エピソード41 「そう言う訳で僕とロリメイドは美少女を拐かす」

ウェイトレス:「いらっしゃいませぇ! 何名様ですかぁ!」


自動ドアをくぐった途端、元気な声が、…出迎えてくれる。

何だか、凄く、…懐かしい。



翔五:「あっ、…2名、」


イキナリ、周囲の視線が、…突き刺さった。

いや、…理由は分っている。


この、妖しげな女子中学生の所為せい、、、で、ほぼ間違いない。



この子の名前は、野崎美穂のざきみほ

発展途上の慎ましやかな体型は、どちらかと言えばスラットしているし、ぱっちりした大きな瞳と、プルンとしたアヒル口のお陰で、確かに、標準を遥かに超えて「可愛い」…のだが、


店員さんの制服に負けてないメイドな衣装ドレスはド派手なオレンジで、しかもフリル付きの白いエプロン。 それにギリギリ崖っ縁な銀髪と、色々駄目押しの碧色コンタクト!


どうしたって、コミケ会場から抜け出して来たばかりの「気合いの入ったヒト」にしか見えないのは、痛し方ない。…もとい、致し方ない。



ウェイトレス:「こ、ちらへ、…どうぞ、」




あくまでも考え過ぎ、意識し過ぎなのかも知れないが、衆目は何故だか僕の方にも、ペタペタと、、、張り付いて来ている。



僕の名前は、星田翔五ほしだしょうご

背は160cmあるかないかで長身と言う程でもないし、どちらかと言えばメタボ体型、顔も平面で一重のつり目、お世辞にも格好良いとは言えない。 何処にでも居る、大して珍しくも無い、極普通のオタクである。 


ああ、要するに、

こんな僕が、こんな可愛い子を連れて歩いているのが、…イケナイんだね。



僕達は、まるで感染病患者が隔離されるがの如く、速やかに一番奥のテーブルへと案内されて、多少引き気味×興味津々の店員から、メニューの束を、…渡される。



美穂:「何かすっごい見られて無いっすか? 僕、そんなに可愛いっすか?」


深くは、…突っ込むまい、、、、




ここは、相模原駅から程近い、国道16号線沿いの、とあるイタリアン・レストラン。 僕達は、取り敢えず腹ごしらえと、コレからの事を相談する為に、アパートから程近い、このレストランを訪れていた。 何よりも激安な価格設定が嬉しい。



美穂:「いくら迄、頼んでいいんすか?」

翔五:「好きなの頼んで、良いよ。」



僕は、言いながら、財布の中をチェックする、、、

千円札が6枚と、…小銭が少々、

当然、クレジットカードは…持ってない。


初月給迄、…後一週間。



美穂:「何だか、一寸ちょっと、切ないっすね。」


何時の間にか、銀色メイドが、…覗き込んでいる。

僕は、黙って、…財布をしまう。




美穂:「取り敢えず、ミラノ風ドリア頼んでも良いっすか?」

翔五:「ああ、」


美穂:「それと、ドリンクバー、もらっても良いっすか?」

翔五:「ああ、」


美穂:「星田サンはナニにするっすか?」

翔五:「ペペロンチーノかな。」


僕は、メニューを畳んでテーブルに置く。




翔五:「…ところで、どうして、野崎さんが此処に居るの?」

美穂:「瑞穂さんからの指令っす。」



鴫野瑞穂しぎのみずほ、とは

「前世」でこの銀色メイドを飼っていた、地上最強の美女の事である。


「前世」での、僕らの関係を強いてたとえるなら 、、

瑞穂にとって僕は、…出来の悪いシスコンの弟で、

僕にとって瑞穂は、…どうしようもないブラコンの姉で、

勿論二人の間に、一切の血の繋がりは、無い。




美穂:「次に「転生」したら、星田さんに会って、先ずは「思い切り殴れ」って言われてたっす。」


何故、…思いっ切り殴る? 必要が有る??




