第6話

「ハァ、ハァ……。で、急にどうした?」

「ハッ、ハッ、フーッ! や、なんか、会いたくなって……」

「フン、気持ちが悪いな」


 日曜日。

 俺は柄にもなくランニングに励んでいる。

 日曜日も本来は練習のはずだったが、今日は天さんがパーティということで中止だ。御曹司も大変である。


 そして、目の前にいる、俺のことを気持ちが悪いと表現した、厳格で融通の効かないこの男。


 名前を三井イツミという。

 上から読んでも下から読んでも同じだ。

 話し始めに吐き捨てるようにして『フン』と付けるのが口癖。

 たぶん潜在的に他人を馬鹿にしているのだろうと分析する。あまりに公平。


 イツミと俺。

 関係性を言うならば、それはまさに盟友だ。

 共に目標を目指し精進し合ったあの日々を俺は忘れない。

 そう、イツミは同じテニス部だったのだ。


 あの全国優勝は、あの最高のメンバーだからこそ果たせたものだと思っている。

 そのメンバーの中でもイツミは一番近くに、横にいてくれた存在だ。

 だから、報告せねばなるまい。


「しかし、アレだな。お前から誘われるとはな。意外だ。

 お前の場合、高校行ってすぐに中学の友達と会うと、高校で上手くいってないのではと見透かされそうで怖い、とかいうワケわからん言い分で俺のような中学時代の人間とは遊ばないと考えていたのだがな。随分と腑抜けたな」


 コイツの中の俺はどんな人間なんだ。まあ、概ね合ってるけど。

 しかし、ランニング中によくしゃべるな。


「フン、それともなんだ? そんなプライドを捨ててまで俺に泣きつきたいほどヤバイ状況なのか?

 もう便所飯か? 迷惑だからヤメロよ」


 憐れむ表情。

 さて、どこから話そうか。


「俺は孤独なんぞ苦とも恥とも思わん。

 そんなのを気にするのはは既存の価値観に囚われた愚かな人間共だけだ。ただ弁当は食べずに親に突き返してる」


「メチャメチャ囚われてんじゃねえか」


 違うんだなぁ。イツミ君。僕ほどになると蛭女が勝手に作ってくれるんだよ。


 しかし、今これを言うと、『じゃあ、さっさと付き合えよ』とコイツは言うだろう。だから言わない。

 そういうんじゃないからだ。なんか背中を押されたくない。


「お前はどうよ?」


 聞き返してみる。自然な流れ。自然な会話の流れ。

 さて、本題へと向かっていけるだろうか。


「ハァ……、フン、俺はネームバリューがやっぱりあるからな。デカイ面してるよ。心地は悪くない」

「ハッ、フッー! そうか……。この黄猩高校でもか。さすがの全国優勝ブランドだな」


 黄猩高校。

 昨年度インターハイの優勝校。


 文武両道、あらゆる面に力を入れている。それも異常に。

 たいていの分野の『日本代表』に出身高校を聞いてみると、だいたいココと答える。

 日本の為に日本代表たりえる人材を育て、多くの日本代表を輩出している。在学中に日本代表になることもある。


 この高校の活躍から、日本代表のレベルは確実にあがっている。

 この春から、そんな学校にイツミは通っている。

 中学での全国優勝を果たし、更なる高みを目指していたのと、単純に特待生のオファーが来ていたのが理由だ。自然な流れだった。

 俺だって、あのままなら、本来なら……。

 いや、止めよう。ここは素直に友の進む道を応援しなければならない。そう決めたのだ。


 ちなみに、全国大会とは無縁な学校に行くと、中学時代に全国制覇したと言っても信じてもらえない。

 名前と出身校だけでアッサリと信用される黄猩高校は、さすがは強豪校と言ったところか。

 その強豪校、当然、練習も厳しく、日曜休みなんてのはない。


「おい……、誰だコイツ」

「イツミ君と仲いいのかな?」

「絶対ウチの生徒じゃないよな……」

「なんでこんな平気な顔してんだ……」

「てか、なんかオレらを舐めてね?」

「取り敢えず監督に連絡した方が……」


 だから今日は、外廻りのランニング中にイツミと接触した。


「アレ? 凄嵯乃王じゃね? ホラ、“キング”だよ!」


 “キング”というのは俺の二つ名だ。

 中学時代にはそう呼ばれていた。


「ああ、“キング”か! こんな近くで初めて見た!」

「えっ? マジで!? あー、そういうこと? だからイツミ君と仲良くしてるわけ!?」


 さっきからヒソヒソと俺のことを話している人間たちも、俺の顔とイツミとの様子から正体に気づいたらしい。

 直接戦ったことのある奴がいるかは分からないが、まあ気づくもんなのだろう。


「なんでココにいるんだ? アイツもう辞めたんだろ!?」

「未練でもあんのかね」

「まあ、どんなけ才能あって、最初が強くったって、最後勝てなきゃ意味ないわなー!

 小学校より中学校! 中学より高校! そしてプロ! 努力した正義が最後に必ず勝つ! ひゃひゃひゃ!」


 ――!!

