エピソード19 「そして僕は美少女達の女子会に参加する」

イギリスと日本で違っている所?…って何だろう??

涼しい、乾燥している、夏は昼が長く冬は夜が長い、料理が薄味で余り美味しく無い、湯船につからない、部屋は土足で入る、車はディーゼルとマニュアルトランスミッションが人気で、信号が少なくてランナバウトが多い…、


あげればいとまも無いが…洗濯事情もその一つである。


まず、水は素人なら飲むのは控えた方が良い程カルシウム濃度が矢鱈やたらに高い。 食器も洗った後放ったらかしにしておくと、直ぐに白いカルシウムが粉を吹いてしまう。 そんなだから洗濯物はあっという間に変色する。 お気に入りのエドウィンの白いシャツが…何故だか何時の間にか淡い灰色グレーだったりする。


次に、洗濯機は殆どがドラム式で、しかも驚く程時間がかかる。 日本みたいにジャンジャか大量の水を使わなくて ちょびちょびと2時間位かけて洗うから、そう一日に何回も洗える訳ではない。


そして、洗濯物は家干しが殆どである。 勿論一戸建ての家には大抵綺麗な芝生の庭があるから(芝刈りは大変らしい…)其処に干す人も居ない訳ではないが、基本的にイギリスの天候は晴れのち曇り後雨ノチ晴れ…と目紛めまぐるしく変わるので、そうそう干しっぱなしで放ったらかしと言う訳にも行かない。 勿論洗濯機に乾燥機が付いていたりもするのだけれど、使用方法が今ひとつ解らなくて悲しい程洗濯物が縮んでしまったりしなかったり…



そう言う諸々の帰結として…

今僕の目の前には、「派手なの」やら「可愛らしいの」やら女性物の下着がズラッと部屋一面に吊り下っていたり、「洗濯待ち」の汚れ物がカゴにドッチャリ積み重なっていたり、するのだが…



エマ:「しょーご〜」


エマ、僕の首根っこを引っ張って…

不思議な匂いの立込める神秘の部屋から遠ざける、

絵に描いた様な「プンプン顔」で睨みつける、

頬っぺたを両側から挟み込む様にビンタする、



エマ:「滅っ!」


…何故だ???



瑞穂:「トイレはその隣の部屋よ。」

翔五:「はは、部屋間違えちゃった…」


僕は、唯でさえ細い目を更に恐縮させながら…

暫し魅惑の個室へと退避する。



やけに可愛らしいスリッパが、チョコんと行儀良く並んでいる。

見覚えの無いフタ付きの小さな屑入れが置かれてある。

何故だかトイレットペーパーの先が三角形に折られてある。



翔五:「うう〜っ、」


僕は、誰も見ていない個室で一人…赤面する。




此処はオックスフォード・サーカスにある妖しい美容室。

瑞穂とアリアのアジト、その2階(1st Floor)。


僕達はタワーブリッジでの一件の後、一旦「状況を整理しよう」という理由で此処へ来たのだが、何故だか何時の間にか…「宴会?」「食事会?」を開催する運びとなっていた。



翔五:「……、」


…落ち着け! 僕!

…勘違いするんじゃ無い!


何しろ、僕は…こう言う事に全く免疫がない訳で、


コレ迄に「女子」と話をしたのなんて…「母親」と「学校の先生」と「ファーストフードのお姉さん」と「芽衣」を除けば ほんの5本の指に数える程しか無い訳で、


ましてや女性の部屋に上がり込んだのなんて…小学校低学年の時の「クラスの女子のお誕生会」を除けば 生まれて初めてな訳で、


一体どう言う顔でどんな風にたたずんでいれば良いのか…さっぱり解らない訳で、



翔五:「なんで、こんなに緊張するんだ?」


さっきから膝はプルプル震えっぱなしだし、

心臓はニトロを注射したミタイにドキドキするし、


何しろ「濡烏の髪のお姉様」と「アイドル顔×モデル体型」という芸能界事務所の忘年会でもナカナカあり得ないだろう…という美人密度の中で「ご飯」を食べる訳である。 (エマの事は置いておいて、、、)



もしかして僕は「何か」を期待しているのか?

…いい感じで酔いが回って来て、

…知らず知らずに肘が触れ合ったりその他諸々スキンシップしたり? 

…「はい、あーん」とか? 

…「翔五って結構良いと思うよ」「嫌いなタイプじゃないわね」とか?



翔五:「り、リア充……」


それは、太古の昔に封印された言葉、


どうしよう。 ニヤケが止まらない、

どうしよう。 赤面が止まらない、


駄目だ!翔五!!

正気を取り戻せ! 俺!!!


これ迄何度も「無駄」な期待を抱いて、その度に裏切られて来たじゃないか。 勘違いで「痛く」突っ走って、その度に危ないモノを見る様な視線を浴びて来たじゃないか。


そうだ!

これはまでも「反省会」!

言ってみれば僕達の関係は「ビジネス」みたいな物なのだ!

例えばアイドルとマネージャーみたいな。。。


浮かれた恋愛感情とか、異性として意識するとか…



翔五:「有り得ないよな。」


僕は、自虐的に「トイレの鏡」で現実を再認識し、心を鎮め、


それからようやく、用を足す…



翔五:「はあ…」


意味も無く深く溜息ためいきを吐いて、

かすかにアノヒトの匂いがする…様な気がした。







瑞穂:「長かったわね、…大丈夫?」


コジンマリしたダイニングテーブルに瑞穂と朋花が腰掛けている。 既に、赤ワインのコルクは抜かれていた…


僕の事を26回も殺した女なのに…

何でか今日は、こんなにも瑞穂が可愛く見える?



翔五:「ああ、別に…何とも、無いよ。」


…落ち着け俺〜

…クールに行け〜

…僕は唯のオタクだろ〜



朋花:「翔五クン、此処、此処! 座って。」


あの「委員長」の様に冷たかった朋花ほのかが…

何でか今日は、アイドルみたいな笑顔で気安く僕に話し掛けてくれる?



翔五:「じゃ、じゃあ…お言葉にあま、え…?」


…「誰か」が僕の首根っこを摘んで引っ張る、


翔五:「あれ?」


…「誰か」が僕をリビングの隅の方へと拉致らちって行く、


翔五:「あれ、」


…「誰か」がフローリングに置いたガラス製の卓袱台ちゃぶだいに僕を座らせる 、



エマ:「せいざ! 」


…何故、「この人」は怒っているのだろう??




朋花:「エマちゃん、翔五クンを独り占めしないで〜。」


朋花、ワイングラスを持って卓袱台に押し掛けて来る。

僕の横に腰掛けて、一瞬寄り掛かった柔らかで張りの有る胸が、僕の肘に…



翔五:「……!」

エマ:「ああ〜!」


エマ、小姑の様にギラリ!

翔五、子鹿の様にビクリ!



翔五:「ちが、わざとじゃ…」

朋花:「ごめんごめん、今のは私が…」


エマ、何故だか翔五を、裸締め…


仕切り直し…



翔五:「でも、何で行成いきなり飲み会なんですか?」


僕は苦笑いしながら…平静を装う。



朋花:「良いじゃない、女子会よ、女子会! 恋話よ!!」


ちょっと頼りなさそうなアイドル顔が、すっごい笑ってる…


可愛い…。


…見失うな俺〜

…勘違いするな〜

…あくまでもコレは営業スマイルなんだぞ〜


僕は御呪おまじないの様に、掌に「人」と書いて…

握りつぶす…



翔五:「あの、僕一応…男なんですけど、、」


僕は作り笑いしながら…平静を装う。



朋花:「小さい事は気にしない気にしない、」

エマ:「ちいさい?」


エマ、翔五の背中にぶさって、

エマ、翔五の耳元で「フッ、」と嗤う、


…こ、コイツ!



瑞穂:「「女子会」なんて、今時「死語」じゃ無いの?」


キャンティ・クラシコの瓶をぶら下げて、瑞穂が卓袱台の対面トイメンに座る。


ガラス製のテーブル越しに、

綺麗な裸足の指と、引き締まった足首と、スラッとした脹脛ふくらはぎと、柔らかそうな内腿うちももと、、、、



翔五、刹那せつな気配を感じて。

翔五、チラッとエマの様子を伺う。


エマ、一体何がそんなにツボにはまったのか。

エマ、思い出した様に時折「へへっ、」と嗤っている。


…こ、コイツ!!!



朋花:「良いじゃない、私「部活」と「受験」と「就職」と「仕事」で、これまでに何一つ「楽しそうな事」して来なかったんだよ〜」


匂い立つ様な「グラマー美女」と「スレンダー美女」のツープラトン攻撃が、直径1m足らずのテーブル越しに…僕の理性を圧倒・崩壊する。




瑞穂:「それにしても朋花って本当に良い身体してるわね、…どうやったらそんな体型に育つ訳?」


瑞穂、りげ無く朋花の腰のくびれに掌を…押し付ける。



朋花:「瑞穂ちゃん、日々鍛錬だよ〜。」


瑞穂、何の断りもなく88のバストを持ち上げて…揉みしだく。



朋花:「やだな、瑞穂ちゃん…くすぐったいよ。」


翔五、対面に座る女の「殺気」を感じた…気がする。

エマ、何がそんなにツボに嵌ったんだか…(以下略)。



瑞穂:「さぞかしモテるんでしょうね。」


瑞穂、切れ長の目が、見えない角度から、

瑞穂、アイドル顔の女を…め付ける。


朋花、チョットうつむいて、

朋花、怯えた様に目を逸らす、



瑞穂:「ふーん、」


何か、地雷を、踏んだ…らしい。




翔五:「ところで、なんで急に「ちゃん」付け何ですか?」


僕は、ぼーっと放心状態の朋花に話し掛ける。



朋花:「なんでって言われても、以前からそうだったから。」

朋花:「私達「親友」だったのよねぇ…」


朋花、瑞穂の下手から、にっこり…微笑む、



瑞穂:「ねえと言われても…」

瑞穂:「悪いけど私には前世の記憶はないの、

アリアから聞いた事に基づいて行動しているだけだもの。」


瑞穂:「本当に、私達…友達だったの?」


瑞穂、上から目線で、にっこり…微笑む、




朋花:「ふーん、相変わらず大変ミタイだね。」


翔五、他人事なのに、だんだん胃が痛くなってくる、

朋花、蛇に睨まれた蛙ミタイに、黙ったまま泣きそうになってる、



翔五:「ほ、朋花サンは、前世の記憶を取り戻したって本当なんですか?」


朋花:「わ、解らない、…記憶っていうよりは、感情、気持ちかな。」

朋花:「昔どんな事が有ったとか、そういう記憶は凄く曖昧。 朝起き抜けの夢の残像…みたいな感じ?」


朋花:「でも、瑞穂ちゃんが私の「大事な友達」だって事は知ってる。」


瑞穂、寂しい様な、冷たい様な、切ない様な視線を朋花に向ける。



でも、朋花の言っている事は凄く…共感出来る。

だってそれは、僕がアリアに抱くのと…同じ気持ちだから。


僕も、意味も無くアリアが僕に取って「かけがえの無い存在」だって事を、…知っている。



瑞穂:「それで、「聖霊」の力は取り戻したのね。」

朋花:「うん、それについては…何だか微妙な感じね、」


朋花、思い詰めた様に、再び…目を伏せる。





翔五:「第三の「聖霊遣い」って言ってたけど、「聖霊遣い」って何なんですか?」


瑞穂:「「聖霊」の能力を自分の意思で思い通りに使えるモノの事よ。 …アリアやエマや、朋花みたいにね。」


翔五:「何人も居るんですか。」

瑞穂:「アリアによれば、…以前、翔五サンの周りにはアリアを含めた5人の「聖霊遣い」が居たらしいわ。」


翔五:「5人?」


…まだ他にも2人居るって事?


瑞穂:「今、私達はその5人を再び集結しようとしているの。」

瑞穂:「朋花が此処に来る様に仕向けたのは私達よ。」







今回のタワーブリッジの件がTVで報道されている。

どうやら、反社会的若者集団のプロパガンダがらみの「悪戯」が大きな事故に発展したという事になっていた。


翔五:「どうやったら、あんな「悪戯」が出来るんって言うんだ?」

翔五:「実際に被害にあった人の遺族とか、あの場所に居合わせた人達には 一体、なんて説明するつもりなんだろう…。」


瑞穂:「さあね、想像もつかないわ、」



TVでは「事故現場」に取り残された焼けこげた車両の残骸が映し出されている。 タワーブリッジは綺麗だった塗装が剥がされて、抜き出しになった鉄骨が錆の色を呈していた。



翔五:「あのさ、「聖霊」が襲ってくるのって、…僕の所為せいなんだよな。」


瑞穂:「そうね、翔五サンが居なければ、彼らは実体化して「世界」に干渉しようとは しないでしょうね。」


僕は、竹崎とか言う特殊警察の隊員に起きた事を思い出して…思わずTVの画面から目を背ける。



瑞穂:「でもね、翔五サン、」

瑞穂:「貴方が居なければ、この世界はとっくに終わっていたのよ。」


瑞穂:「だから、そんなに自分を責める事は無いわ。」


瑞穂が僕を見つめる目は、何時だって冷ややかで、

何時だって何かを秘めている、


僕は、冷たい目で涼しげに嗤う「濡烏の髪の美女」に、ほんの少しだけ…微笑みを返す。







メイド:「サイコロ・ステーキ如何いかがっすかぁ?」


突如!

キッチンの奥からメイド服の少女が現れる。

オレンジに白いエプロンのメイド服。

真っ白い肌、碧い瞳、銀髪をカチューシャでアップに結っている。


何故だか翔五の事を見て…ぽっと頬を赤く染める。



翔五:「この人は?」


メイド:「やだなぁ、星田サン。 本当〜に覚えてないんすねぇ?」

メイド:「あんなに…色々…サービスしたのになぁ。」



翔五:「えっ? サービスって??」


翔五、はっと赤くなる…

エマ、はっと正気に戻る…



翔五:「何か、…ありましたっけ? 僕達、」


エマ、小姑の様にギラリ!

翔五、子鹿の様にビクリ!



瑞穂:「コノ子は野崎美穂。」


瑞穂、収拾がつかなくなる前にメイド少女の「正体」を解説する。



朋花:「…って、何処から見ても日本人じゃないわよね。」

翔五:「も、もしかしてこの子が、新たな聖霊使い? とか?」


瑞穂:「この子はただの雑用係よ、気にしなくていいわ。」

瑞穂:「スピンオフ作品からのカメオ出演みたいなチョイキャラよ。」


メイド:「相変わらず酷い言われようっす、」


美穂、泣く



瑞穂:「彼女はアリアと同じ能力を持っているの。

「世界」、「神」とアクセス出来る能力…と言っても良いかな。

昔から「審神者サニワ」と呼ばれて居た種類の人間よ。」


瑞穂:「アリアほど完全では無いけど、彼女は「前世」の記憶を覚えている。」


瑞穂:「以前、日本で翔五サンと「何か」遭ったらしいんだけれど、」


瑞穂、翔五の事をちらりと上目使いで見て…ちょっと赤くなる。


…何故ぇ?





瑞穂:「彼女は「前世」では日本人だったらしいの、例の「26回の転生」に巻き込まれてイギリス人に生まれ変わって来たらしいのよ。」


瑞穂:「る朝、日本人だった時の記憶をもったまま、サウス・ケンジントンの博物館前の芝生で…目を覚ました。」


瑞穂:「代わりに、イギリスで生まれてそれまで暮らして来た筈の記憶を すっかり無くしてしまったらしいのよ。」


瑞穂:「行くあても無く、途方に暮れていたのをアリアが拾って来たの。」


メイド:「お世話になってまーす。」


翔五:「ふーん、でも どうして日本人だったのが、行成いきなりイギリス人になって「転生」するんだ?」


瑞穂:「未来を変えると、過去が変わるのよ。」

瑞穂:「多分、翔五サンが過去に戻った時に、戻った時間よりも もっと遡った過去の時間に影響を及ぼして、彼女の両親の出会いが変わってしまったのね。」


翔五:「にわかには信じられないなぁ。 過去が変われば未来が変わるのは解るけど、どうして未来を変えると過去が変わるの?」


瑞穂:「簡単に言うと、川の流れを時間の流れだとして、川の下流にある未来にダムを造ると、川の上流である過去にも影響が出て、川幅が広がったり、別の支流が出来たりするのと同じ事よ。」


瑞穂:「翔五サン、コレ迄「転生」した時に「記憶の食い違い」みたいな事を感じた事は無かったかしら。」


翔五:「さあ、あんまり良く覚えてないな。」


瑞穂:「例えば、翔五サンがここで「26回転生」を繰り返した時に、3回目と7回目と19回目は、「岩城」っていう人は遅れてイギリスに来たらしいわ。」


…なんかそんな記憶が有った様な、無かった様な…



瑞穂:「アリアによれば、私達の「名前」や「境遇」も「前世」とは違ってしまっているらしい。」


翔五:「「お姉さん」の言う事は相変わらず意味不明だな…。」


瑞穂:「そうよね、私だって判らないで「聞いた話」を ただ喋ってるだけだもの。」





メイド:「イギリスのステーキは結構美味しいっすよ。」


銀色メイドは、ガラス製の卓袱台ちゃぶだいの上に鉄板に載せたサイコロステーキと皆の小皿を用意する。



朋花:「美穂ちゃんは、一緒に食べないの?」


メイド:「あざーっす、でも、いいっす。…伝説の星田さんと一緒なんて…緊張して とても平常心じゃいられないっすから。」


メイド:「自分 次、準備してくるんで、…召し上がってて下さい。」


銀色メイド、そそくさと退場する…



翔五:「何だか、可愛い子だね。」


女子3人、一斉に翔五を睨みつける…







翔五:「そう言えばさ、僕に変なカプセルを注射したっての本当なの? …細菌兵器とか?」


翔五、空になったウルケルの瓶の口に指を突っ込んでゆらゆら揺らす。

エマ、翔五から瓶を取り上げる。



瑞穂:「誰がそんな事言ったの?」


瑞穂、ヴァルポリチェッラのコルクを…

瑞穂、諦めて翔五にワインの瓶を渡す…



朋花:「うち等の本部では「そう言う事」になってたのよ。

…破傷風のワクチンの代わりに、「細菌兵器」を封入した「マイクロカプセル」を注射したって、それで私は、その足取りを追って此処迄やって来たんだから。」


翔五、一応男らしく、無理繰むりくり固いコルクを…

翔五、諦めて朋花にワインの瓶を渡す…



瑞穂:「ふーん、まあ、良いわ。」

瑞穂:「一体誰がそんな事を言い出したのかは、大体見当がつくし。」


瑞穂:「それに、別の物を注射したのは本当だしね。」


朋花、いとも簡単にコルクを抜いて、

朋花、先ずは自分のグラスを一気のみで空にしてから一杯目を注ぐ。



翔五:「一体、何を注射したのさ?」


瑞穂:「心配しなくっても死んだりしないわよ。」

瑞穂:「まあ、御護りみたいなもの、ワクチンみたいな物かな。」

瑞穂:「お姉さんをもっと信用しなさい。」


翔五:「基本的に僕は「お姉さん」の事を信用しない事にしたんだ。」


瑞穂、トコトコと四つん這いで歩いて行って、

瑞穂、朋花からヴァルポリチェッラの瓶をひったくり、

瑞穂、翔五の口に…



朋花:「ああん、勿体ないよぉ。」






翔五:「ワイン…嫌い、」


翔五、新入社員歓迎会の悪夢を…思い出す。



朋花:「誰が、って心当たり有るの?」


瑞穂、翔五の口に突っ込んでた瓶口を舐めて、

瑞穂、空になったグラスに残ったワインを注ぐ、



瑞穂:「まあね、朋花が言ってる特殊警察(仮称)って組織も、世界統一政府の下部組織の一つだもの。」


朋花:「なんなの? 世界統一政府って、…怪しすぎ。」

朋花:「私はそんな妖しげな団体が有る事なんて聞かされた事は無いよ。」


翔五、トイレ、

エマ、しょうが無いな…付き添い、



瑞穂:「今のこの世界を裏で操っている組織の一つよ。

…表向きは公式な各国政府機関が、裏ルートで連携しているネットの同人サークル、ミタイな物よ。」


瑞穂:「彼らは、この世界を存続したいと願っている。

…今、この世界で「甘い汁」をすって比較的楽しく暮らしている人々の代表、って言った所かしら。」


瑞穂:「私とアリアは、彼らの力を利用させてもらっている訳。」


朋花:「世界統一政府と特殊警察がそう言う関係なら、こんなまどろっこしいやり方しないで、メールかなんかで直接私に連絡くれれば良かったのに〜」


瑞穂:「私達の存在は、世界統一政府の中でも ごく限られた者しか知らないわ。 それに、内部にも「敵」がいるのよ。」


瑞穂:「こちらが集結しつつある事を、できるだけ敵に悟られないようにする必要があったの。」


朋花:「敵?」


瑞穂:「ええ、「味方」もいれば「敵」も居る。」

瑞穂:「私達が仲間を集めようとしているのは「敵」の攻撃に備える為よ。」


朋花:「「敵」って、もしかして私達 誰かと戦ってるの?」


瑞穂:「この世界には、まだ「聖霊」の力を使って、この「世界」を「神」の計画通りに「リセット」しようと考えている連中がいるのよ。」


瑞穂:「私達の「敵」はそういう連中よ。」

瑞穂:「「敵」の中にも「聖霊遣い」がいて、翔五に「呪文」を発動させようとしてくる。」


朋花:「「聖霊遣い」…、それって私と同じ?」


瑞穂、胡座あぐらを組んで、足の裏を指で押してマッサージする、

朋花、瑞穂の足を取り上げて、代わりに足の裏をマッサージする、



瑞穂:「「聖霊」には善も悪も無いわ、「神」の計画に基づいて動いているだけ。」


瑞穂:「あっ、気持ちイ…、」



瑞穂:「でも、「聖霊遣い」は違う。 人の「意思」で「聖霊」の能力を使おうとするから、其処には些末さまつな損得勘定が絡んで来る。」


瑞穂:「「意思」をもって「聖霊」の力を武器として遣おうとするモノ達は厄介だわ。 例えば、数種類の「聖霊」の能力で同時に攻撃されたら、今の私達に防ぐのは困難よ。」



瑞穂:「うぅ! 朋花…、上手、うっ…、」




瑞穂:「…翔五は…コレ迄の「攻略」の中で、…3回だけ敵のボスキャラに辿り着いた事があるらしいの。」


朋花:「たったの3回?」

朋花:「3000回も転生してるのに?」


瑞穂:「そして、…3回とも敗北している。

…まあ、翔五が「呪文」を発動して「世界」を終わりにしなかった時点で「引き分け」って事なのかも知れないけれど、」


瑞穂:「あっ…、」


瑞穂:「…兎に角、世界は…そこから先へ進んだ事が無い…らしいの。」


朋花:「ピンと来ないよ。」



瑞穂:「…痛っ!」

朋花:「あっ、ゴメン…でも、ってるって事だよ。 もっと痛くすれば、その内だんだん痛く無くなって、凝りも取れるよ〜、」


朋花、何故か瑞穂の足を離さない。

朋花、目が……



瑞穂:「いっ、痛い! あっ、そこ痛いってば、もう…いっ、」

朋花:「大丈夫だよぉ、朋花に任せて!…ちゃんと…して、あげる、から!」


瑞穂、美しい貌が…歪んで、

瑞穂、耐えきれずに…身体を仰け反らせる、



瑞穂:「もう…いい、よぉ… あ…痛っ!」

朋花:「凄い、凄いよぉ、瑞穂ちゃん…!、凄い凝ってるよぉ!」



メイド:「何やってんすか?」


瑞穂、涎垂らしながら赤面、

朋花、やり切った感で紅潮、

美穂、意味深な目付き、



メイド:「あれ、星田サンは?」

朋花:「トイレ、立て篭ってるよ。」


朋花、瑞穂の足の裏をぎゅーぎゅー押した自分の指の匂いを嗅ぐ、

朋花、瑞穂の足の裏をぎゅーぎゅー押した自分の指をペロリと舐める、



メイド:「チーズ如何っすか、」







小さな樽型の容れ物に入ったカマンベールチーズ。

固くなった表面をナイフでぎ取って、トロトロの中身をすくい、薄い塩味のクラッカーに載せて…食べる。



朋花:「美味しい〜。」


ワインの瓶は極甘のTawny Portに移っていた。



瑞穂:「結構いけるでしょう。」

瑞穂:「イギリスにも美味しい物はいっぱい有るのよ。」



朋花:「でも、ポートワインだとチョット生臭く感じちゃうかなぁ、」

瑞穂:「キャンティ残しときゃ良かったかな…」


翔五、エマの膝枕でうなされ中…

エマ、全くしょうが無いわね…という感じで、満更でも無い感じで、



朋花:「美穂ちゃーん、ビール有る?」

メイド:「はいー、色々有りますよ。」

メイド:「フランスのクローネンベルグ1664、」

メイド:「ベルギーのOMER、」

メイド:「イギリスのギネス、」

メイド:「どれにします?」


朋花:「何だか解んないからベルギー。」

瑞穂:「何だか解んない人にはBECKで十分よ。 それより何でワインが切れてる訳?」


メイド:「それは鴫野さんが毎晩飲むからです。」


朋花:「じゃあ、私ベルギーで、」

メイド:「かしこまりましぃ〜」


エマ、意識を失った翔五の髪を、優しく梳いてやる



瑞穂:「朋花は、これからどうするつもり?」


朋花:「どうしようかな。 瑞穂ちゃんを逮捕しに来たんだけど、なんかそう言う訳にも行かなくなっちゃったシネ。」


瑞穂:「何処に住むのかって言う事よ。 前居た部屋はアンタの元部署で借りた部屋なんでしょ?」


朋花:「ああ、そっかぁ、聖霊の事を何て説明しようか。」


瑞穂:「言っても無駄よ。 彼らは聖霊の事はとっくに知ってるけれど、口外無用にしているもの。 それに、アンタはあの事故で死んだ事になっているわ。」


朋花:「えー、そうなの?

そしたら。 …私結婚出来ないじゃない!」


朋花:「まだ彼氏だって出来た事ないのに…」


瑞穂:「諦めなさい。」







メイド:「デザートっす!」


美穂、綺麗に飾り付けた丸くてカラフルな一口最中ひとくちもなかを持って来る。



朋花:「わー、マカロンだ。」

メイド:「マカルーンっす、ハロッズで買って来た本場フランスの有名パティシエの店っすよ!」


メイド:「コーヒーか、紅茶如何っすか?」

朋花:「じゃあ、コーヒーをお願いします。」


瑞穂:「私には紅茶をお願い。」

エマ:「紅茶、」


メイド:「了解っす!」


エマ、早速ピスタチオを ハムっ!



朋花:「あれ、翔五クンは?」


翔五、床の上に放置…







夜の22時過ぎ、

僕は漸く身体の自由を取り戻す。

オックスフォード・サーカスの空は、未だ明るかった。


…何だか、非道い目に遭った気がする??



瑞穂:「アリアに会って行かないの? 怒るわよあの子、きっと。」


僕は靴ひもを結んで、妖しい美容室跡の玄関のドアを開ける…

漸く涼しくなり始めた風が、僕の隙間を埋める様に纏わり付いて来る。


エマと朋花は、一足先に外に出て何か話してる様だった。

と言っても、一方的に朋花がマシンガン・トークしてるのだが…



翔五:「あのさ、昨日の夜…アリアに会ったミタイな気がするんだ、」


瑞穂:「ナニ、惚気のろけ?」


翔五:「じゃなくって、…何か記憶が定かじゃないと言うか、」

翔五:「昨日の夜、突然にウチの部屋に、アリアが現れた、こんな事有り得ないよね。 まさか…本当に、居たのかな? 夢じゃなくて…」


瑞穂は、目をつぶって軽く俯きながら…微笑んだ。



瑞穂:「さあね、日が沈むとアリアは好き勝手に行動してるから、私もイチイチあの子の行動を把握していないわ。 本人に確認してみたら?」



アリアに会うのが、怖い?

脳裏に、あの忌まわしい光景が甦る、

変な感じに、酔いが醒める。



翔五:「やっぱり、帰る。

…今日は岩城サンに連絡出来なかったし、もしかして心配してるかも知れないから。」


僕は あの、朝帰りした日の「涙の説教」を…思い出す。



瑞穂:「そう、でも会社の事なら、心配要らないわよ、

翔五サン クビになったから。」







翔五:「へっ?」


…何、かな? 聞き間違い?



瑞穂:「正確には、「転籍」になったって言うのかな、

…ライラック・オートモーティブ・テクノロジーに。」


瑞穂:「役職は、一応「技術顧問」って言う事にして置いたわ、」


…ナニ? その展開。




瑞穂:「後、スタッフも必要でしょうから、日本から呼び寄せたわ。」

瑞穂:「貴方の良く知っている人よ。」



瑞穂:「忍ケ丘芽衣、…彼女が4人目の「聖霊遣い」よ。」







翔五:「へっ??」

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