エピソード34 「僕と美少女達はローマの天辺で何かを叫ぶ」

朋花:「じゃ、そう言う事で! 芽衣ちゃん行くわよ!」

芽衣:「えっ? ウチも?」


朋花が、芽衣の手を取って、走り出す!



翔五:「て言うか、何で早い者勝ちみたいになってるんですか?」

朋花:「決まってるじゃない。その方が、面白いからよぉーー!」


朋花は、芽衣を引き摺りながら、地下鉄の入口へと駆け込んで行く。



朋花:「良い?最初に辿り着いた人が「告白の順番」を決められるんだからね !」





告白?

体育会系アイドルが、一体ナニを告白しようって…言うんだ?


そして、歩き出そうとした僕の服の裾を、エマが、…引っ張る。

エマの指差す先には、…タクシー乗り場、



翔五:「しょうが無い、行くか。」


僕とエマは、タクシー乗り場へ、


其処には、運転席のドアを全開にして、長い脚を放り出す、

怪しげな、私服の…お兄さん



翔五:「えーっと、クッジュ、プリーズ、ブリング、アス、トゥ、ザ、サンピエトロ?(サン・ピエトロまで連れて行ってもらえますか?)」


タクシー運転手:「…???」


イタリア人には、英語が…通じない?

僕は、スマホで地図を検索して、…


画面を見せる。



翔五:「サンピエトロ!」

タクシー運転手:「All right. San Pietro tempio. OK(聖ピエトロね)」


一応、英語じゃん。。



僕達を載せた怪しげなタクシーが、…

忙しなくトランスミッション・ギアをシフトチェンジしながら、…発進する!



一応、メータ、付いてるよね。。

タクシー運転手の登録証も、チャンと、提示されてある…ミタイだし。

大丈夫だよね。。。。


僕は、何故だか、ドキドキが止まらない…



タクシー運転手:「È una luna di miele? (新婚旅行かい?)」


エマ、無言のまま、急に真っ赤になる。。。

何だか、何時も以上に…密着してくる??



順調な滑り出しも、、タクシーはティヴェレ川を越えた処で、行成いきなりの渋滞に掴まる。


結構、道が混んでいる?

運転手は、早口のイタリア語で何だかボヤイているらしいが、

全く判らん、、、


どうやら、何かの事故?

いや、運転の下手な駐車車両が…バスの通行を妨げているらしい、


何故だか、エマには理解出来てるらしく、、

まあ、そう言えば、元々イタリアで暮らしてたんだっけか、、


黙ったまま、しょうが無いな〜という感じで、運転手のボヤキに頷く。



タクシー運転手:「Sua moglie è una bellezza.(奥さん、美人だね〜)」


エマ、突然! 何故だか一人で悶絶する???

意味も無く、僕の腹の肉を…摘む!!!



翔五:「いたっ、…いよ、エマどうしたの?」


何故、そんな、色っぽい眼差しで、…僕を見る??







とうとう、30分近く掛かって、

タクシーはサン・ピエトロ広場前のタクシー乗り場に到着!


おおー、有名な大聖堂が目の前に! ちょっと…感動。。


此処から、中に入るには、セキュリティチェックを通らないとイケナイ。


見ると、既に朋花と芽衣は、

塔を昇る直通エレベータの、長い列に並んでる!



翔五:「居た! 早いなぁ、エマ!急ごう!」


僕達は急いでパスポートと荷物のチェックを済ませ、…

柵の内側へ、


朋花達は今にもエレベータに乗り込もうとする処!

芽衣が、コッチに気付いたらしい!



エマ!行成いきなり魔法陣を出現!?

エレベータの機関室を! 凍結!させた?


どよめく係員、…

何が起きたのか解らず、…パニック??



僕達は、行列の無い階段の入口へ! ダッシュする!



朋花:「何ぃ!」

芽衣:「ずるい!」




しかし、これが、…

キツい、甘かった、


半端無い、何処迄も続く、階段…

グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグル、…螺旋状に、

しかもだんだん、狭く、細くなっていく。



翔五:「…ゴメン、…エマ。」

翔五:「もう、これ以上…、」


僕は、志半ばで息切れして座り込み、


エマは、溜息を吐いて、立ち止まる。


それから一寸、微笑みながら、僕の頭を…ヨシヨシする。

まるで、疲れて歩けなくなった小さい弟…扱い、ですか? もしかして??





下から、ドタドタと朋花と芽衣が追いかけて来る!



朋花:「元警察官ナメルナ〜!」


翔五:「くそっ、何か知らんが、負けたく無い!」


僕は、最後の力を振り絞って立ち上がり、

追い付かれまいと、…再び走り出す!







足が、膝が、…わらっている。

口から、色んなモノが、…抜けて行く。

ミットモナク、展望フロアの隅っこに、…しゃがみ込む。


全身の筋肉が、恐らく明後日くらいに、…筋肉痛、



朋花:「さてと、私が勝つのは当然 最初から決まっていた事だけどね、」


朋花が、満面の笑みで、…僕の事を見下ろしている。


ちきしょう! 

朋花をこんなに憎たらしいと思ったのは、初めてだ。



朋花:「いい、全員、自分の思っている事を、告白するんだからね!」

朋花:「では、順番を発表します。」


朋花:「一番、芽衣ちゃん。」

芽衣:「あっ、」


朋花:「二番目が、エマちゃん。」

朋花:「三番目が、翔五クン。」


朋花:「そして、最後が私。」


芽衣、主旨を思い出して、瞬間湯沸かし器の様に、…赤面する。



告白、、


僕は、ヴェネチアの運河の前の、瑞穂の告白を…思い出す。



翔五:「…待って、…」


でも、息が、続かない。(情けない、)



翔五:「告白って、…告白してどうするの?」


今更だけど、

思いを伝えたからって、

必ずしも叶えられるとは限らないのだ、



それに、僕は、彼女達に、一体ナニを伝えたかったと言うのだ。


謝りたかったのか?

赦して欲しかったのか?

イジけている自分を理解して欲しかったのか?

大変だね、辛いよねって、同情して欲しかったのか?



朋花:「どうするって? 告白するだけよ、それでお仕舞い。」

朋花:「兎に角、自分の中でうじうじ溜め込むのは、コレで一回終わりにする。」


だらしなく座り込んだ僕の手を、朋花が、…引っ張り上げる。

襟元から覗くモデル体型のグラマラスな谷間に、僕は一瞬、…ドキッとする。



朋花:「翔五クン、お願い。」


何時もは明るいアイドル顔の朋花が、ちょっと困った風な表情で、僕に、…

お願いする。



僕は、初めて有った頃の、「特殊警察」だった頃の、冷たい朋花を、思い出す。

一体どっちが、…本当の「京橋朋花」、なのだろうか。。




展望台は塔の壁にぐるり360度 張り付いた、狭いバルコニーになっていた。


眼下には、広く、遠く、ローマの街並が広がっている。

改めて、高い所迄上がって来たモノだと、実感する。



朋花:「じゃあ、行ってみよー!、最初芽衣ちゃんから、」

芽衣:「へ、言うんですか?」


朋花、芽衣の両肩をがっしり掴んで…



朋花:「そうよ、見て!コレがローマよ。 貴方は今ローマの天辺てっぺんに居るの。ここで言えない事は、何時まで経っても、何処迄行っても言えないよ。 それでも良いの?」


芽衣:「ローマの…天辺。」


芽衣、焚き付けられてる…



朋花:「浪速女の意地を見せる時よ!」


芽衣が、何かを、決意する。



芽衣:「判り、ました!」

芽衣:「ウチ! 言います。 言わせてもらいます!」


芽衣:「う、…」


一瞬、気配を察知した辺りの観光客達が、一斉に…静まり返る。

風景写真を撮る誰かの一眼レフのモータードライブの音だけが、塔の展望台に、…

こだまする。





芽衣:「ウチは、…翔五の事が、…好きやあぁぁぁ…!」


翔五:「えっ…、」


通じない筈の日本語に、世界各国から集結した観光客が、…

どよめきを…起こす。


何故だか、…

拍手が、パチ、パチ、パチ…



僕は、……。

僕は、芽衣の顔を見詰めて、…きっと真っ赤になっている。


芽衣は、半泣きになりながら、…笑ってる。



翔五:「先輩、…ぼく…、」

芽衣:「ええねん、…答えは、今や無くてええ、」


何故だか、吹っ切れた様に、

芽衣が、僕に抱きついて、…ぎゅっとする。



芽衣:「何か、恥ずかしいけど、…オモロいわ。」

芽衣:「それに、ちょっと、すっきりした。」


芽衣が、…笑ってる。





朋花:「次、エマちゃん!」


エマが、ローマの空に向かって、…







エマ:「もう、…いやあぁぁ…!」


エマ:「ママもパパも、エマもリョーコも、ショーゴも、みんな嫌い!」

エマ:「嫌い!嫌い!嫌い!…大嫌い!」


叫ぶ。。



エマ:「ショーゴのばーか!」


翔五:「うっ、、」


そんなに、…

嫌われていたの?



芽衣:「アンタら、…一体どう言う関係やったん?」


僕は、軽く、…人間不信



朋花:「OK! 最高エマちゃん!」


何故だか、エマ、朋花とハイタッチ?





朋花:「次、翔五クン、行ってみよう。」


ええっ、此の次、…一体何を言えば良いんだ?


テラスに立って、ローマを眼前に見下ろした僕の腕を、

朋花が掴む、



朋花:「いい、翔五クン、貴方の、本当の気持ちを、教えて。」


僕の、

本当の気持ち、



翔五:「ぼ、僕は…」





翔五:「————! ———!」

翔五:「———! ——————!」


翔五:「————! …、」




自分でも、何を叫んだんだか、…


よく、解らなかった。

まるで、其処だけ記憶が飛んだみたいに、



悔しさだったのか、悲しみだったのか、

慰めて欲しかったのか、叱って欲しかったのか、


何千回の積み重なった僕の想いが、

確かに、其処に…


込められていた筈だったのに。




朋花:「もう、…良いの?」

翔五:「うん。」


朋花:「…頑張ったね。」

翔五:「うん。」


朋花が、優しく、僕を、…

抱きしめてくれる。


ぎゅっとして、…くれる。





朋花:「よーし、最後 ほのかちゃん、 …行きまーす!」


そして、朋花が、右手を大きく天に突き上げる。


大きく、息を吸い込んで…





朋花:「誰かぁ、…もっと私に…優しくしてよぉー!」


腹の底から…吐き出す!





朋花:「なんでぇ、…何時も私ばっかりぃ、…怒られる訳ー!!」


朋花:「何で瑞穂ちゃんはぁ、…私に冷たいのよぉー!!!」


朋花:「何で芽衣ちゃんばっか、モテるのよぉー!!!!」



朋花:「私だってエマちゃん、抱っこしたいー!!!!」




ローマの天辺てっぺんで、朋花が、愚痴を…叫ぶ。







いよいよ、係員が出て来て、騒ぎの収拾に出る。



翔五:「朋花サン!、朋花サン、そろそろ行きましょう!」


しかし僕達は、あっさりと掴まって、…

厳重注意を受ける。



朋花:「I wamt to confess my prayer to the God.(神に、想いを、…聞いてもらいたかったんです。)」


そう、貫き通した僕達は、…30分の説教の後、漸く開放された。







その後、サンピエトロ寺院の大聖堂を見学する。

そこは、コレ迄見たどんな神聖なモノよりも壮大で、荘厳で、霧の様に濃密な祈りが、静かに沈殿している処だった。




エマが、ミケランジェロのピエタの前で、立ち尽くす。



翔五:「綺麗だな。」


十字架から下ろされたばかりのキリストを抱くのは、マリア。

その爪先が服の裾からほんの少し出ている事から、

一部ではマグダラのマリアでは無いかと、噂されている。


つまり、殉教した愛する恋人を抱く、女性。



エマは、何も言わずに、マリアの姿をじっと見つめている。

信じたモノの為に自らの命を差し出した「磐船エマ」、


あの日「磐船エマ」の亡骸を抱いたのは、一体誰だったのだろう。

そして今、彼女の魂を抱いているのは、一体、誰なのだろうか。







その夜、


ホテルのグランドフロアにあるコジンマリしたBAR(バール)。

その一画のソファーとテーブルを、僕達が占領していた。



エマ:「ショーゴ、寝るよ!」


エマが、僕の手を引っ張る。



芽衣:「いや、チョット待ってぇや、エマちゃんは翔五の事「嫌い」なんやろ、別に無理に一緒の部屋で寝んでもええやんか。」


芽衣:「むしろ、ウチは、あんな大勢の前で、彼処迄あそこまで恥をさらしたんやで、ウチに権利有ると思わへん?」


芽衣が、僕の腕を引っ張る。





瑞穂:「なんで二人は喧嘩してんの?」

朋花:「違うよ、みんなチョットだけ、仲良くなったって事だよ。」


朋花は、ジン5にベルモット1のドライ・マティーニ(6杯目)で、そろそろ目付きが怪しくなっている。 オリーブを突き刺したプラスチックのスティックを咥えたまま、プラプラと口の中で…モテアゾブ。



瑞穂:「ふーん、」

瑞穂:「まっ、エマもちょっと元気出たみたいで、良かったわ。」


瑞穂の前にはスコッチウィスキーのダブルのロック、氷も解けて、略略ほぼほぼ水割りになっていた。



朋花:「瑞穂ちゃん、マッサージして あげよっかぁ?」

瑞穂:「良いわよ、ナニ? 気持ち悪いわねアンタ。」


行成り、朋花が、瑞穂を…押し倒す。



朋花:「遠慮しなくっても良いんだよぉ。」

瑞穂:「やあ、だってば、…あんた最後、痛くするから、やなの、」


何故だか、瑞穂、比較的…無抵抗?



朋花:「痛くしないって、大丈夫だから、ほらぁ、」


朋花は、嫌がる瑞穂の手を取って、…

手慣れた手つきで、…揉みシダク



瑞穂:「あっ、…ぅん!」

瑞穂:「あっ、…ソコ、、きもちぃ、」


瑞穂、結構、…満更でも、ないらしい。。。







結局、僕は、…どうすれば良いんだろう?


しかし今日、幾つか、判った事が有る。


朋花の愚痴の事は置いておくとして、…


ここに居る皆が、この僕の事を、気にしてくれている。

必要だと思ってくれている。

友達だと思ってくれている。

愚痴をこぼしてくれる。


僕が、拒もうと、拒まなかろうと、

疾っくの昔に、僕には、様々な責任が、押し付けられているのだ。


それは、僕が、皆に承認されているって、…

そう言う事に違いないのだ。







そして、エマと、芽衣が、何故だか僕の手を引っ張る。



アリア:「何だか、ショウゴ、モテモテだね。」

瑞穂:「あっ、アリア。 …アンタも何か飲む?」


辺りの空気が、一瞬で…凍り付く!


そして、一同、硬直する!

そして、一同、驚愕する!



その少女、

背の頃は130cm、華奢で中性的な肢体。傷一つ無い端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪、そして潤った唇。



芽衣:「ナ!に?…コニょ子!!!」

朋花:「お人形、しゃん?…が、喋ってる??」



まるで造り物の様に一点の欠陥も無い美少女が、

暗闇の中で星を集積する夜光虫の様に、…おぼろげに光を放っている。



瑞穂:「ああっ…、みんな、紹介するわ、コノ子が…アリア、」

瑞穂:「…「金の聖霊使い」よ。」




そして、天使が、可愛らしく、小首を、…傾げる?



アリア:「アップル・タイザ!?」







その夜、僕とアリアは、二人だけでホテルを抜け出して、

こっそりと、深夜のフォロ・ロマーノに忍び込んでいた。。。


実の事を言えば、…

僕には、ここへ来る迄の記憶が無かった。


丁度、タワー・ブリッジのベンチで目を覚ました時や、ギスギス女の襲撃前に、ボンドストリートを徘徊していた時と、同じミタイに、、、



瑞穂を持ってしても、未だアリアに関しては解らない事だらけだと言う。


どうして、何時も不意に現れるのか?

どうして、日の出ている内は活動出来ないのか?

どうして、他の人間はアリアを見る事が出来ないのか?

どうして、聖霊達を手懐ける事が出来るのか?




アリアは「金の聖霊」の能力を使う事が出来るらしい。


全ての物理法則を超越して、

自由自在に金属や陽子・電子・中性子の関係を操る事が出来るアリアにとって、

人間が作った電子機器やネットワーク、セキュリティシステムを手懐ける事など、

およそ自分の手足を動かすのと同じ位、造作の無い事なのだろう。



それにしたって、アリアの周りでは不思議な事が、

ごくごく当たり前の様に起こり過ぎている。


そして何よりもによりも、一番不思議なのは、

アリアが、本当に、僕の事を…愛している、と言う事だった。




僕達は、静まり返ったくらいパラティーノの丘のベンチに座って、

ぼーっと、夜の町を流して行く車の光跡を眺める。


ライトアップされたコロッセオが、とても綺麗だ。



重ねた掌から、彼女の口ずさむハミングが聞こえて来る。


僕は、何だか急に切なくなって、…

彼女の小さな身体にもたれ掛かる



翔五:「ねえ、アリア…」

アリア:「なあに、」



翔五:「瑞穂が、一緒に戦ってくれって、…言ってくれたんだ。」

アリア:「そう、…良かったね、」



翔五:「朋花が、しっかりしろって、…叱ってくれたんだ。」

アリア:「…良かったね。」



翔五:「エマが、僕の事大嫌いだって、…言ってくれたんだ。」

アリア:「…良かったね。」



翔五:「芽衣が、僕の事、好きだって、…告白してくれたんだ。」

アリア:「そう、…良かったね。」







僕は、自分でも気付かない内に、どうしてだか、

ポロポロと、涙を…こぼしていた。



翔五:「あれ? …何で? だろ?」


アリアが、僕の膝の上に乗って、零れた涙に、…


キスをする。



僕は、くすぐったくって、照れ笑いする。




アリア:「大丈夫だよ、聞いてるよ。何時でも、…聞いてるから。」


この手に抱きしめれば、壊れてしまいそうな、華奢で中性的な肢体が、僕の上に覆い被さって来て、僕の心に灯った深い闇を、まるで愛おしむ様に、…


優しく、唇を交わす。



アリア:「大丈夫だよ、私は、何時でも、…翔五と一緒に居るから。」


僕は、ベンチの上にひっくり返って、真っ暗な、星の無い空を見上げる。



翔五:「僕は、どうすれば…良いのかな。」


僕は、それをまるで「呪文」の様に呟いて、



アリア:「翔五、それは違うわ、」

アリア:「どうすれば良いのかは、貴方にはもうっくに…解ってる。」

アリア:「ただ、何時、決心すれば良いのか、迷っているだけよ。」


およすべての者物ものモノを魅了するであろう深い眼差しが、

おそれを持って切なげに ただ僕だけを見つめる。



アリア:「翔五、…」

翔五:「なに、」


アリア:「私に、この世界の続きを…見せて。」



僕は、僕を見つめるアリアを…見詰める。


アリアは、ブラウスのボタンを外して、

剥き出しになった真っ白な素肌の内に、僕の腕を、顔を、…迎え入れる。



僕は、頬に、直接少女の体温を感じながら、

ゆっくりと、眠りに落ちるみたいに、

ゆっくりと、心拍数を下げて、

ゆっくりと、安らいで行く、



少女は、僕の頭を抱きしめて、

彼女の心臓の鼓動を、

僕の頭骨の中に、

染み渡らせる、



彼女から伝わってくるのは、

不安でも、畏れでも、後悔でもなく、

ただ只管ひたすらに、愛おしいモノへと向けられた、真っ直ぐな感情、

希望と、期待と、歓びに溢れた

安らかな、命の呼吸、



僕は、まるで赤ん坊ミタイに、

少女の柔らかな胸に、…

甘える、



アリア:「お願い、私の為に、……世界を護って、」



アリア:「私が全部、見ていてあげるから、」



翔五:「うん、」







ロムルスは、一体どうして、戦う事が出来たのだろう?

不幸な生い立ちの、一介の羊飼いのリーダーが、どうしてアムーリウス軍と戦う、なんて無茶な事を…決心出来たのだろう?


いや、違う、…そうでは無くて、


ロムルスが戦う事は最初から決まっていて、

彼が、たまたまロムルスだった、

ソレだけの事なのだ。


要するに、何時、ソレに気付いたか、

ソレだけの事なのだ。




星田翔五には、星田翔五の「生まれた星の下」があって、

その、誰でもない、星田翔五の境遇に、

この「僕」が気付く事を、

ずっと、待っていたのだ。


嫌だとか、怖いとか、辛いとか、哀しいとか、

僕がそんな事を感じるのなんかお構いなしに

最初から、星田翔五は、星田翔五なのだ。


何処かでそれを、僕自身が納得しなければ、


星田翔五は、「犬死」である。



かつて、「磐船エマ」が決心した様に、

僕は、「星田翔五」にしか出来ない事をやる。


そうやって、この世界の物語は、

紡がれて行くに、…


違いないのだ。

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