第3話 そーれオーク! オーク! オーク!
「やった! 聖女様、召喚に成功しました!」
「ええ、これでこの国は救われるわ」
まず目に付いたのはおっぱい。
でっかいおぱーいが並んでいる。
男の視線を惹き付けて止まない、いけない膨らみだ。
M字開脚みたいなポーズで地べたに座り、呆然と固まっている十夜の周囲には、見目麗しい女性達が並んでいた。
そのおっぱいは一様にみな大きく、まるでこの世の天国かと思わせる光景だった。
やっぱ時代はおっぱいだよね。幼女とか流行らないよね。
続いて周囲を見回すと、石造りの頑強な部屋が目に入る。
明かりは蝋燭。沢山の燭台が並んでいる。揺れる炎が影の形を絶えず描き換え、なんか暗い雰囲気をかもし出している。黒魔術の儀式とかやりそうな空間だ。
壁には高価そうな絨毯が飾られていた。たぶんここに居る連中は金持ちだ。あと、おそらくこの地方はすごく寒い。壁の絨毯は防寒用であろう。
部屋の中には人がいるが、妙に静けさを感じる部屋だ。窓がない事と、微妙にかび臭い事を考えると地下なのかもしれない。
十夜は周囲を見回し終わると、再びおっぱいに目を向けた。
この部屋の中で見るべきものは、おっぱい以外特になさそうだ。
名前:シルベニク
種族:人類
職業:聖女
レベル:12
干渉力:1087
あまりに視線を集中させすぎたからか、なんか出た。
余計な情報だ。今はただ、おっぱいを見たい。だというのに、視界に出てくるとつい読んでしまう。
この場にいる連中のレベルは10から20、干渉力は100から200といった所だった。
聖女様とやらの力だけが頭抜けて高い。さすがは聖女様。
聖女様は、戦闘能力も高い戦闘民族なのだろうか。それとも、不思議な玉を作り出したり、魔を貫く光殺砲とか放っちゃったりする方だろうか。
おっと、今はそんな事に思考を割いている場合ではない。視線をむけるべきはおっぱいだろう。
十夜はかぶりを振って余計な思考を頭から追い出すと、おっぱいを凝視した。
「聖女様。何やら失礼な目線を感じますが」
「いいのです。今はとにかく、彼を教皇様の所に連れて行く事を優先しましょう」
それだけ言うと、聖女と呼ばれた女性が十夜の前まで進み出てひざまずいた。
清廉な雰囲気を漂わせる美人さんである。こんな女性にお願いされたら、大抵の男性は二つ返事で答えてしまうだろう。
「――お待ちしておりました勇者様。どうか、この世界をお救い下さい」
「――イエス、マイロード」
当然、十夜も例外ではなかった。
◇◇◇
十夜は聖女の付き人五人に連れられて、教皇とかいう人の部屋に通される。
ちなみに聖女は休息を取るためにどっかに行った。なんでも、召喚魔法を使った反動により極度の疲労に襲われているらしい。
隊長と呼ばれた付き人だけは異常なほど聖女の身を心配していたが、聖女に命じられて俺の方についてくる事になった。
突然の状況に、なんか身分の高そうな連中。
いくら傍若無人とは言っても、さすがに普段の十夜ならこうもおっぱいおっぱい言っていられる状況ではない。
だが、体の内から湧き上がってくる力が十夜に無駄な自信を与えていた。
十夜は付き人達のおっぱいをチラ見しながら、無駄に豪華な扉をくぐる。
まず感じたのは、香料の香り。アロマキャンドルの類だろう。
部屋の中には、高級そうな赤い絨毯が一直線に引かれている。部屋は広く、壁際には十数名の兵士っぽい姿をした男達が直立していた。
絨毯が伸びた先には、玉座。玉座のある場所は数段高くなっており、玉座に座ってもなお相手が見下ろせるという素敵仕様だ。
そして、玉座の上にはオークが座っていた。
高そうな法衣と王冠をかぶっている(教皇って王冠かぶるものだっけ?)が、豚のように肥え太った体はまさにオークそのものだった。
十夜は、疑問の言葉を呟いた。こんな光景を目にしてしまっては、誰だってそう言う。十夜だってそう言う。
「……え? なんで玉座にオークが座ってんの?」
「き、貴様! 教皇様をオーク呼ばわりとは失礼……ブハッ!」
十夜の発言を聞いた聖女の付き人が声を荒げたが、途中で吹き出した。
ツボにでも入ってしまったのか、笑いを堪え切れなかったようだ。十夜に背中を向けてフルフルと体を震わせている。
「よくぞ参られた、勇者よ」
重苦しい雰囲気を放ちながら、教皇が口を開く。
だが十夜の耳には、豚がブヒブヒ言っているようにしか聞こえなかった。