翔五:「…野崎サンは、「前世」の記憶を覚えているの?」

美穂:「そうみたいっすね。 何だか急に3歳若返って、得した気分っす。」


僕も、…こんな風に、あ軽く、生きて行きたい。



翔五:「…でも、よく僕の場所が分かったね。」

美穂:「星田さんの居場所が書かれたノートが、指定された「空家」のポストに保管されてあったっす。」


翔五:「そんなの、…有るんだ。」

美穂:「持って来たっすよ、見るっすか?」




ハードカバーのA4キャンパスノートには、確かに、高校時代から始まって、先は10年以上の未来迄、僕の消息が、事細かに綴られてあった。 まるで、ストーカーの、…観察日記ミタイ。



一瞬、僕は、得体の知れない怖気おぞけに、…まとわり憑かれる。


しかし、おそらく、瑞穂が以前「僕の未来に起こる事を大体把握している」と言っていたのは、つまり、こういう事だったらしい。



翔五:「これ、誰が、書いたの?」

美穂:「アリアさんっす。」



アリア、とは

「前世」で僕の事を飼っていた、世界で一番可愛い生き物の事である。。。。。



途端に、僕は、甘酸っぱい情動に、…心揺らされる!



翔五:「へへっ、アリアったらぁ、こんな風に僕の事、…観察してたんだぁ〜」

美穂:「星田サン、…キモいっす。」




翔五:「それで、コレからどうすれば良いのかな。」


出来れば、直ぐにでもアリアを探しに行きたい、処だが、、



美穂:「直ぐに瑞穂サンを訪ねる様に言われてたんすけど、…」

美穂:「一寸ちょっと問題が有るんスよ。」


「前世」で彼女達と出会ったのは、ロンドンのオックスフォード・サーカスなのである。




翔五:「先ずはイギリス迄、どうやって行くか、…だな、」


僕は、テーブルに肘をついて、軽く溜息をついて、…



美穂:「いえ、この時間上では、瑞穂さんは未だ日本にいるっす。」


途端に、僕の顔が、パッと明るくなった、…に違いない。



翔五:「それなら、何とかなるんじゃないの?」


銀色メイドは、テーブルに肘をついて、…



美穂:「この時間上では、瑞穂さんは、まだ覚醒してないんすよ。」


銀色メイド、アヒル口をトンガラかせる。



翔五:「覚醒?」

美穂:「ほら、ノートに書いてあるっす。」


美穂:「アリアさんが瑞穂サンに始めて声をかけるのは、今から3ヶ月後なんすよ。 つまり、瑞穂サンは、まだ、星田サンの事を知らないんすよ。」


銀色メイド、キャンパスノートのページをめくって、僕に、見せる。



翔五:「じゃあ、アリアは? アリアは僕の事を覚えてる筈だよ。」


アリアは、コレ迄に僕が3000回以上「転生」した、全ての記憶を、覚えているのだ。



美穂:「はい、確かにアリアさんもだ、日本に居る筈っす。けど、」

美穂:「アリアさんが目覚めるのは、恐らく2週間位、先っす。」


翔五:「なんで?」


美穂:「何しろ3000年分の記憶をリロードするっすから、それなりに時間がかかるみたいっすよ。」



翔五:「アリアの居場所は分かってるの?」


美穂:「残念すけど、ノートには「個人情報」が特定される様な内容は書かれてなかったっす。」


確かに、ノートの内容は、知ってる人間がそれと解って読まない限り、只の「中二病患者が書いたSFファンタジー小説」にしか思われない様に、書かれてあった。



