だい49にゃ・犬耳族
「やだ……帰りたい……帰りたい……」
隣でブツブツと呟く声を聴きながら私は震える。
綺麗と言われた艶のある尻尾は汚れ、何時もは元気に張っている犬耳も
ガチガチと歯を合わせながら、私は自分の足を囲うようにして身を小さくした。
「私も……帰りたい」
数か月前に、突然やって来たハイエルフに攫われて、家族は帝都へ連れていかれた。
勿論、奴隷として。
帝都には数多くの人獣族が手当たり次第に攫われて奴隷として働かさられていた。
働く内容は造船の手伝い。
私は主に資材などの荷物運びをやらされていた。
勇敢にも、何の理由もなく奴隷にされた事に抗議する者が現れた。
だけど、歯向かう者は容赦なく殺され、働いている者も粗相をすれば殺された。
「ママ、パパ……」
両親は私が粗相をした時に、自分がやったと名乗り出て連れていかれてしまった。
それから何日待っても、両親は帰ってこなかった。
絶望に涙する私は、それでも死なないために働き続けた。
そして、全ての船が完成した日。
ハイエルフたちは奴隷を集めてこう言った。
「戦争に行く。
我ら、栄えある
戦争に生き残った者は奴隷から解放される事になっている。
一人でも多くの敵を殺して、貴様らの自由を勝ち取れ」
そう言われた翌日には、船に押し込まれていた。
脱走しようとした者も多くいたらしいけど、全て殺された。
同時に、それと同じ数の奴隷が自殺したらしい。
船内に押し込まれた人の話によれば、本来は造船と戦争に行く奴隷は別だったみたい。
それが、思ったよりも集められなかった事に加え、死んだ奴隷が多くて、本当なら船が完成すれば解放されるはずだった私たちが戦争に参加することになった。
船の貨物室にはボロボロになっている使い古しの武器が積まれていた。
私は手に馴染む短剣を握って船の隅っこにいる。
自分の不運を呪いながら、両親のことを思い出して涙する。
神様。どうか、もう一度……両親に合わせてください。
祈りながら波に揺られていると、船に監視として乗っているハイエルフが叫ぶ。
「島が見えたぞ!! 貴様ら! 上陸準備をしておけ!!」
私が、視界に島を捉えた時に前方の船から水飛沫と爆発音がした。
「っな? なに!?」
「なんだ!? どうした今の爆発は!?」
幸いなことに、船は先端だけが大きく削れただけで、人為的な被害は無さそうだった。
しかし、それ以上に爆発は無かった。
安心した時に、それは私の視界に映った。
「そ、そんな。こんな事が……?」
ハイエルフの言葉を聞きながら私はその光景に見入る。
そこには、無数の炎の弾が空に浮かんでいた。
いったい何人の魔法使いがいるのだろうか?
この中へ飛び込むことを考えるだけで震えが止まらなかった。
炎の弾は狙いを定めると次々に飛来した。
「ッヒ!?」
幾つもの炎の弾が頭上を通り過ぎていくと、少し離れた位置にいた船に次々降り注いで行った。
降り注いだ先は、私たち先鋒の船じゃない。
後方にいるハイエルフが乗った船だ。
結界を展開させて攻撃を防ごうとしていたが、炎の弾は容易く結界を突破して船を破壊していった。
そして、船が砂浜に乗り上げて停止した。
「全員降りて突っ込め!!」
後ろにいるハイエルフから指示が飛ぶ。
私たちは体を震わせながら船から降りて、砂浜を駆け始めた。
私たちの前方には、小さな男の子が宙に浮かんでいた。
男の子は大きく手を広げて魔法を唱えると、次々に後ろにいたハイエルフを倒していった。
「え?」
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