 なんてね。

 今更、傷つきやしねえよ。一面的にしか物事を見れない奴に何を言われても、何も感じることはない。


「オイ! オマエラァッ!」


 イツミの発した突然の怒号に、雑魚キャラの如く散り散りと逃げていく。


「いや、いいっての」


 俺が怒らないことに痺れを切らしたのか、イツミがキレた。いい奴だ。

 昨日の先輩を思い出す。


「……だがな、今のはいかんぞ。お前がどういう事情で辞めたのか知らないとは言わせない」

「そういう……、ハッ、フーッ! もんかね」


 いかん、走りながら話すことに疲れてきた。

 走りながら打つというスポーツをやっている身としては、結構得意な技術だったのだが、仕方がない。

 少し鈍っているようだ。まさか、こんなところで課題が見つかるとは。

 しかし、そこはイツミに悟られたくない。同情されたくない。

 少し会話の密度を上げよう。


「まぁ~、でも久しぶりにキングとか聞いたわ。俺の高校じゃ絶対にないしね」

「お前の学校……。黒蹄学園か。確かテニス部がないんだったよな。

 未練を完全に断つ……。フン、こんな思いをするよか大分マシってもんだな」


 きた。


「いや、あるんだよ。出来たんだよ。テニス部。このタイミングで」


 言った。


「……」


「で、入ったんだよ」


 言ってやった。


「そうか」


 そんなけ。まあ、何言えばいいか迷ってる感じか。


「俺と勝負してみるか?」


 勝てるわけないけど、敢えて俺は言う。おどけて。


「ハァ……、フウ……、……断る。興味がない。というか、右腕は治ったのか?」


「左手で戦う。まあ、まだ糞ボールしか打てないんだけど、まあいつかは……。それに戦い方はいくらでもある」


「そうか。大変な決断をしたのだな。フン、だが貴様とは戦わんぞ。

 面倒だからではない。貴様の全力を知っている俺にとって、全力でない貴様など興が冷めるというものだ。

 中学時代の全力以上を感じさせてくれるという期待もできないしな」


 そうだった。コイツはこういう奴だった。

 知ってたけど、この反応を目の当たりにすると、やはり淋しいものだ。まあ、だから微妙に話すの悩んだんだけど。


「だが、友として、素直に喜んでおこう。今は戦わないが、俺の前に立ちはだかるならば全力で相手をしてやる」


 そう言ったイツミの顔は凛々しくて本気だった。


「応援はする。だが、手助けはしない。かと言って、今の貴様を互いに高め合うライバルと認めて戦う、ということもしない。

 俺が頂点を極めて欲しいのは希杖さんだ。これは中学時代に貴様へ抱いた感情以上だ」


「えーと、希杖さんて……?」

「我が部の主将だ。“正義”の希杖実……知らないのか?」


 イツミは吐き捨てるように言った。

 この“正義”というのは俺でいう“キング”ってやつだ。二つ名。

 しかし“正義”とはまた大それた二つ名だ。


「……あんまり、高校テニス部の情勢には詳しくないからな。まあ、でも言われてみれば……って感じだな。知ってる気がする」


 まあ、二年上にいた他校の強い先輩って感じで。


「そうか。すまん、配慮が足りなかったな。いや、中学でも有名だったろう。

 他人の顔を覚えるのは苦手だったか? ……でも、希杖さんは覚えておいたほうがいい。

 とにかくあの人は凄い。貴様以上に。あの人こそが頂点に立つべき人間なのだと俺は考える」


 元から配慮などするつもりはないくせに。

 そしてどうやら、その希杖とやらに、イツミはすっかり心酔しきっているようだった。

 大切な友人であるし、悪い奴ではないから、あんまり思いたくないのだが、少し依存性質がある。

 子分性質とか永遠の二番手根性とも呼べるものが染み付いているというか。


「俺が直接手助けをしたい。その為にも今月中にはレギュラーになるつもりだ」


 黄猩の一年レギュラー。二番手根性なりの野心だ。


『人を見下している』と言っても、コイツの場合は相手を自分より下に見ているというわけではない。相手のことを『あの方よりも下』かどうかで見下すのだ。


 まあ、クズなのだ。コイツも。敵にふさわしい。


「で、そんな凄い希杖実の率いる黄猩高校テニス部はどんな感じですかぁ? 今年も優勝ぐらいはできそうですか?」


 なんか腹たったので敬語でイヤミっぽく話してみる。横目でしかイツミを見ない。

 まあ、これはランニング中でめんどくさいから、っていうのもあるのだが。


 そんな俺の態度を気にも止めず、――コレは普段から周囲の人間が敬語を使ってくるのが原因――ただ簡単な事実を述べるように話す。


「現状は一強ってとこだ」


 おいおい。俺の時にもここまでハッキリ一強と思えたことはなかったぞ。


「というのも、肩を並べる実力の持ち主が……、霧島金雄さんが……、知ってるか?」

「ちょっとわからんな」

「ニュースを観ろよ」


 なんか、目をつむって、わざとらしく俺に呆れている。


「ニュースなんか観ん! 情報そのものも『はぁ?』ってなるのバッカだし、情報の分析にも『はぁ?』ってなるのバッカだし、それ見たウチの親共が『なるほどねぇ~』って言ってるのを見て余計に『はぁ?』ってなるだけだしな!」


 マスコミ不信!

 イツミに呆れられたから、苦し紛れに言った言葉が、この堂々としたマスコミ不信の告白!


「だとしたら観るべきだ。

 いいか? ニュースというのは世の中の認識を確認するためにの装置だ。

 情報の獲得は他でいい。だが、多くの層が観るニュースはそれだけが情報源という人も多い。

 そしてそれを間に受ける人も多い。情報の分析までそれに納得する人も多い。

 言うなれば貴様がさっき言った貴様の親のような人たちだ。ニュースを観ることで、そいう人たちが世の中にどれだけいてどういう情報と価値観を持っているかを間接的に知ることが出来る。

