第7話 連絡を待って
真知子と夫の充の二人きりの夕食は、息子の智が高校入学してすぐに始めたバイトのせいで、ほとんど日常になっていた。中学時代は野球部に入ってそれなりに頑張っていたが、高校に入ってからは、科学部という名前ばかりの部活に籍を置ていた。バイトをすると決めていたみたいだった。
「今日も智はバイトか。」
「そうね、たまには一緒に夕食を食べたいものね。」
春から、なんども交わされてきた挨拶のような会話。
真知子と充はお互い空気のような存在だ。いや、充はどう思っているのかはわからないが、真知子は仮面夫婦だと思っている。
市役所に勤める充は、真面目で優しくて穏やかな性格で 真知子も充といると安心できて大好きだった。
智が生まれるまでは、真知子はまだ充を愛していた・・・と思う。
智が生まれた時、言われたことを、真知子は今でもはっきり覚えている。その時の感情も。今までの幸せがすべて崩れていく感覚。
今、思い返してみると、それは些細なことなのかもしれない。
でも、その時の感情は今でも 鮮明に思い出されて真知子の16年を灰色に染める。
充に対する思いが冷めていくと同時に、息子の智への思いは日々強くなり、もし智が死んでしまったら、という不安がどんどん大きくなって、一時期は片時も離れられなくなってしまった。
智に対して真知子は過干渉すぎたかもしれない。今智は真知子から逃れようと必死にもがいているのかもしれない。
食事が終わる。お茶を入れる。充がテレビをつける。真知子は片づけをする。いつもの夜。でも今夜はいつもと違う。
逃げようとする息子の智を追うように、今日会った智からのラインを待った。
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