Ⅶ.初冬の宴

1

 風はゆるく、日差しは暖かい。理想的な午後の庭に、たどたどしい声が響く。

「“我が剣はよろずいかずちなり。我が盾は万の”……い……?」

「“いわお”だな。大きな岩のことを指す言葉だ」

「無駄に難しすぎるよこの文章……」

 ほとんど涙目になりながら、ペンで単語の上に『いわお』と書き込む。ちなみにひらがなだ。読むのは自分だけなので特に問題はない。

ペンを投げ出して、夏妃は大きく伸びをした。

「目が疲れたから、ちょっと休憩!」

 宣言して、後ろへ仰向けに寝転がる。仰ぐ頭上には微風にちらちら揺れる木漏れ日があった。木陰ということもあって、背中に当たる下生えの草は少しひんやりとしていた。もう夏の暑さはだいぶ遠い。これからはさらに気温も涼しくなって、冬に近づいてゆくのだろう。

 本を閉じたユウが笑う気配がした。

「行儀が悪いな」

「窓から出入りする脱走癖の王子様には言われたくありませんねー」

「何? 今日はまだしてないぞ」

「“今日は”って付くところがすでにおかしいって気づこうよ」

 軽口を交わす気安さが心地いい。先日の騒動を思えば、呑気な会話を交わせるという些細なことにも感謝したい気持ちが湧いてくる。

 あの嵐の夜から五日が経とうとしていた。

 例年なら定例会は長くても二、三日で終わり、とっくに帰路についていたそうだ。だが、今回はあのごたごたで予定が狂い、長達は後回しにされていた膨大な議題を片付けなければならなくなった。

