エピソード39 「そして僕はどうすれば良い?」

濱平万里の連れている子供、…確か、カイトとか言った。

「聖霊」を倒す為に開発された最終兵器…「エインヘリャル」

内蔵された「聖霊殺しの武器」…「トルコ石の蛇」


その、「カイト」の「トルコ石の蛇」が作動して、マグネシウム・フラッシュの様な「碧い閃光」が辺りを包み込み、一瞬にして、「聖霊」が 塩の粒になって、…消滅した。



翔五:「ナニが起きたんだ?」


未だに、僕には状況が理解出来ていない。



激しい「メルカバー」との戦闘、僕達は奥の手も通じずに…地面に這いつくばっていた。

僕は瀕死の重傷を負って、今トリアーナを握る此の右手は…芽衣に治してもらったんだ。


それで芽衣は、…何処へ行ったんだ?




エマは? 朋花は? 瑞穂は? アリアは?

みんな、僕を残して、何処へ行ったんだ?


一体、此処は、何処なんだ?

僕だけが、また、見知らぬ「世界」に転生して来たのだろうか?



辺りには「聖霊」達の痕跡である、真白な「塩」が、まるで粉雪の様に、…降り積もっていた。







万里が、近づいて来る。



万里:「よう、翔五、…目が覚めたか?」


此の女は、…現実なのか?

今、僕の目の前で起きた事は、…現実なのか?



