ。

「恭子、頑固ねえ」

 詩織さんがあたしの視界を手のひらで覆おうとした。しかし、半分覆ったところで動きを止めた。

「やっぱりよしとくわ。見ときなさい。大して時間も掛からないだろうから」

 手のひらがあたしの視界から離れていった。

 もう一度、あの光景が目の前に広がった。大きく変わっていたことが一つだけあった。チビ助君が倒れていた。それも、あの長身の姿ではなく、可愛げのある小さな体躯だった。髪は伸びっぱなしで、とっさには分からなかった。着物にジャストフィットする肉体を見てそうだと気づいた。気力を使い果たしたせいか、もう血管は浮いてはいなかった。

 対してお爺さんは、今まで二人で負担していたものを一人で支えなければいけなくなったためか先程よりも血管が浮いていたように見えた。目は見開き、眉間には深いシワが寄せていた。

 本当に、詩織さんが言うように時間が掛からないのだろうか。どの角度から、どう見ても、どう考察しても終わりそうになかった。唯一、早々と終わると予想した結果はお爺さんもチビ助君と同様に地に付すというものだった。

「詩織さん、あたしに何かできることありませんか?」

 その結果に墜落も軟着陸もするわけにはいかなかった。

 詩織さんはお爺さんへ目を細め、眺めながら答える。

「ないわ。鏡の向こう側が見えるってことは素養は十分なんだろうけどね。ただ、力の引き出し方が分からない状態で、この陣での負荷は命取りよ。もしもの時のために、私が外で強制的に終了させるためにいるほどなんだから」

 何もできない自分が疎ましく思える。今まで自分は苦労人だと思っていたというのに、本当に必要な時は苦労することすらできやしない。他に何もやることが本当にないのか詩織さんに尋ねようと顔に目を遣る。すると詩織さんは、親指を爪をかじり、苦い顔をしていた。

「いやに長いわね。恭子、会えない覚悟はしときなさい。いいわね」

 あたしは消え入りそうな声で「はい」と答えるしかなかった。

 そう答えた瞬間だった。

 魔方陣の線から漏電したように周囲に青光が飛び出した。何度か弱々しく瞬くと、きらめいていた光は闇に溶けていった。ろうそくの灯火の中心で鎮座していたお爺さんが力無く肩から倒れた。

 あたしはお爺さんとチビ助君の元へ駆け寄ろうとする。

 詩織さんが一際大きく叫ぶ。

「待ちなさいっ!」

 それが耳に届いた時、私の片足は魔法陣へと踏み入れていた。

 突如、身を裂く痛みに襲われる。それはどこか一点に集中したものではなく、全身くまなく行き渡ったものだった。身を抱き、うずくまる。動けば全身の皮膚が張り裂けてしまいそうだった。身を小さくし、耐えるしかなかった。鈍痛、刺痛、火傷、それら全てに似たものが絶え間なく至るところに浴びせられる。いや、浴びせられているのではない。あらゆる痛みが混在した水槽に沈んでいるんだ。

 声にならない声が頭の中で反響する。痛い、と何度も何度も。

 視界の端に詩織さんの姿が見える。手を素早く組み替えていた。

 早く、早く助けて欲しかった。一口分の息を吸い込むだけで喉が燃え尽きそうだった。

 次第に痛みは引いていった、全身から力が抜けていき、目の前がぼやけ始めた。詩織さんが何か叫んでいるのがぼやけながらも、なんとか分かった。だが聞き取れそうになかった。

 まぶたが意識せず落ちかかる。不思議とそのことは分かった。

 浮遊感があたしを包む。体を押し上げる風に抱かれた気がした。

 夢心地を断つが如く、さながら大型車同士が衝突した轟音が辺り一面を走った。視界が不明瞭なあたしでも感じてしまう強烈な光も轟音に付き添った。厚手の布が纏ったように感覚が鈍くなった肌に砂ぼこりらしきものが通過した。

 それは雷だったと思う。それも極々間近に落ちたものだ。生憎、まぶたがくっついたように開かなくなっており確かめる術がない。

 肩を揺さぶられる。詩織さんだろう声がした。

 もうこの中に入っても大丈夫なのだろうか。入っているということはそうなのだろう。それより、今はあたしのこと以上に先に倒れた二人を気に掛けた方が良い。そう伝えたいが指先ひとつ動かない。そろそろ意識が浮遊感に埋まれてしまいそうだ。

 詩織さんの声に混じり、誰かの声が聞こえた。

 誰だろうか。膜がかかった聞こえ方がするせいで上手く判別がつかない。男性の声だということは分かった。碧のお父さんだろうか。倒れている人の他に今日知り合った男性はいない。今頃は夕食を碧ととっているはずだ。呼び出しがかかったのだろうか。可哀想に。