翔五:「じゃあ、どうやって、瑞穂と連絡をとる手筈だったの?」

美穂:「町田に有る「サカモトなんとか」って言う、雨水調整研究施設を訪ねる様に言われてたっす。」


翔五:「雨水調整研究施設?」


僕は、現地迄の電車代とバス代を目算する。 財布の中身は二人分の遠足代としては心許ないが、まあ、なんとか行って帰ってくる事は出来るだろう。



翔五:「取り敢えず、駄目元で行ってみるしかないか。。」


しかし、行ってみて、なんの収穫も無かったら、、、



翔五:「誰かに金、借りるしか無いかな〜、」


僕には、当然、金を貸してくれる様な友達は、…居ない訳で。



美穂:「アリアさんが目覚める迄、2週間、待つっすか?」


翔五:「多分、…それじゃ間に合わなくなるから、ワザワザ野崎サンを僕の所に寄越よこしたんだろうな。」


美穂:「ナニが間に合わなくなるんすかね?」




時間との勝負、と言うのは、

恐らく、敵=メルカバーの襲撃迄の時間、と言う事でまず、間違いないだろう。


多分、…メルカバー達も、今は僕の事を忘れている筈。 と言うか未だ知らない筈。

奴等に僕の事を教えるとしたら、濱平万里ワイルドキャットしかいない。



濱平万里、とは

「神との戦争」の時から、ずっと僕と一緒に戦って来た仲間で、…とうとう前回、あんまりにも進展が無い「世界」に愛想を尽かして敵に寝返った、肉食系お姉さんの事である。


彼女もアリアと同様、…3000年分の記憶をリロードしなきゃならない筈だから、2週間位は目覚め無い筈。 つまり彼女が目覚めて、敵に寝返られて、…



翔五:「…敵が襲ってくる迄に、戦う準備を整えておけって言う事なんじゃないかな。」


それにしても、…



翔五:「…オーダー、取りに来ないね。」

美穂:「…もしかして、ブザー鳴らさないと来ないんじゃないっすか?」







ウェイトレスは、オーダーを復唱して、それから丁寧にお辞儀をして、そそくさと厨房の奥へと戻って行った。



美穂:「ドリンクバー取ってくるっす。 何か飲みたいモノ有るっすか?」

翔五:「良いよ、僕、頼んでないし。」


美穂:「星田サンの奢りなんすから、遠慮しなくっても良いっすよ。」

美穂:「幾らでもおかわり自由なんすから、こっそり二人で飲んだ方が、お徳っす。」


いや、会社帰りの22歳が、女子中学生と一つのドリンクバーを分け合っている姿は、どっからどう見ても、怪しいし、モロモロ、…不味いだろう。



翔五:「じゃあ、…コーラで、」




ウェイトレスが、スパゲティとドリアを運んで来て、チラチラと僕達の事を観察しながら、そそくさ厨房の奥へと引っ込んで行く。



翔五:「何だか、注目されてるなぁ〜」


と言うか、何だか、犯罪者扱い?されてる気分…


銀色メイド、熱々のドリアをスプーンで掬(すく)って、ふーふー吹いて冷ます。

つい、じっと、その仕草を見ていると、…



美穂:「何すか? もしかしてドリア食べたいんっすか?」

翔五:「いや、猫舌なのかなって、思って、…」


美穂:「ここのドリアは本当に熱いんっすよ。 舐めてたらマジで上顎、火傷するっすよ。」


翔五:「ふーん、」

美穂:「食べてみるっすか?」


銀色メイド、フーフーしたドリアを、僕の口の前に差し出す。



翔五:「良いよ、…何か悪いし。」


一体、僕は、周りからどんな風に、…見られているのだろう??



美穂:「星田サンって結構遠慮しいなんすね。 じゃあ、僕もスパゲッティ一寸ちょっともらうっす。 それでお相子あいこっす。」


翔五:「…そう言う、事なら、」


僕は未だ手を付けていないペペロンチーノの皿を、銀色メイドの方に寄せて、



美穂:「はい、あーん。」


銀色メイドが、僕の口の中に、ドリアの乗ったスプーンを突っ込む。


何故だか、僕は、背後に、居る筈の無い金髪の少女の「殺気」を感じつつ、



翔五:「確かに、…熱々だね。」







美穂:「でも、戦いの準備って、具体的にナニすれば良いんすかね?」


銀色メイドは、何の躊躇ためらいも無く、僕が舐めたスプーンでドリアを口に運ぶ。



翔五:「そりゃ、先ずは「聖霊」を集めておけって事なんだろうな。」

美穂:「そう言えば、忍ケ丘さんって、同じ会社なんすよね。」



しのぶ丘芽衣がおかめい、とは

僕の「聖霊」の1人で、同じ会社の先輩。

「前世」で芽衣は僕に「好きだ」と告白し、僕は返事を伝える前に、…死んだ。



翔五:「やっぱ、死亡フラグだったんだよな〜、…あれ、」


僕は、完全に「前世」の芽衣の事を思い出していた。 そして、先週末の金曜日に「再会」した、此の「世界」の芽衣とどう折り合いをつければ良いのか、…迷い始めていた。



翔五:「芽衣達を、また戦いに巻き込むのは、…」

翔五:「本当に正しい事なのかな?」


翔五:「この「世界」じゃ、彼女達は自分が「聖霊」だって事を、忘れてる。」

翔五:「今のまま、忘れた侭の方が、幸せなんじゃ、無いのかな?」


翔五:「どうせ、メルカバーには敵わないんだし。」

翔五:「「聖霊殺しの武器」も通じないし、」

翔五:「無駄に、痛い思いをする必要は、…無いんじゃないのかな。」



翔五:「大体、逃げ回って「転生」を続けても、周りの皆に辛い思いを繰り返させるばっかりで、本当は、良い事なんて、一つも無いんじゃないのかな。」


翔五:「一体、何の為に、僕は、「世界」を滅ぼさないでおこうと、してたんだっけ、…だんだん解んなくなってきた。」



翔五:「それに、万が一メルカバーに勝てたとしても、結局、僕が寿命で死んだら、また「世界」は過去に戻ってやり直す事になって、結局、先に進む事ができないんだ。」


翔五:「最初っから、なんか間違ってるんじゃ無いのかな、…このシステム。」


翔五:「もう、いっその事、メルカバーや万里の言う通りに、この「世界」を終わらせて、新しく最初から作り直した方が、…良いんじゃないのかな?」



さも、分った風な口上こうじょうは、全部、濱平万里ワイルドキャットの受売りだ。

自分の口から出てくる言葉には、自分らしさの欠片かけらも無い。


そもそも、僕の、自分らしさって、…何なんだ?




美穂:「星田さん、僕の事、何だと思ってんすか?」

美穂:「一介の高校生っすよ、」


美穂:「そんな難しいことを相談されても解らないっす。」


そう言う中学3年生の瞳は、




美穂:「それとも、3歳若返って中学3年生の女子に、優しく慰めてもらいたいとか、もしかしてそう言う、ロリコン的発想なんすか?」


何故だかちょっと、…キュンキュンしている?



美穂:「それなら、仕方ないから甘えさせてあげるっす。 宇宙の平和のために僕が身体を張って犠牲になるっす。」


テーブルを乗り出してキスしようと唇を突き出して来た、銀色メイドの…



翔五:「いや、遠慮しとくよ。 …それに犠牲って何だよ。」


僕は、銀色メイドのオデコを、押さえつけて、なんとか、その暴挙を、瀬戸際で…食い止める。


ウェイトレス達が、僕達を観察しながら、…何やらヒソヒソ密談している?




美穂:「大体、大人の人は何でも難しく、考えすぎなんすよ。」

美穂:「結局、星田さんは、何がしたいんすか?」


翔五:「…、何がしたいんだろうね。」




どうすれば良いのかは、僕にはっくに…解ってる。

アリアは、そう言っていた。 でも、本当に解っていたのだろうか?


きっと、僕は、「神との戦争」で、沢山の悲劇を見て、瑞穂達の死を体験して、

きっと、そんな事は、もう嫌だと、…思ったのだろう。


だから「神との戦争」を止めて欲しい、「世界」を壊さないで欲しい、と願ったに違いない。 でも、その事の本当の意味を、僕は本当に解っていたのだろうか?