 その会議がようやく昨日、つつがなく終了した。すでに城を発った者もいたけれど、ほとんどのお歴々は未だ城内に留まっているという。

 というのも。

「おや、今日も勉強かい? シロガネ祭までもうあとひと月だものな」

 ふいにかかった穏やかな声に体を起こせば、庭に降りてくるエルヴァの姿があった。書類と議題の山から解放されて、すっかり顔色も明るい。

「どうだい、ナツキ。首尾の方は」

「全然です……。まだユウに教えてもらいながらメモってる段階で。間に合うか不安になってきました……」

 抱えたそれなりの厚さの冊子を見下ろして、口を尖らせる。

「だいたい、言い回しがやたら古臭くて難しいんですよ。本当に子どもがやる劇の内容ですか、これ」

「まあ、確かにね。でも子どもが一生懸命、古めかしい台詞を言うから可愛らしいんじゃないかな」

「私、子どもじゃないんですけど……」

 恨めしい気持ちを込めて上目づかいに見ると、エルヴァはにっこりと言った。

「そうだね。でも、十分に可愛らしいと思うよ」

 そういう問題じゃないんですが、とは言いたくても言えなかった。こんな美麗な曇りのない笑顔で言われたら、とてもじゃないが平静でいられない。

 動揺で思わず顔を逸らすと、その先で同じく草の上に腰かけているユウと目が合った。彼は首を軽く傾げ、ふっと笑う。

「私もそう思うな。本番でナツキの姿を見るのが楽しみだ」

 こちらも紛うかたなき美少年なので、非常に心臓によろしくない。

 なんなのだ、この男たちは。狙ってやっていないのが余計に恐ろしい。

 両掌で頬を挟んだまま、熱を逃がすようにため息をついた。

「……もちろん、引き受けたからには頑張りますよ。紹介してくれたミカさんにも恥をかかせたくないし」

 これが、自分が自分としてこの世界に立ってはじめて与えられた仕事なのだ。弱音ばかり吐いてもいられないと、表情を引き締める。




 そもそものはじまりは、騒動のあと皆で一息ついたあのお茶会の席で、ミカが口にした一言だった。

 彼女は淹れたてのお茶を一口飲んで堪能すると、おもむろに切り出した。

「そうそう、ナツキちゃん。来月、王都で祝祭があるのは知っているかしら?」

「祝祭?」

 聞き返して、首を振る。その横でウィルが、そういえば、とお茶請けのクッキーに手を伸ばしながら言った。

「もうそんな時期だっけ。すっかり忘れてた」

「祝祭って、お祭りのことだよね」

「そう。王が主催する、冬の始まりを祝う祭りだよ」

「冬の始まりをお祝いするの?」

 なんだか奇妙な気がしてしまう。夏妃の感覚では、冬は暗くて寂しくて、到来を喜ぶような気持ちには到底なれない季節だ。相当な寒がりだということも、その一因だけれど。

 説明をくれたのは、向かい側でゆったりとカップを傾けていたエルヴァだ。

「龍の暦では、冬の始まりと共に新しい一年が始まる。それを祝うという意味もあるね。例年だと、祝祭が終わればあっという間に雪が降り積もる季節になる。それと、銀色が特別な意味を持つ色だということは誰かに聞いたかい?」

 言われて、首に下げた銀守りのことを思い出す。

「王都で、お店の人が言ってました。銀は龍にとって命の色だ、って」

 エルヴァは頷き、目を細めて微笑む。

「その通りだよ。我々には命、あるいは魂と言い換えてもいいけれど、それは銀色の光を放っていると信じる風習がある。実際、龍の子は白に近い銀色の眼と髪を持って生まれてくる。何の属性であれ、生まれてすぐは皆同じなんだ。生後数日で淡い色彩が現れてくるから、純粋な色のまま成長するのはユウェル殿下のような白龍の方だけだけれどね」

 彼の視線を追うと、ユウは軽く肩をすくめた。

「正確に言えば、変わっていないわけではないが。私も瞳は薄青色に変化したし、髪も生まれてすぐはもっと色の薄い、純粋な銀色だったらしいからな」

 アイスブルーの瞳とプラチナブロンドを持つ彼は、クッキーを手元に山のように確保して、リスみたいに頬張っていた。話題への興味のなさが如実に表れている。

 苦笑したエルヴァは夏妃と目を合わせ、話を元に戻した。

「そういうわけで、銀は命の色であり、龍の王に通じる色。だから、白銀の雪で覆われる冬を特別視するという一面もある。そこから一般的に、この祝祭を“シロガネ祭”と呼んでいるくらいだ」

「へええ」

 またも加わった新しい知識に、目を大きくする。

「賑やかなお祭りよ。出店の数も桁違いに増えるし、いろんな集落から見物客も押し寄せるの。祝祭の間丸々五日は、王都の大通りが銀色の飾りで埋め尽くされてすごく綺麗よ。毎年気合が入るから、期待していいわ」

 クリスマスのイルミネーションみたいなものだろうか。

 うきうきと話すミカは心底楽しげだ。つられて、夏妃もつい笑顔になる。

「それは楽しみですね」

「うふふ。興味持った? 持ったわよね? そこで、ものは相談なんだけれど」

 急にぱっちりした藍色の瞳をきらめかせたミカを見て、夏妃は笑顔を引っ込める。……猛烈に嫌な予感がする。

 思わず体を引く夏妃との間を詰めるように、ミカは整った顔をずいとテーブルの上に乗り出した。

「ねえ、ナツキちゃん。祝祭最終日の演劇の主役を、頼まれてくれないかしら」

「……しゅ、主役っ?」

 その意味を理解するなり、ぶんぶんと首を振った。正直、血の気が引く思いだった。

「む、むむむむ無理っ! 無理ですよ! いきなり何言うんですか、ミカさん!」

「お願い! ナツキちゃんにしか頼めないのよ~」

 手を合わせて拝まれても、無理なものは無理なのだ。

 平々凡々と生きてきた夏妃にとっての劇といえば、小学校時代にクラス発表でやった微笑ましい規模のものくらいだ。それだってせいぜい、台詞がひとつふたつの脇役しか演じたことがなかった。

 今回ミカが言っている演劇というのは、そんなものとは比べ物にもならないはずだ。何せ舞台は、年に一度きりの祝祭。それも最終日だという。今まで聞いた話の、「特別な祭り」「王主催」「すごい数の人出」といったキーワードがぐるぐると頭の中を回る。

 どう考えても、経験値が足りない。

 それまで傍観に徹していたコルナリナが、やや呆れた風にミカを見た。

「いきなりそう詰め寄られては、彼女も構えてしまう。順を追って話したらどうだ?」

「あ、そうですね……。つい気が急いちゃって」

 乗り出していた体を引いて、ミカはしゅんとした。

「ごめんね、ナツキちゃん。最初からきちんと話すから聞いてくれる?」

 そう前置きをして、彼女は事の次第を話し出した。

 そもそもその演劇というのは、祝祭を締めくくる毎年恒例のものなのだそうだ。演目も毎回同じで、史実にある龍族と魔族の争いをアレンジしたもの。メインはいわゆる、黒龍伝説だ。

 この劇では驚いたことに、役者や照明、はたまた舞台の構成・広報にいたるまで、ほとんどの仕事は成人前の子どもたちが担うという。毎年一般公募で王都に住む子どもが集められるのだが、運悪くつい先日、主役を演じるはずだった子どもが怪我をしてしまい、代役を立てなくてはならなくなった。もう一度公募する時間もないので困っている、という話なのだが。

 夏妃は恐る恐るミカに訊ねた。

「その劇の主役って、もしかして……」

「もしかしなくても、黒龍様ね」

 やっぱりというか、当然というか。

「恒例ってことは、人気のある大事な劇なんですよね。どうしてそれの主役が、私なんですか」

 髪色だけがその理由ではさすがに安易すぎる。

 そんな思いを読み取ったのか、ミカは苦笑して言った。

「もちろん、貴女の見かけが黒龍様に近いっていうのも理由の一つ。それは否定できないわ。でも、大きな理由は他にもあるの。

 まず、前提として。ナツキちゃんは龍族の一方的な保護に甘んじず、“ニンゲン”としてここにいたいと、そう思っているのよね?」

 柔らかい口調だったけれど、内容が内容なので一気に緊張した。心臓がうるさく脈を打つ。

「……はい」

 頷くと、ミカの隣でコルナリナが片手で頬杖をつき、鮮やかな笑みを見せた。

「だったら話は早い。そのための近道が“劇の主役”というそれだけのことだよ」

 あっさり言われて声を失う。ミカが困ったように息を吐いた。

「コルナリナ様こそ、過程を飛ばしすぎですよ」

「そうか?」

 小首を傾げた彼女は、真っ直ぐに夏妃と目を合わせる。金色の瞳は、目を逸らせない強い力を持っていた。

「君のその姿勢は評価しているよ。若く見えるが、大したものだ。だが、今の君の立場は情報操作のために一時的・一方的に与えられたもの。だから、きらびやかな通り名にも違和感があるんだろう? “救い姫”」

 表情がこわばるのが自分でわかった。彼女の言葉は怖いほどに夏妃を見透かす。だからこそ、痛い。

「だが、現実にそれが君に対する皆の評価であることに変わりはない。それが実際に起きたことと全て符合するか、なんてことは関係がない。良くも悪くもね」

 コルナリナは頬杖を外すと、人の悪い笑みを浮かべて椅子に深くもたれた。

「他人の与える評価なんていうのは勝手なものだ。誰だって、自分の都合の良いようにひとを解釈するのは常だろう。それに甘んじたくないのなら、他人の評価なんてものは食ってやれ。自分で行動を起こせ。それが一番手っ取り早い」