 なんだかうつらうつらしてきた。意識が飛びそうだ。ここ最近、いろんな方々に迷惑をかけてばっかで申し訳ない。目が覚めたら、一度皆さんにきちんと謝ろう。そして、お礼を言おう。

 詩織さんと誰かさんの声が入り交じる中、あたしは意識の手綱を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突風が吹き荒れ、散らかし放題となった一室で僕の膝は崩れ落ちた。

 師匠はどこ吹く風で髪についた埃をとっている。坂井さんは所在無さげに片隅で佇んでいる。

 難しいということは分かっていた。勝手に期待して勝手に落ち込む。これは僕が悪い。重い腰を上げてまで協力してくれたんだ。感謝はすれども、責める理由の一つにもなりはしない。

 立ち上がる。目頭が熱い。ボヤけた焦点で師匠を捉える。

「師匠、今日はありがとうございました」

 声が震えていた。

 まぶたを擦る。少し鮮明になった。鏡には僕の輪郭が映し出されるだけだった。

 明日からはいくらでも頭を下げて魔法の練習をしよう。師匠でも駄目だったものを僕ができるとは到底思えないが、現実逃避ぐらいにはなるだろう。何もやらないでふてくされたくはない。

「師匠」

「なんだ?」

 師匠が煙草に火を点ける。

「明日から本気で魔法を教えて下さい」

 師匠がくゆらせた紫煙の行方を目で追う。

「侘びだ。体育会系でも自殺を考えるほどに厳しくいくから覚悟しとくんだね」

「もう覚悟はできています。彼女に会うためなら」

 師匠が煙草を咥える。口端は上がっていた。

 鏡の前へと移動した。表明はしないが、決意を固めるために。

 その直後、どこからか詩織さんらしき声が聞こえた。金切り声だった。師匠や坂井さんに目を遣ると発生源はどこだと首を回して探していた。

 ジジジと鏡から音が鳴る。鏡面が微かに揺れ始める。正確には鏡面より奥。僕を映し出していたそれが役目を終えた小学生のパレット上みたいに絵の具がとりとめなく混ぜられているようだった。奥行きがあり、大きく揺れて見える向こう側は黒単色へと移り変わっていく。平面に浮かぶやけに立体的な波は、見ているだけで酔いそうになった。

 鏡から視線を外すと、二人が僕の隣に移動して鏡を凝視していたことに初めて気づいた。

 坂井さんが眉を寄せる。

「これは一体何が起きているのですか?」

 師匠が一瞥もくれないで答える。

「さてな。これにも書いてないことが私に分かるわけないだろう」

 不満気に書物を掲げた。

 もう一度、鏡と向かい合う。

 大きく揺れていた波紋は、だんだんと落ち着きを取り戻していった。漆黒は、少量の光を受け取ったのか、ぼんやりと全容がはっきりしていく。舞い上がっている砂埃の奥で誰かが叫んでいた。それは聞き覚えのある声の持ち主だった。砂埃が晴れると、詩織さんが佇んでいたのが見えた。その影になって誰かが倒れている。詩織さんの近くには、チビ助と恵介のお爺さんが倒れていた。

 何故ここに恵一のお爺さんがいるのか皆目見当もつかないが、詩織さんの影になっている人物に胸騒ぎがした。

 影となっている人物の特徴を少しでも把握するために目を凝らす。地面を走る緑の黒髪、色白な細い肢体。そして、僕が通う高校の制服であるブレザーを身につけていた。

 あれは恭子だ。

 僕は呼びかけた。それも喉が振り切れんばかりに。

 肢体がピクリとも動かない。意識を失っているのだろうか。詩織さんの慌て方からしてただ事ではないと察することができた。詩織さんが力無く項垂れる恭子の腕を自身の肩に回し、背負って立つ。背負ったまま移動し、鏡に映らなくなる。

 しばらくすると再び現れた。背中に恭子の姿はなかった。同様にお爺さん、チビ助と続けて運んでいく。チビ助が最後まで残ったのは、問題無しという医療的観念からくるものなのか、こいつは後でいいやという無遠慮な心持ちからくるものなのか。できることなら後者でないことを祈りたい。

