第11話露見

 ちょいヨッパの彼女は積極的だった。唇どうしが触れ合う。オレたちはお互いに相手を警戒しながら探り合い、合意の示唆を受けると、あとは動物的本能のおもむくままに指を滑らせ合った。コタツの足と格闘しながら、お互い絡み合いながらほぐれ合っていく。脱ぎつつ、脱がせる。オレは意を決して下半身のつるぎをパンツから引き抜いた。つらかった今年のクリスマス・イブも、ここ最後にきてささやかな物語を完結させることができる。自らのつるぎの柄を握りしめ、相手の的に照準を絞った。

 ところが、握った一物の容貌がなんだか変なのだ。つまり、コタツの明かりで浮かび上がったそれが、いつもとは趣を異にしている。見た目がどうもちがう。目を凝らしてその大きく張りつめた茎部を見てみると、なにやら怪しげな文様が入ってる。

「なんだこりゃ・・・・・?」

 驚いたオレは、彼女の上で飛び上がって部屋の電気をつけた。そして明るい蛍光灯の下でそれをまじまじと観察確認してみたのだ。

「キャーッ!」

 先に叫び声をあげたのは彼女のほうだった。オレはというと、声を失った。最初は訳がわかんなかった。だけど時間軸をさかのぼって思いだすにつれ、記憶の断片がスパークをはじめた。そして、ついに思い当たる解答が導き出されたのだった。謎の文様は、マン研の部室で酔いつぶれて寝入ったあのときに、マジックで描かれたにちがいない。

「あいつら・・・・・」

 声にならない声を虚空に絞り出す。そして脱力した。ふたりが見たものは、オレの全身にびっしりと描き込まれたウロコの落書きだった。その整然と裸体を埋め尽くしたウロコの列は、胸、腹、背中はおろか、尻からチンコの柄、さらに腿からつま先にまで連なり、足の裏に消え入る。なんという周到なテロリズム。部室で気を失ったように眠りこけたオレを、仲間たちは悪辣にも、画用紙にしてもてあそんだのだ。脱がせ、描き、犯行が発覚しないようにもう一度着せる。一分のスキもない仕事っぷりだ。そして顔への落書きは、ただのダミーに過ぎなかった。それは、関心の行方を本体に持ってこさせないための陽動作戦だったのだ。

 オレの意識の外で行われてた「持って遊ばれる」という行為を、脳裏で視覚的にイメージしてみる。背筋に冷たいものが走り、とっ散らかって叫びだしたくなった。

「きゃっ!きゃっ!きゃはははははははははは・・・!」

 しかし、またしても先に声をあげたのは彼女のほうだった。それは横隔膜が破裂したような笑いだった。彼女は小振りな乳房を、薄く縮れたヘアを、そしてまっ白でまん丸な尻を臆面もなく放りだし、部屋中を転げまわって笑った。屈託なく笑った。天真爛漫に笑った。デリカシーなく・・・満身で笑いつづけた。

「なにそれ~!魚人だっ。ぎょじんっ。うろこおとこっ」

 オレは笑いにつき合う以外に為すすべもなく、今や萎えきった剣を握りしめたまま、その場に立ちつくした。やがて、はたと我に返り、今すべきことを思いだした。そして美しく描かれた背びれに嘲笑を浴びつつ、バスルームに飛び込んだのだった。

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