3章-3 2つの武器①
「じゃあシキ。行こう。」
そういうと荷物を持って席を立ち《朱い陽射し》の出口へ向かうシャノア。
「ちょっと?リベラさんって上の階じゃないのか?」
「リベラは今事務処理で忙しい。夕方にまた行く。だから今は別のところ。」
「別のところ?ど、どこへ……?」
「装備の調達。まずはシキの武器から。」
「……え?」
呆然とする磯城をよそにシャノアは訝しげに眼を向けた。
「だって磯城。今武器持ってないでしょ?《カリギュラ》との戦いで壊しちゃったんじゃないの?」
「……まあ……ね。」
まさか自分は武器なんて始めから持って無い等とは言えず適当に言葉を濁す磯城。
荒事が苦手な磯城にしてみれば物騒な武器など持ちたくはない。が、魔獣が出るような危険な森に突っ込む以上丸腰で挑むなどなど無謀を通り越して狂気である。
なので磯城は諦めてその武器屋へと向かっている。
「はあーっ………。」
とはいえ、日に2度も死にかけ、さらにこれから3度目の命の危機に直面しなければならない状況に対してうまく許容ができるはずもない。
なので自然と何度もため息が口から吐き出していく。
「シキ……。女々しすぎ。《まれびと》の討伐は確かに危険だけどワンダーになる時から覚悟位してるもんでしょ?」
「(………してないと言わせてくれえええ。)」
『(残念ながら無理ですよ坊ちゃま。)』
そう、ここまでの経緯はほとんどなし崩し的な成り行きにして運命であり。
断れば即死亡という行き詰まりを避けた結果のわずかな生。
ここでその言葉は天秤を一気に死へと傾ける
「着いた。ここ。」
「え?もう。」
そうこうしているうちに武器屋についた。
人口が1000人も満たない小さな村なので酒場から武器屋に行くまでもそれほど遠くはなかった。
「そう……ここが?」
「そうですが……なに?」
正直武器屋なんてものはRPGくらいしか縁のない(?)磯城だったのでどうしてもその中に入るのは躊躇ってしまっていた。何しろ武器屋なのだ。自分たちが住んでいた世界とは違いすぎる場所に対し磯城はどうしても及び腰になってしまう。
「早く入って。」
「お、おう。」
異世界トリップに比べればと思い直しを腹をくくった磯城はおずおずと分厚い扉を開け、少しだけ中を覗く。
「はい。どうもいらっしゃいませ」
「………。」
その瞬間、また閉じた。
「どうしたの?」
「なあ、ここって本当に武器屋か?」
「そう。」
その質問にシャノアは首を縦に振ったが磯城には些か信じられなかった。
何しろ扉を開けた瞬間筋骨隆々の男の「らっしゃい!!」を想像していただけに先程女性店員の物腰丁寧な語対応には非常に違和感がある。
「お客様?いかがなされました?」
「うわっ!!」
そんなことを考えていると店員さんが扉を開けて顔を出してきた。
「あ、えっと……。」
「冷やかしなら少し痛い目に遭ってもらわないといけないんですがね。」
磯城答える前ににっこり笑顔の店員はスカートから鎖に繋がった鉄球に棘が付いた武器であるモーニングスターを取り出した。
ボウリングの球よりも大きく見えるものをに軽々と持ち上げる恐怖を与える。
「うぎゃっ!」
「ふふふ、冗談ですよ。」
「ど、どうも……。」
「(やっぱり武器屋だな。ここは……。)」
『(と言うか今どこから出たのかわかりませんでしたよ………。)』
武器屋の主人=ゴツイ親父をイメージしていたので面食らった磯城。
実際、長い髪の女性で体は細く、深窓のお嬢様が似合うお淑やかな女性の印象を抱いた。
終始ニコニコしており、フリルの付いたのエプロンをかけている。
正直武器なんかより花やケーキを売っている方が似合う女の人だ。
「あらシャノアさん。こんにちは。」
「どうも。」
「じゃあ2人共入ってください。お茶を入れますから。」
こうして磯城は生まれて初めての武器屋に足を運んだ。
「うわあ……。」
磯城は通された室内を見て思わず声を上げた。
最初磯城気付かなかったが誰もがイメージしていたであろう石造りで無数の武器が壁に掛けられた無骨であり殺風景なものとは違い、壁紙、天井、床は全て白で統一されており、レリーフや花瓶・さらに微かにラベンダーの香りが漂っており場の空気を和やかにさせる調度品が置いてある。
結論を言ってしまえば一見とても武器屋だとは思えない室内だった。
むしろ武器屋と言われても信じる人間など少ないくらいだろう。
「ところで……ここって工房とかないんですか?」
「ええ。ここでは卸した武器を販売するだけなので」
「卸してるって……ここって自分達が鍛冶で作った剣を売っているのではなく、村の鍛冶屋で作った剣を卸して販売しているという武器屋なんですか?」
「鍛冶屋が直接販売してもいる方もいますが、どこの村にも武器を打てる鍛冶がいるとは限りません。代わりに売ってもらった方が鍛冶に専念できますし、余計な仕事をする必要なありませんからね。まあ、女性が武器屋と言うのはなかなか珍しいと思いますが。」
やっぱりそうなのかと思っていると武器屋の主人が話を進めてきた。
「それに武器屋の主人って無愛想なイメージもあったんですが……。」
「おや?商売には笑顔とお客様からの信頼。扱うものが変われどその精神は変わらないと信じていますから。」
「な、なるほど……その通りです。」
確かに、接客業と言うものはお客様に勝ってもらってなんぼの商売。お客様への応対が悪いと売り上げに直接響きかねないものだ。
「ええ、お客様に心地よくご利用していただくために必要なことですよ?それに……」
「ねえ。話はそれくらいにして商売の話をして欲しい。」
そこへ声に苛立ちをにじませたシャノアが会話に待ったをかけた。
それを聞いた2人はようやく本来の目的を思い出したらしい。
「あ、そうでしたね。私の商売精神を熱心に聞いてくれる人なんで初めてでしたから。」
「ごめんシャノア。ついつい聞き入ってしまって。」
では改めて、を前置きをした店員さんは商売の話に入る。
「それでご用件は?武器の購入ですか?それとも手入れですか?」
「購入でお願いします。」
磯城が答える前にシャノアは澱みなくスラスラと答える。
「分かりました。それでは地下にどうぞ。」
「え?」
という訳で現在電燈照らす薄暗い石段を下りている。
地下は先程と打って変わり石造りの階段。
まるでダンジョンを探索する冒険者のような気分だった。
「うわ。広いなここ。」
思ったより長い階段を下り目に入ったのはコート1面分の広さの大きな部屋だった。
「それにしても……この広い部屋で何をするんですか?」
「武器の試すための場所なんですよ。あそこはお客様と応対する場所ですから。」
磯城は納得する。
さすがにあの店内で剣やら槍やらを振り回す気には到底なれない。
よく見れば部屋の奥にカカシが5体立っていた。間違いなく試し斬りをするための場所だろう。
「それで?どういったものが御所望ですか?」
「ええっと……じゃあ……銃とかあります?」
別に変な事を言ったつもりはなかった。鍛錬や技量が要求されそうな(素人的に)剣よりも特に技量がいらなさそうな(これまた素人目線)銃の方が上達しそうだと考えたからだ。
しかしそう言った瞬間。シャノアの顔を呆れた顔になった。
磯城はそんな空気に思わずたじろいだ。
「銃、って……あなた本気で言ってる?」
「え?銃ってそんなにだめなのか?」
素朴な質問に今度は店員さんが答える。
「そうですね……威力と速さは悪くないですけど本体の値段と弾の値段と装填速度の面ではよくはありませんね。それに……。」
「それに?」
「銃を使うくらいだったら魔法を使う。」
今度はシャノアが答えた。
「(確かにそうですね……。魔法の方が実用的かもしれません。)」
「(え?でも魔法が誰でも使える技術となってるけどまだまだ銃は現役だぞ?)」
「(坊ちゃま……。この世界がどれほど進んでいるかは知りませんが毎秒100発の機関銃や装填数30発の拳銃が主流の地球ほどではないのでしょう。それに魔法による戦闘行為が表向きでは禁止されている以上銃に頼るしかありませんからね。)」
「(そうかもしれないな。)」
魔法が銃に取って代わられている。その事実を聞いて磯城には納得できることが1つだけあった。
「《チョーカー》による各個人の監視と魔法の規制。」
当初は各方面から大反対を受けたと言われる世界規模の政策。
日本でもそれに反発して100日にわたってデモ隊が東京の国会議事堂を囲み、時の内閣を総辞職に追い込んだと聞く。そこまでしてでも実現させたかったこの政策。
「(なるほどね……その理由がコレか。)」
そして魔法。それは銃さえも不要になるほどの有用性と脅威。
《しらほし》、いや国連が恐れている未来を磯城は垣間見た気がした。
とはいえ。それは今は関係のない話。
ただ現状の結論だけを磯城は出した。
「そうか。銃は不人気なのか。」
「そう。だから取り扱っている店なんて早々ない。だよね?」
そんなシャノアの問いかけに店員さんは笑って答える。
「まあここには置いてありますけどね。」
『「「あるんかい。」」』
思わず2人して突っ込んだ。いやアガサも突っ込んだので3人か。
思わずは持った突っ込みは。相乗効果で部屋の中を突き抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます