#10 after the rain

 嶺月さんが稜家さんとともに僕らの前から姿を消してから、早いものでもう半年が過ぎようとしていた。

 あれから組織に戻れる筈もない僕───仙堂巧真は、椎名さんたちの施設で新しい人生を踏み出し、今では互いに敬語も使わないような間柄になっている。こうして付き合ってみると嶺月さんが何故あそこまで彼らのことを大切に思っていたのか、今更だけど分かったような気がした。

 そしてその組織のことだけど、聞いた話によると全員が全員、建物の中で何故か殺されていたとのことだった。多分、稜家さんが僕に戻ってくるなといったのは『そういう』理由からだったのだろう。そう思うと少し、あの人のことを『人間らしい』なって認めることができた。

 ────で、それから稜家さんの話はまったくといって良い程聞かなくなっていた。もちろん、だからといって世の中の治安がいきなり良くなるということもなく、相変わらず僕らの生活も日々色々と大変なものだった。そう考えると稜家さんの存在だけが何も『悪』だった訳じゃなかったのかも知れない。

 嶺月さんは─────…嶺月さんは今も元気にしているんだろうか。

 いや、あの人の傍にいられればきっと元気で、尚且つ幸せにしてるに違いない。僕も祐ちゃんもシゲも、嶺月さんのことを思い出すと未だに胸が痛むけど、それでもやっぱり貴方自身が幸せならそれで良いと思えてしまうから不思議だった。

 いつか、いつかまた今度は『友達』として貴方に逢える日を僕は、すごく楽しみにしています。

「おーい、巧ちゃん!そろそろ交代の時間だぞーっ!」

 ふいに聞こえてきたその声に後ろを振り向いてみると茂野が手を振っており、仙堂は一度、大きく伸びをしてみせる。

 ─────どこまでも続く青空。それはきっと、彼の目にもしかと映っている筈だ。

「おーっ!、今行くよーっ!!」



 空ときみの間にはもう、冷たい雨が降ることもない───────。


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