第一話 おんなじ

「みゆー、いつまで顔覗き込んでるの? なんぼ見たってニキビが減るわけでも、体重が減るわけでもないんだから、いい加減にしなさいっ!」

「ちょっとぉ! お母さん、その言い方ひどくない?」

「けっけっけ。言われたくなかったら、少しは早起きしてわたしを手伝うことねー。寄生虫のみゆー」


 ぐむむー。お財布を握られている限り、わたしは絶対お母さんには歯が立たない。


「あーあ、うちの高校がバイト可だったらなー」


 ぺん! 後頭部を兄貴にひっ叩かれる。


「なにすんのさー!」

「おまいなー。どんなバイトにしたって楽なもんはないぞ。約束の時間は守れんわ、根性はないわ、礼儀は知らないわのおまいに出来るバイトなんか、この世の中に一つたりともあるもんかぃ」

「っつあーっ! クソ兄貴っ!」

「うけけっ。悔しかったらカレシの一人でも作るんですな。もっともおまいの寝相見たら、百万年の恋も冷めるでしょうけどねぃ」


 ぐぎぎ……。


しん! バイトからいきなりカレシの話にトバさないでよ。キれたみゆがパンツを変な店に売りにいったら敵わないわ」

「こいつのパンツを誰が買うかよ」

「んなもん、パンツだけになったら分かんないじゃない。わたしのが混じってても平気ねー」

「げげーっ!」


 とほほぉ。朝っぱらから親子でする会話かよ。学校行く前からぐったり疲れるわ。のたのたとダイニングの椅子に座って、かっさかさのパンをかじる。


「お母はん、たまにゃあコメのメシが食いたひ」

「あんたの口の利き方が直ったらね。一応女の子なんだからさ。諦めるでない。はい、やり直しっ」


 ちっきしょー! 一応かよっ!


「お母さま、たまには白いご飯を食べとうございます」

「やりゃあ出来るじゃないの。明日までわたしが覚えてたら、和食にしちゃる」


 期待薄。んで、これ以上突っ込むと、そんならあんたが作りなさいよと来るんだな、これが。いけね。のんびりしてると、また突っ込まれる。お母さんとアニキのツープラトンはキツい。


「行ってきまーす!」


 鞄とタイを引っつかんで、玄関の扉を思い切り開ける。

 どがあん!


「みゆーっ!」


 あーあ、またプランターに扉をぶつけちった。お母さんの和食は当分なしだにゃあ。ちっ。


◇ ◇ ◇


 バス停でタイを結びながら、天敵の生野いくのあずさが来るのを、油断しないで待つ。あずさも最近手が込んできたからにゃあ。この前は、迷彩服着て植え込みに潜んでたしぃ。朝っぱらからそんなことにエネルギー使わないで、他んことに使えよ。そう言いたくなるくらい、あずさはどーでもいーことにこだわる。


 おやー? 今日は珍しくひねりなしに登場。しかも、どんよりんだにゃあ。


「あずさー、はよー。どしたん? 今日はいじられないように構えてきたのにぃ」

「みゆー、今日はあんたにかまってられん。わりぃ」

「ほっほー、なんか拾い食いして当たったかぃ?」


 げし! いってー!


「なんだ、どんぴかよ」

「あたしゃ、わんわんじゃないっ」

「似たようなもんじゃい。ほら、お手」


 がぶっ! いってー!


「か、噛むなあ!」

「おとめごころを踏みにじるからよ!」

「あずさの、ど、こ、が、おとめじゃ。百万回生まれ変わってもありえんわ」

「ふんだ。あんたみたいな便所こおろぎに、そんなこと言われたくないもんねー」


 うぬぅ! 便所こおろぎだとう!?


