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「部活!! 一緒に部活つくろうよっ。みんなで相談すれば、きっと良いアイデアが出せるはずだよ。一人では無理なことでも、大勢の人が力をあわせれば、うまくいくはずだもん。だから部活! ねっ」
ねっ、とか言われても困る。
昼休みも、残り半分ぐらいだろうか。
そろそろこの話を終わりにしたいところなんだけど。
なんで、この女はここに来て、こんなにテンションあがってるわけ。
「いや、だから……」
「私、思うんだ。まずは仲間を集めるべきかな、って」
「おい」
声をかけたが、無視された。
「最初は部員を募集しないと、だよね。みんなが集まって意見を出せば、もっといい考えが生まれるはずだもん」
「それはどうかなー」
「まずは部室が必要……じゃなくて、顧問が先なのかな。先生に申請して……」
「じゃあ、がんばってな」
逃げようとしたら制服の裾をギュッとつかまれた。
「うう……今日は逃げないって約束したのに。ウソつき」
しまった。
やっぱり
「一緒に部活の名前を考えてください」
「考えたら、帰ってもいいか」
「ダメです。一緒に部活しましょう」
「やだよ。俺そういうの、一度も入ったことないし」
「え? 本当に? 中学のときは?」
「いや、ないけど」
「それじゃあ、今まで一度も、ずっと部活動したことないの?」
「おまえ今、俺のことスーパーぼっちコミュ障って思っただろ」
「い、いやー。そこまでは……思って、ないもん」
るる子があからさまに目をそらした。
「こっち見て、もう一度言ってみろ」
「えっと、あの……部活、一度ぐらいは入ってみるのも、いいかなー、なんて」
「帰る」
強引に立ち上がる。
このまま、るる子が手を放さなかったら、引きずってでも帰るつもりだ。
と、思っていたら本当に離れる気配がない。
仕方ないので、おっかない顔で威嚇してみたが、やっぱりそれでもしつこくしがみついている。ここはおっかない顔セカンドの出番だ。がおー。ダメだ、通じない。
「お願いだから。部活やろうよ、ね」
「勝手に集めて活動してりゃいいだろ。俺以外を。俺じゃないやつを集めろ」
「世界を良くするアイデアがあっても、守くんがいないと実現できないもん」
「俺が知ったことか。自分でどうにかしろ、自分で」
「そう言わないで。お願いだよ」
何回断っても、これではキリがない。
こうなったら奥の手を出すか。
「わかったよ。そこまで言うなら、入ってやってもいい」
「わーい。やったぁ」
「ただし、条件がある」
こっちも手段を選んではいられない。
この条件なら、彼女は確実に断るだろう。
「おまえが全裸で土下座してお願いします、と言ったらだ!」
「え……」
るる子がすごい目で俺を見る。
カバンの中に入れっぱなしにしたまま、うっかり忘れてしまった緑色の大福を見るような目だった。
だが、ここで引くわけにはいかない。
こいつがセクハラに弱いことはお見通し。昨日から俺と二人きりでいたりするときに、警戒するようなそぶりもあったはず。
嫌なやつだと思われようが、かまうものか。
ごり押ししてでも、るる子の申し出を断っておきたい。
「フフン。おまえの覚悟なんて、しょせんそんなもんさ。自分だけは痛い目をみようともせず、世界を良くしようだとか……って、おい」
涙目になったるる子が、上着のボタンをはずしていた。
「あの……るる子、さん」
「脱ぐよ。脱げばいいんでしょ」
「いや、あのね」
「土下座だってするもん。お願いします、って言ってあげるよ。それで満足するんだよねっ」
「ちょ、ちょっと待って……ぶわ!」
脱いだ服を投げつけられた。
その下はブラウスだ。やばい。これ以上はやばい。
こんなことを思うだけで女の人には失礼かもしれないが、俺だって年頃の健全な青少年なのだ。
魅力的な女性のなんていうか、その、はしたない姿にはたいへん興味がある。
重ねて言うが、ものすごく興味がある!!
そして、この種の話題になると、だいたいのやつは俺の能力のことを口にする。
透視したり、力ずくで無理やりひん剥いちまえばいいだろと、もっともなご意見をいただくこともある。
だが、それは違う。断じて違う!
