エピソード08 「僕は美少女の秘密に触れて更に謎は深まる」

何故だか…

いや実はよく分かっているのだが、


隣の部屋(フラット=アパートなので隣の家?)に住む若干13歳?の金髪美少女エマが、


ほぼ水着だか下着だか微妙に判別の付かない「ふくらみやらくぼみやらを精密に再現する薄くて柔らかそうな布切れ」一枚に身を包み、ウチの居間のソファに寝転がって、無防備むぼうびに生足をぶらぶらさせながら、日本の漫画を読んでいた。(僕が日本から持って来た奴だ)



確かに…

イギリスが涼しいとは言え、7月も半ばを過ぎてからのここ数日は、日中30℃近く迄気温が上がり それなりに暑い。 にも拘らず、大抵の一般家庭には「クーラー」という亜熱帯地方には必要不可欠な家庭用電化製品が装備されていない。


だから 普段は「いやみな程お行儀の良い」エマが、家の中に居る時くらい薄着で涼を取りたい、…と思う気持ちも判らない訳ではない。




しかし…

これら総合的な結果として、先程からずっと 僕の視線は「とある部分」に釘付けになったまま行き先の自由を失ってしまっている。 勿論コレは「何故、髪の毛と微妙に色合いが異なるのだろうか?」と言う あくまでも「科学的興味」の一環なのであって、だからと言ってコノ子を「ドウコウしよう」なんて発想には決して行き当たらない。 と言う事だけは言明しておいた方が良いだろう。



翔五:「エマ、お前 本当は何歳なんだ?」


実は日本語を完璧に理解しているエマは、チラリと僕の方を流し目しつつ…「さあ〜」という感じに「小首をかしげたポーズ」で悪戯いたずらく唇を尖らせて見せた。



…コイツ、もしかして「わざ」とやってるんじゃ無かろうか?




やがて…

風呂上がりの「爽やか兄さん」がバスタオルで髪を拭きながら登場する。 


身長180cm。体育会系のテニスで鍛えた身体はあくまでも控え目な筋肉質。決して派手な美男子とは言えないが、物事に動じない落ち着いた雰囲気、大抵の我侭わがままなら真正面から受け止めてくれそうな優しい眼差し。


うーん、何故だか上半身「裸」である。



岩城:「翔五も入ってくれば? さっぱりするぞ 、」

翔五:「あっ、いや、未だ良いです。」


モロモロ比べられるのは、…やっぱり恥ずかしい。




ところで…

何故なんでこう言う状況になっているのかと言うと、(岩城サンが言うには)「突然エマの両親がスコットランドの親戚のお祝いの手伝いで1ヶ月程家を開ける事になったからその間エマの事をお願いします」と頼まれた、と言う事になっているらしい。


勿論、何にでも「裏の事情」が在る物で、約一週間前にメリルボーン・ハイ・ストリートで起きた「とある事件」については、今の処まだ岩城サンには打ち明けられないでいた…




ともあれ…

僕には、この情景を見るに付けて、どうしても「2つの疑問」が沸き上がってくるのを抑えられないでいる。


一つ、

12歳も年下の女の子に「胸の奥がつらくなる様な生理的反応」を示してしまう自分は…もしかして変態アブノーマルなのか。


一つ、

こう言うのを見ても「殆ど何の興味も示さない」風に見える岩城サンは…やはり変態アブノーマルなのか。







岩城:「ところでさ、今週の土曜日 ロンドン見物に行かないか?」


翔五:「見物…ですか?」


突然、岩城サンが そんな風に切り出して来た。


確かに、ロンドンに引っ越して来て2週間になろうとしているが、僕たちは未だに観光らしい観光と言う物をした事がない。



翔五:「何処か、行きたい所でも有るんですか?」


岩城:「実は、来週の後半に一回日本に戻らなきゃならなくなったんだ。 その時用のお土産が買いたくてさ。」


岩城サンは冷蔵庫からスパークリング・ウオーターのペットボトルを取り出して、瓶口にラッパ飲みする。 …ガタイの良い人は、何をやってもさまになって見える。



翔五:「何か、有ったんですか?」


等と、僕はカマをかけてみる…



岩城:「うーんチョットな。 まだ何とも判らないんだが…本社から呼び出しを喰らってな、まあ心配は要らないさ、直ぐに戻って来るよ。」




実は、僕は、大体の顛末は知っていた。

週中の水曜日に芽衣が送って来たメールに大体以下の様な内容が書かれていたからだ。



---------------

元気?(^^)

