第16話 食事
ログハウスふうの小さなレストランは、海のすぐそばに建っていた。少し崖のようになっている。見下ろすと短い砂浜が見える。海水浴場に来た人が寄るのか、真知子たちのように、海へのドライブに来た人が寄るのか、満席だった。
入り口で、順番待ちの名前を記入する。智が自分の名前を書いて「カウンター可」に丸を付けた。待つ人のための椅子に座る。二組待っていた。一組は若いカップル。もう一組は中年のカップルだ。自分たちはどう見えているのだろう。やっぱり親子に見えるのか。真知子は知ってる人に会わないように少しドキドキしながら待っていた。
「パスタは好き?」智が聞く。この前までは少し敬語だった智が、くだけた感じで話してくれるのが、真知子は嬉しかった。
呼ばれたのは、カウンター席だった。カウンターは隣に知らない人が座るので、二人きりという感じがしない。真知子はボックス席で二人の世界に入りたいと思っていたので、少し残念に思った。
二人はそれぞれパスタを注文する。真知子は茄子とトマトのパスタを注文し、智はトマトと生ハムの冷製パスタを頼んだ。
「旬のトマトは最高っすよね。」
「トマト好きなの?」
「野菜の中で一番好きかも。」
智の薄い唇が大きく開いて、トマトを吸い込んでいく。
「うまい」きちんと飲み込んでから、声を出す。奥二重の切れ長の目、ちょっと丸い鼻。きめ細かくて白い肌。あまり日焼けはしていない。白い肌にもみあげがちょっとセクシーかも・・。カウンター席、隣に座るから、智が近い。
「そっちは、おいしい?」
「ええ、おいしいよ。私もトマト好きだし。茄子もね。」
「一口、ちょうだい?」
「どうぞ」
まさか、と思いながら、驚いた様子を見せないように返事をした真知子だが、内心は戸惑いとときめきが入り混じった気持ちだった。
相手の食べ物を、分けてもらうなんて、まるで恋人同士のようではないか。恋人までいかなくても、かなり親しい間柄でなければこんなことはしない。すくなくとも真知子はそうだ。
「うん、こっちもうまい」
口角をあげ、微笑む智。真知子は少し見とれていたかもしれない。
一瞬、恋人同士のような錯覚。
いや、いいじゃない、今は・・・。智は自分に母を観ているかもしれないけど、今は、ちょっとなら恋人気分でもいいかも。
夏だもの。
真知子は否定的な自分を押し込めて、今日のデートを楽しもうと思った。
きっと、これが、最初で最後のデート。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます