エピソード07 「こうして僕は美少女と契約を結ぶ」
脚の太さはと言うのは、微妙である。
細すぎても
つまり「丁度良い」という太さが、其れこそ「人の数だけ」存在する。
エマの脚の太さは、僕に取っての「ちょうど良い」から ほんの少し細めかな…と言う位の
一方で長さは?と言うと、彼女の身長は恐らく150cm位だろうか…、膝丈のワンピースに隠れて定かではないけれど、股関節の位置はかなり高く、およそ その身長の約半分は脚なのではないかと思われる。
つまり、そのやや細くて長いエマの足が、
翔五:「エマ、何を…してるの?」
僕は一瞬たりとも、
その「男」が羨ましい等と思ったりしなかったと断言できる…。
可愛らしい美少女に パンプスの
しかも「男」の口からは、何か得体の知れない「白っぽいモノ」が
それが「何か」に似ているかと問われれば…、海辺の生き物「ナマコ」が、敵に襲われた時に吐き出す「白くて細くてネバネバした内臓」、アレがごそっと束で塊になった「モノ」に似ていなくもない。
僕は、得体の知れない「
何故だか僕は その「気味の悪いモノ」から目が離せなかった。
やがて「男」は、まるで「少女の足の裏に対する抵抗」等 始めから
周りに居た大人達が、この異様な光景の「真実」を確かめようと 集まって来る。
そして、彼らは更に奇妙なモノを「目撃」する事になる。
男の口から吐き出されてぶら下がっていた「白くて細くてネバネバした気味の悪いモノ」が、…プクリと風船の様に宙に浮かび上がり始めたのだ。
まるで
辺りから、女の人の悲鳴やら、男の人の呻き声やらが発せられる。
エマは、そんな事はお構いなしに グイグイと「男」の顔を踏み
翔五:「何なんだ、…これ。」
瑞穂:「エクトプラズム、私達はそう呼んでいるわ。」
日本語の聞こえた方を振り返ると、
其処には、…見覚えの在る一人の女が、立っていた。
瑠璃色がかった
翔五:「貴方は、確か…空港で会った。」
瑞穂:「そう、…また会えると言ったでしょ。」
濡烏の美女は、長い髪を撫で上げながら、クスリ…と微笑んだ。
彼女の不思議な匂いが、僕の胸を締め付ける。
それはとても残酷な、それでいて抗い難い…記憶。
僕は思い出した…
瑞穂:「翔五サン。 やっぱり覚えてないみたいね…」
翔五:「な、に…?」
濡烏の美女が、ゆっくりと「それ」を指差す。
空中を漂う「白いヘドロ」は、尚もズルズルと男の口から
瑞穂:「それが、貴方を殺し続けているモノの正体よ。」
翔五:「殺し…続けている?」
得体の知れない
…そうだ、僕は「コレ」を知っている。
…「コレ」が僕に何かするのかを知っている。
突然、背中から脇腹にかけて針金を突き通される様な痛みが僕を萎縮させ、不意の過呼吸が「濃密で甘い酸素」を脳に満たして行く。
抵抗も、逃亡も、「とっくの昔」に折れた心には使い道の無い
ただ僕は、理由も分らず嘔吐しそうになってその場にしゃがみ込む。
…そうだ、別に大した事じゃない。
…「何時も」の様に、少しの間だけ 我慢すれば良い。
幸運なら「痛み」や「苦味」は数分で感じなくなってくれる筈だから。
翔五:「お願い、早く…済ませて。」
僕は目を閉じて、「痛み」を受け入れる準備を整える。
瑞穂:「大丈夫よ。…そうは させないから。」
僕は内臓がひっくり返りそうな恐怖の中で、もう一度「期待」を振り絞って「正気」に返る。
…僕は、今 何て言ったんだ?
…僕は、今 何をしてたんだ?
エマが 今や完全に意識を失っている「男」の顔を尚も強く地面に踏みつける、…そして静かに深呼吸を開始した。
身体中の毛細血管から全ての「古い気」を吸い集めて、「深く」「長く」息を吐き 。 全身の皮膚から「新しい気」を取り込む様に、「ゆっくり」「少しずつ」息を吸う。
やがてザワザワと髪の毛を逆立て鳥肌の立つ様な ぬめりを帯びた「気」が姿を現すと、「会陰」から「陰部」「腹」「胸」「喉」と脊柱を
エマの身体から
少女に踏みつけられた「空中に漂う白いヘドロ」は…
少女から搾り出された「雫」に濡れた途端、見る見る萎縮して…
そうして、沈黙した…
それで
僕は、混乱していた。
…一体、何が起こっているんだ?
辺りの大人達が、恐る恐る近づいて来る。
誰かが 気を失ったままの「男」の身体を、足で突いている。
瑞穂:「こんにちは 翔五サン、傷の具合は如何かしら?」
僕は地面にへたり込んだ格好の
…覚えている。
僕は昨日の夜、地下鉄の駅のホームで不思議な美少女と会った。 そうして暗い美容室に連れて行かれて、そこで薬入りのコーヒーで身体の自由を奪われて、この女にナイフで斬られた。
翔五:「お前は一体 何者なんだ? 何が目的なんだ? どうして僕を付け狙う?」
瑞穂:「あら、今日は とてもぶっきら棒な喋り方をするのね。 何か機嫌を損ねる様な事をしちゃったかしら?」
女は、僕の目の前にしゃがんで…僕の顔を覗き込む。
翔五:「それにエマも、エマは…今のは一体、何なんだ?」
瑞穂:「勿論知りたければ教えてあげるわ、…こんな所での立ち話も何だから、家に来る?」
僕は、女の目を見るのが怖くて、彼女の口元に視線を落とす。
翔五:「行く訳無いだろう。 また、何をされるか判ったもんじゃない。」
瑞穂:「そんなに怖がら無くっても大丈夫よ。 「今日」は「痛い事」しないわ。 それとも「私は」って言った方が良かったかしらね。」
彼女の綺麗な唇が、妖しく微笑んでいた。
翔五:「そんなの…信じられる訳無い。」
瑞穂:「あらそう? まあ良いわ、」
彼女は何気ない仕草で立ち上がり、
彼女の甘い薫りが 再び僕の心を「蠱惑」する。
瑞穂:「それじゃあ、此処で簡単に済ませましょうか。 でも、その内警察が来ると厄介な事になりそうだから、少し場所を変えましょう。」
きっと最初に出会った瞬間から、
僕はこの女に逆らう事等、出来なくなっていたのだ。
僕達は、そう遠く無いカフェに席を取った。
女が飲み物を注文している。
エマは、僕の横に座って、心配そうに僕の様子を伺っていた。
瑞穂:「エマは私達の仲間よ。…貴方を監視していたの。」
翔五:「仲間? 一体、何の目的で、僕を監視するんだ?」
エマは、ちょっと困った表情で視線を逸らした。
瑞穂:「そうね、それに関しては私も半信半疑だわ。…でも安心して、エマの役目は貴方を護る事よ。」
翔五:「護る?」
僕は、さっきの得体の知れない「気味の悪いモノ」を思い出していた。
アレを見た途端、僕は身が
翔五:「あれは… 一体何だったんだ? あんなの「初めて」見た。 あの男は、何者なんだ?」
瑞穂:「あの男のヒトは、不幸にも
翔五:「取り憑かれた?」
瑞穂:「そう、私達は「聖霊」と呼んでいるわ。 あの人は「聖霊」に取り憑かれたの。」
瑞穂:「…「聖霊」は人間に取り憑いて、この世界に干渉する。 時には、さっきみたいに、人間の「エクトプラズム」を介して実体化する事もある。」
翔五:「エクトプラズム?」
瑞穂:「貴方も見たでしょう? あれが貴方を殺し続けているモノの正体よ。」
何時の間にか、僕は貧乏揺すりが止まらなくなっていた。
無自覚に指の関節をならしながら、テーブルに立て肘をついて額を弄る。
翔五:「僕は…生きているし、死んだ事なんか無い。」
瑞穂:「でも「知って」いたでしょう? 「早く済ませてぇ!」とか言っちゃって、お姉さんちょっと笑っちゃった。 それとも、こう言うの「萌え」ちゃった…って言うのかな?」
あの時の、内臓が収縮する様な痛みが甦って来る、
翔五:「そんなんじゃ、…無い。」
瑞穂:「良いわ。貴方が何を信じようが、私は構わない。」
瑞穂:「これは
瑞穂:「私達は、私達の方針に則って交渉を進めたいだけ。 多分、貴方にとってもそんなに悪い話じゃないわ。」
女は、黒いオイスターカード(日本でいうスイカ・イコカ)をテーブルの上に取り出した。
瑞穂:「クレジットカード付きのオイスターカードよ。 上限金額は設定されていない。 つまり、使いたい放題。」
瑞穂:「貴方が、私達の提案を受け入れてくれるなら、このカードは貴方の物よ。」
翔五:「提案って?」
瑞穂:「24時間365日、エマと行動を共にしてもらう。」
僕は、エマの顔を見る?
エマは…何故だか、一寸照れている?
翔五:「…何のメリットが有るんだ? つまり貴方達に、」
瑞穂:「知りたければ教えてあげるけど、多分信じないでしょう。 そんな事聞いたって意味は無いと思うわ。」
僕は、戸惑っていた。
翔五:「もし、断ったら?」
瑞穂:「恐らく貴方は何処かに拉致・監禁される事になるわ。」
僕は、混乱していた。
翔五:「意味が、分らない。」
翔五:「無理矢理 脅迫みたいなやり方で、こんなの契約って言えないじゃ無いか。 それどころか犯罪だ。」
瑞穂:「残念だけど、多分私達は掴まらないわ。 私達は「そういう集まり」なの。 貴方をイギリスに連れてくる事も、貴方の家族がこの先何不自由無く暮らせる様にする事も、…何でも思いの
翔五:「じゃあ、どうして最初から…「そう」しないんだ。 こんな、回りくどい事なんかしないで。」
僕は、疑っていた。
瑞穂:「だから好きに選んでくれて良いのよ。 契約を拒否して反抗を試みても構わない。 でも、そんなに悪い話でもないでしょ? お金貰えて、こんな可愛い子が一日中傍に居てくれて。」
翔五:「騙されてるみたいで、怖いんだ。」
濡烏の美女は、冷たい目で僕を見つめて…静かに
瑞穂:「だとしたら、後は貴方の問題ね、話は此処迄だわ。」
瑞穂:「十秒あげるから、その間に決めなさい。」
瑞穂:「5秒、3、2、1…」
僕は、黒いオイスターカードを手に取っていた。
瑞穂:「ありがとう。 きっと良い選択だったと思うわよ。」
そう言って、彼女は席を立つ。
瑞穂:「ここの支払いは、そのカードでお願いするわ。PINコードはエマが知っているから、宜しくね。」
瑞穂:「私の名前は
僕は、
エマは、「まあそんなに深刻にならないで」とでも言いたげに僕の肩を叩く。
翔五:「あのさ、エマってもしかして日本語分るの?」
僕は、じとーっと12歳年下の美少女を睨みつけ…
エマは、誇らしげに頷いた。
やがて、紅茶セットが運ばれて来る…。
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