エピソード38 「そして彼女達はサヨナラも言わずに」

至極当然の事であるが、僕は、実物のマグマなんてモノを実際に此の目で見たのは初めてだった。


所謂いわゆるTVのドキュメンタリやパニック映画なんかでは御馴染みの「トロトロけた岩石」の事だが、夜の闇の中に在ってそれは大地から吹き零れた血の様に赤く、美しく、そして勝手にイメージしていたモノよりも、もっとずっとサラサラで、地面に染み渡る様に流れ拡がって、あっと言う間に僕達の直ぐ傍に迄、…迫って来る。


エマが、「氷の盾」で冷却、凍結、流れを誘導しようとするのだが、マグマは次から次、此方こちら彼方あちらも、逆ナイアガラの滝の如くに際限なく溢れ出して来て、…まさに焼け石に水の状態。


まるで野犬の群れが獲物をなぶるミタイに僕達の周囲を取り囲み、

まるで意思を持っているかの様に僕達を威嚇する。



朋花:「まるで「詰まったトイレ」ミタイに溢れて来るわねぇ」


まあ、確かにモロモロオカシイのはその通りなのだけれど、

モデル体型×アイドル顔のコメントとしては、何だか相応ふさわしく無い様な気がする。


仮令たとえ口の端から血反吐を垂らし、両脚の間、ミニスカートの裾からナンだか内臓的なモノをプラプラぶら下げいる、今の「ゾンビっ子」状態の朋花だったとしても…だ。


思わず僕は、朋花が「詰まらせたモノ」を想像してしまう、…訳で、




アリア:「本体は、彼処あそこみたいね。」


アリアが蹌踉よろめきながら立ち上がり、「カストルとポルックス神殿」跡の柱の上に立つ、一人の男を、…指差した。



その男、長髪ロングのウェット・ウエィブ、 シャープでセクシーなスペイン人顔に、誘う様な視線、 広い肩幅に分厚い胸板、そしてシックスパックの腹筋、 だからと言って、決して過ぎたマッチョではなく、程よく浮き出た鎖骨。 そして余す処なく自らの色香をアピールする、はだけたシャツと、…イチイチな仕草しぐさ


一言で言えば、…ナルシスト

まさに下々を見下すかの様な視線で、不敵な笑みを浮かべている。




瑞穂:「ナニ、あの俺様キャラ?」

アリア:「多分、アリスターとか言う、メルカバーの一人よ。」



既に周囲はマグマで覆われていて、攻撃しようにも、容易に接近出来そうには無い。

かく先ずは安全な足場の確保が先決と思われ、…


エマが「巨大マタマタ」を召喚、


マタマタは、ようやく蘇生を開始した芽衣の身体を抱きかかえ、…口からは「冷凍光線」の様な「凍結した霧」をまき散らして、熔けた地面を冷却する。


そして僕は瑞穂に脇を抱えられて、冷え固まった溶岩の上を、坂を登ったパラティーノの丘の方へ退避する。



瑞穂:「朋花、コッチ来れる?」

朋花:「大丈夫だから、先に行ってて!」


一方、少し離れた所に居る朋花は、未だに口の中に滲み出して来る血の唾を吐き出して! それから天に向かって掌を差し上げて、地面に散らばっていた1000匹程の火の玉小僧の生き残りを部隊集結!! そいつらが合体して、翼開長6m程の小振りなケツァルコアトルスに変身する!!!


深紅の翼竜、朋花の肩を足で引っ掴んで、…飛翔!







アリアは、遺跡群の壊れた壁の跡の上に退避、

一人取り残されたまま、皆が避難するのを確認する…


アリスター、逃げ出した僕達の方に狙いを定めて、

すっと指揮棒を振る様に、右手の人差し指を、…



アリア:「アンタの相手は、…私よ!」



アリスターが、最後の一節を詠唱し終えるよりも一瞬早く!

アリアが、アリスターに狙いを定めて、…瞬間移動テレポーテーションした!


アリア、ゼロ秒でアリスターの超至近距離に出現!



驚くアリスターの土手っ腹に掌底を触れて!

心臓から鉄のナイフを、…出現!…させる!



アリスターは咄嗟に飛び退いて!

アリアの魔力射程距離(凡そ16m)から、…離脱!



