3章-6 2つの負債
「はあ……。」
100万の借金の背負いこんでしまった磯城。
無論来たばかりの世界で……元の世界でもだが、ツテやコネなどない磯城に返せるあてなど存在しない。
「大丈夫。」
すると落ち込んでいる磯城をシャノアが慰めてきた。
短い付き合いであるが、今までの彼女から考えられない行動に驚いた磯城。
それほどまでに彼が哀れに見えたのか。そう思って再び落ち込む。
「《ドラゴンズレア》は基本寛大。踏み倒さない限りは無利子で返してもらえる。」
「ドラゴン……なんだって?」
「?書いていたじゃない?《ドラゴンズレア》って……。あ、そうかシキ文字が読めないんだっけ?」
「ま、まあね。」
聞いたことのない単語に首を傾げる磯城。
なのでここは知っていそうな存在に質問する。
「(ねえアガサ。ドラゴンズレア?って何?)」
『(《
「(そそ、そんなこと思ってねえし!!)」
「(……思ってたんですね。)」
すぐに顔に出る分かりやすい磯城であった。
「(それにしてもなんでそんな名前なんだ?あの店の内装を見ると物騒な名前似合わないと思うんだが。言っておくけど本当に思ってないからな。)」
「(わかりました。そういうことにしておきましょう。あくまでも私見ですが古来からドラゴンは自分の住処に宝を守ると相場は決まっています。印欧の竜殺しの典型でもありますしヤマタノオロチも自分の体に天叢雲剣を入れてましたからね。もしかしたらこの世界では龍が武器を隠しているなんて物語がメジャーなのかもしれませんね。あ、ちなみに《ドラゴン》の語源はラテン語で蛇らしいですからヤマタノオロチがドラゴン扱いでも別に問題はなさそうでからね。)」
「(いや、そう真面目に解釈されてもねえ……。)」
とは言え、さすがにネットからの情報集めを趣味にしているアガサ。知識量は半端ではない。
「で?次はどうするの?」
「リベラのところへ。さすがにもう仕事は終わっているはずだから。」
「彷徨者の登録。さっきも言ったでしょ?」
ああ。と磯城は思い出した。
「じゃあ……これが登録用紙を始めます。」
「よ、よろしくお願いします。」
数分後。
宿屋に戻った2人が通された部屋は宿屋の2階の6畳ほどの広さを持つ応接間のような部屋。
経費節約のために宿屋の一室を改築し利用しているとの事。
そしてここの主人は、泊まるだけの宿ではなく、お客様が寛げるような雰囲気を作っているらしく中々に趣味のいい調度品や間取りを考えていたりする。
しかし。
「………。」
『(坊ちゃま落ち着きませんか。)』
そんな宿屋の主人の苦心の工夫もむなしく磯城は全く落着けないでいた。
何しろこの部屋はさっき尋問を受け殺されかけた部屋。
いくら落ち着いた部屋でもトラウマになっている部屋にが磯城にとって居心地のいいはずがない.
「お待たせしました。ではこの球に手をかざしてください。」
数分待って差し出されたのは占いに使いそうな透明な水晶玉だった。
大きさ的に言えば占い用の水晶と同じ大きさで小さな座布団に乗っている所まで同じだ。
違うところは占いに使う水晶と違い中に金色の靄がかかっていて、煙をそのまま封じ込めたという印象を受けた。。
「始める前に。手を離さないでくださいね。」
「え、ええ……。」
脅しめいた口調でいわれて恐る恐る手を伸ばす。
そして手が水晶玉に触れた途端。謎の水晶玉が淡く光る。
それが魔力による発光だと認識するよりも早く。
「………っ!!」
悪寒が体を襲った。
ソレは痛みなどではない。
体の内側を得体のしれないナニカがまんべんなく這いまわる。
そんな気持ち悪さを感じて思わず手を離したくなってしまう。
「動かないでください。大したことはないはずですから。」
確かに気持ち悪いが突然の感触にびっくりしただけで落ち着いていれば耐えられないこともない。 だがコレは大したことだろうどうにかしてくれと心の中で突っ込んだ磯城であった。
「はい。登録完了です。お疲れ様でした。」
「お疲れ様です………。コレってなんなんですか?」
「ああ。魔力検査器です。」
「ええ。知っているか分かりませんが魔力とは一人一人違うものなのだそうです。」
「ああ。そうですね。マナは精神に由来するものらしいので個性と言う差異がある以上当然魔力の質にも差異が出てくるって話でしたよね。」
「ええそうですけど……よく御存じですね。」
「え、ええまあ……知識として。」
「……文字も常識も知らないのに?」
「ううっ!!いや。まあいいじゃないですか?どうぞ話の続きを!!」
「……まあいいでしょう。」
不審なまなざしをしていたリベラであったが今は登録が優先だと諦めてくれた。
「不変であり、個性のある魔力の特性を個人の識別に応用させたのがこの検査器と言う訳です。これで個人を識別することで魔力を登録し魔力をかざすだけで事務作業がラクになるという寸法です。」
