3章-4  2つの武器②

『「「あるんかい!!!」」』

「ど、どうしたんですか?」


 突然の突っ込みに思わずスマイルを引きつらせる店員さん。


「ねえ?銃って使う人いないんだよね?」

「ええ?単価が高く手入れが難しく実戦向きでない銃はそんなにでまわってないんですよね。取り扱っている所はほとんどありません。」

「でも、ここではあると?」

「もちろんです。あらゆるお客様のご要望に応えてこその一流の商人ですから。一通りのものは取り揃えてますよ?」

「そ、そうなんですか……。」


 若干げんなりとする磯城をよそに少し待ってください。と言う言葉を残し店員さんはゆったりと迅速に店の奥の倉庫へと消えていった。

 そして残されたのは少年と少女はしばし無言の時を過ごす。


「………。」

「………。」


 そして辺りに沈黙が広がる。


 磯城は異性とあまり会話はしない。

 そしてシャノアはそもそも他人と会話をしない。

 なので店員さんがいなくなったこの場の空気は非常に重く強いものとなっている。


 この重苦しい空気をどうするか?について考えていると。


「ねえシキ。」


 彼女にしては珍しく磯城に話しかけてきた。


「何?」

「シキって銃を使ったことはあるの?」

「弾を込めて、撃鉄を上げて引金を引く。と言うのは分かる。」

「そういう意味じゃない。撃ったことはあるの?」

「ないね。」


 現代の銃ならゲームや漫画でなんとなくは理解している磯城であるが近代以前の古式銃の取り扱いについてはさすがに知らないし、そもそも実際の銃を見るのもこれが初めて。

 そんな磯城に呆れながらも先程の戦闘の痕跡と思い返しながら質問をした。


「そもそも磯城は魔弾使いのはず。」

「え?見てたの?」

「少しだけ見えたあの透明な球体知り合いの魔弾に似ていた。」

「ふうん。」


 魔弾は魔法の中でも初歩。

 なので使える人間などどこにでもいる。《しらほし》にも半分以上は確実にいるだろう。


「どうして魔弾使い……珍しいね。」

「え?魔弾使いって珍しいのか?」


 思わずこう聞くと。そう。とシャノアは首を縦に振る。


「うん?効率が悪いという理由で敬遠されがちだと聞いたことがある。」

「まあ、そうか……。」


 磯城は納得する。

 魔弾は魔法の基本中の基本。それは何度も話したと思うがならばそれは実戦向きかと聞かれれば答えはノーだ。

 魔弾は自分の体内のマナを使って発動する壱次魔法と言う分類になる。本来壱次魔法は体内のマナを循環させマナを纏ったり、行動を強化する武芸に近い魔法。《カリギュラ》が見せた高速移動もここに分類される。

 なので壱次魔法は魔法の中でも効率の良い魔法に分類されるのだが、体外にマナを外に排出する魔弾は例外で、いうなれば自分の血液を弾にするようなもの。

 長期戦になれば消耗してしまうので連発できないのは自明の理。

 なので好んで使うものはそんなに多くない。


「ところで、なんでシキは魔弾が使えるのに銃を使うの?」

「う……。」


 その質問に対し、磯城は顔を気まずげにして目を背けながら答える。


「自分、魔弾使いとしては未熟で……銃がないと作った魔弾が暴発する危険があるんだよね。」

「…………。」

 

 ……聞き飽きただろうが魔弾というのは魔術の中でも簡単なものであり、《カリギュラ》との戦いの中で磯城が見せたほどでないにしろ野球用のボール程度の魔弾は誰にでもできたりする。誰であろうとボールを自身の全力で投げることができる理屈と同じだ。

 無論それをやれば体中の魔術が欠乏して死んでしまったり暴発して体が飲み込まれて消滅してしまう危険があるために魔弾を調整、つまり先程の話に言い換えれば狙った目標に向かって最適の労力で投げられるように軌道を決める必要がある。

 しかし、とある理由で魔弾の出力を上げることに苦心していた磯城はそう言った細かい調整をするのに目を向けていなかったおかげで磯城の魔弾は高威力だが狙いをつけられないという実戦向きではない攻城兵器が完成してしまったという訳だ。

 先程の《カリギュラ》戦も相手が一直線に襲って来たから当てることができただけ。もしあれがジグザグに移動いながら突っ込んでこようものならもう磯城には対処のしようがなく兇悪な角で串刺しになって多々だろう。


「(まあそもそも戦うために学んでいる技じゃないし、自分の魔弾は|特別製(・・・)だしね。)」

「……。」

「どうしたのシャノア?」

「……………私が聞きたいのは」

「お待たせしました。」


 その時、別の声が聞こえてきたのでにふと顔を上げると木箱をいくつか抱えた店の主人が奥の扉から出てきたところだった。


「あ、すいません。お話し中でしたか?」

「ああ、いえ。ごめんシャノア話は後で。」

 