英語上達した?(≖‿≖)

今度遊びに行くから色々案内してねσ(@゜-゜@)ノ


キャスありがとー(o^^o)

届くの楽しみだ〜(*≧▽≦)b


ところでさ、今、日本は大変な事になってるのよん|・ノロ・)

営業の片桐SVPが自己都合で突然退任する事になってヽ(゜Д゜;)ノ゛

新しい人事どうしようかってテンヤワンヤなの(≧Д≦)/

内緒だけど岩城サンが課長になるかもって(*゜▽゜*)


おっと、売るセー主任が帰って来た(`ε´)

と言う訳でまたねー(≧◇≦)/゛゛゛゛ヾ


芽衣


おっと、忘れる所だった、

愛してるよん!☆⌒ヽ(*'、^*)



---------------



まず…

どんだけ顔文字使いたいんだ、この人は。


次に…

何故だかメールだと標準語なんだな、この人も。


最後に…

どこまで信用して良いのだろうか、この人を。



いやいや、

「愛してる」なんて書いてはいるが これは「あくまでも社交辞令」なのであって、芽衣は僕の事を「イギリス在住のパシリ」としか思っていない! と、改めてメールを読み返してニヤニヤしてしまった僕は、慌てて自問自答に反省・弁解・断言する。


「勘違い」が新たな「辛い記憶」しか生み出さない事は、うの昔に「学習」していた。



かく、岩城サンの急遽な一時帰国の理由がこの人事異動に関係している事は明らかだ。




翔五:「お土産買うとすると、何処が良いですかね。」


岩城:「元部署の女の子によると「ハロッズ」と「ボロー・マーケット」で売ってる、ロンドン限定の布製買い物カバンが良いんだそうだ。」


翔五:「女子って、ロンドン限定が好きですね。」

岩城:「まあ「手に入り難い」物ほど「価値が高い」と言う考え方は、在る意味正しいからな。」


岩城サンは漫画を読みながら今にも「寝落ち」しそうになっているエマの前にしゃがみ込んで


…静かに囁く。



岩城:「Emma, Go to bed. It’s time to say good night.(エマ、もうオヤスミの時間だよ。ベッドに戻りな。)」


ツインテールの金髪少女は、眠そうな目を擦りながら渋々と立ち上がる。



…絶対、演技だな。




岩城:「Hey Emma, We will go to Borough Market this weekend. Why don’t you join us?(エマ、今週の週末にボロー・マーケットに行くんだけど、一緒に行かない?)」


エマは、可愛らしくニコリと頷くと、

裸足のままペタペタと部屋を出て行った。



岩城:「エマって可愛いよな。」

翔五:「うーん、まあ、否定はしないですけどね…。」


岩城:「でも、信頼されて預かってるんだから、…くれぐれも間違い起こさないでくれよ。」


と、冗談まじり岩城サンが笑う。



翔五:「いやいや、有り得ないですって…。」


何しろあの子は…

平気で人の顔を傷つける様な危ない組織の一員で、片足で大の大人を沈黙させ、しかも妖しい術でゴーストまで退治してしまう、そういう危険な匂いのする女子なのだ。


と、溜息まじりに僕も苦笑いする。




隣の部屋から、…トイレの水を流す音が聞こえて来た。







処で…

謎の美女との契約は「24時間365日エマと行動を共にする事」だった。 その代償として僕は「生活の自由」と「上限金額の無いクレジットカード」を手に入れたのだ。



しかし、そうは言っても…

実際の所「24時間365日行動を共にする」事等、所詮不可能だろうとたかくくっていた訳なのだ、が…



とある昼休み、軽めの食事を済ませて戻って来た「ライラック・オートモーティブ・テクノロジー社」の給湯室で、自販機のドリップコーヒーの抽出を待っていた僕は 信じられない物を目にする事になる。



身長は僕と同じ160cm位だろうか?

イヤ、かなり高いヒールを履いている…。


金髪をアップにして固く結び、縁の濃い眼鏡を掛けている。 きちんとした白のブラウスにグレーのスーツ、同じく上下合わせた上品なパンツ。


如何にもインテリ風の、ちょっと手強そうな…女子社員?


イヤ、イヤ、イヤ、



翔五:「お前、エマだろ。」


服装や髪型で 多少雰囲気は変わっては居るが、特徴在る「大きくて深い瞳」や「目鼻立ちのはっきりした顔立ち」、何よりも「あどけなげな表情」は全然隠せてない。



廊下の反対側から歩いて来た「美少女社員」は、唇に人差し指を立てて「シーっ!」…のポーズ?


…いや、バレバレだって。




翔五:「それよりこんな所で、何してんだよ?」


物静かな「美少女社員」は少し照れ笑いしながら 掌をヒラヒラさせて「またまた〜」…のポーズ?


…って、お前はオバさんか?




翔五:「会社に迄付いて来て…「僕を護る」とか言ってたけど、一体何から僕を護ってるんだ?」



エマは、すーっと…僕の直ぐ後ろを指差して見せる。


振り向いてみると、廊下の窓ガラスに 「辛気臭しんきくさそうなオバさん」が「じーっ」とこっちを見てるのが映っている。




翔五:「あの人が、何?」


会社の廊下で日本語で喋ってるのが気に入らないのだろうか? それとも可愛い女の子に話し掛けているのが、サボっているみたいに見えるのだろうか?


イギリス人だってしょうっちゅうサボってるじゃないか…

日本人だからって、そんなに不機嫌そうな顔しなくても良いのに…


と思いつつ…



イヤ、違う…




確かにガラスに映っているオバさんの…

本来、そこに居るべき「本体」が…見当たらない。


僕は、思わず鳥肌が立って、エマの背中の後ろに避難する…



翔五:「もしかして、あのオバさん、幽霊か、何かなの?」


エマは、

ふーっと大きく深呼吸しながら、指先でその「ガラス」に触れる。



すると、そこに水面の波紋の様な揺らぎがたって…

オバさんの姿は、さざ波のノイズに薄れて、消えてしまった。



翔五:「あれが、例の「聖霊」とか言う奴?」


僕は、一週間前にメリルボーン・ハイ・ストリートで遭遇した「白くて細くてネバネバした気味の悪いモノ」の事を思い出していた。


確か「謎の美女」が「エクトプラズム」とか呼んでいた。 僕は「ソレ」を見た途端、意味も判らず気分が悪くなって、身がすくんで動けなくなってしまったのだ。


本当に「手に負えない何か」が僕を狙っているのだとしたら、…どうして僕が狙われなければならないのか、きっと僕はソレを知らなければならない。



翔五:「エマ、…もっと詳しく、教えてくれないか?」





川中:「おっ、星田サン。 流石さすが若い人はアンテナが高いですね。」


廊下で立ち話する僕たちの前に、

行成いきなり? 川中サンが現れた。



川中:「早くも自己紹介は済んだのですか?」


翔五:「いや、未だ…」


何て誤魔化せば良い?

まさか、「知ってます。隣に住んでるエマです。」とは言えないだろう。



川中:「そうなんだ。じゃあ改めて…、この人は今週から法務部に新しく配属になった「エマ・磐船イワフネ」さん。 若いけど、凄腕らしいですよ。 お父さんが日本人なんだそうです。 美人ですよね。」


川中:「Emma, He is Hoshida san in Kubota-Seiki. He is a specialist of vehicle cooling system engineering. By the way, He must be single now. (エマ、彼は久保田精機の星田サン、自動車用冷却技術のスペシャリストです。 因に今付き合ってる人は居ないらしいですよ。)」



エマが、白々しく会釈する。


…まあ、確かに見た目は可愛いんだけどな。



僕は、ワザとらしく握手する。

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