「豚小屋に戻るといい。お前にも帰りを待つ家族がいるだろう」
「き、貴様! いくら教皇様がロリコンでドSで畜生にも劣る外道な上に豚のように醜く肥え太っているとしても、言っていい事と悪い事が……ぶっふぉ」
「誰もそこまでは言っていない」
激昂(?)した付き人が十夜に掴みかかろうとしたが、無礼極まりない発言をした直後に笑い転げながら地面に崩れ落ちた。
情緒不安定な奴だ。笑い上戸なのかもしれない。
「……? その者はいかがした?」
「お気になさらず。持病の発作でしょう」
「そうか」
教皇の疑問に対し、苦しい言い訳を堂々と言い放つ付き人その二。いい性格をしている。
玉座にふんぞり返ったオークキングはその言葉に納得したのか。それとも、
十夜を見下ろし、こう告げた。
「そなたを呼んだのは他でもない。そなたにこの世界を救っていただきたい」
「ほおー、世界を」
軽い返事を返す。チートパワーを得て調子に乗っている十夜は、お偉いさんを相手にする気負いなど全く感じさせない。
それは、さながら恐れを知らぬ戦士のごとき態度であった。
ただ単に態度がでかいだけとも言う。
「うむ、今のこの世界は危険だ。魔物が我が物顔でのさばり、協力しあうべき人間同士が争い、各国は軍事力の増強に力を注いでおる。そして、何より危険な不死人の目撃情報まで出始める始末……一度火がつけば、この世は業火で包まれるだろう。そうなる前に、我々が世界を掌握せねばならん。我らが正義を教えねばならんのだ。人の
すごく胡散臭い。
どう考えても悪人のセリフであった。
「さて……勇者よ。これは儂からの手向けだ、受け取ってくれ。持つ者に力を与える、覇者の冠ぞ」
そうオークが言い放つと、傍らにいた人がこちらに近づいてきて黒い冠を十夜に手渡す。
黒い。禍々しい空気を放つ冠だ。
十夜は、素直な感想を口にした。
「なんか見るからに怪しいんだけど」
「魔法が込められた品だからな。不思議な圧迫感を感じるのも不思議ではない」
「いや圧迫感というより、胡散臭いんだけど」
その後も十夜を説得しようとするオークだったが、十夜は取り合わなかった。
豚の言葉は、十夜の心に響かない。
「勇者様、お願いします。私達を救って下さい!」
背後にいた付き人さんの一人が、十夜の体にすがりつき懇願する。
十夜の心が動いた。あらがい難いエロスの衝動。
これは仕方のない事だ。かの
「……はっ、しまった!?」
気づけば、十夜は黒い冠を装着していた。
十夜はちょっぴりお馬鹿であった。
十夜が冠を身につけると同時にオークが立ち上がり、下品な笑い声を上げる。
その顔には満面の笑み。下卑た顔は、女騎士に襲い掛からんとする豚そのもの。まさに、キングオブオークと呼ぶに相応しい。
「く、くくく……はぁーっはっは! まんまと引っかかったなこの間抜けがァ! その冠には服従の魔法が込められている。おまけに一度装着すると、死ぬまで外す事はできん。お前は儂の奴隷として、一生戦い続けるのだ。ぐはははははは!」
「ふんすっ」
十夜は冠に手を掛け、無理矢理引きちぎった。
「……は?」
粉々になった冠がばらばらと床に飛び散る。
それを見たオークは真顔になって再び王座に座り、声の調子を整えた。
「さぁ勇者よ。この世界のため、そなたの力を貸してはくれんか」
「いや……駄目に、決まってるだろ。何勝手にやり直してるの? 無かったことにできるとでも思ってるの?」
「些細なことで争うなど愚かなこと。ここは過去の出来事など水に流して、未来志向で歩んでいこうではないか」
「それお前が口にしていいセリフじゃないよね。馬鹿にしてるの?」
「人はみな愚かだ、儂とて過ちを犯すこともある。しかし、人は過ちを悔い改める事ができる。それが人の」
「うるせー! オークが人間様の言葉を口にしてんじゃねー!」
「オ……誰がオークだ貴様ァ!」
「お前しかいねーだろうがよ!」
十夜は激怒した。必ず、かの
十夜には政治がわからぬ。けれども、態度のでかさにかけては人一倍であった。
襲いくる激昂のオークに怒りの視線を向ける。
十夜は冷静にオークの動きを見極め、その肥満体に腹パンをかました。
「ひでぶっ」
十夜のボディブローを受け、オークは膝を折る。
直後、オロオロとゲロを吐き出しながら自らのゲロの海の中に倒れ伏すオーク。グロい。
ちなみに、この教皇のレベルは5、干渉力は40だった。
やだ……この教皇様、戦闘力低すぎ……?
