第4章 部活と俺の休日と脳内VRMMO
1
金曜日の授業が終わった。
鳴り響くチャイムは、俺の命の終わりを告げる鐘の音だ。
一応、努力はしてみたんだ。
知らない人に声をかけまくって、勧誘をしてみた。
一人や二人じゃない。
それこそ、授業の合間も昼休みも使って、とにかく大勢の人たちに「入部しないか」と誘いをかけてみた。
誰も、話を聞いてくれなかった。
誰一人として、俺の話に耳を傾けてくれる者はいなかったのだ。
泣きたい。
世間って、こんなに冷たかったんだ。
しかし、まだあきらめるわけにはいかない。
勝つのはいつだって、最後まであきらめないやつだ。
放課後になってしまったが、まだ部活に入っていないやつが校内に残っているかもしれない。
人の気配を求めて、俺は校内を駆けめぐる。
狙いは昇降口だ。
あそこなら、まだ下校前の生徒がいるはず。
連続十三段抜かしで階段を飛び降りて、一気に一階をめざす。
着地と同時に廊下を曲がると、すぐに下駄箱の並びが見えてくる。
そこまで行ったところで、前方に小さな人影を発見した。
昨日の幼女コンビだった。
そういえば、授業が終わったら来るとか、こいつらが言っていたんだっけか。
「おう。おまえら、授業は終わったのか」
足を止めて声をかけると、黒羽がササッと白羽の影に隠れた。
「こ、こんにちはですの……」
「おい。黒羽、押すなだぞ」
なんだか黒羽が怯えている。
公園でのアレのせいであることは間違いない。
いやまあ、とっさに襲いかかったのは、どう考えても俺が悪い。
ここらで印象をよくしておく必要がある。
「そんなに怖がらないでくれ。昨日は悪かったよ」
ゆっくりとした動きで膝を折って、しゃがんで視線の高さをあわせる。
「落ち着いて話を聞いてほしい。俺はただ、君たちと、その……情報を交換したかっただけなんだ」
ゆっくりしゃべると、黒羽の警戒心がほんの少しだけ薄くなったようだ。
「情報の交換、ですの?」
「そうだ。俺たちは共通の敵を相手にしている。手を組めると思わないか」
「たしかに、そうですわね」
「昨日は、俺もあせっていて……あれだ。ちょっと必死すぎた」
今、思い出すとさすがに恥ずかしい。
昨日の俺はどうかしていたのだ。
なぜだろう。
何が原因でそうなったか理由はわからない。
だが、あのときの俺はなんだか普通ではなかった気がする。
そもそも俺はなにゆえに、こいつらと知り合うことになったんだっけか。
「このおじさん、なんか怪しいのだぞ。真実のみを語るんだな」
背後の黒羽をかばいながら、白羽がギロリと目で威嚇してきた。
「いや、その……すまん。本当に、俺が悪かった。許してほしい」
「魔法レーダーに、私たちをだまそうとする悪い大人の反応が出ているんだぞ」
「どんなアイテムなんだ、それは」
白羽は伸ばした親指の先で、ぺったんこの胸をトンと突く。
「私の心が、良い大人と悪い大人を瞬時に見抜くのだぞ」
それただのカンじゃねえの、と思ったけど黙っておくことにした。
「とにかく、俺はおまえたちの敵じゃない。それだけはわかってくれ」
「たしかにお兄さん自身は、使われた魔力の影響下にあるだけですの。本人が使った様子はありませんですわ」
ようやく黒羽が、助けてくれる気になったらしい。
「昨日も言ってたけど、それだ。そこのところを詳しく調べてくれないか」
頼み込んでみると、黒羽は小さな箱を取り出した。
昨日も公園で見たやつだ。
ジュエリーケースとか、そういうのだろうか。女の小物は、よくわからん。
「使われた魔力の効果は一時的なものですわね」
「今は、何か俺に悪い影響を与えているとか、そういったことはないか」
「その心配はありませんわ。瞬間的な攻撃があったぐらいで、特に呪いや変化のような持続効果のある使われ方ではないようですの」
「そうか。そりゃ残念だ」
俺の発言に、白羽が頭をひねった。
「何が残念なんだぞ、おじさん。呪いでガマガエルにでもなりたがっている人みたいな発言だな」
「ガマガエルはよしてくれ。単純に目立つ痕跡があるなら、そこから相手を追うこともできるんじゃないかと思っただけだ」
「なかなかいい考えだな。もっと卑劣で汚い策略を述べるんだぞ」
「おまえは俺をなんだと思っているんだ」
「薄汚い大人と思っているんだぞ、おじさん」
昨日の印象が、よほど悪かったらしい。
「今だって、また私たちをだまそうとして、調子のいいことを言ってるかもしれないのだぞ」
「たしかに白羽ちゃんの言う通りですの。私たち、まだあなたの知っている情報とやらを聞かせてもらっていませんわ」