「殺意!」

「ゴキジェット!」

「ぐええ!」


 バス停で二人で暴れていたら、知らないおっさんにがっつり突っ込まれた。


「あんたら。ここはあんたらの家じゃないんだからな。いい加減にしろ! 危ないし、うるさい!」

「しーましぇーん……」


 ううう。またやっちった。


◇ ◇ ◇


 しょんぼり。あずさとど突きあいをしてると、お笑いばっかが暴走しちゃう。それはそれで楽しいんだけどさ。けどさ。時々こんなことでいいんかなーと思っちゃう。一応。一応だよ。わたしだって、ぴっちぴちの女子高生だよ。そりゃあ彼氏なし歴十六年、ばりばりの帰宅部で、成績は下の下だけどさ。なんつーか、こう、ぐぐーっとキラピカなことが一個くらいあっても、ばちぃ当たらんちゃうかなーと思う。あずさとど突き合いしながらあと二年、べろーんと老人生活送るのはあまりにも虚しいぢゃないか。なあ、そう思わないかい? そこで赤い顔してるお兄さん。


 と。バスの降車ブザーに向かって愚痴ったところで、何も返事は来ないわね。


「みゆー、なあにぶつくさ言ってんのよ」

「ん? さっきあずさがくたってた原因を、目いっぱい妄想してただけよん」

「ま。それは昼にでも」


 へー、珍し。混ぜっ返さないで、直球で返ってきたよ。


「それはそうと。昨日話してたしっぽもどき。まだぶら下げてんの?」

「ほれ」


 がらけーを出して見せる。スマホにしたいけど、あんたにスマホなんか豚に真珠以下だって言われちったからにゃあ。くっそ。反論できないのがつらひ。まあ、デコとストラップで元取るしぃ。


「うぐぅ。デコり過ぎの携帯にはアンバラだねー」

「ほっといてんか」

「なんかご利益あんの?」

「さあ。かわいけりゃいい」

「ほん」


 携帯をカバンに放り込んで、ブザーを押す。


「押さんでも停まるのに」

「いいの。気分の問題」

「へいへい」


美津沼みずぬま学園前、美津沼学園前です。お降りのお客さまは降車ボタンをお押しください。次、停まります』


 バスの中が一斉にざわめき出す。さあて、と。


◇ ◇ ◇


 じいちゃん数学教師のかったるい声が、頭上を通り越して、教室の後ろに綿ゴミと一緒に溜まる。授業に集中出来んくらいの、ジャニ系イケ面教師をそろえんかーとは言わんけどさあ。お達者クラブ貸し出し中のじいちゃんを、よりによって大っ嫌いな数学に配置するのはいかがなもんかと思う。それがうちの学力向上の足を引っ張ってるってことは、間違いないっ。わたしのことは、さて置いといて。


 だいたいさ。なんでわたしがここにいるのかってのが、学園七不思議の一つだよね。公立激やばで、ランク落ちの私立もボーダーで、ここはずぇったいわたしには無理のとこだった。受験日がいっちゃん早かったから、練習代わりに受験したのだん。結構鉛筆サイコロころころやったと思う。

 んで、ふた開けたら。公立、沈。まぢ、激ぺこ。私立滑り止め、沈。どまぢに、完ぺこ。中浪かあ? とほほー。わたしゃ、インスタントラーメンで首吊ろうかと思ったよ。それが、なに? 富士山に後ろ向きに登るより難しいと思ったここだけが合格だと? わたしゃ、とことん問い詰めたい! 受験つーのわなんぞやと、とことん問い詰めたい! ここ。まがりなりにも進学校。そこになぜわたしがいるのか、ちょー分からーん。


 でも、だな。入ってみて、にゃるほろと思ったことがある。この高校、元はしにせのおじゃうさん学校だったのね。共学になってからまだ十年もたってない。んで昔のなごりなんか、やたらめったら校則が厳ひぃ。バイトはもちろん禁止だしぃ。チャリ通でけんしぃ。服装や言葉遣いにもいちいちうるさいしぃ。放課後の行動にも細かーくチェックが入るの。