「き、貴様! 教皇様になんという事をっ」
背後に控えていた聖女の付き人おっぱいさんが十夜につかみかかってくる。
だが、そんな事で十夜の怒りを抑える事などできやしない。
「やかましいわ! あざとい真似しやがって、人になんつう物かぶらせやがる。おっぱい揉ませろゴラァ!」
「キャァァァァ! な、何をする!」
「む、これは偽乳……お前! 男の純情な感情を弄んで楽しいのか!?」
「純情な男がこんな不埒な真似するかっ」
二人の言い合いを耳にした者達が、ひそひそと耳を寄せ合い会話を始める。
壁際で待機していた衛兵達だ。教皇が腹パンされる場面に至っても一向に動く気配を見せぬ、忠義溢れる
「おい、ユフィさんの乳って偽物だったんだってよ……」
「まじか。俺、ユフィさんのファンだったのに」
「ユフィ隊長の乳奴隷にしてほしかったのに」
乳奴隷ってどんな奴隷なんだろう。十夜は少し興味を惹かれた。
が、おっぱい談義をしている暇などない。ここは敵地なのだ。オークキングが支配する魔王城なのだ。
「くっ……!? わ、私の築き上げてきた憧れのお姉さんポジションが、この一瞬で!?」
打ちひしがれ、その場に崩れ落ちる偽乳さん。
十夜は好機とばかりに、扉の方に向かおうとする。
だが、その前に立ちふさがる四つの影があった。
それはよく訓練された者達であった。一糸乱れぬ動き。たわわなおっぱい。
「待て、不埒物めっ!」
「隊長の仇っ」
「覚悟しろ!」
聖女の付き人達だ。隊長らしいユフィは真っ白に燃え尽きているが、彼女達の戦意は失われていない。
だが、彼女達の弱点はすでにお見通しだった。十夜の真実を見抜く目にかかれば造作も無い。いくらなんでも同じような巨乳がそろい踏みしすぎだ。
十夜は右手を突き出し、こう言った。
「おっと、いいのか? お前ら、もしかしてみんな隊長とやらと同類なんじゃないか?
「だっ、誰が偽乳特戦隊だコラァッ!」
「我らのものは天然だ!」
「隊長とは違うっ」
「偽乳なのは隊長だけだ!」
「お前ら、庇ってるのかトドメを挿しに来てるのかどっちだ」
偽乳隊長が涙を流しながら崩れ落ちた。部下からの追撃を受け、わずかに残った心の支えもぽっきり折れてしまったようだ。
「そうか、なら向かってくるんだな。その言葉、本当かどうか確かめてやろう」
そう宣言すると同時に一歩踏み出す十夜。
ゴクリと息を呑みながらその行動を見守る衛兵達。
彼女達は、十夜が進んだ分だけ後退する。
「どうした? かかってこないのか? さぁ、この俺の右腕を恐れぬならばかかってこい!」
手をわきわきさせながら宣言する十夜。
その動きは、あまりに卑猥だった。卑猥すぎた。手の動きだけで通報に至るレベル。まさに変態の極地と言えよう。
そんな変態を見て恐れおののかないわけがない。
「いや……考えてみれば、別に向かっていく必要はないかなって」
「メンタル面はともかく、隊長も偽乳を揉まれただけで無事だし。教皇様はどうでもいいし」
「こんな変態に近寄る必要はないね」
十夜の卑猥ハンドに恐れおののく女性達。
そんな彼女達に十夜がスススと早足で近寄っていく。すると彼女達は、悲鳴を上げながら散り散りになって逃げていった。
十夜は言いようのない高揚感に包まれる。最高にハイって奴だぁー!
十夜は、なにげに外道であった。
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