すっかり焼け野原となったフォロ・ロマーノ跡の溶岩台地には、

砂のゴーレムも、宙に浮く四人のメルカバー達の姿も見あたら無い。


今や風は止み、大地は凪いでいた。


ローマの町を燃え尽くす大火の灯火が揺揺ゆらゆらと、微かな影を、僕の目の前に…落とす。



吹き消された「聖霊達」の甘い残り香だけが、僕の周囲に残留して、

心配そうに、僕の不安を、…おもんばかっているミタイに。




翔五:「今のは、一体何、…だったんだ?」


万里:「カイトの「トルコ石の蛇」は、「聖霊」を「塩」に変えちまうんだ。」

万里:「ソドムとゴモラを滅ぼした光みたいにな。」


ショートのウルフカットな野良女ワイルドキャットが、穏やかな、でも冷たい口調で…言い放つ。



翔五:「みんなは? 瑞穂や、エマは? 朋花や、芽衣は? 何処に行ったんだ?」



万里は、哀しい目で、僕の事を、…見詰める。

僕には、地面に降り積もった白い結晶しか、…目に入らない。





万里:「なあ、…翔五、」

万里:「何時迄も、そんな気持ちの悪い事、…言ってんなよ。」


万里:「あいつら、っくの昔に死んでんだぜ、」

万里:「忘れたのか?」


僕には、何の事だか、…分らない。

イヤ、本当は、叱られた子供ミタイに、本当の自分の罪を…解っている。





万里:「違うか、忘れたかったんだな。」

万里:「だから、記憶を、…消したのか。」


ワイルドキャットの語調は、まるで彼女に似つかわしく無く、…優しい。



万里:「「聖霊」に、あいつらの「記憶」と「人格」をコピーさせて、」

万里:「あいつらの「真似」をさせて、」


でも、その言葉は、どんな武器よりも、僕の心を、深く、…えぐる。



万里:「それで、寂しさを紛らわしてたんだよな。」

翔五:「ナニを、言ってる?」


本当は、僕は本当の自分の罪を…知っている。

塩の台地を濡らす、無自覚な僕の「涙」の意味を、…知っている。





万里:「なあ、いい加減目を覚ませよ。」

万里:「翔五、あいつらは、本物じゃない。」


万里:「只の「聖霊」、只の「プログラム」だ。」

万里:「お前が、覚えさせた「言葉」を使い、お前が覚えさせた「仕草」で振る舞う、」


万里:「只の、…「人形」じゃないか。」







メルカバー達のいた空間に、朧げな陽炎が、…復活し始める。


ミスト状のエクトプラズムが吸い寄せられて、ヒトの形を形成する。

中身がどうなっているかなんて、分らない。でも、見た目は、普通の人間と変わらない。


4人のメルカバーが、…復活する。




揚羽あげは色の少年が、哀れみの目で、地面に這いつくばった侭の僕の事を…見下ろしている。



翔五:「そうだ、聖霊は、不死身だから、」

翔五:「エマ達だって、…復活する筈!」



万里:「悪いな、でも、トルコ石の蛇に焼かれた「聖霊」は、二度とは、…復活しない。」


翔五:「なんで? じゃあ、コイツらは、一体何なんだ?」




地面に降り立った四人の男が、

手を伸ばせば届く程の至近距離で、僕の事を…取り囲む。


僕は、とうとう追いつめられた「苛めのターゲット」ミタイに、

ただ、震え、怯え、…厭忌えんきする。



万里:「そいつ等は「天使」だ、…「聖霊」じゃない。」


…分んない。



イアン:「翔五、元々「聖霊殺しの武器」は僕達のモノなんだ。人間のモノじゃない。 だから僕達にダメージを与える事は出来ても、僕達の存在を消す事はできないんだよ。」


翔五:「分んないよ。」

翔五:「何言ってるのか、分んない!」





僕は、たった「一人きり」で、4人のメルカバーに囲まれていた、



万里は、それと、カイトとか言う子供は、

囲みの外から、無関係を装うクラスメイトみたいに、じっと僕の事を、…眺めてる、




翔五:「裏切ったのか?」

翔五:「最初から、…裏切ってたんだな?」


僕は、恐怖を紛らわせる為に、…吠える。

意味も無く、関係のない奴等やつらにまで、…吠える。





万里:「ああ、…そうだ。」


万里が、冷えきった言葉で、僕を、…苛める。



万里:「お前、考えてみた事有るか?」

万里:「此の世界は、お前が死ぬ度に過去に戻って繰り返すんだ。」


万里:「それで、お前は、ちょいとばかし見栄えのいい「人形」をはべらせて、ハーレム気取りだ。」


万里:「それで、死んだら、繰り返し、死んだら、繰り返し、」


万里:「お前は、何度でも何度でも、「瑞穂達との思い出」を繰り返して、」

万里:「寂しさを紛らわす。」


僕の頭には、どんな言葉も入ってはこない、

僕の心には、どんな思いも届きはしない。




万里:「なあ、考えた事有るのか?」

万里:「お前、仮令たとえ「聖霊」に殺されなくたって、何時かは寿命が尽きて死ぬんだぜ。」


万里:「そうしたら、やっぱりまた、同じ所から繰り返すんだろ?」

万里:「楽しかった、ハーレム生活の思い出を、」


万里:「偽物の「人形ごっこ」で繰り返すんだろ。」


僕の身に、一体ナニが起きているんだろう?

僕の身に、一体ナニが起こるのだろう?


でも、構いやしない。。

こんな「世界」は、もう要らない。




万里:「お前は良いよな、楽しそうだよな。」


万里:「でもよ、無限の苦しみに付き合わされるモンの身になって、…考えた事あんのか?」


万里:「カイトは、その度にこんな、バケモノみたいな身体に改造されて、大事な友達を裏切って殺さなきゃなんない。 怖い思いをしなきゃなんない。」


万里:「それをずっと傍で見ていて、知っていて、覚えている、」

万里:「俺の気持ちを、考えた事あんのかよ、…」


分んない。

イヤ、本当は、叱られた子供ミタイに、本当の自分の罪を…解っている。




万里:「お前は、最初から、」

万里:「此の世界をドウコウしようなんて積りは無かったのさ。」

万里:「無限地獄の「呪い」を押し付けられて、」

万里:「苦しむのは俺達ばっかりで、」



万里:「お前!「お嬢」の気持ち、…考えてやった事、あんのかよ!」




翔五:「アリア…、」




万里:「なあ、翔五、…此の「世界」は疾っくに終わってんだ。」


万里:「お前の大事な女達は、疾っくの昔に、」

万里:「最初の「神との戦争」で、死んじまってんだ。」


万里:「お前だって、本当は覚えてるんだろう?」

万里:「本当はサミシくて堪らないだろう?」


万里:「いつまでも、寂しい思いを繰り返す為に「転生」するのは止めろ!」

万里:「もう、お前のマゾフィストな趣味に「世界」を付き合わせるのは止めろ!」


万里:「この、…変態野郎!」







そして、僕は、小さな、輝きを見つける。

しかし、確かな、…輝き、



それは、星の光を集積する夜光虫の様に、おぼろげに、ともって、


やがて、メルカバー達と同じに、…

ヒトの形を作って、エクトプラズムを集める。




翔五:「…アリア、」


イアン達が、途端に、…ザワメキたつ。



イアン:「やっぱり、その「聖霊」を超えていたミタイだね。」

イアン:「道理で「聖霊殺しの武器」が完全には作用しない訳だ。」



空間に出現した、生まれたままの姿の「アリア」が、

ゆっくりと、首をもたげて、


大きな瞳を…開く。




翔五:「アリア!」


僕は、アリアの元へ駆け寄ろうとするが、


立ち上がった僕を、メルカバー達が、…遮る。



翔五:「アリア!」



それでもしかし、「天使」達の囲みを振り切って駆け出す僕の身体を、


人間側最終兵器エインヘリャルが、力任せに、…叩き伏せる。




翔五:「ぐぁ…っ、」


僕は、あっけなく地面に這いつくばって、


その僕の足首を、カイトが、…踏み折った!



