第6章 主役交代!? バッドエンドはもうすぐだ!

 今日のカップ焼きそばは、これまでで最高の出来だった。


 麺のひとかけらも逃さぬ、見事な湯切り。ソースは付属の粉末を使わずに、別に用意したボトル入りの液状タイプを使用することにした。

 麺にソースをからめたのち、マヨネーズ、かつおぶし、青のりの順に乗せていく。

 最後に、隠し味の煮干し粉を少量ふりかける。


「これは……完璧だ!!」


 イッツ、パーフェクト。


 麺から立ちのぼる香りを嗅ぐだけで、五感が冴えわたる。


 カップ麺カスタマイズに励んだ日々は無駄ではなかった。

 いや、持って生まれた天性の能力とでも言うべきか。

 我ながら、自分の才能がおそろしい。


「よし。いただきま────」


 居間の扉が、ばびんと開いて妹が飛び込んできた。


「お兄ちゃん!! たいへんだよっ」

「なんだよ。俺、今忙しいんだよ」

「平日の昼間から、家でカップラーメン食べてるお兄ちゃんのどこが忙しいの!」


 なかなかヒドいことを平然と言ってくれる。

 胸だけは三人前ぐらい育っているのに、女らしさがまるで足りていない。


「あのな、ナナ。カップラーメンじゃなくて、これはカップ焼きそばだ。それに、お兄ちゃんは、だな」


 言ってるそばから手首をつかまれて、グイグイ引っぱられた。


「おい。どこ行くんだよ」

「学校。あのね、お兄ちゃんのお姉ちゃんがたいへんなの」


 最近、妹の様子がちょっとおかしいんだが。


 部活に入ったと聞いてから、どうも変なんだよな。


「落ち着け。俺に姉ちゃんはいねえぞ。わかってて言ってるんだろうな」

「そうじゃなくて!! ああもう……説明するの面倒だから直接、心を読んで!」


 普段は絶対に、思考を読ませてくれないくせに。


 とはいえ、そこまで言うのなら、よほどの事態なのだろう。

 気の強いナナがわざわざ助けを求めてくるなんて、めったにあることじゃない。


 精神感応テレパシーで思考を接続し、妹の記憶を軽くさぐる。


「ふむ。ブラのカップが、また……」

「よけいなところ見ちゃダメなのーっ!! だいたい今から、一時間前ぐらいのところまでっ」


 いちいちめんどくさい。

 五歳も歳が離れていると、こちらも気を使わざるを得ない。

 コミュニケーションひとつとっても、ひと苦労だ。


「よし。読んだ。だいたいの事情は察した」

「それじゃあ……」


 妹と一緒に、即座に瞬間移動テレポート


 行先は、わが母校。

 四階の廊下のつきあたり。


「あとでカップ焼きそばの代金払えよ」

「お兄ちゃんのケチ!」

「あとででいいから。それで、部室ってのはどの教室だ」


 そうたずねたら、別の方向から返事があった。


「マモちゃん。おひさしぶりです」


 背後からで挨拶してきたやつがいる。

 嬉しそうなところで悪いんだが、俺は会いたくなかったよ。


 小さく手を振る俺と、にこやかな笑顔の夕日を見比べるナナ。


「お兄ちゃんって、夕日ちゃんと知り合いだったの?」

「そりゃまあ、な」


 過去のトラウマ案件なので、あまり聞かないでほしい。


「それより、急ぐんだろ。夕日、扉を開けてくれ」


 二人に先をうながす。

 夕日は部室の扉を開けてくれた。


「一応、行く前に言っておくぞ。俺はむこうの世界に行けない可能性がある。どこの世界でも、俺は一人しか存在できないってルールがあるらしいからな」


 その縛りがなければ、並行世界ぐらい自力でだって行ける。


 だがまあ、今回は緊急事態らしい。

 道に迷ったりすると、また話がややこしくなる。

 慣れている夕日に、案内を頼むことにしよう。


「これで、むこうの世界に行けるです」

「よし。俺が先に行くぞ────」


 部室の中に一歩踏み込んだら、そこはまたしても学校の廊下だった。

 どうやら時間は夜らしい。

 元いた世界と時間のズレがあるようだ。


 そんでもって、横から見たこともないエネルギーの塊が飛んできた。


「なんだ、これ? 因果が狂ってるのか? てか、魔法ってやつか?」


 反射的に手で受け止めた白い光が、チクチク痛い。

 肌にやさしくないものだったので、クシャッと握りつぶしておいた。


「なんで、俺が……?」

「やっと来たか。ウスノロ守」

「おじさんが……増えたんだぞ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ……」


 俺をはさんで、床に倒れ込んだ少女と、二人の幼女が対峙していたようだ。

 三人しかいないのに、声は四人分。

 さっきの攻撃は、この白い服を着た子供の仕業だろうか。


 状況がまったくわからないので、攻撃を仕掛けてきた幼女めがけて、迷わず襲いかかることにした。


「俺はまだ二十一歳だぁ!! おじさんじゃねえーっ!」


 両手に幼女を吸い寄せる磁力を発生させる。


 手の中に黒髪頭と銀髪頭が、スポッと収まった。


「ふはははは。俺の幼磁力からは逃れられまい」

「こらっ!! 放すだぞ!」

「埋められるっ、殺されるっ、乱暴されるっ……けくぅ……」


 二人の頭をボーリングの玉でも持つみたいにして、ぶら下げたまま反転。


「んで、誰がウスノロだってぇ……」

「落ち着け。俺はおまえだ。あとウスノロと言ったのは俺じゃない」


 男みたいな口調でしゃべる少女が、妙なことを言った。

 すると、そいつの横に夕日がふわっと着地する。


「マモちゃん。ご無事でなによりです」


 夕日がおかしなことを言った。


「おい、夕日。そいつが、この世界の俺なのか。なんで女の姿してるんだ、こいつ」


 返事をしたのはナナだった。


「そうだよ。お兄ちゃん。そのお姉ちゃんが、こっちの世界のお兄ちゃんなの。あと、白羽ちゃんと黒羽ちゃんを放してあげて」

「断る。俺は自分に攻撃してきたやつには、いっさい容赦しない主義だ」


 手中の幼女コンビに目を向けると、瞳が自然にギラリと赤く輝いた。


「まずは、おしおき……タァ~イム!!」

「やめるだぞやめるだぞやめるだぞ」

「ゴボボボ……けくっ、けくけっ……」


 黒いほうは口から泡を吹いていたが、白いほうはまだまだイキがよさそうだ。

 まずは、こいつらに制裁を加えるのが先。


 しかるのち、ナナからゆっくり話を聞かせてもらうことにしよう。

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