 そういうことが観察できて始めて大衆を利用できるのだよ。フン、何事も使い様ということだ」

「ハイハイ、わかったよ」


 仕方ないじゃないか。

 見たくない物からは目を背けたくなるのは自然な感情だろ。

 それとも、それこそが『弱い心』だと言うのだろうか。


「で、その霧斬がどうしたって?」


 話を戻す。


「プロになったんだよ」

「……プロ?」


 プロか。

 プロってどこ行ったらなれるんだ? なんていう、どうでもいい感想が最初に頭をつついた。

 たぶん、それほどまでに遠い出来事である気がするからだ。


「ああ、“連続同時多発超能力殺人犯”霧島金雄はプロになった」


 と、イツミの口から聞いて、俺は、この霧島という人は高校に行ってからうまくなったんだな、と思った。

 というのも、この、誰が呼び出したかわからない二つ名は、具体性を帯びれば帯びるほど、あんまり強くなくなっていく。

 逆に、“キング”だとか“神”だとか“正義”のような抽象的になればなるほど強い。

 これは多分、強い順に考えているからだ。で、だんだんとネタが無くなってきて説明的で具体的な二つ名が付けられてくる。


 この霧島という人も、中学の時にちょっとだけ目立って、でもちょっとだけだから結局後回しの具体的な二つ名を付けられたんだろう。

 “連続同時多発超能力殺人犯”などという妙に具体的な二つ名。

 そんな人が高校三年までの間に二強とされる、つまり“正義”と肩を並べるところまで登り詰めたのだ。

 きっと並々ならぬ努力があったに違いない。


 胸糞悪い。


「そんなこともあって、現状は一強というわけだ。それは希杖さんという一人の人間としてだけではない。

 この黄猩という組織においても同じだ」

「随分と大きく出たな。別に昨年度優勝、っても楽勝だったわけじゃないだろ?

 どんな強豪でも高校テニスで二年連続ってのは殆どないし……」

「フン、俺から見た客観的事実を述べただけだ。それに俺は『現状』という言葉を使ってまで謙遜している」

「現状……」


 俺は思わずつぶやく。

『現状』という言葉が俺には、『何のトラブルもなければ』という意味で考えていた。そう、自信の表れ以外の何物でもないと受け取ってしまった。


 しかし違う。勘違いだった。

 この勘違いは右腕を負傷して卑屈になっている俺特有の勘違い。


 実際は……、


「高校生というのは急成長する……、まあ、才能が爆発する時期なのだ」


 イツミが言った。そういうことだ。


「まあ、高校生の才能が爆発することは、どの分野にもあることだが、テニスは特に酷いぞ。

 これは『競技性』というより『ゲーム性』の高いスポーツだからなのだがな、本当に、急に上手くなる奴が多いのだ。

 先輩たちを見ても思う」

「……」

「俺たちが、かつて軽く足らってきた者たち、彼らも、どんどん強くなるだろう」


 くやしいなあ。

 そしてコイツは本当に配慮しないな。


「つまり何が起こるかわからない、そんな世界にいるわけだ。『現状一強』こんな心細い言葉はないぞ。

 『昨年度優勝』と同じくらいにな」

「お前的に手強そうな学校とか選手っているの?」

「そうだな。これからそんな高校テニス界に突撃する貴様にも、有望で脅威的な選手の紹介ぐらいはしてやろうか。

 海外から誘致された“ブラックラグーン”、驚異的な瞬足を持つ“光”、多彩な技を持つ“一式陸攻”……この県内だけでも挙げたらキリがないな。そして昨年度中学生の部団体戦準優勝・個人戦優勝者“神”五宮愛仁。