骨の砕ける音:「バキっ!」

翔五:「ぐぅうっ…、」


それでも、尚、這いずろうとする、僕の目の前で、




弱り切って、うずくまる、アリアの背中に、万里が、「ロンギヌスの槍」を、…突き立てた。


ビクリ! と、一瞬アリアの身体が痙攣して、…



万里:「悪いな、お嬢、…」

万里:「こんな事は、もう、これっきりで、…終わりにしような。」



僕達二人は、地面に這いつくばったままで、お互いの存在を、…確かめ合う。



アリア:「…ショー、ゴ、」

翔五:「…アリアぁ、」







イアン:「翔五、全く、君は面白い「ヒト」だね。」

イアン:「「最初から期待を抱かなければ、絶望する事もない」…と言うのが、君の信条だったんじゃないのかな? 「呪文」を護る為の、君の最後の「心の砦」。」


イアン:「でも、結局は、君もヒトの宿命から、逃れられ無かった訳だよ、」



イアン:「ヒトの本質は「神」と同じなんだ。 ヒトは、一人では生きられない。「神」は、その「寂しさ」を紛らわせる為に「世界」を作った。」


イアン:「ヒトもまた「寂しさ」から逃れる事は出来ない。「寂しさ」を求めずには居られない。だってそれが「世界」の存在理由だから。」



イアン:「まるで、…「サミシタガリヤ」だね。」



イアン:「でも、万里が言った様に、所詮は「造り物」、君の「妄想」に過ぎない。」

イアン:「神の作った「世界」と何一つ変わらない。」


イアン:「だから、何時か、気付く時が来る。何時か、飽きる時が来る。」

イアン:「心の拠り所になるモノが、決して手に入ら無いって悟った時、」


イアン:「ヒトは絶望するんだよ。」



イアン:「全く、「神」と同じだね、いや「ヒト」の目を通して「世界」を見ている者こそが「神」ソノモノなのだから。 同じで、当たり前だよね。」


イアン:「「神」は、此の「世界」に拠り所を感じられなくなった時、絶望した時、此の世界が、詰まらぬモノだと飽きた時に、」


イアン:「世界を終わらせるんだ。」

イアン:「新しい、もっと面白い「物語」を想像/創造する為にね、」


イアン:「君が、している事は、その、邪魔に過ぎないのさ。」


イアン:「こんな、ネタも枯れた様な「世界」は、」

イアン:「一刻も早く、終わらせた方が良い。」


イアン:「そうは、思わない?」







不意に、僕は、トリアーナに手をかける。



イアン:「無駄だよ、試しても良いけど、僕達にトリアーナの力は及ばない。」


翔五:「別に、お前達の事なんか、…どうでも良い。」


僕は、三つ又の鉾を自分の喉に突き立てて、思い切り体重を、…載せる。

研がれていない、鈍い刃先が、ずしりと、僕の喉に食い込んで来て、



翔五:「コレで、僕が死ねば、又、元に戻る…筈。」

翔五:「僕の記憶は無くなってしまうかも知れないけど。それでも、構わない、」


翔五:「また、瑞穂に会える、エマに会える。芽衣や、朋花に会えるはず。」




そして、トリアーナが、…


粉砕する。



上空から飛来した雹が、トリアーナの柄を破壊!




僕はそのまま、

地面に、…うつぶせる




イアン:「自ら死を選ぶなんて、おろかだよ。」


カイトが、僕に近づいて来て、機械仕掛けの馬鹿力で、ミシミシと、

両腕の骨を、へし曲げて、



翔五:「がぁあああっ…!」


骨の砕ける音:「バキっ!」



…折った。




イアン:「心配しなくても良いよ。」

イアン:「これからの君の暮らしに、手足なんて必要ないからね。」


アリア:「…翔五…、」




僕は、知っている、

これから、コイツらが、僕に、ナニをするのかを知っている、

アリアに、ナニをするのかを知っている。



アリア:「泣かないで。 まだ、…諦めないで。」


アリアが、それでも尚、僕を慰める。 励まそうとする。


自分の胸には、長くて痛い、…「聖霊殺しの槍」が突き刺さっていると言うのに、



翔五:「…だって、」







そして、僕は、…目撃する。


一人の男が、倒壊したフォロ・ロマーノの残骸の上に立ち、

漆黒のローマを焦がす大火の真紅に、シルエットを揺らめかせていた。



その男、

ロングコートに身を包んだ長身の美男子。 痩せた体躯たいくに一切無駄の無い筋肉をまとい、腰までかかる銀の長髪と超絶美麗なルックス。 長い睫毛、凍る様な瞳、シルバーの十字架ピアスをしている。


