第4話 そーれ偽乳! 偽乳! 偽乳!
しばらくおっぱい戦隊を追いかけた十夜。
やりすぎたのか、特戦隊のみなさんは涙目になりながら部屋から出て行ってしまった。
「知らなかった……よいではないか、よーいではないかと叫びながら女の子の尻を追い掛け回すのが、こんなに楽しいなんて」
『変態的行為は自重してくれると助かる。指名手配でもされたらかなわん』
「お、ニアか。何これ、電話?」
頭の中に響いてくる、最強幼女の声。
ようやく動き始めた衛兵達の間をするりと駆け抜け部屋の外に飛び出しながら、十夜は返答を返した。
あ、偽乳特戦隊の一人がすっ転んで倒れてる。
『同じようなものじゃの。念話の魔法じゃ』
「おお魔法か。ファンタジーだな」
『それよりお主、外に逃げんでいいのか? 状況はよくわからんが、どう見ても追われておるぞ』
「いや、まだ早いだろ。この俺に喧嘩を売ってきたんだ、金銀財宝ぐらいかっぱらわないとやってられん。ああいう輩は、自分の手元に不正な手段で集めた財宝を溜め込んでいると相場が決まっている」
『お主……いや、何も言うまい』
思い通りに動く体に驚きながらも、十夜は建物の中をダッシュで駆け抜けた。
チートパワーすごい。軽くジャンプしただけでも数メートル飛べる。
すわ! これはすごいぞ。怒りに任せてオーク退治してしまったけど、これなら余裕で逃げ切れそうである。
俺は究極のパワーを手に入れたのだ。誰にも負けるはずがなーい! ワーハハハハハ!!
調子に乗った十夜は天井に頭をぶつけた。
オリンピック選手も真っ青な速度での激突である。常人ならば死ぬ。
でもあんまり痛くない。すごい、俺。すごい馬鹿。
十夜は感動と気恥ずかしさに身もだえしながら建物内の捜索を続ける。
この建物、やたら広い。もしかすると、お城レベルの建築物なのかもしれない。
「お、あそこが臭い。金の臭いが漂ってくるわ、ぐへへへ」
『止めはしないが、程々にしておけよ。準備が出来たらお主をこちらに呼び戻すからの』
「わかった。急いで金目のものを探す……とうっ!」
バァーンと重厚な扉を開け放つ十夜。
すると、なんという事でしょう。扉の先には、偽乳隊長の姿が!
「げぇっ、偽乳隊長!?」
「貴様誰が偽乳隊長だ! ぶち殺すぞ!」
「ぐえっ」
勢い良く十夜の下半身にタックルしてくる偽乳隊長。
勢い良く扉を開け放った直後だったため、十夜はそのタックルを避ける事ができなかった。
すごい力を手に入れても、扱うのは十夜である。馬鹿とハサミは使いようという言葉があるが、うまく使えなければ宝の持ち腐れとも言える。
「ふふ、外に逃げた形跡がないと聞いてここに張っていたかいがあった。お前はこの手で始末する」
「や、やめろ。それ以上引っ張るんじゃない」
「貴様だけは許さん。よくも私が偽乳である事をばらしてくれたな。結婚できなくなったらどうする!」
「知るかバカ! むしろ偽乳だと隠すほうが結婚できないだろ。ありのままの自分を愛してくれる奴でも探せ!」
「それが出来たら苦労はあるか! 神官騎士みたいに無意味な規則だらけの職業についていると、向こうからアプローチしてもらわねばろくに異性と会話すらできんのだ! なに、先に既成事実さえ作ってしまえば後はどうとでもなる」
「こ、この外道め……やめろ。離せ!」
「離すものか、ぬおおおおおおおおおっっ!!」
「あっ」
十夜の服が引き裂かれる。
勢い余った偽乳隊長は、いけないパンドラの箱を開けてしまったのだ。
十夜の下半身が、長きにわたる封印から解放される。
猥褻物陳列罪であった。
パオーン。
男性に免疫のなかった偽乳隊長は白目を向いて気絶。
十夜は一人の偽乳行き遅れ女性の心に、決して消えない傷を残してしまった。
これをリライトする事なんて、できやしない。
「だから止めろと言ったのに……安らかに眠れ」
十夜は偽乳隊長の腕を引き剥がす。
そして金の臭いがする奥に向かおうとするが、多数の足音がガチャガチャやかましく近づいてくるのを聞いて方針転換した。
さすがに騒ぎすぎた。いったん離れた方が良さそうだ。
十夜は、置き土産を残す事にした。
懐から取りい出したるは、極太油性マジック。
それを手にした十夜は、鼻歌片手に偽乳隊長の胸当てへとペンを走らせる。
きゅきゅきゅと音を立てつつ軽快にメッセージを書き終わった十夜は、その出来に満足した。
「うむ、我ながら達筆! ……さて、そろそろ逃げるか。あばよ、とっつぁ~ん!」
十夜は走り去った。
その場に残されたのは、胸に「チェンジ」と書かれた偽乳隊長の姿だけだった。
ボディの文字を付け加えなかったのは、十夜なりの優しさなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます