黒羽と白羽の追跡をやりすごした俺たちは、階段の前に戻ってきた。


 めざすは二階の職員室。


 階段を下ろうとしたとき、ナツメが足を止めた。


「なんだよ? さっさと行けよ」

「待て。四階に行け」

「なんでだ。先生の住所を調べて、家まで押しかけて救急車を呼んでもらうんだろうが。職員室は二階だ、わかるな? 説明の手間かけさせんな」

「それは────」


 言いかけたところで、二階に続く階段の踊り場に、下から白い光が飛んできた。


「いたんだぞ!」


 白羽の姿を目にして、迷わず四階に駆け上がる。


「部室に行け!」


 ナツメが叫ぶ。


 四階についた。


 すぐさま曲がって、廊下の端までまっすぐ進む。


 教室をふたつ通りすぎたところで、行き止まりになった。


「おい」


 部室はなかった。


 そりゃ当然だ。

 俺が消えたことで、部室はなくなっていたはず。


「おい。なんか言え」


 返事はない。


「おまえ、俺をハメやがったのか!」


 叫んだ直後、背後に足音。


「ここまでですわ」

「覚悟するんだぞ」


 白羽と黒羽が、そこに並んでいた。

 

 完全に追いつめられていた。

 もはや、どこにも逃げ場はない。


「そういえば……おまえら、七年前から変わってないんだな」


 話しながら、二人の隙をうかがう。


 なんとかして、ここから逃げ出さなければいけない。

 俺にはまだ、やらなきゃならないことがある。


 無情なことに、白羽は持っている剣を頭上にかかげた。


「待つですわ、白羽ちゃん!」


 黒羽が、白羽の腕をつかんで止めた。


「邪魔なんだぞ」

「この人、やっぱり……お姉様ですわ!」

「おまえら……気づいてなかったのか」


 あきれて物が言えない。


「俺は久垣守だ。覚えてるなら、話を聞いてくれ」

「覚えていますわ。でも……」


 黒羽の手に、例の小箱があった。


「魔力を盗んだのは、お姉様だったんですの?」

「それは違う。それは……事情があって、今はこいつと同じ体だが、おまえらの国から魔力を盗んだのは俺じゃない!」

「ややこしい話は、そこまでだな」


 白羽が黒羽を押しのける。


「ちみっこランドの法は、悪即斬だぞ」

「七年たってるのに、成長しないのかおまえは!」

「残念だけど、ちみっこランドの住人は成長しないだぞ」

「天国か……!?」


 ときめいてしまった。


「だから、おじさんとは……ここでお別れだぞっ!!」


 心の動揺を見抜かれてしまったのか。

 一瞬の隙をついて、振り下ろされた刃の斬撃がうなる。


 白い閃光が迫る。

 その刹那、足がもつれて後ろに倒れ込んでしまった。


 同時に、教室の扉が開いた。

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