まるで一昔前の少女漫画から抜け出してきた様な男。




恐らく、彼の目的は、僕の、…殺害、




十字架ピアス、遥か200mの彼方から、ゆっくりと、何気なく、まるで夜の散歩を楽しむ程の気軽さで、此方の、狂気の舞台へと、…歩を進める。


コートの背中に隠し持っていた、ナガモノの日本刀を、

すらりと、…抜刀する。




イアン:「「…また君か。」」


メルカバーが、この男を、知っている?…警戒している???




キースが、歩を進めて、…

何の呪文の詠唱も無しに、超音速の雹を、降らせる!




轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」



溶岩台地を穿うがち! 

未だ、冷えきらない地面の下のマグマを、…飛沫しぶかせる!




十字架ピアスは、しかし、

まるで、何事も無かったかの様に、歩を進め続ける。



轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」


轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」


轟音ソニックブーム:「「「「…!………!!!!!………!…」」」」



二弾! 三弾! 四弾目の質量兵器も、僅か十数cmの距離で、…目標を見誤る。




いや、メルカバーの降らせる雹が目標を見誤る事は無い。


キースは落下地点を予測して、雹を降らせているのでは無い、

狙った落下地点と時刻に正確に到達する様に、時間を遡って、雹の核の出現位置、加速位置を操作しているのだ。


これが、本当の意味での、「予測」という行為なのである。




だから、キースが狙いを見誤る事は有り得ない。

だから、十字架ピアスには、簡単に避ける事が出来る。



十字架ピアスには、キースが、ナニを狙っているかナド、…最初から分っているからだ。




イアン:「全く、出鱈目でたらめな人間だな、…君は!」


メルカバーが、苛ついている?




そして、エインヘリャルが十字架ピアスの前に出る!



エインヘリャル…それは「聖霊」を倒す為に、「聖霊」の力をその身に取り込んで、「人間」を捨てた不死身の「最終兵器」。。


再生し続ける身体と、人工のギミックとを胎内に仕込み。

凡そ、年端も行かぬ少年と変わらない強化人間が、


力任せにダッシュ! 秒速50mで接近!


2.1秒後!接近戦距離で急停止して!

その勢いを右ストレートに込めて、…突き放つ!!


強化金属の骨格と、CFPRに置き換えられた真皮、電磁ポンプで付圧された筋肉が、解き放つ重量は、…実に3tに及ぶ!




しかし、人間の形をしたモノが、人間と同様な動きをして繰り出す拳の軌跡が、どの様な力の流れを生じさせているかは、…たかが知れている。


十字架ピアスは、カイトの踏み込みの位置、姿勢から、…身体の軸と、折れ曲がり可能な箇所を判別、


到達の1sec前で自らの立ち位置を修正しつつ、

突き出されたカイトの拳のこり(力の出現開始動作)の時点で、そっと、その二の腕に掌を添えて、


一切、カイトの発力を妨げること無しに、ほんの少しだけ、その動作を助長させる事で、

カイトの踏み込み限界点(それ以上軸を前に出すと崩れる位置)を超えさせる、



既に崩れたor崩れる事が分っているモノは、容易に倒す事が出来る。

乗り手の居ないバイクがどんなに高速で迫って来たとしても、同じ事だ。



カイトの身体は、自分の馬鹿力でツンノメって、翻筋斗打もんどりうって、地面に、…激突する。



ところが、「最終兵器」も伊達ではない、

地面に激突、一回前転、の後、勢いを殺す事無く、まるで体操選手の床運動の如くに倒立状態から腕力でジャンプ、錐揉み回転で姿勢を立て直して、片足で着地!


再びクラウチングスタートの体勢から超高速ダッシュして…十字架ピアスの背後に迫る!