そして、そのまま、…地面に落下する事無く、…空中浮遊?する???



瑞穂:「うわぁ〜、…いい加減、魔法少女アニメっぽいわね。」


瑞穂が、振り返って、色気の無い素の声で、小さく、…呟く。



いや、僕は最近、瑞穂サンの趣味の一つが「薄い本」である事に、薄々気付き始めていたのだが、此処へ来て「魔法少女」とは、この濡烏の美女、…底が見えない、、


て言うか、アリアが瞬間移動した事はスルーなんだ、、




アリスター、重力と言うかなり根本的ファンダメンタルな物理法則をあっさりと虚仮こけにして、一体どう言う理屈だか知らないが「魔法少女」の様に空中で静止して姿勢を保っている。


それから、ゆっくりと自分のシックスパックの腹筋から突き出した「細いサーベル」を引き抜いて、何気ない仕草で、地面を覆い尽くすマグマの海に投げ、…落とした。


そして、まるで何事も無かったかの様に、上空から、ドヤ顔で、柱の上のアリアを、…見下ろす。



今や、フォロ・ロマーノは、活火山の噴火口の如くに紅く、美しくライトアップされていた。


そして、次の瞬間! 間欠泉の様に!地面から噴出する真紅のマグマが、アリアに目掛けて、…襲いかかる!



アリア、再び、瞬間移動!

間一髪でマグマの飛沫しぶきを避けて、…今度は空中浮遊する「俺様男」の頭上2mの座標に、出現!


そのウェット・ウェイブな長髪に掴み掛かろうとするが、、、


当然何かしらの攻撃を予測していたアリスターは、一瞬早く移動する、

アリアはそのまま、…落下、


しかし、空中のアリスターの姿を見定めて、再び、…瞬間移動!


落下しては敵上空に、…瞬間移動、落下しては敵上空に、…瞬間移動!


アリスターは造作も無く、まるで子供を手玉に取る様に、スイスイと空中浮遊でアリアの接近を、…かわし続ける。



瑞穂:「凄い、あの子、あんな事も出来るんだ。」



そして、突然! むくりと、芽衣が起き上がる。

いや、「消炭?」が起き上がる。。。


パラパラと炭がひび割れ、砕け、零れ堕ちて、中から新品・すっぽんぽんの芽衣が、…現れた。


芽衣:「うー、ぺっ、ぺっ!」


ボリボリと頭を掻いて、炭化した古い髪の毛の燃えかすを、…払い落とす。




芽衣:「なんで、ウチ、また裸なん?」


暫し、自分の身の上に起きた悲劇を思い出して、…



芽衣:「あ〜、そっかぁ、」


それから、初めて、自分が何か怪獣ミタイナ巨大な亀の掌に乗っかって居る事に気が付いて、…


芽衣:「えっ? ええっ、ナンなん、これぇ?」 


無駄に暴れて、



芽衣:「…ひぃいい〜ぃ…、」


落っこちる。



芽衣:「あいたぁ〜」

瑞穂:「あっ!、復活したわね。」


芽衣、真っ裸のお尻を瑞穂に向けて突き出した格好で、顔から堕ちている、



瑞穂:「そんな格好されても、今は、チョット、…困る。」


瑞穂、すこし頬を赤らめて。



芽衣:「一体、何なんですか〜、この怪獣?」

芽衣:「ウチ、…爬虫類アカン、、」


芽衣、起き上がって瑞穂の後ろに、隠れる。



瑞穂:「それより、翔五を治してやってくれないかな。…生きてる内に、」







僕は、右腕と、胸から脇に掛けての筋肉をむしり取られて、肋骨も剥き出しの状態、部分的に芽衣の血を浴びて再生しかけているが、エマが止血の為に被せた氷の絆創膏の所為で、肝心の重大損傷部分は塞がらないままだった。