『(要するに生体認証ってわけですね。)』
「(そうみたい。この気持ち悪いのをどうにかして欲しいんだけどな。)」
「では次はカード作成のための書類作成です。簡単な質問ですのでリラックスして聞いてくださいね。今回はすぐに返したり関係ない雑談は大丈夫です。偽証は困りますが。」
「え、ええ。」
そういう磯城の声はかたい。
それをしなかったせいで味わった死の恐怖をぬぐい切れないのだろう。
とはいえ。質問はさほど難しくはなかった。
氏名・年齢と言ったいくつかの簡単なプロフィールを聞かれただけだった。
変なことを言って剣で聞きつけられたりすることは流石になかった。
あったことと言えば年齢を聞かれた時、
「ええと、15、いや。16歳……」
「嘘……同い年?」
信じられないと言いたげに驚愕の顔を浮かべるシャノアに対し軽く凹んだことくらいだ。
「では次に、あなたの武器を見せて欲しいのですが」
「武器?そんなものまであるんですか?」
「当然です。コレは武器の所有許可証でもあるんだからね。」
まあワンダーは所詮コミュニティの外に在る余所者。そんな人間が天下の往来で武器をもって歩き回られては住民達もたまらないだろう。
「えーっとさっき買った銃なんですけど……。」
「銃!!」
突然がたんと椅子から立ち上がる。
「あなた……オリバリストね!」
「お、オリバリスト?(また変なスイッチが入った……。)」
オリバーと言う魔法の言葉ではっちゃけたリベラが再び爆誕した。
「オリバーの愛好家の最上級。彼に憧れてワンダーになった者をそういう。私から言わせれば愚の骨頂。」
「ええ。不遇と言われる銃を愛用する理由なんて銃を愛用していたオリバーに憧れたからくらいなものよ?あなたもそうなんでしょ?」
「いえ。別にそういう訳じゃ……。」
自分の魔術の補助にしか使っていない。なんて言ったら興奮している彼女にどんな目に遭わされるのだろうか?と考え思わず背筋が凍りついた。
「隠さなくてもいい!!ぜひとも君には……。」
「リベラ。早く終わらせたいから。」
「そうでした。では続きを。」
一瞬で元に戻った。
そんな彼女に思わずひいてしまった。
「では最後の質問です。あなたの《系統》については
「……系統?」
頭に?を大量に浮かべた磯城をみて頭を抱えるリベラは思わず訊いた。
「……そこから説明しますか?」
「お願いします。」
即答する磯城に解説を始めた。
「そうですね……彷徨者って広義では世界を歩く旅人ってことなのですが開拓者の他にも旅芸人、フリーの戦争屋といった別人種も全部ひっくるめて《彷徨者》なんです。」
「成程。ただ開拓する人だけじゃワンダーではないと。」
「はい。ですが彼らを管理する私達としては把握のために分類はしておきたいんですよ。そこでその分野でもっとの有名な連合の名で分類することにしたんです。」
「治安維持組織として機能している連合は《
「シャノアの場合は……猟兵団の《レクス=タリオニス》は《荒ぶる笛》、つまりは《荒笛系》となります。」
なんでユニオンの名前が由来なのか気になった磯城であったが、今はもっと重要なことがある。
「で?自分の場合は?自分はスカ痛っ!!」
「リベラ。シキは《西方系》だから。」
突如シャノアが素早く磯城の足を踏んで発言を止めさえぎる形で会話に割り込んだ。
痛みに悶える磯城の頭を押さえ耳元でささやく。
「(《天突く槍》の話は絶対にやめて。オリバーの話が終わらない。)」
そう言えば《天突く槍》の到達はオリバーの偉業の1つだということをシャノアから聞いていたのを思い出した。
正直に言えばその話は帰還のために重要な情報なので、正直お望みの展開ではあった。
しかし。
学校→異世界トリップ→イノシシの追いかけっこ→昏倒→首を斬られる→買い物と心身ともにクタクタになっている磯城にとってこれ以上の負担は今日はご遠慮願いために首は縦に振っておいた。
「昔もっとも伝説とも言われる開拓者集団の名前を《
「あ、はい。ありがとうございました。」
そしてそのあと何個かの質問と誓約を終えた後。
「これであなたは《彷徨者》に認定されました。カードの方はまた後日と言うことで。」
「あ、わかりました。」
それを聞いてようやく胸をなでおろす磯城。
これでようやく不用意に命を狙われることはない。
「とりあえず一段落か。」
「そうね。それじゃあさっそく明日行くわよ。」
ガタンと2人して席を立った瞬間。
「あ、あと……。」
「え?」
何か言いたげな彼女に嫌な予感を覚えつつもそれでも律儀に聞いてしまう磯城。
そしてリベラは言い難そうに口を開いた。
「……登録料1万Pになります。」
「…………………え?」
瞬間。寝耳に水の情報に磯城は硬直した。
「あ、忘れてた。」
「うおおおいっ!!」
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