「まず最初に……あなたは長銃(ライフル)と短銃(ピストル)とどっちがいいでしょうか?」

「短銃で。」


 長銃は重いしかさばる。何より銃として使うつもりはない。


「成程短銃ですか?ならこれしかありませんがよろしいですか?」


 そう言って出された持ってきた中でも一番小さな箱。

 その中にあったのは1丁の拳銃だった。


「(何?この銃?)」

『(ヴォルカニック連発銃……レバーアクションのピストルをベースにしているジップガンのようですね。)』

「(レバーアクションって……、21世紀どころか20世紀の銃じゃないの?)」

『(違いますよ。19世紀です。)』

「(うわ古っ!!)」


 メートル法に直すと全長40.2cm、重量0.8kgの拳銃。

 地球の物になおすと19世紀のアンティーク。

 しかも細かい装飾が至る所にされていることからさる高貴なお方の護身用の銃ではないかと推測できる。


「《アルテアシリーズ》の1つなので信頼性は高いですよ。」

「アルテア?」

『(銃床の|葵(アルテア)の紋……。何ともまたひねりのない名前ですねえ。)』


 もう少し他になかったのかと思わなくもない磯城であったがいまはそんなことはどうでもいい。

 シンプルな造形に施された装飾。それを見た磯城は一目で気に入った。


「それで……的ってあります?」


 彼女が指差したのは今いる場所から10mほど離れた場所にぽつんと立っているカカシ。


「取り扱いについて聞きたいことはありますか?」

「いえ。だいじょうぶです。」


 何しろ磯城にとっては魔弾を撃つ為の道具であるので、実包を打つ機会のない彼がレクチャーを受ける必要はないだろう。

 ……まあ知識の面なら世界最高峰の情報量と処理速度を誇るメイドマニアが身近にいるので何かあっても大丈夫だろうと楽観視をしていた。


「じゃあ。撃ちます。」


 磯城はそう言い銃を的に向けて構える。

 いつもなら細かい設定は不要だが今回は試射。


 魔弾を薬室内に精製。素材は大気

 直径は10㎜前後、質量は0.1gに設定。


「("Bullet Reload"!!)」


 無詠唱(サイレント)で魔術を唱えた瞬間両腕に巻いた|魔導書(グリモア)が淡く光る。


『(ん?あれ?………坊ちゃま?)』


 何かに気付いたアガサは磯城に呼びかけるが集中している磯城は全く気付かない。


 精製した魔弾の推進力を変換。

 方向は前方。速度は音速。

 引金を引くと同時に、魔法を発動する。


『坊ちゃま!!』

「(”Fire”!!)」


 その時、魔法の完成したため集中が遂げた磯城の耳にシャノアの言葉が入ってくる。


「ねえシキ。魔弾の射出用に使うんなら弾丸を込める必要はないといおもうけど。」

『そうです魔法を解除してください。』

「………え?魔弾。」

「しまっ……!」


 弾丸が込められていないつもりで構えていた磯城にとって寝耳。

 焦って指の動きを止めようとしたが時はもうすでに遅し。失敗の言葉を漏らすよりも先に引金は完全に引いてしまっていた。


「………あ。」


 魔弾とは魔力を質量に変え任意の方向へ撃ちだす単純な魔法だ。

 発射するためには魔弾を構成するための質量の他に当然魔弾を前に飛ばすための運動エネルギーも必要となってくる。


 そして磯城は一般的な銃口付近ではなく薬室内に魔弾を作りだし撃ちだす癖がある。

 自分の体に近いから制御しやすいからという理由だが今回そのおかげで薬室内にあった弾丸に魔力が帯びるという結果になってしまった。魔力は大気中よりも物質に定着しやすい傾向があるので魔力の分だけ質量を増してしまう。

 その質量当初の1000倍。弾丸が10gだったとしても1000g。


 速度は火薬+魔力分だけ上昇し弾丸の質量も+魔力の分だけ増えてしまった弾丸。

 単純計算をすれば、現状の魔弾は質量が1kg・弾速は音速超えの砲弾と化してしまっているわけだ。


 Q.そんなものが発射すればどうなるか?


 A.轟音と共に銃口から魔弾を帯びた銃弾が発射。

  強烈な反動ぬより銃と右腕が後ろへと吹き飛び。

  魔弾……先程の戦闘のものと違い魔力を帯びた鉛弾が当たったカカシの頭はぶっ飛んで。

  弾丸が命中した背後の壁に大きな亀裂が走った。


「……………。」

「……………。」

「………………ごめんなさい。」


 惨状となった室内を沈黙が包む中、痛む右腕(脱臼)を堪えながら、少年はただ一言つぶやくように謝った。



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