 あっけらかんとした言葉に、ぽかんと彼女の顔を見つめた。

「簡単に言いますね……」

「簡単だろう? 自分のことなんだから。他人と過ぎ去ったことに関しては、決して思い通りにはできない。だが、自分と先のことならいくらでも変えようがある」

 気負いなく言ってのける彼女は、実際にそうした生き方をしてきたのだろうと容易に想像できた。豪快なやり方で、鮮やかな笑顔で、困難をはねのけながら。それはひどく彼女に似合う。

「だから、この舞台は君のためにもなる。同時に、我々の利益にも。“救い姫”が舞台に立つとなれば、いい目くらましになるはずだ」

「……目くらまし?」

 唐突に交じった言葉に、目を瞬かせる。

「そう。龍族の王相手にあれだけ大それたことを仕掛けた魔族が、このまま引き下がるとは思えない。祝祭中は王都へのひとや物の出入りが増えるし、警備の上では後手に回りやすい。そこを突いてこないとも限らないだろう?」

 鋭い眼差しは好戦的な光を浮かべていた。ウィルがため息交じりに呟く。

「やはり、貴女の発案でしたか。そんなことだろうとは思ったけど」

「陽動は戦術の基礎中の基礎だ」

「祭りに戦術も何もないでしょう。だいたい、ナツキを囮にすると言うのが気に食わない」

「愚息は黙っていろ。邪魔立てするならたたっ切るぞ」

「まったく、血の気の多い……。反対するとは言ってないよ。決めるのは俺じゃない、ナツキでしょう」

 えっ、と驚いてウィルの顔を見た。過保護な彼のことだ、絶対に食い下がると思っていた。

 すると、「まあ、それもそうだな」とコルナリナもあっさり引き下がる。

 ウィルは夏妃と目を合わせると、真面目な表情のままで言った。

「ナツキが引き受けたいというなら、俺はそれでいいと思う。嫌だというなら、それも受け入れるよ」

「……どうしちゃったの、ウィル」

 思わず訊くと、彼は小さく笑った。

「俺はただ、決めただけだよ。どんな時でも、ナツキの味方でいるって」

 その言葉はとても心強いけれど、なんだか妙に気恥ずかしいのはどうしてなのだろう。

 にやにやと二人を見比べつつ、ミカが再び口を開く。

「ま、とにかく。目くらましっていうのは可能性の一つとしても、劇の主役を欠いたままでは困るし、ナツキちゃんの肩書があれば話題性も付加できるっていうのがこちらの考え。私たちも強制するのは本意じゃないから、あくまで仕事の依頼と考えて」

「仕事……」

 その言葉には、ひどく惹かれた。今まで、誰かの厚意に甘えるだけでここまで来た。自分の足でこの世界に立っていると胸を張るためには、確かに思い切った行動をする必要があるのかもしれなかった。

 成功も失敗も、自分の身一つにのしかかる。それは怖くて不安だけれど、気持ちが高揚するのも本当だ。

「私……やりたいです。いいえ。やらせてください」

 気が付いたらそう口に出していた。一瞬、不安が胸を掠めたけれど、皆がほっと頬を緩めたのを見て、これで良かったのだと思えた。

「よかった、本当にありがとう!」

 本当に切羽詰まっていたのだろう、ミカが拝む勢いで頭を下げる。室内が賑やかになると、隣りでユウがちょいちょいと袖を引いてきた。見れば、少し眉を曇らせて夏妃を見ている。

「本当にいいのか? 無理はしなくていいのだぞ」

「あはは。そう見えた?」

 本番を思えば気が遠くなるような思いがするのは変わらないから、そう思われても仕方ない。

「正直怖いけど。でも、誰も私のためだとか、こうするのが正しいとは言わなかったでしょう。私にできることの可能性を示してくれただけ。それって、すごくありがたいなって思ったの。だからできることをやって、みんなの役に立てるなら立ちたい」