 今時ねえ。こんなかっちんこっちんのとこに行きたがる子なんか、そうそういないよー? しかも、進学校としてはちと中途半端だしさー。だから、受験者数が募集定員そこそこだったってことね。わたしゃ、入ってからそのシンジツを知ってもた。でも、無邪気に喜ぶお母様の前で、ちゃぶ台ひっくり返す元気はなかったっす。まあ、うちにはちゃぶ台そのものがないけどさ。


 んで、入ってみれば。みんな、それなりにかいくぐってやってる。こっそりバイトしてんのもいるし。こっそり眉毛抜いてんのもいるし。こっそり子作りして、ひっそり退場すんのもいる。学校は、停学イエローは気軽に出すけど、退学レッドは簡単には出さないから、まあ上手にやってちょうだいねってとこなんでしょ。

 わたしが上手かどうかは分かんないけど。潜りでバイトする度胸はない。男子生徒はいっぱいいるけど、ガキかお手つき。べんきおに目覚めるほどマゾではなく。スポ根系部活に燃えるほどのこんじょはないっと来るわけっす。まんまと学校側のおもわくにはまってる感じなのが、いやあんではあるけどさ。しゃあないよね。


 うふ。そろそろチャイムだ。メシだ。メシだぞーっ! 心の中で思い切り叫ぶ石田未由、十六歳の冬であった。ちゃんちゃん。


◇ ◇ ◇


「でさ」

「なに?」


 売店で買ってきたコロッケパンを口に押し込んで、あずさの方を向く。けっ! 生意気に弁当かよ。


「今朝の話」

「ああ、そういやなんかヘコんでたね。どしたん?」

「とって付けたように聞きよったなあ!?」

「いや、別に聞かんでもいいんだけど」

「聞いてぇ!」

「どっちじゃ」

「キイテクダサイ」

「なら、最初っからそう言わんかい」

「言ってますけどぉ」

「さよか。ほいでなに?」

「恋のお話」

「ああ、鯉の餌なら麩がよいぞな」

「誰が魚の話をしてる!」

「違うの?」

「ラブよ! ラブ!」

「ああ、あれはお腹に優しい」

「誰が調整牛乳の話をしてるーっ!」


 くけけ。いつもはいじり倒されるてるからねい。


「どうせ、どっかの面だけいいオトコにぽっちゃんとどつぼったんでしょ?」

「なぜそれを!」

「あまりにいつものパターンやん」

「ぐうう」

「あずさも懲りんのー。熱上げまくって、最後は玉砕でこっぱみじんこ」

「ぐうう」

「なーんもリサーチしないで、いきなし全力で好きやー言われたら、わたしでも引くよ」

「あんたがなんぼ引いてもかまん」

「だいたいがさ。面だけが基準てあたりがゆがんどる」

「どのくらい?」


 あずさのほっぺを両手で引っ張る。ぐに−。


「こんくらい」

「いへへ、やへれー」

「うけけ。どんな面のいいオトコも、しばらくしたら崩れるんだからさ」

「したら、新しいの見っけるからいいもん」

「あんたの方が先に崩れるって。今だってじうぶん勝率悪いのにさ」

「ひ、ひっどー!」

「事実をちゃんと見たまい。0勝11敗でしょん?」


 月一で玉砕を繰り返すこんじょも見上げたもんだけど。こんじょの無駄遣いだよねー。


「な、なんでー? わたし、こんなに美少女なのにー」

「正面から見りゃな」


 そ。あずさは顔は悪くないんだけど、ぼでーががりがりくんなんだよねー。


「ちょ、ちょっとぉ!」

「アリスのトランプの兵隊じゃないんだから、もちっと立体化しないと。どんな二次元フェチでも引くぞー」

「ぐががっ」


 ひーひーひー。こういう時にいじっとかんと、いつもはいじられっぱなしだからにゃあ。


「ま、がんばりたまえぼ」

「えー? 手伝ってくんないのー?」

「わたしがまともに手伝うと思ってか?」

「ううん。一人でやるー」


 ち。もちっと引っ張りゃよかった。ぶつぶつ言いながらあずさが自分の席に戻る。


「みゆー」

「んんー?」