瑞穂:「氷を剥がしてから、貴方の体液を塗り付ける必要が在りそうだけど、イチイチ猫みたいに舐めて直してる暇はないわ。」


芽衣:「はい。」


瑞穂:「貴方を傷つけて、血を使わせてもらうわよ。」


芽衣:「はい。」


芽衣は、指先で自分の乳房を弄る。 それから、脇の下、肋骨、鳩尾(みぞおち)、下腹、陰部の感触を順々に確かめていく。


恐らく、何処を傷つけるのかを、…選んでいる。


僕は、…大丈夫だから、そんな事はしないでくれ、とは、きっと言えない様な、酷い状態なのだろう。 申し訳ないとは思いつつも、自分の無力さを悔しんで、…唇を噛む。



芽衣:「エマちゃん、氷を剥がす準備お願い。」


辺りを警戒していた、エマが、駆け寄って来る。

瑞穂が、芽衣に、黒曜石のナイフを、…手渡す。



瑞穂:「悪いんだけど、早くしないと、…アリアも長くは持たない。」

芽衣:「はい。」




アリアは、今も尚、瞬間移動と落下を繰り返す事で、灼熱のマグマの海の上を飛翔し続けている。


アリスターは、当然、アリアが次に出現する場所を予測し易い訳で、 自分は空中浮遊で易々と位置を変えながら、アリアの出現予測ポイントに、マグマの間欠泉を噴出させる!


アリアは間一髪でドロドロのマグマの噴火をかわして、再び次の地点へと瞬間移動する。


これの繰り返し、、


瞬間移動そのものにどれ程のエネルギー収支が在るのかは分らない。 そもそも聖霊の超物理法則的なチート能力の成せる技なのだとすると、移動自体にかかるエネルギーは殆ど ゼロ なのかも知れない。


しかし、どの座標を選ぶのか、敵の攻撃を回避するのか、の駆け引きは、確実にアリアの神経をすり減らし、精神を消耗させて居るに違いなかった。


そして、アリアの攻撃が底をつけば、アリスターは今度こそ確実に、僕達に照準を定めてくるに違いないのだ。







芽衣は僕を地面に寝かせて、素っ裸のままで、僕の上に四つん這いに覆い被さる。 しかも、何故か逆向きに、僕の脚の方を向いた格好で、僕の顔の上をまたぐ。


だから当然、全部丸見えな訳で、

でも、まあ、この間は僕が全部見られたから、…おあいこだよな。



芽衣は、二、三度、深呼吸して、



芽衣:「エマちゃん、お願いします!」


そして、僕の肩から脇腹を覆っていた氷の膜が、一瞬で蒸気に代わり、…栓をされていた幾つもの血管から、再び大量の血液が噴出し始める!


心臓の鼓動が一気に早くなって行くのが自分でも分る。

送り出す血液が、ドンドン無くなって行くから、…焦っている?



芽衣:「う、うりゃアアー!」


ちょっと、調子はずれな気合い、…それでも、必死の覚悟の気合いと共に、


芽衣が、自分の下腹に黒曜石のナイフを突き刺した!



芽衣:「い、いい、…たぃ…、」


芽衣の膝が、全身が、ガクガクと痙攣している。

それでも、全てを超越する母性の決意が、…そのまま、ナイフを、縦に、横隔膜の直ぐ下迄、滑らせる!


つまり、…切腹!?



芽衣:「いっ……!」


裂けた腹筋と、腹膜の割れ目から、大量の血液と一緒に、腹膜腔内の臓物が、ボトボトとあふれ出して、…来る。


芽衣は、そんな状況などお構いなしに、

裂けた下腹の切り口を僕の傷口に、…押しかぶせる。



芽衣:「…翔五、 …ウチの中に、…入れて!」

翔五:「えっ?」


最初、意味が、分らなかった。


大体、芽衣は、なんでこんな事をして、正気で居られるんだ?


自分は死なない事が分っているから?

それにしたって、どうして、…


自分で自分の臓物をまき散らして迄、

こんな痛みを、屈辱を、あっさりと受け入れる事が出来るんだ?



芽衣:「…はよう! …ウチん、中に、…腕を、突っ込んで。」


僕は、確かに、…何かが、僕の「失われた筈の指先」に触れているのを感じていた。


だから「失われた筈の僕の右腕」が、ヌルヌルで、柔らかで、温かな、芽衣を体温を感じて居る事を、…確信して。


僕は、指先をひろげる様に、腕を、…伸ばしてみる。



途端に、…!