 チビ助を運び終わると、再度現れた詩織さんは真っ直ぐ鏡へと向かってきた。

「平行世界とはいえ、またアンタの顔見るとは思わなかったわ」

 詩織さんの鋭い視線の先には、師匠がいた。

「やあ、しおりん」

「そのあだ名で呼ぶな」

 キッと詩織さんは眉を寄せた。

 師匠は、肩を持ち上げる。

「やだなー、私たちの仲じゃない?」

「それは片方が一方的に追ってくる同極磁石みたいな仲のことかしら」

「それは酷い表現だな。同い年の魔法使い同士だから、仲良くなりたいだけなのにな」

「なら、違う人を探すことねえ。私魔法使いじゃなくて、巫女だから」

 詩織さんが視線を落とす。その先にある師匠の手には、本があった。

「それ、私の家のものよねえ?」

 師匠は悪びれずに答える。それも飛び切りの笑顔で。

「やっぱり分かったか? もう少し引っ張れると思ったけど、駄目だったか」

 詩織さんが声を張り上げる。

「アンタ、さっさと返しなさい! そっちの私が絶対困ってるから! 駅前で売ってるような洒落た菓子折り持って!」

 含み笑いを師匠が手で隠す。

「いやいやまあまあ、まさか田舎娘もいいとこのシオリンが駅前なんていうお洒落なことを言い出すなんて目からウロコだよ」

「そんなこといいからさっさと来なさい!」 

 顔を真っ赤にした詩織さんは、そう言うや否や鏡から姿を消した。

 まだ色々と訊きたいあった。恭子達の無事について。この世界は、僕らが別れてしまった時から地続きなのか。恵一のお爺さんが何故ここで倒れているのか。これは時間さえあったらでいいのだが、何故しおりんと呼ばれているのか。

 師匠に尋ねる。嫌味を三割ほど込めて。

「今写っている世界は、僕らと地続きの世界だと思いますか?」

「さてどうだろうね。一応、私達のことはすんなり理解してたみたいだけどな」

 坂井さんがため息をつく。

「まあ、あの中の誰かが気がついたらきちんと対話できるでしょう。それまでは根気良く待ちましょう」

 その一言で僕は待機することになった。

 師匠は自室で睡眠をとると言って退室した。

 坂井さんも「用事が済んだので」と、娘と過ごせなかったことに落胆しながら帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、あたしはどこか知らない人の部屋だった。あたしの無趣味ゆえの質素な部屋とは違い、上手く言い表せないがこの六畳ほどの部屋は『女の子女の子』していた。白い壁紙が張られた部屋に映えるピンクやら赤の家具類ばかりが置いてあった。中でも目を引いたのがベッド上にあたしの頭と並べておいてある赤と薄いピンクのハートクッションだった。碧あたりがこの部屋を見たら「きゃわいい」とでも言って嬉々とした感情を広げてくれそうだ。さらに女の子レベルというものがあるのならば、それを底上げしているのはアロマキャンドルだろう。目覚めに良さそうな甘い微香が部屋に充満していた。大抵の女の子なら、「おお」と嘆声の一つも上げただろう。ただ、あたしにとっては突然知り合いのいない隣のクラスに編入したみたいに落ち着かなかった。

 ここは一体どこなんだろう。

 あたしはどうしてここにいるんだろう。

 たしか、あの魔方陣に入ったら全身に激痛が走ったんだった。――それで気絶でもしたと考えるのが一番合理的だ。

 あの際、聞こえた男性の声は一体誰のものだったのだろうか。

 叶うならば、あの声は彼のものであって欲しい。

 薄茶色の扉が開いた。

 顔をそちらへ向けると腕まくりをした詩織さんが洗面器を持って入ってきた。

「あら、気がついたの?」

 洗面器を床に置き、あたしのオデコに手を添えた。

「うん。もう熱はないみたいね」

「あたし、熱あったの?」

 詩織さんが頬を緩める。

「高熱よ。うなされてたわ。うわ言で恭介とも言ってたわよ」

 無言の三拍。

「嘘だ」

「本当よ」

 側にあったハートクッションで顔を隠す。今顔を鏡で見たら真っ赤になっているに違いない。彼には絶対見せられない。クッションから目だけを覗かせる。カーテンの隙間から日光が漏れていたことに気付く。

 もう一度の三拍。

「あたし、どれくらい寝てたんですか?」

「そうねえ、半日ってとこかしらね」

 今日がまだ休みで良かった。もし、今日が月曜日だったら母親にどやされるところだった。父親が家にいたら警察沙汰になるとこだった。――今日泊まること母親に言ってない。どっちにしろ怒られる。正座で怒られる覚悟を決めていると、詩織さんが塩分が多めに入った飲料水が入ったコップを手渡してくれた。

「飲みなさい。飲み終わったら、見せたいものがあるから」

「見せたいもの?」

「そう。恭子が持ってきた鏡」

 あたしはそれを一気に流し込んだ。慣れないことをしたせいで見事にむせた。むせながらも「はやく」と詩織さんを急かした。

「落ち着きなさい」と詩織さんにたしなめられる。

「恭子以外に二人の軽傷者は出たけど、とりあえず何故か鏡は平行世界と繋がったわ。くどいようだけど、それが恭子の言っている恭介だとは限らないわよ。会わないっていう選択肢はないと思うから、これだけは覚悟しといて。いいわね?」