 いいんちょのナガシメ姉ちゃんが、すっとこすっとこ寄って来た。


 お気の毒に。目ぇがほっそいもんだから、長島なのに『流し目』って言われちゃってさ。目玉がどこにあるか分かんないから、流し目どころかどこ見てっかどうかすら分かんない、きぼちわりぃ姉ちゃん。でも、頭はいい。性格もいい。面倒見もいい。ぢつに頼れるいいんちょである。そのいいんちょが、問題児のわたしに何の用デスカ? あ、誤解のないように言っときたいのね。わたしは口と顔は悪いけどぉ、腹は黒くないの。出てるけどさ。問題なのは、わたしの行いやコトバじゃなくってぇ、どたまなのだん。しゃあないやん。あほーなんだもん。


「ビーバーが、放課後補習室に来いって言ってたよー」

「へぇへぇ、ありがとさん」

「定例?」

「んだ」


 わたしがしゃあないと開き直ってみても、学校は開き直ってくれないわけ。脳みそに立派にすが立ってるわたしは、とっくの間にガッコをどろっぷあうとしてるはずだったのに。ぜにこ払ってくれる学生を逃がしたくにゃいガッコが、特別たいぐーしてくれる。はい。そーです。課外授業でーす。それ系の本になるようなぁ、甘美ぃなもんじゃなくて。赤点救済の補習と小テストで、わたしのアタマに十円禿げを作らせようとゆーたくらみさ。けっ。まんまとその手に乗るもんかー。頭皮のお手入れは欠かしてないわー。あ、枝毛見っけ。


 ぴんぽらぱんぽろりーん。


 あーあ。のり突っ込みしてる間に、昼休み終わっちったよ。コロッケパン一個じゃ足んねーぞーって、腹が泣く。泣きたいのはこっちだよー。とほほー。ちぇ。補習かあ。たりいなあ。


◇ ◇ ◇


 がららっ!


「ちーす」


 勢いだけはつけて、どしんどしんと補習室に入る。


「あー、石田さん。ノックくらいしなさいよー」


 ビーバーこと、英語の馬場せんせが呆れたような声を出す。すみませんねえ。ソザツなのはわたしの売りでして。


「今日はわたし一人っすか?」

「そ」


 あれー、いつもは二、三人いるんだけどにゃあ。


 ビーバーが、腕組みしてじーっとグラウンドを見てる。気が散ってるのは珍しいかも。ビーバーはてんけーてきなハイミスのせんせだ。高校のハイミスのせんせと言えば、欲求不満をぱんぱんに溜め込んで、タイトなスーツに三角眼鏡で、ざあます全開できぃきぃとヒステリックにどなり散らすってイメージがあるんだけどさ。ビーバーは丸っきり違う。

 もう五十近いと思うんだけど、こどもっぽい丸顔でぇ、性格は天然でぇ、怒んない。どう見てもゆるキャラなのー。ぬるぅい授業は、進学コースの子からは嫌われてっけど、わたしみたいなあほーにはとても合ってる。で、なんでそんな優しいビーバーの補習がイヤかって。とってもいっしょけんめーだからだ。授業も補習も、ちゃんとわたしのレベルに合わせて教えてくれるのに、わたしの脳みそが英単語やら数字やらの入室を断固キョヒしてる。だから、センセの努力とわたしの学力は比例しないのー。そういうのって……ねえ。


 くるっとわたしの方を向いたビーバーが、いきなり質問をぶつけてきた。


「石田さん、コースどうすんの?」

「そらあ、ふつーコースですよー」


 一学年十クラス。一年のうちは、ごった煮なの。やる気がある子は、特別授業を選択するか、塾へ行く。でも、二年から進路別にクラスを組み替えるの。

 特別進学コース。通称とくしんは、一クラスしかない。このコースの選択には、成績と試験突破が必要っす。まあ、あほーのわたしにゃ、じぇんじぇん関係ない。で、文系、理系で大学進学コース、通称だいしんが八クラス。ほとんどの子はそっちに行く。そして、どこにも行けないあふぉなおこぼれくんたちを片付けとくお情けクラスがいっこあって、それが普通コース。


 ど! こ! が! ふつうじゃああっ! ぼけええっ!


