第2話 居酒屋にて

 真知子は友人の良子と、居酒屋に来ていた。良子は小さな会社の事務員でフルタイムで働いているバツイチの2児の母。結婚が早かったので2人の子供はもう社会人だ。夜出かけるとき、真知子のように家族の夕飯を作ってから家を出るということもない。子供は2人とも一緒に住んでるが、夫がいないというのは気楽かもしれない。

 にぎやかな店は、混んでいて二人連れはカウンターに通された。良子は何回かこの店に来ているようだが、真知子は初めてだった。こぎれいなサマーセーターとパンツの良子は、真知子から見たらあか抜けて見える。真知子が着ている紺と白のなぐり書きのようなワンピースは何年も前に通販のバーゲンで買ったものだった。気に入っているが、流行には程遠いように思う。

「ほら、あの子ちょっとイケメンじゃない」

ビールを飲みながら、良子がカウンターの中の店員をみて言う。カウンターの中は刺身を切ったり飲み物を作るところらしい。二人は生ものは食べないので飲み物だけがカウンターからやってくる。

「あの子、小林クンていうの。名札、みて。裕って小さく書いてあるでしょ。もう1人小林がいるからだよ、きっと。ほら、他の人は名字だけだもん。ゆう・・・き。かなあ。ゆう・・・すけかなあ。みんな小林さんって名字で呼ぶからね。名前知りたいなあ。」

良子のお気に入りの店員さんらしい。

注文していた料理が一気にやってくる。げそ揚げ、焼き鳥、枝豆、豆腐ステーキ。こういう料理は奥の別のキッチンから運ばれてくる。狭いカウンターにのりきらない。

メニューとお通しの小皿を脇にどけ、残っていたビールを飲みほしてジョッキをカウンターに戻しながら、良子が空間を作る。それでもなかなかうまう皿がのらず、店員さんが苦戦する。

「すみません」

「大丈夫だよ~」

皿を受け取りながら

「あれ、もう1人の小林クンだ」

みると、名札には小林智と書いてある。

「え」

息子と同じ字だ。真知子はかすかに反応する。

「小林クン何て名前なの」良子が聞く。

「あ、僕ですか。サトルです。コバヤシ サトル」

「うちの子と同じです。うちの子もサトルっていうんです。字も一緒」

思わず、声が出る真知子。

「珍しいですよね。サトルって。だいたいサトシじゃないですか?」

「そうですね。必ずサトシって言われます。今、店でもサトシって呼ばれますから」

店員は軽く笑顔を見せながら、ぶっきらぼうに答えた。新人アルバイトなのか。一度にこんなに沢山の料理を持ってくるのも、慣れていないからかもしれない。

「ねえ、あのカウンターの中の小林クンは何て名前なの。」

「あ、コバヤシ ユウスケさんです」

「そっか、ありがと~」

カウンターの中のイケメン小林クンの名前を聞き出せて、良子が笑顔になった。

コバヤシユウスケさんは、先輩なんだろう。コバヤシさんって呼ばれて、新人のコバヤシサトル君は名前で呼ばれてるんだ。

「サトル」って。














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