 あの二人が無事と知り、ホッと胸を撫で下ろす。

「大丈夫です。これだけの人を巻き込んだんです。覚悟は決めてます。ただ駄目だった時、彼にもう一度会えるよう、あたしに魔法を教えて下さい」

「それだけ大口叩けるなら充分ね。ついて来なさい。会わせてあげる」

 詩織さんのあとに続く。続きながら思う。大それたことを言ってしまったと。

 夕食をした和室についた。あたし達が囲んだ机は、片付けられていて代わりに鏡がそこにあった。鏡には、自宅にあった時と同じように布がかけられていた。自宅にあった時はプライバシーを見られないようにという配慮からだったが、今どうしてこの場でかけているのかまったく分からない。

 鏡の周りには、チビ助君とお爺さんの姿があった。

「もう体の調子は良いのか?」

 先に尋ねるべきあたしが一歩早くお爺さんに尋ねられてしまった。

「あ、はいおかげ様で。お爺さんとチビ助君はもう大丈夫なんですか?」

 あの姿を見た後でチビ助『君』と呼ぶのは違和感があり、喉元がむずむずした。

 チビ助君が自慢気に胸を張る。

「鍛え方が違うのじゃよ」

「やっぱり俗に言う魔力とかってやつですか?」

 説明を始めようとするチビ助をお爺さんが片手で制する。

「今はそんなことよりもこっちが先だろう?」

 お爺さんに促され鏡にかけてある布を握る。

 覚悟はできている。中身が違う別人かもしれないということの。

 期待を持っている。裏切られる可能性が濃厚だが。

 裏切られても誰も悪くない。誰にも八つ当たりもできない。

 でも、夢も趣味もなく本気で何かに取り組んだことのなかったあたしが初めて好きだと思えることができた。それだけで充分……なんて殊勝なことできれば、思えればいいな。

 思いきれなかったあたしは、布が自身の重みで落ちるように少しばかり引っ張った。

 姿を現した鏡は、鏡面を蛍光灯の光を反射しながら世界を映しだす。鏡には和室の景色は映っていなく、映り込んだのは洋館の内装だった。そして、中心にあたしが会いたくて会いたくて堪らなかった彼がいた。久しぶりに見た彼の顔は、なんだかやつれて見えた。以前よりも頬はこけて見え、目は腫れていた。

 大丈夫なの? と声をかけてあげたい。でも拒否されるのが怖くて一言が言い出せない。けれども嬉しかった。別人かもしれない恐怖は胸を渦巻いているが、それでも一目会えて嬉しかった。気持ちが入り混じり、感極まって目頭が熱くなる。それが怖さからくるものなのか、嬉しさからくるものなのか、もうなにがなんだかわからなかった。

 気がつけば、ぼたぼたと大粒の涙が頬を伝わり、畳に何個も跡を残した。

 彼が優しく懐かしい声をかける。

「ねえ、泣かないで。ようやく会えたんだからさ」

 小さな子供のようにわんわんと泣き始めてしまった。もう感情を抑えきれなかった。膝は崩れ、その場に座り込む。止めどなく流れる涙を止まるまでずっと手の平で拭った。

 彼の顔を少しでも見たかった。涙でぼやけるまぶたを何度も何度も擦る。けれども、一向に視界が晴れない。それがまた悲しくなって、一段と涙が溢れてくる。

 彼が同じように言う。

「存分に泣いていいよ。待ってるから」

 くぐもった声で尋ねる。

「もういなくなったりしない?」

「うん。しない」

 鏡へと手を伸ばす。

 彼に触れられないことは嫌なぐらい理解していた。けれども顔が見えない分、彼を近くに感じたかった。鏡面に指先が触れる。凛とした冷たさが伝わる。まるで冷水の張った湖に指を差し込んでいるようだった。まるでどこまでも入っていけそうだった。

 違和感に気付く。

 それはあたしの思い違いではなかった。鏡へと伸ばした手は、どこまでも伸ばした分だけ伸びていった。留まるところを知らない指は、ふと暖かいものに触れ止まった。そして、暖かさに包まれた。

 ぼやけた視界の先を必死で見据える。

 あたしの手を彼が両手で握っていた。

「恭子、久しぶり」

 大きな大きな笑顔で尋ねる。

 僕らが和解した時から、いつか言おう言おうと思ってても機会がなかった言葉を。

「あなたはだあれ?」

 大きな笑顔が返ってきた。

「僕は芦屋恭介。あなたは?」

「あたしも名字、芦屋っていうんです」

 あの初めて繋がった日を再現となった。

 あたしが好きになった人と初めて出会った日の。

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