美穂:「忍ヶ丘さんは、仲間なんすよね。」


どうなんだろう。 今となっては、それすら、半信半疑である。



彼女の、彼女達の正体は「聖霊」、神の造り賜うた「世界」と言う名のプログラムの一つの機能、


その肉体は、芽衣のコピー。 「聖霊」のプログラムが、芽衣のDNA情報を使って、芽衣そっくりの「人形」を作り出しているに過ぎないのだ。



タワーブリッジでみた「マネキン」や、

ボローマーケットでみた「天使像」と同じ、


だから、何度壊れても、プログラムが、自動的に修正、修繕する。

だから、彼女達「聖霊」は不死身なのだ。


直接、プログラムを破壊する「聖霊殺しの武器」を使わない限り、「聖霊」を物理的に壊す事は不可能。



そして、神のプログラムは脳内のシナプスの連結も全て再現してしまうから、芽衣の「記憶」や「人格」もそっくりそのまま、引き継いでいる。


エマが「聖霊」を復活させる為に、自分の命を「聖霊の卵」に与えた時に、それまでの「記憶」と「人格」がコピーされたのも、きっと同じ理屈なのだろう。



エマ、とは

僕の「聖霊」の1人で、子猫みたいな匂いのする13歳の女の子。

「前世」で、僕は、何度もエマに命を救われて、何度もエマに心を慰められた。 料理が上手で、添い寝が上手で、何時でも傍に居てくれて、そして、サヨナラも言わずに、…居なくなった。



僕は、もう一度エマに会いたいと思う。

でも、エマは、芽衣は、「聖霊」達は、本当は、どう思っていたのだろう?


彼女達「聖霊」にも「心」とか言う「モノ」が有って、自律的に僕を好いてくれていた、本当に、…そう思っても良いのだろうか?


それとも、プログラムが覚えた通りに、只の機能として、「人形」の様に、僕を慰めてくれていた、…それだけの事なのだろうか?




翔五:「彼女達は「人間」じゃないんだ。変な言い方だけど、もしかしたら人工知能的な、ロボットみたいなもの?」


そう言いながら、僕は考える。

…「人間」と「聖霊」の違いって、一体何なんだろう。



翔五:「根本的に、仲間とか、友達とか、そういう関係になれるのかな?」


例えば、携帯のナビゲーションシステムの事を「友達」と思って話しかける事は、正常な思考なのだろうか?


だから、万里は、しきりに「気持ち悪い」と言っていたのだろう。



美穂:「ロボットだと、仲間になれないんすか?」

美穂:「漫画やアニメじゃロボットはみんな友達じゃないっすか。」


でも、僕は、そんなモノと、どんな風に接すれば良いのか、解らない。



美穂:「良いじゃないっすか、ロボットの仲間。」

美穂:「星田さんの事を護ってくれるんすよね、最高じゃないっすか。」



美穂:「それに、もしかしたら、お金も貸してくれるかも知れないっすよ。」


銀色メイドが、国道沿いの歩道をとぼとぼと歩いていく芽衣を、…発見する。



美穂:「捕獲に行って来るっす!」







そうして、無理やり連れ込まれる、…忍ケ丘芽衣、



芽衣:「なんなん?」


芽衣、顔が、真っ赤。。



美穂:「良いから、忍ヶ丘さんも座るっす。」


銀色メイド、関西弁の地味な眼鏡っ娘を、自分の横に、無理矢理、…座らせて、



美穂:「取り敢えず、今、いくら持ってるっすか?」

芽衣:「ひぃ、もしかして、あんたら、…たかり?」


芽衣、半泣き。。。



翔五:「あのさ、話の持って行き方、…間違ってるよ、うん、」


こんなオドオドした芽衣を見るのは、一寸(ちょっと)何だか新鮮な気がする、


でも、僕はすっかり思い出していた。

初めて会った頃の彼女は、こんな感じだった。 そう、…こんな感じ。



そんな、芽衣に、僕は、何を、何から、説明すれば良いのだろう。

普通の人間なら、キット、こんな話、信じる訳が無い。でも、



翔五:「取り敢えず、話聞いてもらっても良いですか?」


僕は、取り敢えず、「3年後から始まる物語」を、…語り始めた。

勿論、芽衣達が「人間」では無い、そのくだりは、伏せたままでだ。







芽衣:「…面白いけど、」

翔五:「…けど、?」


芽衣:「ウチ、アンタの事、好きとか、そう言うのは無いと思う、…今はまだ、」


芽衣、初心うぶなネンネミタイに、…真っ赤になる。

それでもって、チラチラと、美穂の事が、…気になるらしい。



美穂:「ああ、僕の事は気にしないで良いっすよ。」

美穂:「僕は、星田さんの事、恋愛対象とか全然、思ってないっすから。」



芽衣:「会社の通用口で、キスしてたって、…」


やっぱり、…噂になってんだ!



