第15話 智の告白
「母親は、看護婦だったんだけど、あ、俺父親いないんですよね。離婚とか死んだとかじゃなく、いや、そうなのかもしれないけど、父親のことは全く知らないんですよ。最初からいなかった。で、母親が夜勤の時なんか、一人で家にいるんですよ。もうずっと。たぶん俺が0歳の時からそうなんじゃない?それが日常だったから。そんな母親になつくわけないじゃないですか、
でも、たまに出かけるときはこの水族館。祖父母の家・・母親の実家ってこの近くなんで。今通ってきたI峠の近くですよ。あ、でも祖父母の家がこの辺なんて、母親が死んでから知ったんですけどね。」
屋上の手すりの向こうには、青い海が見える。ペンギン水槽の向かい側の手すりから海を見ながら智が話す。
「お母さん、いつ亡くなったの?」
きっと、いろいろ聞いて欲しいのではないかと思い、真知子は思い切って訊ねてみた。
「高3の夏かな。ガンでね。」
「おお!船が見える!!」
智が話題を変えた。智は20歳は超えてるといった。高3といえば2年前?3年前?4年前?まだ最近の話なのだ。
母親のことは嫌いといった智。でも本当は大好きで、寂しくて、もっと自分を見てほしかったのではないだろうか。
私を誘ったのは、母親のようだったから・・・真知子は確信した。そうでなければ、自分のようなただのおばさんが、誘われるわけはない。
若い子に誘われて、ときめいていた自分を、我に返らせるように真知子は聞いた。
「私、お母さんに似てる?」
智は少し間をおいて答えた。
「・・・似てないです。」
そして、にっこり笑って続けた。
「ワンピース、あの飲みに来た時のワンピース。あれと同じのうちの母親も持ってたんです。似てたのは、それだけ。真知子さんは母親とは似てないです。母親はもっと、急いでた。シャキシャキとね。真知子さんはおっとりしてる。姿も似てないし、何より、気が合うと思いません?俺たち?真知子さん話しやすいです。俺、母親は嫌いだったけど真知子さんのことは好きですよ。」
真知子は、慌てた。化粧をしていなければ、真っ赤になった顔がそこにあっただろう。
「真知子さん」と下の名前で呼ばれた。しかも「気が合う」と言ってくれた。「好き」と言ってくれたそして「俺たち」と言った。
なぜわかったんだろう。真知子も小林智とは気が合うと思った。話しやすかった。楽しかった。そんな気持ちを見透かされたことが気が合うという事なのだ。
「そろそろ、ご飯行きません?ちょっと行くとパスタやさんがあるんで」
真知子はドキドキした気持ちでフワフワした足取りで、智とともに水族館を後にした。
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