第10話 不安
家に帰ってから、真知子は自分が少女のようにときめいているのがわかった。こんなに楽しい気分なのは何年ぶりだろう。繰り返される日常とちょっぴり違う今日が嬉しい。いつもの家事も、不愛想な息子も、夫との通り一遍な会話も、今日は何も気にならなかった。夕食の片付けも終えた頃、スマホのラインの着信音が鳴った。智からだろうか。急いでスマホを手に取る。良子からだった。
”今日、Aモールのスタバにいたでしょ?”
”息子クン、いい男になったね(^^)”
急に青ざめる真知子。見られていたんだ。良子に?良子に?
なんで、平日のあんな時間に良子がモールにいたんだろう。とりあえず返信しないと・・・。幸い小林智のことは息子の智と勘違いしているようだった。
居酒屋で小林智に会っているはずだが、気づいていない。遠くから見かけたんだろう。近くにいたら良子は声をかけてくるはずだ。
”え、いたの?どうしたの今日休み”
できるだけ、普通に聞こえるように言葉を選ぶ。
”実は娘が吐き下してるっていうから、ちょっと時間休もらって迎えに行ったんだ。”
”医者に行こうって言うのにいいっていうから、薬局で経口補水液買うため、モールに寄ったんだ”
”たいへんだったね”
”そうなんだよ、社会人になっても迎えだよ迎え!まったく最近の若い子はさ(怒りマーク)”
どうやら、良子は、自分が今日大変だったことを言いたかったらしい。良子は真知子がレストランのアルバイトをしてることを知っているし、息子が高校生になったことも知っている。だから、あの時間に真知子が息子とスタバにいても何も不思議には思わないはずだ。
”お大事に”
”うん、ありがとう。やっぱ、夏は気を付けないとだね~”
ひとしきりラインのトークを終えると、真知子は急に自分がやましいことをしているという不安に駆られた。
小林智と会って、どうしようというの?
真知子は智と不倫をするとかそんな考えはまるでなかった。ただ、会って、話して、それが楽しくて。ただ、新しい友人ができた。そんなつもりで会った・・・と自分に言い聞かせた。でも心の奥には、若い男の子に声をかけられて、これが恋に発展したらいい、という気持ちもあることは否めない。その証拠に今の良子からのラインを見た時 後ろめたいやましい感情があった。
いったい、何をしてるんだろう。真知子は我に返った気がした。そもそも、若い智がなんで、ちょっと見知っただけの私を誘うんだろう。なにか下心があるんじゃないか。それとも、詐欺?
来週の水曜日の事、あとで連絡をくれるといった。
急に、用ができたと言って断ろう。
真知子は、今日智にあった事実を洗い流すように、長々と湯船につかり、汗をかきながらベッドに入った。
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