なんていうか、そういうのは価値がないっていうかさ。
たとえて言うなら、大人が買うような数千円もするエロいDVDやいやらしいゲームよりも、二百円ぐらいの少年マンガ雑誌を何気なく読んでいるときに発見したパンチラとか、すごくエッチな一コマのほうが財宝を発掘したぜヒャッホーみたいな。
まあ、待て待て。
そんなことを論じている場合じゃなくってだな。
とにかく今は、るる子を止めるのが先だ。
「おい待て。冗談だから。やめろって」
能力を使うのはまずい。
なので、物理。彼女の手を直接つかんで止めようとした。
「────ぼごらっ!!」
とたんにすさまじい衝撃波が襲いかかり、俺がものすごい勢いで吹っ飛んだ。
屋上の外周を軽く超える飛距離。
当然、下には足場がない。真下は校庭。高さは二十、いや十五メートルだろうか。
「……守くんっ……!?」
空中をどんどん落ちていく途中で、るる子の姿が一瞬だけ見えた。
半泣きのまま、フェンスにすがりついている。
いや別に、このくらいじゃケガもしねえんだから、そんな顔するなよ。
「オマ、エ、は、壊シがいガ、アリ、そウだ、ナ」
「誰だ────おげぇっ!?」
ブツブツと細切れに響く、不気味な声が聞こえた。
声が聞こえてくるのと同じタイミングで、空間に作用する俺の一部が断ち切られていた。
逃げられない状態にされたところで、上からすさまじい圧力がかかってきた。
なんだこれ?
重力か?
いや違う。
高密度の磁場で質量が形成されているのか。
それとも────。
……ごすん!!
盛大な音を響かせて、グラウンドに人間の形をした穴が開いた。
「こ、ンのぉ……ヤロぉぉぉ……」
土埃にまみれて立ち上がりざま、不可視の障壁を形成する。
体のまわりでバチッ、バチッとスパークが散った。
俺の防御機能は、そのほとんどが自動で効果を発揮するが、意識することでより強固さを増すものもある。
電磁波防御、慣性制御フィールド、熱光学遮蔽、対魔術結界、瘴気遮断、呪詛返し、厄除けと交通安全……幾層にも重ねた防御壁を展開していく。
相手の正体がわからないので、念入りに、だ。
同時に、近くの空間すべてに探査をかけていく。
瞳が自然にギラギラと赤い光を放って、標的を追う。
敵は────どこにもいなかった。
攻撃をしかけてきた対象は消え去っていた。
あれだけのよくわからん力で俺を地面にたたきつけてきたはずなのに、その原因となるものがまったくみつからない。
やはり今度もまた、大量のエネルギーが運動を起こした痕跡すら残っていない。
四度目だというのに、あれがどういう種類の攻撃なのか、さっぱり理解不能だ。
しかし、声は聞こえた。
俺に悪意を持つものの声だ。
ひとまず、まわりにいる目撃者のみなさんに、いつものごとく見なかったことにしてくださいのおまじないを施した。
落下時の音が届いた範囲にいる方々にも、記憶の操作を施しておく。
最後に地面に開いた穴を埋めて、元に戻した。
これで現実に影響ナッシング、てなもんである。
「ふむ。いつもと同じか」
能力に影響はないようだ。
ダメージを受けたかと思った、空間に作用する部分も元通りになっている。
どうやら瞬間的に
ひとまず問題はない、とはいえ肝心なことはさっぱりだ。
誰が、なんで、どうやって、そのすべてが謎のままだった。
「……まぁもるくぅーん……」
校舎から飛び出してきたるる子が、大声を出しながら走ってくる。
目の前までやってきたところで、はあはあと息を整えだした。
「だっ、だっだ……大丈夫、なのっ……はひー」
「部活、入るよ」
「……ほゅ?」
「放課後になったら、部室を作りにいくからな」
「でっ、でも、まだ……土下座、して、ない……」
どんだけ律儀なんだ、この女。
冗談を真に受けるのもたいがいにしてほしい。
それとも、それが普通なのか。
普通じゃないのは俺だけなのか。
「それはもういい。ほら、教室に帰るぞ。昼休みが終わっちまう」
「えっ、あ、ちょっと。ちょっと待ってったら……」
追いすがる声を聞きながら、肩をいからせて歩き出す。
俺がこんな目にあった原因は、るる子であることは間違いない。
正確には、彼女と関係のある何か、だ。
るる子のそばにいれば、そいつの正体がつかめるかもしれない。
「こうなりゃ、とことんまで付き合うしかねえか」
男の子の人生なんだ。
ちょっとぐらいはバトル要素があってもいいんじゃねえの。
あとは────あれだ。
一方的にやられたままだと、すっげえムカつくからな。
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