第14話 水族館

T水族館は全体的に明るい印象だ。水槽が少ないせいもあるかもしれない。窓口で入場券を買って入るとそこにはすぐ大水槽が見える。入場券を買ってくれたのは智だ。餌付けショーの時間ではないので人はほとんどいない。そもそも小さなこの水族館は普段もあまり人がいないのだ。N水族館ができてからは「水族館」といえばN水族館だ。しかも夏はみんな海水浴場のほうに足を向ける。

「おお~魚、泳いでる」

智は嬉しそうに水槽を見つめる。子供みたい。

真知子は智が、本当に自分の息子のように錯覚した。

大水槽を過ぎると窓がたくさんあるホールにでる。椅子や自販機が置いてある。そしてその奥に小さな水槽がいくつかある部屋があった。

「この魚面白い。」

「おお~蛸だ。」

「きれいな色じゃないですか。」

笑顔の智を見ると、真知子も嬉しくなった。水槽の部屋から、二階に上がる階段が付いている。二階は売店と生き物ふれあいコーナーがあって、ヒトデなど触れるようになっていて、何組かの親子連れがいた。

そこから、外に出る。屋上だ。そこはペンギンのスペースになっていた.

海からの風がここちいい。

真知子は、昔 夫と息子と3人でここに来たことを思い出していた。息子の智を海水浴に連れてきたことは1度もない。その代り、水族館には何回か来ていた。ここのT水族館も来たことがある。あの頃はまだN水族館ができていなくて、もっと人が大勢来ていた。でも、この屋上のペンギンスペースはその時もあまり人がいなかった。

真知子が昔を思い出していると、智が言った。

「昔、母親とここによく来ていたんですよ。この屋上好きだったなあ。」

「俺、昔から、母親の事・・・嫌いで・・・。でもこの水族館に連れてきてくれる時は好きだった・・かな。」

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