美穂:「あれは、星田さんの記憶を取り戻す為に「仕方なく」やったっす。」


仕方なく、…言わなくても良いじゃん!




芽衣:「ウチも、キスしたら、…思い出すんかな、その、星田君のうてる事。」


美穂:「試してみるっすか? 僕、女の人とキスするのは、流石にちょっと抵抗あるっすけど、軍資金の為なら、…我慢するっす。」


軍資金って、…動機が不純すぎるだろう!




芽衣:「や、無くって、…星田君と、…キスしたら、」


翔五:「えっ、僕と?」


芽衣:「そやって、ウチが星田君の事、前世で好きやったとしたら、もしかしたらって、…思ただけ、」



美穂;「良いっすね、やっちゃいましょう。 是非やっちゃって下さい!」


銀色メイド、再び、瞳が、キュンキュンしている??




芽衣:「えっ、言うてみただけ、無理、ウチ、キスなんて、それに、こんなトコで、」


何処かで、ウェイトレスが、お盆を落とす音がする。。。


もう、当分、この店には、…来ない。



美穂:「じゃあ、星田さんのアパート行きましょう!」


芽衣:「あっ…!」


芽衣、真っ赤になる? なんで??


もしかして、この間、酔い潰れた僕を運んでくれたのって、彼女だから、

その時に、何か言った? 何かした? 僕、なんで覚えてないの??



芽衣:「ウチ、帰る。」


芽衣:「あの、もしかして お金無くて、困ってるんやったら、貸したげる。」


芽衣、財布から、1万円札を取り出す。



翔五:「待って!」


席を立ちかけた芽衣を、僕は、呼び止めて、



芽衣:「えねん、なんや知らんけど、ちょっと 楽しかったから。」


彼女は、顔を真っ赤にして照れながら、微笑む。




これが、ロボット? プログラム??

こんな、可愛らしい女の子が?


そんなの、そんな事、もう…どうでも良かった。


僕は、この子が、好きなんだ。

それだけで、この子を独り占めする権利が、…僕にはある筈!



僕は、いつの間にか、芽衣の腕を掴んでいた。




翔五:「お願い、僕と、一緒に居て。」


翔五:「僕を、…助けて。」



芽衣は、逃げ出そうと震えながら、…


それでも、躊躇して、…


それから、黙ったまま、…


こくりと、…頷いた。




銀色メイドが、ブザーをならす


美穂:「すみませーん、イタリアン・ハンバーグとサラダのセット、追加お願いするっすー。」







結局僕達は、ほぼ、芽衣の奢りで、

追加1時間かけて、激安イタリアンを腹一杯、…平らげた。


それで、明日の朝一番で、町田に在るらしい「サカモトなんとか」と言う雨水調整研究施設を訪ねてみる事を決める。



翔五:「そのノートを残しておいてくれた位だから、他にも手掛かりが残ってるかも知れないしな。」


美穂:「それじゃ、朝8時集合って事で、」


芽衣:「えっ、もしかしてウチも一緒に行くん?」

美穂:「当然っす。」


芽衣:「ええ、明日会議有るし、…無理、」


美穂:「会議と宇宙の平和、どっちが大切なんすか?」

芽衣:「えっと、会議かな。」



翔五:「野崎サン、あんまり無理言って迷惑かけちゃ悪いし、それに明日は調べに行くだけだから、先ずは二人で行って見ようよ。」


僕は、コバンザメの様に芽衣にぶら下がる美穂を…ひっぺがす。



美穂:「しょうが無いっすね。」


美穂:「じゃあ、家に帰ると色々と面倒なんで、今晩、星田サンちに泊まって良いっすか?」


芽衣:「へっ?」


何故だか、芽衣の顔が赤くなる。



翔五:「いや、不味いだろ。 女の子が男の一人暮らしの部屋に来るのって、」

翔五:「それに帰んないと親が、心配するんじゃないの?」


美穂:「5分おきにメールが送られて来るっすから、携帯は電源切ってあるっす。」

美穂:「絶対帰ったら、急に変になった娘を病院に連れて行ったりとか、監禁されたりとか、本気で有りそうなんで、ウチの親。」


もしかして、既に、捜索願とか、出されてないだろうか?



