第5話 コーヒーを飲みながら

同じくスタバへ行くことがわかって、そして同じテーブルの席に座ることになった。

確かに ここへきて別々の席というのも、おかしいだろう。そう判断した真知子だったが、コーヒーを受け取って席に着くまでにもいろいろ考えてしまう。

何を話せばいいんだろう。

歳だって、ずいぶん下だろうし・・・息子・・よりはずっと年上だろうし。

もし、誰か知り合いにあったらどうする?息子の友達って言う?いや、それは不自然だ。正直に居酒屋の店員だって言えばいいか?だめだめ。職場の同僚ってことにする?

席に着いて、沈黙になるのが嫌だった真知子は何か話さないと、と頭の中で話題を探った。しかし、そんな心配をよそに智が口を開いた。

「このあいだの」

ほっとした真知子はストローでコーヒーをすすり話を聞く体制に入った。

「このあいだの、名前の話、僕の言うことわかりました?・・・実は、えっとあなたたちの言うことよくわからなくて、マチコの一字とか、えっとあなたの一字を取ったんですか?」

「あ、違うんです。私と同じ名前の漫画家さんなんです。ややっこしかったですよね」

真知子は、もう少しわかりやすく説明する。

智はいくつなんだろう?

大学生のアルバイト?居酒屋のユニフォームではない智は高校生にも見える。誰かにあったら「息子です」って言っても、ばれないかも・・・。

「実は、おととい、はじめてホールに出たんですよ。ずっとキッチンだったけど、混んでたから、そろそろホールに出ろって。」

「アルバイトですか。」

「まあ、そうですね。アルバイトですね。社員じゃないから。でもフリーターって言ったほうが近いかな。」

「初めての接客なのに、息子さん、僕と同じ名前で。それでよく覚えてました。」

「あと」

智は話好きのようで、沈黙状態になることはなかった。真知子も話題を提供する心配がなくなり、会話を楽しむ余裕が出てきた。

「この前の服、母も持ってました。」

「ええっ、そうなの!?」

何年も前に通販で購入したワンピース、流行の服が着たいと思いながら、何年もずるずる着ている。大手の大衆的な通販会社から買ったので、世の中に同じ服を買った人は五万といるだろう。その一人が智の母だったとは。

「そう、おかあさんも、今もその服着る?」

ちょっとうれしくなった真知子が聞いた。

「母は、もう死んでいないんですよね」

しまった。せっかく楽しい気持ちだったのに、うかつなことを聞いてしまった。「持ってました」と過去形だったじゃないか。

「ごめんなさい」小さな声で謝った。

「いえ、生きていたら、きっと着てたと思いますよ。よく着てたって印象ありますから。」

あの服は買ってから、どれくらい経つんだっけ。5年、6年・・・10年?同じ服を持ってるってことは、最近亡くなられたんだろうか。

「息子さん、いくつですか?僕と同じ名前なんですよね?」

智が話題を変える。ほっとした。

「高1です。」

「あ、そんなに大きいんだ。まだ小学生くらいの子かと思った。」

それは、自分が若く見られてたってことなのかな。少しうれしくなって、また会話が弾んだ。

1時間くらい経っただろうか。お互い2杯目のコーヒーも飲み終えた。

束の間の楽しい時間。

「それじゃあ、私はそろそろこれで。今日は、偶然会えて楽しかったです。」

初対面に近い相手と話すのは、このくらいの時間が適切だろう。きりあげて帰らないと、と思う真知子に智も同意した。

「そうですね。まさか、店のお客さんと店以外で、話すなんて。」

そして思いがけない一言が。

「あの、ラインID聞いてもいいですか。」

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