エピソード36 「そして僕と美少女達は全ての準備を整えた」

翔五:「僕にも、出来る事、…あるかな。」


愈愈いよいよ、決戦を明日に控えた木曜日の午後、

一通りの作戦を御浚おさらいして、一旦休憩に入った所で、

僕は、瑞穂に恐る恐る、そう…切り出した。



勿論、「聖霊」対「聖霊」の出鱈目でたらめな戦闘に、僕の様な普通の人間が入って行ける訳が無い事は、百も承知だった。


それでも、自分なりの決意を「後に引けないモノ」にする為に、

僕は、自分の「意地」を誰かに伝えずには、居られなかったのだ。


予想に反して、瑞穂の反応は好印象だった。





瑞穂:「貴方にしか出来ない事があるわ。」


瑞穂は、スケッチブックの新しいページに、「木」、「火」、「土」、「金」、「水」、と描き込んで行く。



瑞穂:「本当は、明日迄、コノ事は言わないでおこうと思ったのだけど、」



瑞穂:「敵は、最終的に貴方を狙ってくる。」

瑞穂:「しかも、敵の目的は、貴方に世界終了の「呪文」を発動させる事だから

、絶対に貴方を殺したりはしない。」


瑞穂:「あの二人の聖霊使いが聖霊殺しの武器を使ってくる可能性は低い、聖霊は聖霊殺しの武器には触れられないからね。」


瑞穂:「だとすると、所詮はみんな不死身だから、聖霊使い同士の攻防は、簡単に決着がつかないわ。」


瑞穂:「正直、敵が何人で襲って来るかは分らないのだけど、…前回襲ってきた「水の聖霊」と「金の聖霊」だけなら、同質の力を持つエマとアリアで膠着こうちゃく状態に持ち込む事は可能だと思う。」


そして、それぞれの「聖霊」を頂点とする五角形に、…星形の五芒星ごぼうせいを描き加える。



瑞穂:「其処に朋花の「火の精霊」の力と芽衣の「木の聖霊」の力を加えれば、一定期間、敵を活動不能に追い込む事も不可能では無い筈。」




瑞穂:「でも、最終的に聖霊にとどめをさせるのはトリアーナだけよ。」


瑞穂の目は、覚悟に満ちていた。



瑞穂:「貴方がどんなに傷つけられたとしても、必ず芽衣の力で復活させてあげるから、…何があっても、トリアーナを敵の聖霊使いに届かせて。」


瑞穂:「…お願い。」



翔五:「…分かった。」


僕は、まさか自分が真打ちを任せられるなんて事迄は予想していなかった訳で、


やはり、不安に、…おののいてしまう訳で。







そしてもう一つ、

僕には、どうしても決着を付けなければならない事が有った。


あの「告白」から数日が経って、…

それなのに、僕達は以前と大して変わらない毎日と、関係を続けていた。


もしかすると明日の戦いで、僕達が一体どうなってしまうのかは、全く見当がつかない。 だからこそ、少なくとも「芽衣の真摯な気持ち」に対しては、きちんと答えるべきだと、…僕は考えた。


勿論、こういうのが、所謂「死亡フラグ」っぽい…と言う事は、っくに気付いていたのだが、、、




芽衣:「どないしたん?」


僕は、ホテルのラウンジに、芽衣を…呼び出した。


平静を装いつつも、芽衣の表情は、一目で分かる程、緊張で…溢れている。



翔五:「先輩、、こ、この間のサン・ピエトロ大聖堂、の事、…」

翔五:「とっても、…嬉しかった。」


堰を切った様に、

芽衣の顔が…真っ赤になる。




翔五:「僕、本当は、入社してからの3年間、ずっと先輩に…憧れてました。」


芽衣:「…あっ、」


僕は、どうしたって 芽衣の顔を直視出来ない訳で。。。



翔五:「優しいし、こんな僕に迄、気を掛けてくれるし、」


芽衣は、顔を伏せたまま、じっと耳を傾けている



翔五:「まさか、…僕の事を好きだって言ってくれるヒトが現れるなんて、」


翔五:「思わなかった。 …だから、ビックリしちゃて、」


芽衣は、今にも泣き出しそうな表情で、不安そうに、僕を…見詰めている。


そして僕は、伝える筈の言葉が、…続けられない。




こんなにも、恥ずかしくて、緊張して、どうしようもなく身体が震える、…

そんな現象が、人生に実在する事を、僕は…初めて認識していた。


唇まで出掛った言葉が、何度も何度も口の中を反芻はんすうする。




僕は、なんて、情けない男なんだろう。。と自覚する。


そりゃ、そうだよ、…そんなに簡単に、決意だけで、人間が変われる訳が無いのだ。




翔五:「せ、先輩、一つ聞いても、良いですか…」


とうとう、僕は、自分の作り出した沈黙に耐えられなくなって、



翔五:「先輩は、どうして、僕の事を、好きになってくれたんですか?」


ミットモナク、彼女を、…辱めようとする。



芽衣:「翔五、覚えてる?」


それなのに、彼女は、今迄で一番優しい眼差しで、

僕を…慰めようとする。



芽衣:「3年前、アンタが入社した時の事、あの頃、ウチ…」




女:「ナニ、こんなの相手に、気色悪い事やってんだ?」

芽衣:「…えっ?」



突然、きき知らぬ女の日本語が、僕らの間に…割って入った。



振り返ると、其処には…


茶に染めたベリーショートなウルフカット、ノーブラに黒のキャミソール。 そして紺のリーバイスと、ティンバーランドのハイカットブーツ。 スケスケのポンチョかサマー・カーデなのか得体の知れない布っキレを羽織ってる。


ピンクのデジタル・オーディオ・プレイヤーに繋いだイヤホンから、

スパニッシュギターの寂しげなラテン音楽が、漏れ出していた。



女:「よお、…久しぶりだな。」


女は僕の顔を見て、…ニヤリと微笑む。



翔五:「貴方…は?」


当然、僕は問い返す。

初めて見る顔に、違いなかった?…から、なのだが、



瑞穂:「濱平万里、さん。」

瑞穂:「一番最初から、…貴方と一緒に戦って来たヒトよ。」


何時の間にか、僕の後ろには、瑞穂が立っていた。



翔五:「一番、最初から?」



瑞穂:「彼女は、「過去世」の記憶を持っているの。」

瑞穂:「アリアと同じ種類の人間、…審神者サニワよ。」




ウルフカットな「ワイルドキャット」は、The North Faceのリュックから60cm程の金属の棒を取り出すと、それを僕に、投げて、…よこした。



万里:「「山猫ベルクカッツェ」からの預かりものだ。 トリアーナのだよ。」


翔五:「山猫?」







確かにソレは、まるで最初から二つで一つのセットにあつらえられていたかの様に、…トリアーナの矛先にピッタリとはまって、カッチリと固定された。



万里:「3段階に伸びて、最長1.8mになる。矛先と合わせると約2m。 これが最長の射程距離だ。」


万里:「材質はトンデモ科学だから、そう簡単には壊れないし、」

万里:「「聖霊」の超物理法則的チート能力に対しても耐性がある。」



翔五:「どういう事? ですか??」


万里:「この材質は、「聖霊」の力をキャンセルできるのさ。」


キャンセル?…




瑞穂:「まさか、「神の戦争」のテクノロジーを復活させたの?」


万里は、…鬱陶うっとうしそうに、瑞穂の事を睨みつける。



万里:「もともと「聖霊」も「聖霊殺しの武器」も「神の戦争」の遺物ミタイなもんだし、、、大体「メルカバー」達との戦いは、言ってみれば「神の戦争」の延長戦みたいなもんだからな。」


瑞穂:「今回の「トルコ石の蛇」は、もしかして貴方が、見つけ出したの?」


万里:「あれは、最初から、…「カイト」のもんだ。」




トルコ石の蛇。 正式名称は「シウコアトル」。

アステカの神話に出て来る、太陽神であり軍神である「ウィツィロポチトリ」の武器。 聖霊を殺す事が出来る武器の一つで、現在フランスから、イタリアへ陸路で輸送中だと、聞いた。



でも、「カイト」?…って?



瑞穂:「人間が「聖霊」を倒す為に開発した最終兵器、「エインヘリャル」と呼ばれる、強化改造人間の一人よ。」


翔五:「「聖霊」を…倒す?」


瑞穂:「翔五サン、最初、人間は、…神様と戦っていたの。」

瑞穂:「その戦いの事を「神の戦争」と呼んでいたのよ。」


ワイルドキャットが、瑞穂の前に掌を突き出して、…制止する。



万里:「…つまんねえ 昔話は止めようぜ、」

万里:「胸くそ悪くなる。」


万里:「さてと、用事も済んだ事だし、ちょっと、旦那を借りて行くぜ。」


ワイルドキャット、行成いきなり僕の肩に腕を回して、、



瑞穂:「何処へ行くつもり?」


万里:「心配すんな、近所のBARだよ。 どうせ、今日は「敵」は襲って来ないんだろ?」


瑞穂:「そこいらに浮遊してる「聖霊」が、翔五に反応して襲って来る可能性はあるわよ。」


何だか珍しく、瑞穂が…下手したてに出てる?



万里:「良いから、付いて来んな。」


ワイルドキャットは、ドスの利いた声で瑞穂を威嚇して…



万里:「忘れたのか? 俺は「サニワ」だぜ、聖霊を手懐けるくらい、…お手のもんだ。」


あれよあれよと言う間に、僕を…お持ち帰りする。



万里:「じゃ、「お嬢」が起きたら、迎えにくる様に言っといてくれ。」







30分後、

僕とワイルドキャットは、パンテオンから程近い、BAR(バール)のカウンターに腰掛けていた。



万里:「ツー、バーボン ストレート ダブル!」


ワイルドキャット、座るなりメニューも見ないで、…行成いきなり注文、

でかい声に、バーテンダーが一瞬、…ビクっとおびえる、




そして僕は、改めて、しげしげと、この女を…観察する。


粗野で野性的で、挑戦的で好戦的で、

それぞれのパーツはそれなりに整っているのだが、色気は皆無?

雰囲気は、あの「ギスギス女」に似ていなくも無い。


所謂…女番長?




万里:「何だよ、ヒトん事ジロジロ見て、…」

万里:「もしかして…シたくなったのか?」


ワイルドキャットは、ニヤニヤ笑いながら茶化し、

僕は、まるで女の子ミタイに、萎縮する。




翔五:「あの、あれ、さっき言ってた「神の戦争」って?何なんですか?」


僕は、兎に角この空気に耐えられなくて、思いついた事を喋ってみる。



万里:「ほんとに何も覚えてないんだな、…お気楽な奴。」


大き目のグラスに入った濃い琥珀色の液体が、…

僕達の前にすっと並べられて、


万里は、くいっと一息に半分くらい流し込み、

喉の奥を焼いて、暫しその余韻を堪能する。




それから、一寸、懐かしむ様に、…話出した。



万里:「昔、この世界は終末を迎える筈だったんだ、ハルマゲドンとか、アンゴルモアとか、ラグナロクとか、色々呼ばれてたけど、まあ、そろそろ行き詰った人間世界の「最終回」を神様が派手にぶち上げようとしてた訳だ。」


万里:「つまり、それが神の戦争だ。 神様は世界中に配置した「聖霊」の力を使って、「神話」同士を戦わせようとした訳だな。 お互いが相手にとっての「悪」、言ってみりゃ究極の宗教戦争とも言える。 「メルカバー」バーサス「フェンリル」ミタイな感じ。 どうだ、思い出したか?」


翔五:「いえ、…」




万里:「そこで、お前と「お嬢」達は、人間の世界を延長してもらえるように神様に直談判しに行った。 実際にナニをどうやったのかは知らないけど、兎に角あの時は。…お前は良くやった。 上手いこと神様を丸め込んで、延長を勝ち取った訳だ。」




万里:「まあ、その後が、酷かったけどな。」


ワイルドキャット、ちびり、ともう一口 ウイスキーを舐める。



万里:「「神の戦争」は回避される様になったが、お前の転生の呪いの所為(せい)で、世界は何時まで経っても先に進まなくなっちまった。」


万里:「放置されたままの「聖霊」は相変わらずお前を襲ってくるし、お前はあっさり殺されちまって、過去に戻っちまうし。 これの繰り返しだ、」


ワイルドキャットは、感慨深げに、くうを眺めながら、、

指先で摘んだグラスを、…揺らす。




万里:「何時までも何時までも、何時までも、な、」


万里は、残りの液体も一気に喉に流し込んで、…



万里:「一体、何回、繰り返したんだっけ?」


翔五:「3000回位、とか…」

万里:「お前馬鹿じゃねえの? …いい加減死ねよ!」


なんか、この人、…キツイ



万里:「お替り!」


あっという間にダブルのグラスを、…開ける。


しかも妙に勢いがあるから、

日本語なのに、何故かバーテンダーに通じてしまうらしい。


すぐさま替わりのグラスがカウンターに置かれる。




万里:「お前、相変わらず、酒弱いのか?」

翔五:「はあ、…」

万里:「駄目な奴、」


万里、再びグラスの半分をツーっと舌の上に流し込む。


なんで、そんなに僕を苛める訳?

嫌なら、連れて来なきゃ良いじゃん!



万里、何だか目がわってる?

不意に僕の肩を抱いて、僕の耳元の匂いを、…嗅いでいる?


なんか、怖い…




翔五:「あの、…「山猫」って?」


万里:「なあ、やめようぜ、…そんな野暮な話は、」


万里:「お前が知ってる筈の事を、いちいちお前に説明するってのは、なんか疲れるって言うか、…」



万里:「正直ムカつくんだよ。」


ワイルドキャット、妙に絡んでくる、…と言うか絡み付いてくる、



万里:「それよりよぉ、お前、最近「お嬢」とは…どんな風にやってんだ?」


翔五:「お嬢って?」

万里:「あのちびっこいお人形さんだよ。」


そう言いながら、僕の首筋の、匂いを嗅いでいる? …舐めてる??



万里:「俺も最近は、男無しじゃ寝らんなくなってさ、…今晩はお前が相手してくれんだろ? 当然。」



妙に、心臓が、どきどきする。

犯されるのって、…もしかして、こんな感じ??







アリア:「翔五から離れなさい。」


ギュッと固く閉じていた目を開けて、

振り返ると、アリアが其処に、…立っていた。



万里:「よう、出たなバケモノ、まだ日の入りには時間アンじゃないのか? フライングは契約違反なんだろ。」


ワイルドキャット、アリアの方を振り向きもしないで、

遠くを見る目で、グラスをチビる。。。



アリア:「心配ご無用! きっかり日の入りよ。」


アリア、何時に無く、…好戦的な雰囲気??



万里:「そんな怖い顔スンナよ、誰もこんなヘチャムクレ、…取ったりしないって。」


ヘチャムクレって、…僕の事?

ヒドイ、…舐めてたくせに!!



万里:「ソレよりも久しぶりなんだから「お嬢」も一杯くらい付き合えよ?」


アリア:「それはコッチの台詞よ。 貴方、今迄、何処に行ってたの?」


ようやく万里が、僕からほどけて、



万里:「色々遭ったのさ。」


残っていたグラスの中身を、直接食道に…流し込む



万里:「お替り!」


見ると、…何時の間にか、店内には、人っ子一人居なくなっていた。



万里:「ちっ、「お嬢」と一緒だと、ろくに酒も飲めねえ、な」


万里:「出るか、」







僕達はライトアップされた夜のナヴォーナ広場を、散歩する。


何時もなら観光客や大道芸人達で賑わっている筈のローマの目抜き通りには、不思議な事に、僕達以外、…誰もいない。




これも、アリアの七不思議の一つらしい。

普通の人間は、アリアにう事が出来ない。 何故だか判らないけれど「偶然」が働いて、アリアを見る事が出来ない、…らしい。


つまり、多くの偶然が重なって、たまたま此処には、今僕達しか居ない…という状況が作り出されている、…らしい。




ナヴォーナ広場。

かつて古代ローマ時代、戦車競技が開かれていた、南北に長いこの広場には、


その中央に、有名なベルニーニの「四大大河の噴水」

北と南にはデッラ・ポルタ作の「ネプチューンの噴水」「ムーア人の噴水」が据えられている。



僕は「ネプチューンの噴水」の前で立ち止まる。


恐らく、噴水中央にイマしますネプチューンが、たこのバケモノに今や突き立てようとしているのが、…トライデント、トリアーナ。 必殺の三叉戟(さんさげき)…のはず。


彫刻では普通の槍になってるけど。



そして周囲には、可愛らしい子供や美女?達が、…

何故だか、動物達を虐待している。。。?



翔五:「面白いね。」


僕は、そっと寄り添って来たアリアに呟く。



アリア:「ギリシャ神話の海の妖精ニンフ、ネレイスね。 マーメイドの原形よ。 馬みたいなのが海馬ヒッポカムポス。 子供の姿をしたのはクピド。 ローマ神話だとエロスかな。 ネプチューンはローマ神話だから、…何だかごっちゃになってるね。」



万里:「知ってるか?

…ネレイスは嫉妬深くて、カシオペアが「娘のアンドロメダはネレイスよりも美しい」と言っただけで、ポセイドンと結託けったくして、海のバケモノを送り込んでカシオペアの国を滅ぼそうとしたんだぜ。」


ワイルドキャットが、恋人同士の甘いごとに、…割り込んで来る。



万里:「せいぜい「聖霊」の嫉妬には気をつけろ…って言う事だ。」


万里、行成いきなりアリアの頭をポンポンして、

それから長い髪を、…クシャクシャする。



万里:「お前は、変わんねえな〜」

アリア:「貴方は、変わったわね、」


アリア、一寸ちょっと気持ち良さそうに、頭を預ける。



万里:「人間は、変わるもんだぜ。」

万里:「…「聖霊」とは違う。」


万里の目は、何処か遠くを見る様で、…捕らえ所が無い。





アリア:「明日はどうするつもりなの?」

万里:「見物するさ、当然な。」


万里:「それに、カイトにも会えるしな、」


アリア、心配そうに、万里の顔を見上げる。



アリア:「「あの子」を巻き込むのが、嫌だったんじゃなかったの?」

万里:「ああ、だから、こんな思いをさせるのは、…これっきりにする。」





見ると、何時の間にか昏い広場には、青白く闇に浮かび上がる「聖霊」達が、

虚ろに「何処とも無く」を見つめ、ただ「当ても無く」…徘徊している 。


上半身は薄ぼんやりとすすけて、下半身は透明で、見えない。


あの、ロンドンの深夜の地下鉄で見たのと、…同じ。



何故だか、僕は、以前よりも「聖霊」に、恐怖を、感じなくなっていた。


僕は、直ぐ傍迄漂って来た「女の霊」に、そっと掌で触れてやる。


やがて「女の霊」は向きを変えて…

再び、深海の様な「無音の広場」を徘徊しはじめる。


僕と、アリアは、

二人だけの秘密を共有するかの様に、お互いに見詰め合って、…微笑む。




万里:「ナニ、あんなの相手に、気色悪い事やってんだ?」


万里の目は、何処か遠くを見る様で、…捕らえ所が無い。



万里:「知ってたか? 妖精は「魂」を持たないから、…人間の「魂」を欲しがるんだ。」







決戦当日、午後20時

僕は、再び芽衣を呼び出した。



芽衣:「今は、…え。 お願い、帰ってきたら、返事聞かせて。」


芽衣は、一寸ちょっと沈んだ風に顔を伏せて、…



芽衣:「それ迄は、ウチにも期待、…持たせてぇな。」


作り笑いする。



それから照れ隠し?に、僕から離れて、朋花と雑談し。


入れ替わりで、

エマが、僕の傍らに寄り添ってくる。


黙ったまま、じっと、僕の顔を見上げている。




エマ:「ショーゴは、エマの事、…好き?」


翔五:「ナニ、馬鹿な事、…聞いてんだ?」



僕は、エマの頭をガシガシ撫ぜて、




翔五:「大好きに、決まってるだろ。」


エマは、子猫の様に、なされるが侭に、…うっとりと目を閉じる。




それから僕は、トリアーナをナップサックに仕舞しまって、

たすきがけに、肩に背負う。




翔五:「さあ、行こうか。」


瑞穂が、少し驚いた表情で僕を見て、



瑞穂:「そうね、行きましょう。」


力強く、…頷いた。

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