3
彼女の運命は、どこで変わってしまったのだろうか。
明るい性格で、クラスの人気者だったるる子。
そんな彼女がどうしてこんな、ひどいめにあわなくてはいけないのだろう。
今、るる子は誰にも知られることなく、悲惨な最期を迎えようとしている。
原因なんて決まっている。
全部────俺のせいだ。
俺と出会わなければ、絶対こんなことにはならなかった。
るる子は幸せな人生を歩んでいたはずなのだ。
彼女を死なせるわけにはいかない。
「おい!! 起きろ、るる子。こんなところで寝るなって!」
声を出しているつもりだったが、るる子の耳には届かないようだった。
このままでは無理だ。実体を取り戻す必要がある。
そのあとで能力を使えば、彼女を助けるぐらいのことはたやすい。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「ダメか……クソッ!!」
現実に対して干渉する、すべての力が封じられている。
それほどまでに、あのときの消えたいと願った感情が強かったらしい。
今では、肉体を取り戻すことすらままならない。
この幽霊みたいな状態から、元に戻ることもできなくなっていた。
たしかに再構成は苦手だったよ。今さらだけど、そりゃないぜ。
「こうなったら、助けを呼ぶしかないか」
なにしろ自分では、電話に触れることもできなかった。
これでは救急車だって呼べない。
となると、まずは幽霊みたいな俺の存在に気がつける人を探さないと、だ。
そんなことのできるやつが、果たしているのだろうか。
「先生……キル先生なら!」
すぐさま部屋を飛び出す。
まずは学校に行くしかない。
でも、こんな時間に先生が職員室に残っているとは思えない。
「他に頼れそうなやつは……いないか」
こうなったら連絡先を調べて、家でもなんでも押しかけてやる。
今の俺には、それしか方法が思い浮かばなかった。
とにかく急ぐしかない。一刻を争う事態だ。
ところが、このふわふわした体は、まったく意のままにならない。
どれだけあせっても、まるで前に進んでくれない。
地に足がつかないとは、まさにこのこと、とかうまいこと言ってる場合じゃねえ。
それでも、どうにか学校近くの公園にまでたどりついた。
「ちくしょうっ。どうなってやがるんだ、この体は」
ジタバタしていると、どこからともなく笑い声。
「ハハ、ハハハ、ハ、ハ! キミはあいかわらず、無様だな。七年たっても、まるで成長がない」
「なんだとこの野郎!! そっちだって、あいかわらず隠れてばかりで────」
「ここにいるぞ」
ほんの数歩先に、一人の少女が立っていた。
まるで鏡のように、かつての俺と同じ姿をした女。
けれど、瞬時に理解できた。
こいつはナツメだ。
「てめえ、女の格好してりゃ……俺が手加減するとでも思ったか」
「僕だって、こんな姿になるのは不本意だ。だが、それはキミのせいでもあるんだぞ。メス垣守」
なんだ、その言いがかりは。
「知るか、そんなこと! こっちは忙しいんだ。おまえに構ってるヒマはねえ。そこをどけ!!」
強引に横を通り抜けようとした瞬間だった。
磁石にでも吸い寄せられたみたいに、俺とナツメはぶつかった。
「な……!?」
奇妙な感覚だった。
せまくるしい場所で、体をひっつけあっているような気色悪さ。
「忌々しいっ……!」
ナツメが俺の口を使ってしゃべった。
「おい。勝手に話すんじゃねえよ」
「僕の体で、勝手なことをしているのはおまえのほうだ」
だから、こんなことをしている場合じゃなかった。
「おい。ちょっと電話! 電話かけさせろ」
「無駄だ」
右手がすうと上がって、電灯にぶつかりに行く。
腕がそのまま、スルリとすり抜けた。
「なんだこれ? おまえも……」
「僕は力を失いつつある」
それは、どういうことだ。
「こうして存在しているだけで、他には何もできない。今のキミだって、そうだろう。そんな死にぞこない同士がくっついて、どうにか形を保っているだけ……というのが、今の僕らの状態なのさ。わかってもらえたか、久垣マヌケくん」
なんて使えねえやつだ、こいつ。
「んだよ。だったら離れろ」
「キミこそ離れたまえ」
「できねえんだよ、それが!」
「僕にもできない。水取るる子の命を救うために動いただけだが、まさかこんなことになるとは予想もしていなかった」
るる子を助けるだって?
つまり、だ。
今のこいつは俺と目的が同じ、ということだろうか。
「彼女が死ねば、僕も消える。そうなったら、それで終わりだ。今できるだけの手は打ったが、間に合うかはわからないな」
「うるせえ知るか。この役立たず。とにかく学校だ。急げ!」
「僕に命令するな。だが、急ぐ必要があることだけは同意しよう。別におまえのためではない。そこのところをよく記憶しておけ。渋柿へらず口くん」
「柿と垣の読みしかあってねえよ!!」
なんだこいつ、ツンデレか。無駄にキャラかぶらせるな。
「もういい。行くぞ! 今夜は俺とおまえで、ダブルツンデレだ!!」
「いいから少し黙れ。おまえの言葉を聞いているだけで、耳が穢れる」
こっちだって、おまえの言うことなんか聞きたくねえや。
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