 王道の“キング”と並んだ奴も黄猩入りはしていない、強大なライバルだ。

 どうだ? 心躍らんか? もちろん二つ名つきでなくても強い選手は大勢いる」

「歯痒いだけだな」

「それでいいさ。何の感想を持たんよりマシだ」

「あとは、まあ、安心したよ。ウチの無名な先輩たちも、ひょっとしたら頼りになるかもしれない」


 高校デビュー組の邪先輩だって、才能が爆発してるかもしれない。

 元々運動神経は良さそうだし……。集中力とか成功のニオイは無縁っぽいけど。


「さて、と……。そろそろランニングも終わる頃だ。俺は練習に戻る」

「嫌味か!」


 俺は叫んだ。


「え……?」


 イツミが人間らしく怯む。どうやらそんなつもりはなかったらしい。

 すんませんね。卑屈で。


「ま、まあアレだ。俺のリアクションが薄いから実感がまだ少ないかもしれないが、やはり貴様のその決断は立派なことだと思う。

 単純に、かつての盟友が再び歩みだしたというのは嬉しいことだ。

 この俺にとって喜ばしいということは、立派なことであるということだ」


 イツミはリアクションが下手だからな……。てか、なんだ、その三段論法。


「おう、俺もお前に話せて良かったよ。高校テニスの状況も聞けたしな。さて、俺も、もっともっと頑張らねえと!」


 頑張らなければいけない理由が増えた気がする。


「自然な会話の流れを以てしないと言いづらいのであれば、当時のメンバーには俺が言いふらしといてやろう。

 先生も含めて。皆、立ちどころに喜ぶぞ」


 先生か……。


「先生はアレから何か言ってたか?」


 コイツの言う先生とは、もちろん中学時代の恩師のことだ。

 俺たちを全国優勝まで導いてくれた優秀な指導者だった。

 引退してからというものの、面と向かった対話はしていない。イツミとは今でも交流があるようだが。


「ゴール近い。歩くぞ」


 ランニング後は歩いて体を整える。コレ、スポーツマンの鉄則。

 すると春の暑さを実感した。風を切って走っていたのだ。


「まあ、こっそりと後悔はしてたよ。貴様に怪我をさせたことについてな。貴様の才能に頼りすぎてしまったと仰ってらした」

「やっぱりね」


 照れ隠しに舌を出す。

 そして先生の分析としては、俺が才能に頼りすぎたプレイをしていたらしい。

 そういう自覚はなかったが、才能を正義と考えている俺ならばありえるのかもしれない。


「部の顧問も辞めるつもりでいたらしい。まあ、其の辺は適当に言いくるめて続けさせてるが」


 衝撃の事実。そこまで先生は思い詰めていたのか。

 そしてその事実を今まで知らなかった俺っていったい何なんだろう。

 昔から面倒事には呼ばれないことが多いが、そこは声を掛けてくれ。


「先生も無駄に気にしすぎだな……。だって何にも悪くないじゃん!

 才能に頼りすぎた戦い方をしたのは俺だし、体の不調を訴えずに無理して騙し騙し試合をしてたのも俺なんだぜ?」

「頭では知ってるだろう。でも、そういう事じゃあない。そんな正論が通じる次元ではないのさ」


 イツミがやっぱり呼ばなくて良かったとでも言うように続ける。


「まあ、先生の後悔を参考に、才能に頼らないプレイでも身に付けようかね」


 さっき、才能の爆発がどうとかいう会話をしていたので何だか変な感じではあるが。


「なんか、頑張る理由がどんどん増えてくな、俺」

「フン、動機なんてのは後付けでいいのだよ。何も考えずに感情の赴くままに動いて、後から納得の理由を付けるのも大事なことだ

「お前のイメージとは違うな。そんなことも言うんだな」


 少なくとも中学までのイツミだったら、そんなことは言わない。


「いや、感情論は嫌いだよ。

 でも感情そのものはその人の本質への近道だ。もう、スタートしてしまった俺たちには、近道が必要ってことさ」


 そういうイツミに、俺はなんだか優しさを感じた。コイツも成長しているのだ。


「さて、せっかく来たんだ。練習でも見ていくか?」


 黄猩の練習といえども、非公開というわけではないらしい。


「うーん、でもいいよ。お前らに勝つよりも、マズは上手くなりたいし」


「そうか。助かった。黄猩の練習は非公開だから無理だったのでな、どう断ろうか悩んでいたところだ。

 しかし、貴様、やるべきことがわかってきたようだな。嬉しいぞ」


 ホントに変わったなコイツは。


「じゃあ、帰る」

「おう、厳しい時代と状況だが、頑張れよ」

「お前も、黄猩レギュラー、頑張れよ」

「ウィ」

「ウィ」


 俺とイツミは、拳をぶつけあういつものやり取りをして別れた。

 その後、俺は女子テニス部の練習を眺めた。

 眺めた、なんてもんじゃない。焼き付けた、と言ったほうが正しい程に凝視した。勉強になった。


「蛭女も、マネージャーじゃなくて女テニの方を作ってくれねえかな」


 そんな一言を残して黄猩を去った。


 日常は続く。

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