第3話 出会い
三回目の注文した品を、智が運んでくる。
「ねえ、ドカベンって漫画知ってる?」
良子が智に話しかける。
カウンターの中は3人の人がいるが、目当ての小林クンは真知子たちのカウンターから離れたところにいる。この席の担当は、目の前にいる恰幅のいいおじさんらしい。
小林クンと話せない良子は、もう一人の小林クンに話しかける。
「知らないです。」薄く笑いながら智が答える。笑うと少し歯茎が見える。
「知ってるわけないよ。私だってリアルタイム読んでた訳じゃないんだから。」
お酒も少し入り、真知子も口が軽くなる。
良子と違って、そんなに社交的ではない。楽しい雰囲気と息子と同じ名前の店員さんに気が緩む。
「その、ドカベンに里中智ってピッチャーが出てくるのよ。この人、里中智のファンでさ、息子の名前まで智にしたんだよ~」良子が言う。
そう
表向きはそういうことになってる。
「そうなんですか」
智が静かに話し出す。
「僕は、母親から一字貰ったんです。母親が佐智子で、チの字がサトル。」
「え、そうなの!里中智も、一字貰ってるんですよ。ドカベンの作者さんが尊敬する漫画家の里中満智子さんのマチコのチ」
空中に指で漢字を書きながら、真知子は興奮して声が大きくなったことを少し恥ずかしく思った。
「真知子もマチコだしね。字は違うけど。それで里中智が好きなの?この人真知子っていうのよ。里中満智子と一緒。智君のお母さん、サチコさん?サチコとマチコ、似てるね。
小林クンのお母さん、サチコさんも、ドカベン好きだったんじゃない?それで一字とって、可愛い息子にサトルと名付けたとか」
楽しそうに、良子が言う。
智もちょっと楽しそうに笑った。
よくある、普通の顔。イケメン…ではないけど、ブサイクではない。奥二重で少し切れ長の目。ちょっぴり丸い鼻。薄くて形のいい唇は笑うと少し歯茎が見える。それが少し可愛いかも・・・。
智の顔を見ていた真知子は、目が合って少しドキッとした。
「ふふっ。コバヤシ サチコですよ」
「あー!そうだね!あはは」
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