エピソード12 「そして僕は、美少女と…」
22時を過ぎた頃、
僕は、ただ「現実」の斜め後ろ上空に居て、
…思いの
…早鐘の様な鼓動とか、
…無関係に
…締め付ける様な苦しさとか、
…逆立つ様な
…潤う程に高まる渇きとか、
そう言った、たった今自分に降り掛かっている 諸々全ての「現実」を、
僕は、ただ 遥か遠く斜め後ろ上空に居て、「
…眺めていた。
まるで造り物の様に一点の欠陥も無い白い肌が、
暗闇の中で星の光を集積した夜光虫の様に
この手に抱きしめれば壊れてしまいそうな華奢で中性的な肢体が、
少女は、細い指で そっと僕の肌に触れ、
それから ゆっくりと素肌を重ねて、驚くほど軽い全質量を…僕に預ける、
そして、再び、深く、僕達は 唇を重ねる。
翔五:「…ゴメン。」
アリア:「謝らないで…、」
アリア:「「いつも」、「初めて」は…こんな感じだから。」
少女は、僕の上で安らかに呼吸する、
重ねた肌から、「お互いに足りなかったもの」が伝わってくる、
まるで「酸」と「塩基」が中和する様に、
僕達は次第にラジカルを失って、深く、深く、安らいでいく。
アリア:「ねえ、…朝まで一緒にいてくれる?」
少女が、甘えた声で問う。
翔五:「僕は、…君にとってどういう存在なの?」
翔五:「君は、…どうしてこんなにも僕の事を必要としてくれるの?」
僕の不安が、思わず口を
翔五:「僕は、君の期待に応えられる様なモノを持っていないんじゃないかって思うと」
翔五:「…怖いんだ。」
全然ぱっとしない見栄え、何の取り得もなく、いつも臆病に全ての事物から距離を置き、とっくに自分の居場所すら自信が持て無くなっていた。
少女は、冷たい頬を僕の胸に押し付ける。
アリア:「貴方はいつもそう。」
アリア:「貴方は、貴方のままで、そのままでいいの。」
アリア:「私はそれ以外、何も望まない。」
それでも、まだ、…僕には信じる勇気が持てない 。
翔五:「僕達は、本当に昔から、…愛し合っていたの?」
翔五:「僕は、何一つ覚えていないんだ。」
アリア:「大丈夫、…私が、全部覚えているから。」
少女は、今にも逃げ出しそうになる「僕の弱音」を
翔五:「僕達は…どんな風に出会ったの?」
アリア:「貴方は、とっても
アリアが笑った。
アリア:「二人とも、今とは違う境遇、今とは違う名前だった。」
アリア:「私には、自分が何者なのかが判らなかった。」
アリア:「貴方は、自分以外の全てのモノを見限っていた。」
アリア:「それなのに貴方は、私に「友達になろう」って言ってくれた。」
アリア:「だから私は、自分が「貴方にとって大切なモノ」なんだって事に気づく事が出来た。」
アリア:「二人は、そんな風にして出会ったの。」
きっと「生まれ変わる前の僕」は、今よりもずっと沢山の魅力で溢れていたに違いない。
僕は…「彼女が求める僕」に嫉妬していた。
しかし「それ」は既に失われていて、
程なく彼女はその事に気付き、
やがて僕から離れていくのだろう、
僕は…「自分」が傷つく事が怖かった。
失う位なら、最初から手に入れない方が良いに決まっている。
僕が決意を固める、ほんの一瞬前に…
アリアが、そっと身体を起こす。
アリア:「ねえ、とても綺麗な夜だと思わない?」
アリア:「出かけましょう。」
彼女は 戸惑う僕の手を引いて起き上がらせると、
楽しげに、お気に入りのドレスで身支度を整える。
素顔の
不釣り合いな僕は
彼女が笑うのを見て、僕は幸せを感じ、
鏡の前の自分を見て、憂鬱は
夜の闇が 僕の劣等感を覆い隠してくれる事が、せめてもの救いだった。
僕達は、こっそりと オックスフォード・サーカスの美容室を抜け出して、静まり返ったリージェント・ストリートを散歩する。
通りには一台の車も、赤い二階建てのナイトバスも、たまたま通りがかった通行人の姿すら見当たらない。
ショーウィンドウのディスプレイ達だけが、僕らの事を見ていた。
翔五:「こんな事って…あるんだ。」
二人きりの貸切の様な夜の
僕の頬を撫ぜて、静まり返っていた心を騒がせる。
トラフィック・ライトの明滅する車道の真ん中で、
突然アリアが 僕にキスをした。
アリア:「翔五、私 今、とても幸せよ。」
僕は、再び 不安に
アリアが見ている物を、本当に僕は…見れているのだろうか。
僕達は、本当に同じ「世界」に生きられているのだろうか。
やっぱり、僕には…無理なんじゃ無いだろうか。
そして、
今起こっている事が 全て「夢オチ」だと言わんばかりに、
午前零時過ぎのピカデリー・サーカスには、
まるで人の姿が見当たらなかった。
翔五:「何か、変じゃないか?」
アリア:「ねえ、地下鉄に乗りましょう。」
僕の不安を
アリアは 強引に僕の手を引っ張って、
一つだけシャッターの空いた地下鉄への入り口を降りて行く。
無人の地下街には、薄暗い蛍光灯だけが点滅していた。
翔五:「もう、地下鉄は終わってしまったんじゃないの?」
アリア:「大丈夫。」
アリア:「翔五は「心配屋」さんだね…」
アリアは「黒いオイスターカード」を自動改札に
眠りに着いた筈の エスカレータが、僕らをより深い闇の住処へと案内する。
誰もいない迷路のような通路を抜けて、
壁一面に張られた不気味なポスターに一喜一憂する。
翔五:「何だか、遊園地のお化け屋敷みたいだな、」
そんな風に思い始めた頃…、
静まり返った深海の様なホームに「それ」が出現する。
青白く闇に浮かび上がる、不思議な女性
虚ろに「何処とも無く」を見つめ、ただ「当ても無く」徘徊する 。
翔五:「あれって、もしかして…」
アリア:「怖がらないで…」
アリアが、僕の傍に寄り添う。
アリア:「あの子達は、貴方の「恐れ」に怯えてしまうだけ。」
アリア:「心を穏やかにしていれば、決して「襲って」は来ない。」
僕は、アリアの手に触れて…何とか平静を保とうとする。
そんな僕の不安を察知してか、
…「女の霊」は、宙を漂う様に僕達に近づいてきた。
一瞬、僕の脳裏に「翼を持った天使像」の恐怖が、蘇る。
アリアは僕の心を見透かしたかの様に、優しく手を握りしめ、
一歩進み出て、「女の霊」にそっと掌で触れてやる。
やがて「女の霊」は向きを変えて…
再び、深海の様な「無音のホーム」を徘徊しはじめる。
アリア:「ほらね、大丈夫でしょう。」
見ると、何時の間にかホームには他にも数人の薄ぼんやりと光る「聖霊」達が集まって来ていた。
翔五:「こんなに沢山、…何しに来たんだろう。」
アリア:「地下鉄に乗るんじゃない?」
アリアが悪戯そうに微笑み、
やがて、遠くから車輪の音が聞こえてきた。
アリア:「ほら、電車が来たわ。」
トンネルの突風を巻き込んで、
真夜中のホームに電車が…滑り込んでくる。
轟音と共に、車内の灯りがホームを
静寂と共に、丸い屋根の地下鉄が停車する。
やがてドアが開き、「精霊」達は次々と電車に乗り込んでいく。
アリア:「私達も乗ろう。」
僕は、アリアに連れられるまま 車両に乗り移る。
果たして 車内には、…誰も乗っていなかった。
不思議な事に、先程乗り込んだ筈の「聖霊」達の姿も見当たらない。
やがてドアが閉じて、再び電車が走り出す。
換気の為に開け放たれた連結器側の窓から轟音と共に風が吹き込んでいる。
一瞬車両内の照明が消えて、辺りはセピア色の影に包まれる。
…この風景、何処かで見た事がある様な 気がする、
翔五:「アリア、これから何処へ行くの?」
確か僕達は西行きのピカデリー・ラインに乗った筈だ
アリア:「何処でも、翔五と一緒なら、何処へでも行くわ。」
アリアは、2人きりの車内で、僕の方にもたれ掛かる、
駅を3つ程過ぎた頃、
今度は、僕の方から、アリアに…キスをした。
それから…、
瑞穂:「それで、…朝帰りって訳?」
オックスフォード・サーカスの寂れた美容室。
いや、実際には営業していないから「世界統一なんとやら」のロンドン支部秘密基地…的なモノか、
僕は、徹夜明けの朝を迎えていた。
イギリスの7月の朝は、ソコソコ早い。
サマータイムの
翔五:「アリアの奴、日の出と共に眠っちゃうから、結局おんぶして連れて帰って来たんだけど。 結構大変だった…。」
濡烏の美女が、濃いコーヒーを入れてくれる。
もはや、毒入りかどうか何てどうでも良くなっていた僕は、
…何も言わないでちびりちびりカフェインを
瑞穂:「一応、個人的な興味で聞くんだけど…、アンタ達、やったの?」
僕は、個人的に…照れる。
翔五:「それよりさ、ロンドンの地下鉄って、24時間営業なのな、ビックリしちゃった。」
濡烏の美女は憐れむ様な眼差しで僕を見る。
瑞穂:「そんな訳無いでしょう…、貴方、はっきり言って化かされたのよ。」
僕は、重い頭を持ち上げる。
そこで、漸く、エマが美容室の椅子で眠っているのに気がついた。
…いや、どうでも良いけど、下着姿の半裸だった。
翔五:「化かされたって?」
瑞穂:「ロンドンの地下鉄はそんな時間に営業してないわよ。」
翔五:「だって、あちこち行ったよ。」
瑞穂:「まあ、いいわ。」
瑞穂:「アリアには未だ未だよく分かんない所がある。 そう言う事よ。」
瑞穂:「それより、教えなさいよ。 やったの?」
美女が
結構胸が有るんだ…
でも、コイツは平気で僕を26回も殺す様な人間なのだから、
…幾ら僕だって、勘違いのしようも無い。
翔五:「不思議な事と言えばさ、昨日の夜、リージェント・ストリートを散歩したんだけど、ひとっこ一人居なかったよ。 何か有ったのかな?」
瑞穂は、一旦僕から離れて…乱れた髪を整える。
瑞穂:「ふーん、体験したんだ。」
意味ありげな発言に僕は口をトンガラかせる。
翔五:「何だよ、勿体ぶらないで教えてよ。」
瑞穂:「アリアは…、というか普通の人間は、アリアに
翔五:「何だよ、七不思議って、科学者のくせに適当だな。」
瑞穂:「アンタ、あんま、お姉さんに生意気な口
濡烏の美女が、どっからか注射器を取り出してくる。
翔五:「良いから教えてよ、何、さっき言いかけたの?」
僕も、この美女には
と言うか、何処迄 馴れ馴れしくしても大丈夫か、ソコソコ学習してきた。
瑞穂:「まあ、良いわ、その代わり後で一つお姉さんの言う事聞きなさいよ。」
翔五:「ハイハイ、」
瑞穂は、何時もの様に、少し頭を整理してから、「語り」始める。
瑞穂:「普通の人間は、アリアの存在を知識として知っていても、実際に見たり、聞いたり、会ったりする事が出来ないの。 偶然が重なって、結局アリアを確認する事が出来ない。」
翔五:「「お姉さん」の言う事は何時も意味不明だな…。」
瑞穂:「真面目な話よ、例えば、私が色々段取りして、私のチームの研究員にアリアと会う手筈を整えても、結局何かしらの理由が出来て、会えないのよ。 二回や三回じゃない、だからもはやコレは必然だわ。」
瑞穂:「何かが、働いて、アリアとの遭遇を邪魔してるの。」
翔五:「僕は、普通に会ったよ。 喋ったし、」
瑞穂:「貴方は、特別よ。」
瑞穂:「アリアに会えるのは、アリアの事を強く意識しているか、アリアの方が会いたいと思っている人間だけ。」
翔五:「何で?」
瑞穂:「判んないわよ。 でも、この特性は、「聖霊」に似ているわ、」
瑞穂:「チャンネルが合った人間だけが、遭遇する事が出来る。」
翔五:「ふーん、お陰で、無人のロンドンを体験する事が出来たよ。」
瑞穂:「…あんた、信じてないでしょ。」
翔五:「基本的に僕は「お姉さん」の事を信用しない事にしたんだ。」
瑞穂:「殺す…。 て言うか、その前に教えなさい。」
翔五:「そんな事知ってどうすんだよ。」
瑞穂:「け、研究に決まってんでしょ。」
翔五:「じゃあ、瑞穂の「初体験」がどんなだったか先に教えたら、教えるよ。」
瑞穂:「…殺す、血管に空気注射して殺す! 3回殺す!」
翔五:「何、もしかして瑞穂、やった事無いとか?」
瑞穂:「…。」
瑞穂、僕の腕に注射器を…
翔五:「エマ! 助けてくれ〜」
エマ、寝ぼけ
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