芽衣:「あっ、ん、…」


芽衣が、悩ましげな声で喘ぎ、もどかしげに、太股をモジモジする。



芽衣:「…そんなとこ、掴んだら、…アカ、ン…て、」



血みどろの下半身を胸に擦り付けられて、…僕は、

って?! 僕は!、一体ナニ!を …握ってるの???

 

気がつくと、僕の肩から先が、…芽衣の臍の下から、芽衣のお腹の中に埋もれ込んでいる状態で。。あっと言う間に、…再生している??


僕が、肘を、肩を動かす度に、芽衣の胎内で、…何かが動く!



芽衣:「…お願い、…もっと、優しく、…して。」


芽衣は、震える様に息を吸い、

虚ろに目を閉じて、開け放った口から息を吐く。



翔五:「ああっ! ゴメン!」


多分、再生中の僕の右腕を包み込んでいるのは、芽衣の、小腸?十二指腸?それとも、もっと敏感で、重大な部分?なのか???



そんな事より、彼女に、痛みは、無いのだろうか?


芽衣の全身の震えは、最初の方の「痛みを堪えていた」時のモノとは違っていて、…もっとリズミカルに、別のナニかを感じて、…耐えている?



芽衣:「もう、…アカン、…何か、ヤバい、かも…」


芽衣は、足の指を握りしめ、腰を大きくグラインドさせながら、

僕のズボンに噛み付いて、きつく歯を、…食いしばる。



芽衣:「翔五、…お願い、…もう、腕、…抜いてぇ、…」


既に、広範囲に渡って切り裂かれた筈の芽衣の下腹の傷は殆ど塞がっていて、今や、僕の二の腕から先がすっぽりと埋もれている、臍の下の柔らかな部分にだけ、ポッカリと、穴が空いている。



芽衣:「あっ、…ゆっくり、…してな。」


次第にその穴も、僕の腕に吸い付く様に、塞がって行く。



瑞穂:「早くしないと、折角再生した腕が、芽衣に吸収されちゃうわよ。」


翔五:「ええっ?」


僕は、芽衣と上下を入れ替わる様に転がって、


際疾きわどい、生えぎわの直ぐ上から胎内にり込んでいる僕の右腕を、



結構、遠慮無しに…ズルズルと引き抜いた。 ズブズブ、、



芽衣:「ああっ…ん!」


芽衣が、神妙な喘ぎ声を上げて、…



芽衣:「もっと、ゆっくりぃて…言うたやん、かぁ…!」


全身をらせる。




気がつくと、辺り一帯は血の海だった。


芽衣の血を吸った地面が、ぽつぽつと赤詰草クローバーを発芽させ始めている。





翔五:「先輩。」

芽衣:「…、」


僕の右腕は、こうして再び芽衣に再生された。…訳だが。



翔五:「先輩、大丈夫ですか?」

芽衣:「……、」



芽衣が、何かを堪える様に俯せたまま、息を荒げたまま、…

僕は、芽衣の素肌の肩に掌を置いて、

僕を救ってくれた究極の慈悲の器に、額を押し当てる。


翔五:「先輩…、ありがとう。」

芽衣:「…酷い、」



翔五:「…えっ?」

芽衣:「わざとやろ、最後、…ゆっくりぃて,…うたのに、」


翔五:「あの、…なんか、御免なさい。」

翔五:「先輩に、喰われるかな、って思ったら、…一寸ちょっと怖くなって、つい。」



芽衣:「…責任、…取ってヤ、」


芽衣は呼吸を荒げたまま、涙でくしゃくしゃになった顔で、

僕の事をジロリと睨む、…それから、


ちょっと微笑む。







瑞穂:「あの〜、悪いんだけど、その、プレイ? 後にしてもらっても良いかな?」


僕らは、漸く傍で僕らの顛末を観察していた3人に気付く。


朋花、ニヤニヤ、

エマ、真剣な顔で、真っ赤、



瑞穂:「そろそろ、アリアの方が限界ミタイなのよ。」


見ると、アリア、瞬間移動から次の地点の見極め迄に時間がかかって、

かなりの高さを落下している。…もはや、マグマに触れるギリギリ寸前?



瑞穂:「芽衣、貴方の「聖霊」なら、ここからあの「俺様キャラ」まで届くと思うの。」

瑞穂:「貴方の「聖霊」で、奴の動きを封じて。」


芽衣:「はい!」


芽衣、顔が真っ赤になったまま、納まらない…





芽衣の「聖霊」、

ストーンヘンジで見た、あの超長い、巨大ワラスボの様な竜蟲ワーム


芽衣、呼吸も落ち着かないままに、起き上がり、…頭上に青い魔法陣を発生!



芽衣:「イっけえー!!!!」


魔法陣の中から、出現した直径1m×体長測定不能の「竜蟲ワーム」が、

俺様キャラに向かって、…飛び出す!


伸びる、伸びる、伸びる、伸びる!…伸びる!!

俺様までの距離、…凡そ500m、



アリアの攻撃を躱す事で結構一杯一杯だった俺様キャラは、

新しい敵の出現に気付くのに、ほんの少し遅れて…



アリスター:「ちっ!」


しかし、…

マグマの噴火が、間一髪で竜蟲を襲い、その胴体を、焼き焦し!


俺様に届くほんの寸前で、千切れて堕ちる、…竜蟲の頭部、


しかし、…

アリアの時間を稼ぐには、それで十分だった!



一瞬!逃げ遅れたアリスターの目の前!

ドンピシャの座標に実体化したアリアが、…ウェット・ウェイブな長髪を引っ掴んで、俺様キャラの頭を構成する分子を強制電離!


1000GWの光の束を…放電して!

瞬間的に、頭部が…爆発!、



破裂音:「「「!!パシャーー…  …——ンン!!」」」



頭部を失ったアリスターの身体が、自らが発生させたマグマの海に墜落、…熔解する。



アリアも、落下しつつ、再度、瞬間移動!!


今度は、僕達の直ぐ傍に、行成いきなり、…出現する。




アリア:「つ、か…れたぁ…」


僕の胸の中に崩れ落ちる、アリア。。

僕は、当然の義務と言うか、権利と言うか、優しく抱きしめる訳で。



アリア:「翔五、アリア頑張ったから、…ご褒美ぃ〜」


僕に覆い被さって、キスをせがむ、アリア。。

僕は、当然の義務というか、権利と言うか、…



見上げると、

4人の女が、じーーーっと、僕らの事を見下ろしている。…観察?


朋花、ニヤニヤ、

エマ、真剣な顔で、真っ赤、


芽衣、困惑???


芽衣:「ちょお!アリアちゃん、一人だけずる無い?」

芽衣:「ウチかて、彼処あそこ迄身体張ったんやさかい、一寸位権利あるんちゃう?」


瑞穂:「悪いけど、まだ、…休んでる暇は無いみたいよ。」







そして、パラティーノの丘の空中に、揚羽あげは色の少年が出現する。


14歳、エマと同じ位だろうか。 綺麗な髪、まるで大瑠璃揚羽オオルリアゲハの鱗粉の様な、澄み切った碧空色チェレステ、シーズーみたいな長い前髪の隙間からキラキラした大きな瞳が見え隠れしている。 端正な顔の造形、中性的でスレンダーな背格好。 


まるで、生まれたての揚羽蝶アゲハチョウみたいで、もしかすると、女の子よりも可愛い…男の娘が、じっと、僕達の事を見下ろしている。



朋花:「おおお…、あれ、ナニ?」

瑞穂:「可愛いけど、…敵よね、多分。。」


次の瞬間!

フォロ・ロマーノ上空をスーパーセルが覆い囲み、全天は真っ暗な闇に包まれる。そして、突如発生した空気の渦が、急速に回転半径を狭めて、風速300km/h、藤田スケールF3レベルの、強烈なトルネードと化す!


辺りは急に暗くなり、朋花が火の玉小僧を竜巻に巻き上げさせて、上空で発火! 一瞬の灯りを点す。


強烈な風が、轟音と共に、何でもかんでもお構いなしにそこら中のモノを上空に巻き上げている。 僕達は、その中心の比較的無風地帯にいて、目の前の空中に浮遊する、不思議な少年を見上げていた。 少年は、まるでその身体自体が朧げに光を放っているかの様に、闇の中に居ても尚、その存在を見失う事は無かった。



瑞穂:「こんなの、どうやって防げば良い?」


芽衣:「はい!!!」



芽衣が、再び魔法陣に魔力?を注入する??


芽衣の額のチャクラの輝きが増すのに合わせて、首を千切られた竜蟲が再び活動を開始! そして、なすがまま強風に身を委ねて、…どんどん吸い上げられて行く、


直径1m×全長測定不能の巨大ワラスボ?は、リールから解かれた釣り糸の様に、ドンドン、ドンドン、上空へ繰り出して行く! 既に1000mは越えただろうか? 未だ、その全長は計り知れない。


真空の空気にその身を引き裂かれながら、尚も伸び続ける竜蟲、飛散したタール状の血液をまき散らしながら、尚もドンドン、ドンドン、伸びて行く! もはや10kmは優に越えただろうか? やがて、巻き上げられた意味不明な大質量が、…愈々蜷局とぐろを巻いて、フォロ・ロマーノの上にドーム場の天蓋を形成する。


タール状の体液は、天蓋から滴り落ちながら、赤詰草のつる蔓延はびこらせ、根を張り巡らせて、竜巻にも負けない強靭な籠を形成する。 


その直径、…凡そ600m







ゆっくりと、揚羽の少年が降下して来る。



イアン:「凄いね。」


そして頭の中に直接、声が、…響いた。



イアン:「「青龍」の力をこんな風に独創的に使えるなんて、…流石だね。」


やがて少年は、地面に降り立ち、

僕達の、ほんの数m先で、和やかに微笑んで見せる。



そして、何時の間にか、復活した残りの3人が集い、

四人でワンセットのメルカバーが、僕達の四方を、…取り囲む。


身に付けていた衣服こそ、全て焼け落ちているが、その肉体は、完璧に彫刻の様な美しさを取り戻している。 息一つ荒げる事無く平常状態。 相変わらず、精悍に、クールに、俺様的に、そして少年は穏やかに少しはにかむ様に、僕達の事を観察する。


そして、彼らの背中に出現する、星を集積する夜光虫の様に、…おぼろげに輝きを放つ、陽炎の様な、…それぞれ3対6枚の翼。




瑞穂:「…こいつら、再生が早すぎる。」

朋花:「…ていうか、目のやり場に困るわね。」


一方で、コッチは、未だ、完全には復活出来ていない。

再生治癒能力をもっぱらとする芽衣は別にして、朋花の身体には未だ穴が空いたままの、一部内臓がズリ出したゾンビ状態。 アリアは瞬間移動のやり過ぎで疲れ切っている。


それにアリアの聖霊は焼き殺されて、どこまで復活出来ているのか不明、芽衣の竜蟲も未だ頭部は欠損したままである。



イアン:「自己紹介も終わったミタイだし、此処でもう一度チャンスをあげるよ。」


気味の悪い、…強制的な「意思」が、再び僕の頭に、割り込んで来る。



イアン:「翔五、おとなしく僕達に投降してくれないかな?…そうすれば、僕達も、君の「大切な思い出達」をこれ以上傷つけなくても済むんだけどな。」



翔五:「イアン、…こっちも無傷だけどな。」


何故だろう、僕は、こんな少年に威嚇する様な口調で虚勢を張ってみせる。

何故だろう、僕は、この少年の名前を知っている。


イギリスのモーテルの中庭で出会ったからか?



いや、コイツこそが、何度も何度も、夢の中で、…



アリアを辱めた張本人だからだ。


僕は、絶対に、コイツだけは、…許さない。



イアン:「当然、僕達が本気を出せば、君達には到底勝ち目が無いって事は、分かってもらえたと思うんだけど。…それでもやるの?」


アリア:「翔五が諦めない限り、私達は何度でも戦えるわ。」


今度は、アリアが、少年に、…立ち向かう。



瑞穂:「まさか、こんなに早くアンタ達が出てくるとはね。」


そして、瑞穂が、…立ち向かう。




瑞穂:「それじゃ、コッチも、出し惜しみは無しよ!」


瑞穂の全身のチャクラが煌めき!

巨大な黄色い魔法陣が出現!


そして中から、…超巨大なナマケモノ?メガテリウムっぽい形をした、…透明なゼリー?が出現する! 体長、凡そ20m??



翔五:「これが、瑞穂の「聖霊」?」


そして鳴動と共に、…地面が割れて、…大量の砂が、舞い上がる!

