第6話 帰宅
全く意外だった。まさかラインの交換をするとは。私はどうしちゃったんだろう。成り行きで、こんな・・・・。
夢のようなふわふわした気持ちとドキドキする気持ちが、とんでもないことをしたという気持ちより少し勝って、集中できないまま食料品を買って、集中しなければと言い聞かせて車を運転して自宅に帰った。
玄関扉を開けようとしたら鍵がかかっていた。
「あいつ、鍵も開けないで。」
夏休みなので、息子の智は家にいるはずだ。4時から近くのコンビニにバイトに行く予定。
リビングに息子はいない。ムッとする暑さの中窓を開ける。続いてキッチンの窓を開け買ってきた食材の袋を調理台に置く。シンクには智が食べ終えた朝食と昼食の皿が置きっぱなしになっている。食べかすが皿にへばりついて固まっている。
反抗期の智は、暴力を振るうことはないけど、真知子とはほとんど話さない。夏休みに入ってから智は、真知子が出かけてから起きてくる。帰宅するころにバイトに出かけるし、バイト先のコンビニで、弁当を買って夕食にして、帰宅後もさっさと風呂に入り自分の部屋に行くので、ほとんど顔を合わすこともない。
シンクに投げ出された皿を見ると憂鬱になる真知子だが、今日は違った。もう一人の智と楽しい時間を過ごせて、気持ちがうきうきしていた。
2階の部屋から、智が降りてくる。何も言わず玄関に向かう。真知子は急いでキッチンから出て智に声をかける。
「行ってらっしゃい、今日も夕食いらないんだよね?」
無言でドアが閉められた。
いつもなら、ため息の一つも出るところだが、今日は智が出ていくのを待っていた。スマホの電源を入れる。ラインが入ってるんじゃないかとちょっと期待したが、1の文字はなかった。トークを見る。サトルというカタカナ。アイコンは無し。さっき送りあった言葉。「こんにちは」「こんにちは」
「さっきは、楽しかったです。」
入力してみた。でも、送信はやめた。そして入力も消した。いくらなんでも自分から先に送信するのはやめよう。有頂天になってるおばさんほど恥ずかしいことはないから。
スマホを、キッチンに置き、真知子は夕食の支度を始めた。
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