美穂:「と言う訳で、星田さんち行っていいっすよね?」

翔五:「ううっ…」


僕、色々、我慢出来るだろうか、…

それに、なんで、コイツ、こんなに嬉しそうなんだ?



美穂:「それとも、星田サンは私が泊まると困るんすか?」

美穂:「何か、見られちゃイケナイモノが有るとか? 男の人の部屋って「そう言うの」有るんスよね!」


翔五:「別に、無いよ。」


美穂:「本当っすか? 家捜ししても良いっすか?」

翔五:「そんなの事して、どうすんだよ。」


美穂:「女だって、興味有るっす。」

翔五:「それってやっぱり不味いよ。 男と女が、密室で二人きりになって、その、…変な気分になったら、」


美穂:「まあ、そういう流れになったら、そういう事で、僕は構わないっす。」

翔五:「僕は構うよ。 大体お前は中学生なんだろ、多いに駄目だろ。」



芽衣:「ウチ来る?」


翔五:「えっ、?」

芽衣:「一応、親が泊りに来た時用の布団一組あるし、」



翔五:「いいの?」

芽衣:「星田君は駄目、野崎サンだけに決まってるやん。」


翔五:「そう、…ですよね。」


美穂:「あざーす。 それじゃあ、お邪魔するっす。」



翔五:「あ、あのさ、…せ、」


…「先輩」、と言いかけて僕は、



翔五:「めい、…、」


僕は、思い切って、下の名前を、呼び捨てにした。



芽衣:「えっ、…」

芽衣:「…はい、」


芽衣は、真っ赤になって、僕の事を、…見ている。


我ながら、…凄い勇気だったと思う。



芽衣:「「前世」では、…そう、呼んでたん? ウチの事。」

翔五:「…うん、」


僕は、嘘をついた、


でも、3000数百回も繰り返したのだ、一回位、こういうのがあっても良いと…思う。



翔五:「良かったら、連絡先、教えてくれる?」


芽衣は、黙ったまま、こくりと頷いて、ポストイットに、小さな、でも綺麗な字で、さらさらと電話番号と、メアドを書いて、…僕に手渡してくれた。


芽衣:「はい、」



翔五:「ところで、せん、…芽衣って、何処に住んでるの?」

芽衣:「星田君と、…同じとこ、」


翔五:「えっ?」


芽衣:「だって、彼処あそこ、会社の借上げアパートやんか、」

芽衣:「女子社員用の独身寮の代わりミタイなもんやもん。」


知らなかった。



翔五:「確か独身寮って、もっと立派なのが有るって聞いてたんだけど。」

翔五:「同期もそっちに入ってるって。」


芽衣:「男子寮はね、でも女子はアパートなんよ。女子で寮に入ってんの少ないから。」


芽衣:「星田君はなんで、」

翔五:「あっ、…翔五、で良いですよ。」


何時の間にか、芽衣の顔は、蕩けるみたいに、…甘甘あまあまになっている。



芽衣:「…しょ、ショーゴ…君は、なんで男子寮に入らんかったん?」


翔五:「最初、実家から通おうとしてて、入社直前に寮に申し込んだら、もう空いてなくって。 今のアパートを指定されたんです。 6月に結婚して寮を出て行く先輩が要るから、それまでの暫定っていう事で。」


芽衣:「ふーん。 そうなんや、…ショウゴ、」



美穂:「何か、見てて初々しいっすね〜。」

美穂:「なんつっか、付き合い立てのカップルみたい?」


美穂:「微妙な距離感が、堪んないっすね。」


芽衣:「そこ! 変な考察せえへんの!」







夜、1人になってから、僕は、いたずらに、

一つだけ覚えていた「Webメールアドレス」に宛てて、言葉を綴ってみる。



翔五:「こんな事を、お前に言えるのは、…僕しか居ないよな。」



件名:「お願い」

本文:「僕と一緒に、戦って。」


翔五:「送信、」



まさか、本当に送信されるとは思わなかった。




そして一分後、

返信が、…届く




件名:「Re:お願い」

本文:「貴方は、誰?」

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