舞い上がった砂塵は、超巨大ゼリー状メガテリウムに取り込まれて、…


砂と石の塊で出来た、「巨人」、…と化す。

要するに、…



アリア:「…ゴーレム?」


瑞穂:「先手必勝ぉー!」


砂のナマケモノは、結構すばやく動き!

巨大な腕と爪で、イアン達に、…殴りかかる!!


ディビッドがオーロラから「フレア」を発生!

砂の身体を焼くが、…熔け堕ちた部分は直ぐに変わりの砂で修繕・補強される!


同時にキースの召喚した超音速の「雹」が降り注ぎ、砂の腕を、頭部を、身体をことごとく砕くが、…砕かれた身体は、直ぐに再びくっ付いて、再生!


元々バラバラの砂の塊だから、外部からの破壊は意味を成さず、熔解、変質させられても、一向に構わないらしい、そこら中の砂でも石ころでも、ベンチでも、鉄くずでも、ガラスでも、何でも構わずに取り込んで、より巨大なゴーレムに成長する。


再び「フレア」が発生。芽衣の竜蟲が作り出した巨大な籠のドームを焼き焦がし、露になった天空から、イアンのトルネードが局地的に降りて来て、風速500km/h、藤田スケールF5クラスの暴風が、ゴーレムの身体を削り、破壊し、吸い上げる。


しかし、破壊、分散されたゴーレムは、再び集積して、元の形態を取り戻す。

崩れる事を前提とした体は簡単には挫けない。



翔五:「凄いな!」

瑞穂:「木の聖霊が居なかったのが救いね!」


しかし、周囲はトルネードの轟音のお陰で、お互いにナニを言っているのか全く判らない。 吹き飛ばされない様に、エマのマタマタが覆い被さって氷のカマクラで皆を護っている。



そして、再び「俺様」が立ちはだかる。


一歩も引かない姿勢とドヤ顔でゴーレムに対峙し、

行成り地面が割れてマグマが噴火! ゴーレムを焼き焦がす!


ゴーレムは尚も、灼け熔けた塵を集めて再生し、アリスターに襲いかかる。

アリスターは、何一つ怖じける様子も無く、




次の瞬間!

フォロ・ロマーノの大地が上下振幅10m強で、…強震する!


地面の裂け目は、ナマケモノをそのまま地球のコアまで飲み込み、 局地的に発生した超巨大地震が、パラティーノを丘を中心とした半径10kmの地形を、作り替える!


当然、地下鉄、ライフラインは、…埋没し、

想定を越える震度に、ローマの町は、…崩壊、

人体の許容限界を越えたシェイクが、三半規管を、…滅茶苦茶にする。



一分の後、…


大地は鎮まって、…



僕達は、地面に這いつくばっていた。





イアン:「面白かったよ。」

イアン:「でもこれ以上やると、人間の街が大変な事になっちゃうしね。」

イアン:「有るヒトと、50年間はこの世界を滅ぼさないって約束したんだ。」



4人の天使達が、輝く翼を展げて、僕達を見下ろしている。



力の差が、…ありすぎる?

取って置きの「隠しワザ」だった瑞穂のゴーレムさえ、


地球ソノモノの身震いの前には、全く…歯が立たなかった。



翔五:「くそっ!」


もう、立ち上がる気にも、…なれない。







そして、…万里が現れた。

その手には、長い「槍」を持っている。


そして、万里に付き従う、背の低い、男の子?

全身包帯だらけで、僅かに空いた左目の隙間から、ギロリと黒目が睨んでいる。



イアン達は、その姿に刮目し、…


イアン:「早かったね、さっきの地震、大丈夫だった?」

万里:「……、」



僕達は、その所業しょぎょうを目撃する。




男の子が左手を天に突き上げて、…

肘から先の包帯が、風に解ける、…


その左手は、既にドスグロク変色していて、…

やがて見ている内に、その前腕部の肉が、裂けて、…


剥き出しになった前腕の二本の骨と筋肉の隙間に、…

血にまみれた、小さな、青白い石筍セキジュンが、、埋め込まれている…



そして、石筍は、まるでフラッシュの様に、辺り一面に、碧い光を放ち、…


その、碧い光を浴びた「聖霊」達は、…

まるで塩の粉の様に砕けて、、、…




消滅した。

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