エピソード30 「僕はどの美少女が本当は好きなのか混乱する」

僕は、何時の間にか、…

眠ってしまっていたらしい。



何だか、夢を見ていた様な気がする、…

とても、長い夢だ、


それは、何百回、何千回という「転生」の繰り返しの中の、…

とある一つの、…僕の顛末、




何だか、ヤケに眠りが浅い、…


軋む、…柔らか過ぎのベッド、

見上げると、…見慣れぬ天井、


見るとエマが、何時の間にか、僕の隣で、…爆睡していた。



朋花:「ただいま〜、」

翔五:「…ん、…?」


無造作に部屋の扉が開いて、トコトコと朋花ほのかの足音が、…

近づいて来る、



朋花:「此の部屋のドアの鍵、…壊れてるね。」

朋花:「開きっぱなしだよ。」


そう言えば、誰かも同じ事、言ってた様な、…気がするが。



僕は、時計を確かめる、…


そっか、夕方16時、交代の時間だ。

これから深夜0時迄は、朋花とエマが、僕の事を護衛してくれる事になっていた。


一体、何から? と言うのが、今ひとつ、…

ピンとこないのだが。




翔五:「どこ行ってたんですか?」

朋花:「島を一周して来たよ。」


朋花は、何だか、色んな紙袋を引っさげて来たのを、…



朋花:「素敵なお店とか、綺麗なアクセサリーとか、面白いモノ、いっぱい有ったよ。」


もう一方のベッドの上にぶちまける。


何故だか、派手な、デカい「仮面」?まで入ってる。

一体、…どうやって持って帰るつもりだ?



朋花:「知ってた? ヴェネチアン・グラスって、ライオンさんマークのお店で買うのが本物なんだって、」


いや、それは良いのだが、…



翔五:「朋花、さん。 あの、…」


僕は、多少赤面して、目のやり場に困った振りをしながら、…



翔五:「その、…もしかして、ノーブラのままで、一日出歩いてたんですか?」


くっきりと形の浮き出した、その先端部分に、…

とうとう、僕は、…ツッコミを入れてしまう。



朋花:「あーっ!…しまったぁ。」


朋花は、舌を出して、可愛らしくコツンと自分の頭を叩き、…



朋花:「ん?」


魔性のアイドル顔美少女(年齢不詳)は、興味津々に、…

僕の反応を、…観察してる?


て言うか、此の女? 多分、…全部解っててヤッテルよね!?







芽衣:「朋花さ〜ん、」


朝からテンションが上がらない芽衣が、救いを求める様に、…

朋花に声をかける、



朋花:「どうしたの、芽衣ちゃん、…元気無いね。」


朋花は、手を差し伸べて、…芽衣を自分の隣に座らせる。



芽衣:「朋花サンは、今のこの状況、…どう思てるんですか?」


芽衣、相談相手が帰って来てチョット…うるっとしてるらしい。



朋花:「今のって?」

芽衣:「付きっきりで翔五を護るって言う…仕事って言うか、役目、」


朋花:「うーん、前の仕事よりは全然楽だし、…て言うか、正直余り考えた事無いけど、そう言うモノなんでしょ、…私達って。」


芽衣は、黙ったまま、…俯いて、



朋花:「どうしたの、何か嫌な事でもあったの?」

朋花:「はっ!」


朋花が、僕の事を、激しく!…睨みつける、



朋花:「翔五クン、もしかして芽衣ちゃんまで、…苛めた?」

翔五:「苛めてないですよ。」


翔五:「って、「迄」って何ですか?」



いや、僕も、気にはなっているのだが、…

何だか取りつく島が無い、…と言うか、


結局、半日近く、一言も芽衣と口をかないまま、今に至る…

と言うのは事実だった。




芽衣:「朋花サンって、…好きな人とかてるんですか?」


芽衣が、何の脈絡も無く、恋話に、…シフトする?



朋花:「今んところ居ないかな。あっ、みんなの事は好きだよ。」

朋花:「もしかして、…芽衣ちゃん、今回の事で、好きな人と離れ離れになっちゃったとか?」


芽衣。解り易く、…赤面。



芽衣:「別に、…只の片思いやったから、えんですけどね。」

芽衣:「その人、他に好きなコ、るミタイやし。」


朋花:「乙女だね〜、」


そう言えば、芽衣は、イギリスに来る時に、…バッサリと髪の毛をショートに切って来たのだった。 もしかして…



翔五:「なんか、僕の所為せいで、…申し訳ない事になってたんですね。」


芽衣、僕が直ぐ傍に居たのを、漸く思い出した様に、…

ハッ!とする。



芽衣:「ちょお、アンタ、ガールズトーク盗み聞きせんとってよ。」


いや、こんな目の前で内緒話されてもなぁ…



朋花:「私、そう言うの経験無いから、上手く言えないけど、… 」

朋花:「芽衣ちゃんは、日本に帰りたいの?」


芽衣:「そう言う訳や、…無いんですけど、」


で、芽衣が、今度は、僕の事を上目遣いで、…睨みつける。



芽衣:「た、例えばやけど、翔五、アンタ、エマちゃんと付き合ってて、もし他の人から告白されたら、…どうする?」


翔五:「先輩、幾つか突っ込みたいんですけど、…良いですか。」

朋花:「そうね、先ず、翔五クンはエマちゃんとは付き合ってないわよ。」


芽衣の顔が、一瞬、…硬直して、



芽衣:「えっ、せやけど…」

翔五:「そうですよ、さっきから言ってるじゃないですか、誤解ですってば…」


朋花:「翔五クンが付き合ってるのは、…別のコだもの。」


芽衣:「えっ? だれ? 別のコ?」

芽衣:「もしかして瑞穂サン?」


芽衣の顔が、一瞬、…パニックに、、?



翔五:「なんでそうなるんですかぁ、…朋花サンも恥ずかしいから、僕の話は止めて下さいよ。」


朋花:「そうはいかないわよ! 翔五クン、これから16時間、じっくり聞かせてもらうわよ、昨日の夜、瑞穂ちゃんと…何処迄行ったのか!」


芽衣:「えっ、何処迄って? イったって、何が?」


芽衣、ワタワタになって、…



翔五:「む、ムラーノ島迄行きましたけど。」


僕は、タジタジになって、…



朋花:「とぼけても駄目! お姉さんは誤魔化されないわ、」

朋花:「キスはしたの?」


アイドルの目が、野生の光を…放つ!



芽衣:「キス? へっ??」

翔五:「してませんよ! なんで僕が瑞穂さんと、」


朋花:「今日の朝の瑞穂ちゃんの雰囲気、お姉さんは知ってるわよ、…あれは、一線を越えた女の表情よ、」


朋花:「私には、経験無いけど…周りのコは、みんなあんな感じだったもの!」


翔五:「いっっっっせん?? 越えた? 瑞穂…さんが? まさか!」

芽衣:「えっ、誰が、誰と一、線越えた?」


僕/芽衣、既にパニック状態…


エマ、欠伸あくび



翔五:「ちょっと、先ず、整理しましょう。」


そう、これは、とても大事な事だから、…冷静になって、



翔五:「先ず、僕は、やってません!」


僕は、真っ赤になりながらも、決定的に否定する!



朋花:「じゃあ、誰が…一体、瑞穂ちゃんを、…オンナに変えた訳?」

芽衣:「あっ…!」


瑞穂、朋花の頭頂部を、…ブレーン・クロー、…

一体、何時から、…そこに立っていたのかは、…不明、


朋花の前髪から、…ボタボタと鮮血が、…

流れ落ちる。



瑞穂:「なに、馬鹿な話してんのよ。」

朋花:「瑞穂ちゃん、…痛い、」


瑞穂、流血朋花を放置して、…



瑞穂:「みんな揃ってるみたいだから丁度いいわ、…翔五サン、トリアーナを出して。」


トリアーナの説明を始める。

僕は、革製のアタッシュケースから、黄銅製の三つ又の鉾先を、…

取り出して、…見せる。



途端に、エマの顔から、一瞬で…血の気が失せた。







瑞穂:「ゴメン、エマ、…貴方は外してて良いわ。」


エマ、ベッドから飛び降りると、逃げる様に部屋から、…

飛び出して行く。



翔五:「エマ?」


瑞穂は、走り去るエマの様子を、目で追いながら、…

再び、ゆっくりと話を、…続ける。



瑞穂:「これは、「聖霊殺し」の武器、トリアーナ、」

瑞穂:「「聖霊」を黙らせる事が出来る唯一の武器よ。」


瑞穂:「だから、貴方達「聖霊使い」は、絶対にコレに触れては駄目。」


朋花:「触れると、どうなっちゃうの?」


アイドル顔美少女(年齢不詳)は、興味津々に、…

ピカピカ光る、黄銅オリハルコン製の三叉戟さんさげきを、…観察する。



瑞穂:「このトリアーナに触れた聖霊使いは、「卵」に変えられてしまう。」

朋花:「卵?」


瑞穂:「肉体も、記憶も、感情も、全てが掌サイズの「卵」に封じ込められる。」


朋花:「それって、死んじゃうって…事?」


朋花は、突っつきかけた指先を、そーっと、…引っ込める。



瑞穂:「少し違うけど、まあ、同じ様なモノね。」

瑞穂:「一旦「卵」にされてしまったら、復活させる為には、代償として誰か別の人間の命が…必要になるわ。」


僕は、トリアーナをアタッシュケースに戻そうとするのだが、…


ピッタリとはまる様にかたどられた、アタッシュケース内部の詰め物が、 キツくて、…



翔五:「何か、上手く、…入んない、」

朋花:「大丈夫!…焦んないで。。」

瑞穂:「そんな無理矢理にしたら、…壊れちゃうでしょ。。」

芽衣:「………、」


一同、言ってて、…赤面。

咳払い、…仕切り直し。



瑞穂:「かく、絶対にコレには触らないで、…硫酸か、爆弾か、1週間風呂に入ってないオジさんの体臭、…それ位に考えていれば良いわ。」


朋花:「判った。其れ位、…恐ろしいって言う事だね。」


芽衣が、少し、…笑った。

それを見て、僕も、少し、…ほっとする。


女子の取り扱いなんて、…やっぱり、僕には、…

カラッキシ無理なのだ。







瑞穂:「翔五サン、…ちょっと良いかしら、」


僕は、瑞穂からの名指しの呼び出しに、…

少しだけ心躍らせながら、ホイホイ後について、…廊下へ出る。


機嫌、…直ったのかな?



瑞穂:「芽衣の事、もっと気を遣ってあげなさい。」


ところが、

濡烏の髪の美女からの指令は、更にカラッキシに、…難解だった。



翔五:「気を遣う?…ですか?」


瑞穂:「アンタ、鈍感で気付いてないみたいだから、ハッキリ言っておいてあげるけど、芽衣が好きな人って、…アンタの事よ。」


そしていつもの事ながら、…

瑞穂は、重大事をいとも あっさりと、…


暴露する。



翔五:「ええっ! 嘘!!…でしょ?」

瑞穂:「あんなの、バレバレじゃない。」


翔五:「でも、僕には、」


瑞穂:「アリアが居る? だったら余計に、…」

瑞穂:「芽衣やエマに対する言動には、十分注意する事ね、無神経な事言って、彼女達を傷つけないで。」


翔五:「えっ?」

瑞穂:「判った?」


僕は、僕には、納得出来ないと言うか、想像出来ないと言うか、

誰かが僕の事を好きだなんて、そんな事自体が想定外だから、

気の回し様も、気の使い様も、そもそもそれ以前に、


女の子に、何て声をかければ良いのかすら、…

解らない。



瑞穂:「判ったの?」

翔五:「はい、…いや、…」


そんな事よりも…



翔五:「瑞穂、」

瑞穂:「何よ、」


呼び捨てにされて、濡烏の髪の美女が、…不服そうに僕を睨む。



翔五:「昨日、あの後、…何か有ったの?」


僕は、マトモに瑞穂の顔を見る事すら、…できない。


一瞬、瑞穂の顔が、呆れた様に、是見よがしな溜息で崩れて、…

それから、悪戯っぽく、…口元がニヤリと笑う。



瑞穂:「ナーニ、アンタ、私の事が、…そんなに気になるの?」


瑞穂は、うつむいた僕の顔を覗き込む様に、…急接近し、

僕は、急いで逃げ出す様に、…一歩後退る、



翔五:「そりゃ、ちょっとは、…気になる。」


悔しいけど、事実だから仕方が無い。



瑞穂:「駄目よ、そんなに簡単に赦してあげないから。」


瑞穂は、そんな捨て台詞を残して、再び自分の部屋に、…

閉じ篭もる。


僕は、それでも少し、…元気を取り戻す。







部屋に戻ると、朋花と芽衣が、談笑していた。

芽衣も、少し、元気になったミタイ?



朋花:「ナニ、話してたのぉ?」

翔五:「言っときますけど、僕と瑞穂サンは何でも無いですから。」


朋花:「怪しいよ、…二人。」


朋花の(こういう時だけヤケに)鋭い眼光が、…

わざと不機嫌そうに見せかける、僕の目の玉の裏を見透かす様に…



僕は、朋花のこれ以上の追求を誤魔化ごまかす積り、…では無いのだけれど、

もう一度アタッシュケースからトリアーナを取り出して、…

ズシリと重い、その「責任」を、確かめる。



芽衣:「何や、綺麗やな。」


芽衣が、…無防備に、僕に近づいて、僕の腕に手を回し、…

背後から覗き込んで来る。


僕の肘と 、芽衣の身体が、不意に触れ合って…

僕は、どうしたって、瑞穂の言葉を、…思い出す。



翔五:「先輩、胸、…当たってますって、」

芽衣:「アンタ、こないだ、思いっ切り揉んだくせに、…今更何言うてんの、」


僕は、何だかバツが悪くなる、…

でも、チョット芽衣が元気になってくれて、…

嬉しい。


朋花サン、一体、芽衣とどんな話をしてくれたのだろう?




同時に僕は、何だか情緒不安定になる、…

本当に? 芽衣は…僕の事が好き?なのか?

このスキンシップは、僕とくっ付きたいって言う、芽衣の…

素直な思いの現れなのか?


そんな事、あっさりと納得出来る訳が無い。

やっぱり僕は、どうしても…警戒してしまわずには、居られないのだ。



僕には、アリアが居る。

僕は、アリアの最後を知っている。

アリアが僕の為に、どんな風に穢されて、辱められて、汚されて、壊されて、死んで行くのかを、その一部始終を…知っている。


アリアは、文字通りその全身全霊で、僕の事を、…想ってくれている。

僕は、どうしたって、そんなアリアの事が、…愛おしいと想う。

最後迄、アリアに寄り添いたいと想う。



でも、…

でも、…

でも、…


アリアと出会う前の3年間、

僕の事を心配してくれて、…

何度でも僕の慰めになってくれていたのは、…

他の誰でもない、此処に居る、…

芽衣なのだ。


僕は、芽衣の事を、

妄想の中で、何度も、…抱きしめた、…キスをした、…

勿論、それ以上の事だって、


僕は、芽衣の事を、だからと言って、…

恋人にしたい、なんて想った事は一度も無い。

そんな事は、絶対にかなわないって、…判っていたから。


僕なんかの事を、

恋愛対象として見てくれる女子が居るなんて、

有り得ないって、…思っていたから。



何で、芽衣は…

僕の事が好きになったの?

本当に、僕の事が、…好きなの?


僕は、本当の僕の気持ちは、一体、…

どうなんだろう?



確かめてみたい、…でも、やっぱり怖い、


そんな、ジレジレ・モヤモヤした胃の底に潜む、僕の決心が、…

悪巫山戯わるふざけに腕に抱きついた芽衣に、…

ほんの少し、…伝わって、



芽衣:「あ、…ゴメン。」


芽衣は、顔を赤らめながら手を緩め、…

僕は、逃げる様に、芽衣の腕をほどいて、…

朋花が、何故だか、そんな僕達の事を…ニヤニヤ眺めている。


それから、僕は、床に落ちたエマのヌイグルミを拾い上げる…



翔五:「エマ、…あいつ、どうしたんだ?」







そして、

無造作に部屋の扉が開いて、…



蟷螂:「よう、…流石に、これ以上聞いてらんねえんで、」


僕は、…



蟷螂:「そろそろラブコメ、終わりにしてもらって…良いか?」


見覚えの有るギスギスの坊主頭と、…再会する。



翔五:「お前…、」

朋花:「…!」


此の女?

数日前、ボンド・ストリートの僕のフラット(アパート)で、

朋花を殺した、…女兵士。



蟷螂:「おっと、最初に言っておくが、今俺の手には、爆弾の起爆装置が握られている。 ボタンから指を外せば、…すぐ爆発する。 良いな。」


女兵士は、

ジャケットの下のC-4爆弾と起爆装置を曝け出して…見せる。



蟷螂:「結構これ、バネがキツいんで、…正直ずっと抑え続けてんのは指が辛いんだが、…俺も無駄死にはしたく無いからな。」


蟷螂:「後、窓の外から、結構な数のスナイパーがお前達の事を狙ってる。」


必勝の確信で、そいつの目は遠く泳ぎ、…



蟷螂:「京橋よぉ、お前、殺したくらいじゃ死なないって言うのは本当らしいな、」


蟷螂:「でも、この男が死ぬと、…困るんだろう?」




口元は緩んで、プラスチック製の前歯を晒していた。

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