イアン:「さてと、あの美しいじゃれ合いを、もっと見ていたい気もするのだけれど、」

イアン:「侮って妙な策を講じられても面倒だしね、」


イアン:「翔五、僕達はそろそろ、此の場を立ち去るとしようか。」


メルカバー達は、僕の手首と、胴体に、鎖のかせを取り付ける。

ロンギヌスの槍を突き刺され、力尽きたままの、アリアの身体にも、同様の鎖を結びつけている。



万里:「ゴメン…、」


万里が、寂しそうな、哀しそうな顔で、…僕の事を見詰めている。



メルカバー達が、その鎖の端を握ったまま、

僕達を吊り下げて、ゆっくりと、上空へと、…浮上する。







十字架ピアス、メルカバーの動きを警戒しつつ、

最小の足捌きで、直線的に突っ込んで来るカイトとの相対角度を修正、


ゆらりと、足首から膝、腰、肩甲骨、首の稼働領域を確かめながら、

力の抜けたままの所作で、…


今度は勢いを殺す事無くアッパーカットの体勢で突っ込んで来るカイトの右脇腹に、…刃を滑らせる!




其処で、予想外の事態が起きる。


通常日本刀は、力で押し切るのでは無く、滑らせて骨肉の隙間に刃を潜り込ませて、切断する。 薄い紙で指を切るのと同じ要領である。



だから、十字架ピアスが只、その位置に置いただけの刃は、カイトの腕を、肩の付け根から両断するには十分すぎる位の威力を秘めていた筈。


だから、只、脇の下に差し込んで滑らせただけの刃が、折れる事等、有り得ない筈。



なのに、カイトの皮膚は切断を免れ、

なのに、カイトの力任せの上半身のスィングが、十字架ピアスの日本刀を、砕き、…折った!



十字架ピアスは、

日本刀に余分な抵抗がかかった時点で、既に刀を捨てて、拳銃による攻撃の準備に移っている。


突進して来るアッパーカットの下に潜り込んで、…


………

打撃系で攻撃して来る敵の対処法の一つが、「自分を捨てる」事である。

力に力でぶつかり合えば、エネルギを無駄に消費する、「先」に対して遅れを取る、


ソレよりも、撃たれるが侭、こらえずに、相手の動きに自分を任せれば、…つまり相手の攻撃の単なる重しになれば、…つまり、もっと簡単に言えば、「相手のパンチに自分の掌を添えて、自分の手を曲げなければ」、相手の打撃力が自分を破壊に転用される事は、…稀なのである。


要するに、そういう具合に、

十字架ピアスは、カイトのアッパーカットの下にくっ付いて、拳銃発射の為の間合いを、…盗った!


勿論、論じるのは簡単だが実行するのは極めて困難な、此の技の実現には、自分の軸を崩されない為の姿勢の確保と、その軸を支える全身の柔軟性が必要なのであるが。


………

結果的に、ワルサーP99の銃口は、既にカイトの左の眼窩に密着されており、そのまま発射された9mmパラベラム弾は、…


カイトが、自分が撃ち出している最中のアッパーカットの動作途中に、自分がナニをされているのかにさえ気付かないまま、…


その眼窩に潜り込み、確実に脳に達する。。筈だった、




ところがしかし、頭蓋骨は既に強化されていて、トンでも科学な材質は、一切の銃弾を受け付けない。


思いっ切り揺らされた脳髄が、数秒程度の行動を制限されて、

眼窩内で暴れた銃弾が、カイトの左目を押し潰し、視神経を引き千切る、

それのみ、、


十字架ピアスは銃撃の感触を確かめつつ、既に次の攻撃態勢に移る、

内ポケットから小型爆弾を取り出して、銃撃に首を弾かれて滑り転ぶカイトの股関節にセット、


1秒後爆発して、


爆発:「「「…ガキン!…」」」





カイトの左脚が、股関節から、…外れた。



十字架ピアス、

地面に転がったままの機械仕掛けの少年を警戒しつつ、今や「人外」の能力によって、遥か上空に吊り下げられ、拉致され様としている、僕とアリアの姿を、黙ったまま、…見上げる。




僕は、鎖の重みと成り行きに身を任せて、


遠ざかって行く真っ白な塩の台地を、まぶたの涙でにじませる。







瑞穂:「翔五、大丈夫だよ!」


その時、僕の頭の中で、…瑞穂の声が、聞こえた様な気がした。



瑞穂:「私が、殺してあげる。 でも、…」





僕の血管を流れる、…

猛毒入りのガラスのマイクロカプセルは、…

瑞穂が「聖霊」の力で錬成したモノだったらしい、…


こんな所にも、抜かりが無いとは、全く、…瑞穂らしい、


彼女が消滅した事によって、その不安定な形態を維持出来なくなったカプセルは、

僕の全身で、化学兵器を開放させる。。。


僕は、痛みも無く、苦しみも無く、

徐々に、眠る様に、生理機能を失って、



やがて、…絶命する。







…今度は、忘れないでいてね。

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