 と。わたしがどんなに夕日に向かって吠えたところで、それがゲンジツなの。まあ、わたしはつるりんぽんと高校を出してもらえば、どこのクラスかにはこだわんないつもり。ぜーたく言える立場じゃないもん。ただねー。切実な問題があるんよね。


 顔をのぞき込むようにして、ビーバーがわたしに聞いた。


「もう少しがんばって、大進クラス目指さない?」

「む、無理っすよー。わたしがここにいることすら奇跡なんすから」

「そうよねー」


 あっさりそう言われると、ちびっとかなぴー。そして、ばふっと溜息ついたビーバーから刺激的な発表がござましたん。


「あのね、石田さん。普通クラスに行くにしても、進路希望は出してもらわないとならないの。それに合わせて選択教科を決めないとね。ご両親ともよく話し合って、何を目指すか決めてきてね」


 がびぃーん! 高校に必死にぶら下がってるだけのわたしに、将来の話を振るんすか? あー、でもビーバーだからなあ……。


「あの、せんせ。補習は?」

「今日はありません。意向調査だけ」


 ぬぅ。そうでしたか。


◇ ◇ ◇


 バスを降りて、家までの道をてってこ歩く。


 そう。問題。もんだいなのよん。わたしには、あずさ以外に仲いいトモダチがいにゃい。べーつにー、わたしが特殊ってことはないと思うんだけどさ。中学ん時には、ゆうじん各種取りそろえてたんだし。


 だけど進学で状況が変わっちゃった。あほーなわたしなりのところに行ってれば、いっぱいトモダチは出来たと思う。お母さんの寿命が縮むトモダチだったかもしんないけど。でも、わたしゃ自分の実力いじょーのとこに入っちった。あずさとか、いいんちょとか、ぶっ飛んでる子は遊んでくれるけどさ。コースが決まったら、そりは無理だよねー。

 上向いてる子は、あほーのわたしを相手にしてくんない。中学ん時のトモダチも、間違って進学校に行っちゃったわたしを煙たがる。うちの高校は、交友関係うるさいし。おめえんとこ、うぜえって。ほいでもって、ふつークラスに掃き溜まる子は、みんなぷっつんしちゃうか、どんよりんになるんでしょ? わたしゃ、そいつらとはトモダチしたないもん。


 ううー。まあ、考えたってしゃあない。できるもんは黙っててもできるしぃ。考えたって、悩んだって、それが団子に固まってトモダチになってくれるわけじゃないしぃ。


「わたしは、いつでもおんなじわたし……なんかなあ」


 おんなじ。おんなじっておもしろい。だって、今日とおんなじ日なんかひとっつもないのに、毎日おんなじに感じる。それがすっごいつまんなかったり。ずっとそうだったらいいなーと思ったり。おんなじわたしはどこにもいないのに、おんなじよなわたしを欲しがってるわたしがいる。


 はあ……。もうすぐ落っこちそうな夕日にびよーんと伸ばされたわたしの影。わたしは振り向いて、それを見る。元はわたしなのに。わたしとおんなじなのに、そうは見えないのっぽの影。それがわたしに向かって手を振った。


 えっ!? な、なんかむっちゃ違和感あったぞぃ? 気のせい? わたしが影の方を見てる間に、日が落っこっちゃって。影は消えた。


 まーいーや。帰ったら冷蔵庫のプリン食べよっと。兄貴のだけど、知ったこっちゃない。賞味期限切れてたし。それに、またお母さんに卵豆腐と間違えて食わされちゃかなん。カラメルかかってる卵豆腐なんか聞いたことないよ。ったく、おおざっぱなんだからー。


「たーだいまー」


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