第8話 着信
その日は、智から連絡が来ることはなかった。次の日も、次の日も。
ラインのIDを聞くことなんて、若い子の社交辞令なのかもしれない。
少女のようにちょっとうきうきした自分を恥ずかしいと思いながら、真知子の日常は続く。朝食を作り、夫の弁当と息子の昼食を作り、夫を送り出した後 洗濯物を保して 軽く掃除をして、出勤時間まで高校野球を見ながらコーヒーを飲んだ。
真知子は車で5分くらいの距離のレストランでアルバイトをしている。10時から14時までの4時間。マスターが夫婦で経営している小さな店で、智が小学生になったのを機に始めた仕事だ。当時は平日のみのアルバイトだったが今は土日も出勤する。小さな店なので、客が少ないときは、時間より早く仕事が終わりになる。マスターにいいように使われてるな、と思いながら、新しい仕事を探す気力もなくズルズルと続けている仕事だ。真知子のほかにもアルバイトが何人かいる。真知子のほかのアルバイト店員も客の入りによって仕事時間を減らされるが、急に仕事時間を増やされるよりはいい、って言う人もいるし学生アルバイトの人は試験だなんだと休むことも多いので、人員を多めに確保しているらしい。
真知子は厨房ではなくホールで働く。エプロンだけ店のものだが、あとは私服だ。
上は白、下は黒か紺に決まっている。真知子はいつもブラウスとスカートで働く。
常連さんの顔は、真知子も覚える。
でも、一度来た人の顔は覚えられるだろうか?いや3日以内に来れば覚えていられるかも。それを思うと小林智に、会ったのは偶然だけれど、覚えていたというのはそんな不思議なことでも何でもないのかもしれない。服が同じって言ったってそんな事。
運命を感じた、とはこういうことかも・・・などと思っていた真知子は子供みたいな自分に失笑する。
「お疲れさまでした」
仕事が終わり、暑い車に乗り込む。食料品を買いに行こうか・・。エンジンをかけ窓を開ける。エアコンの送風口から熱風が出てくる。一応ラインをチェックしよう。
すると1のサインが出ていた。開いてみるとサトルだった。
「来週の月曜また会いませんか」
急いで返信する。
「OKです。」
しばらく待っていたが、既読が付かないので、スマホをしまってハンドルを握った。
今日は、買い物に行くのはやめよう。
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