第16話 護衛依頼



 リラックスした黄ばんだ白熊が寝転んでいる。


 道場内では誰もが見慣れた光景なので、誰も注意などしない。


 昔は注意する者も、いるにはいたのだが…白熊を素手で倒す事でその実力を示し、今では誰も逆らうことも出来ず、自由気ままに道場内にて暮らしている。



 そんな黄ばんだ白熊ことクマ 李羅リラは、大の蜂蜜好きで知られている。


 白熊を倒して強さの証明をしたのは、元々黒い毛皮よりも白い毛皮の方が、蜂蜜取りの時に蜂の攻撃が少なくて済むからだと言うのが真相。


 蜂は蜂蜜採りにやって来る野生の熊に対する為に、黒い物に攻撃する習性が備わっているのだ。

 だからこそ、あえて白い熊の毛皮を目当てに白熊を素手で撃破。

 たかが蜂蜜の為にと、動物園に忍び込んでの事である。



 そうやって倒した白熊の毛皮だったが、打ち倒す時にボロボロに破損してしまい、仕方ないので白熊の着ぐるみを着用。


 その格好で新鮮な蜂蜜取りに行くから黄ばみが凄く、白熊の着ぐるみよりも黄色い熊だと呼ばれる方がお似合いだと、誰もが思っていた。


 そんな熊 李羅が何時もの様にリラックスして寝転んでいると、門下生が自分に客人だと一人の女を連れて来た。


 いつもなら面倒だと追い返す、ものぐさな李羅ではあったが、その女の服を見て態度を改めた。


「李羅さんですよね?実は折り入って話したい事がありまして…」


 そう言うと女は李羅の耳元でヒソヒソと話し始めた。


 話を聞き終えた李羅は先程までのリラックスモードとは打って変わって、俄然ヤル気を漲らせながら立ち上がった。


「むう⁉︎では、その伝説の蜂蜜とやらの採取に同行すれば、伝説の蜂蜜を分けてくれると言うのだな⁉︎」


 李羅は鼻息荒く、蜂駆除用防護服を着た客人に問いただした。


「はい、その通りです。しかし、この事がおおやけになると、乱獲で伝説の蜂蜜が採れ無くなってしまうかも知れません。ですから他言無用で採取の護衛を、一人でついて来て欲しいのですが…」


 辺りを見回しながらヒソヒソと話し込む蜂駆除用防護服を着た女は、余りにも怪しかった。



 しかし、そんな怪しい女の話でありながらも李羅は全く疑うことも無く、伝説の蜂蜜の話を信じて護衛依頼を快諾するのであった。


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