 与えられた通り名に見合う自分なんて想像もつかないけれど、目標があるなら頑張れる。みんなのそばにいていい自分になりたい。

「そうか。なら、応援する」

 ユウは微笑んで、おもむろに言った。

「ところで、祝祭の劇といえば千六百年前の古語で書かれた台本をそのまま受け継いでいることで有名だが。ナツキ、お前古語の知識は?」

 さあっと青ざめていくのが自分でもわかった。

「こ、古語? うそ? 子ども劇でしょ!?」

「祝祭の伝統行事だぞ。演者が子どもだろうと関係ない」

「聞いてない!」

 日常的な言葉をようやく読み書きできるようになったところだというのに、古語など理解できるわけがない。すでに半泣きの夏妃を宥めるように、エルヴァが言った。

「大丈夫だよ、ナツキ。君の目の前に優秀な先生がいるからね」

 目の前? と首を傾げて視線を戻す。

「……まさかユウのこと?」

「まさかとはなんだ。私は仮にも王子だぞ。龍族の言語に通じていないわけがあるか」

 気分を害した風にそっぽを向いた彼に、慌てて謝る。

「ごめんなさい! それならお願い。私に古語を教えてください! 先生!」

「……ふん、仕方がないな。私も忙しいが、友人の頼みだ。時間を割いてやろう」

 そう言う彼の頬は完全に緩んでいる。だいたい、教師から逃げ回っている彼が忙しいわけはないのだが、突っ込んでもいいことは何もないので我慢する。

 コルナリナが一気にカップをあおり、にやりと笑った。

「誰の思惑がどう絡もうと、祭りは祭り。派手にやろうじゃないか」

 一難去ってまた一難、という言葉をかみしめながら、夏妃は引きつった笑みを返すので精一杯だった。




 ユウの言葉通り、その後ミカから渡された劇の台本は古語のみで書かれたもので、相当の苦戦を強いられている。

 しかし、果てがないように思われた分厚い台本も残り数ページ。気合を入れ直して、夏妃は再びペンを構える。

「よし。あともう少し、頑張ろう!」

「ほどほどにね。じゃあ私は、部屋に戻って片付けを続けるよ」

 エルヴァが手を振って踵を返すと、その背中を見送りながらユウがぽつりと言った。

「そうか。皆、明日の朝には城を発つのだったな」

「うん。私なんか身一つで来たから、荷造りの必要がなくって助かるよ。すごいよねえ、このお城のシステムって」

ひとりひとりの部屋に日用品や服が全て揃えられ、しかもぴったりと当人に合わせて設えられている。至れり尽くせりを通り越して、そら恐ろしい気分になるくらいだ。

「しかも、何着か部屋にあった服を貰えることになっちゃった。街に降りたら買わなきゃと思ってたから助かるけど、逆に悪いような……」

「迷惑をかけた詫びのようなものだと、父上も言っていたのだろう? 遠慮なく貰っておけばいい」

 しれっと言うユウに苦笑して、まあそうだねと頷く。

 明日の朝に城を出た後、夏妃はエルヴァやウィルと共に城下の【銀の杯】に再び逗留することになっている。祝祭が終わるまでは王都にいることになるが、この城ではいろんなことがあったせいで、随分長い間ここにいたような気分だ。

「やっぱり寂しいな。ユウにも会えなくなっちゃうもんね」

「祝祭には王族も参加する。会うのはこれきりではないさ」

「ユウは寂しくないんだ? ひどいなあ、友達になったのに」

 淡々とした態度に不満を覚えて、薄情者めと軽く睨む。それにも彼はすまし顔だ。

「会わなくなるからといって、関係が変わるわけじゃない。ほら、拗ねている間に訳を進めないと、あとで困るのはナツキだぞ」

「わかってますよー、だ」

 膨れつつ台本に目を落とし、また文章を追う作業を開始する。その合間、ぽつりとユウが呟いた。

「寂しくはないさ。そう間をおかずにまた会える」

「ん?」

「なんでもない。そこ、“あさひ”だ。その下が“叢雲むらくも”」

「え、どれ?」

 彼の言葉に対する疑問は、慌てて古語の確認をするうちにすっかり忘れてしまったのだった。

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