白羽と黒羽がそろって、不審者を見る目になった。
どうにかして誤解をとかないと、このままではまた変質者あつかいされかねない。
「それはこれから話す。だから、まず俺の言うことを信じてほしい」
「そんなこと急に言われても、信じられないんだぞ」
「わかった。正直に話すよ。それで、あとはおまえたちが決めてくれ」
龍宮ナツメについて、俺が知るかぎりのことを二人に話してやった。
なんとなくだが、手の内を明かしすぎた気がしないでもない。
昨日の入部の件から考えると、ナツメがすぐに何か行動を起こすようにも思えないからだ。
急ぐ必要はないかもしれない、けれども白羽と黒羽の協力もほしい。
なかなかに難しいところだが、やはりこういうことは正直に言うの一番だろう。
「……というわけで、その龍宮ナツメというやつが、おまえらの健康ランドから魔力を盗んだ犯人なのではないか、と俺は見ている」
「健康ランドではなくて、ちみっこランドですわ」
「子供しかいない魔法の国を船橋ヘルスセンターみたいなのと、一緒しないでほしいんだぞ」
「なんでおまえが、その歳で船橋ヘルスセンターなんか知っているんだよ」
そういえば、こいつら何歳なんだ。
十歳ぐらいに見えるけど、なにしろ魔法の国の住人とやらだ。
見た目通りの年齢とはかぎらない。
もしかしたら、ロリババアという可能性もある。
だがまあ、俺はわりとリベラル派なので、精神構造が幼いならそういうのでも幼女という分類でいいと思っている。
そして、区分としてはそうであっても、のじゃ口調のロリババア自体もいい。
あれだ。語尾にいちいち、「ナントカなのじゃ」とかつけるやつ。
あれは別腹である。どちらも、とてもいいものだ。
「なんかおじさんが、変質者の目になってるぞ」
「きっと、いやらしいことを考えているですわ」
また誤解が深まっている。
このままではいけない。
この際、露骨なご機嫌とりも辞さない覚悟で臨むしかない。
その気になれば、俺の力でこいつらに魔力を作り出してやることもできる。
だがまあ、それは最後の手段にしておこう。
いざというときの切り札ぐらいは、とっておきたいものだ。
「その件は謝るから、そろそろ許してくれ」
「おじさんのせいで、黒羽は
「うう……やめてほしいですわ。思い出したくないですの……」
自分をかばうように握った小さなこぶしを胸元に寄せて、黒羽が膝を震わせる。
これはさすがに、ご機嫌とりどころでは済まない気がしてきた。
そんな長話をだらだらとしているうちに、あたりはすっかり静かになっていた。
昇降口にいた生徒たちは、ほとんど下校を終えてしまったらしい。
これでは、勧誘は無理そうだ。
部員集めはあきらめて、この二人をなだめることに全力を尽くすべきか。
「本当にごめん。お詫びに、部室でお茶でも飲んでいくか」
名案を思いついた。
こいつらを部員の穴埋めに使えないだろうか。
実際に部員にするのは無理としても、罰ゲームだけは回避しておきたいところだ。
俺が十六歳だし、それを半分に割った数字になると、ちょうどいい。
二人分をあわせれば、高校生ぐらいの年齢になるとこじつけて、るる子を言いくるめられないものだろうか。
無理を言っていることは承知だが、この際、文句は言ってられない。
「おまえら、年はいくつなんだ?」
物は試しとばかりに、質問してみるとことにした。
「レディに年齢をたずねると、冥府の国からお迎えが来るんだぞ」
「何歳でしたらよろしいんですの」
不信感まる出しの解答じゃないか。
どちらも真面目に答える気はない感じ。
ここは大人力の出番だ。うなれ、俺の誠意。
「そうだな。十歳以下……できれば、八歳ぐらいが望ましい」
白羽と黒羽が手を取りあって、顔をひきつらせていた。
「おじさん、やばいぞ。本気の人だぞ」
「ガチですわ。犯罪の匂いがいたしますわ」
「こらこら。人聞きの悪いことを言うな。ラブアンドピース」
二人がガクガク震えている。
何か誤解しているようだが、まあいい。
「とにかく、おまえらの役目かなんか知らんが、魔力泥棒を探す手伝いをしてやってるんだ。ちょっとは感謝してくれよ」
「絶対しないんだぞ」
「感謝どころか、お詫びがほしいのはこっちですわ」
「だから、お詫びにお茶ぐらいごちそうすると言っているだろ。食いたきゃケーキでもクッキーでも、なんでもつけてやるぞ」
「────!!」
「…………!?」
二人の目が、キラリと光った。
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