その344 遊び人のスキル
さて。
とりあえず全員無事に中継地点のビルへと到着した私たちは、ここの持ち主の自宅でもあったらしいその場所に腰を落ち着けました。
現在、避難民の大半は仮眠中。
昨夜は寝ずにここまで辿り着いて、一部疲労がピークの人もいたためです。
『紅の豚』でも言ってました。「徹夜はするな、睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも良くねえ」ってね。
とはいえ若くて体力に溢れた私たちは、寝ずの番で魔力の補給中。
キッチンにて、小麦粉を水で溶いたものをじゅうじゅうと焼いていました。
「お好み焼き食べたい」というナナミさんの要望に応えた形です。
「卵とキャベツが腐ってなけりゃ、もっとそれっぽいのが作れたんだけどねぇ~」
「でもこれ、”麩の焼”って言って、お好み焼きのご先祖様らしいですよ。千利休が作らせたもので、砂糖や味噌などを塗って食べたそうです」
「へえ~。すごーい”名無し”ちゃん、博識じゃん!」
「はっはっは。漫画知識ですがな」
笑っていると、間のナナミさんが眉をひそめて、
「……なんか見たとこ、あんまりおいしくはなさそうだけど」
「でもまあ、小麦粉、余ってますし」
この家の持ち主さん、粉もの好きだったみたい。資源は有効活用しなくちゃ。
いかにも勝ち組って感じの食卓にぴかぴかの銀皿と各種調味料をずらりと並べます。
ふっくらした白いまん丸に、ソースとマヨネーズで味付けすれば……、終末グルメ”麩の焼”のできあがりだぁ!
そして三人、もっちもっちもっちもっちとお食事タイム。
「ふむ。……これは、……素朴な味わいというか……利休のやつ……大したモン喰ってないな……」
「美味しくはないね。味のないパンケーキみたいだ」
「もっと焦げ目をつければ良かったかしら?」
「そういうレベルの問題じゃないと思う」
「調味料ならいろいろあるので、それで味をごまかしましょう」
とはいえ三人とも、この食事が最後の晩餐になりかねないことは察していました。
文句を言いつつも、温かい食事には感謝。
使い終わった銀食器は、ナナミさんが遙か階下に見える”ゾンビ”にぽいっとプレゼントするなどして。
「あっ」
「ん?」
「今ちょうどあたし、レベルアップした」
「マジですか? 投げたお皿で?」
「うん。うまいこと仕留めたみたいね~」
へえ、そんな偶然、あるんだ。
私、ちょっとくすっとして、さりげなく彼女を《スキル鑑定》。
ジョブ:遊び人
レベル:54
スキル:《性技(超級)》《なめまわし》《ぱふぱふ》《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》《飢餓耐性(強)》《スキル鑑定》《謎系魔法Ⅰ》《魅力Ⅴ》《口笛》《ハイテンション》《交渉術(上級)》《応援》《あそび(上級)》《風船爆弾》《そっくりハウス》《パレード》《経験値増加Ⅱ》
うーん、……相変わらず、つかみ所のないというか……なんというか……。
ってか私、スキルの選択肢の中に《なめまわし》とか《ぱふぱふ》があったとして、「ええやん、これにしよ!」ってなる神経がわかりません。
なによりヘンテコなのが彼女、攻撃的なスキルをほとんど覚えていないこと。
というかたぶん、”遊び人”ってジョブ、そもそも戦闘を目的としていないんじゃないかな。
「よーし。そんじゃ、《経験値増加》をⅢにして……と」
レベル上げ作業を待ってから、
「じゃーそろそろ、みんなを呼ぼっか」
▼
その後、まだちょっと焼き麩の匂いが残る食卓に集まったのは、私たち三人に、避難民からの代表者二人、それに犬咬くんに、コウくんも。
犬咬くん、どうやら一生その鎧を脱ぐつもりはないらしく、中世の騎士が食卓に座っている様はかなりシュールでした。
「それでこの後、どう脱出するかだけど」
「それは……」
私は、頭になんとなく思い描いていた作戦を口にします。
可能な限り空路を進みつつ、渋谷周辺で”ゾンビ”散らし。その後、全員ダッシュして扉を通る、と。
すると、二人のお姉さんは揃って微妙な表情。
「でもそれ、――なあ? 舞以」
「うん。いくらなんでも、”名無し”ちゃんの負担が大きすぎるよ」
負担。
まあ、それはそうかもしれませんけど。
「ずっと思ってたけどあんた、委員長にもほどがあるって」
「えっ?」
「責任を負いすぎってこと。もっとあたしたちを頼ってくれていいんだよ。……仲間なんだから」
と、ちょっぴりほっぺたを掻きながら、ナナミさん。
一応、二人と犬咬くんに頼る案も考えましたけど、どうも良い方法が浮かばなかったんですよねえ。
「能力的にも、これが最適解じゃないかな、と思うんですが……」
「いーや。ってか、その方法だとたぶん、途中で”魔力切れ”を起こすと思う」
「そう……ですかね?」
「うん。こっから先、ビルからビルへ飛び移って行くにしても、ビルの高さは一定じゃないんだよ。それをこの人数分……賭けても良いけどまず、あんたが保たない」
ふむ。
試したことがないので、なんとも反論できかねますが、――そうなのかも。
「では、他に案があるのですか」
「あるよ」
ほう。即答。
そしてナナミさんの、自信満々なドヤ顔。
これは期待できそうな雰囲気。
「ってか、以前にもちらっと話したこと、あったよな? あった気がする。たぶん。――あたし、こういう時に強いスキル、持ってるんだよ」
私は首を捻りました。
正直、”遊び人”のスキルって得体の知れないモノが多すぎて、あんまり戦力に計算してなかったんですよねー。
実際彼女、”ゾンビ”相手にも苦戦するみたいでしたし。
「《パレード》ってスキルを使う。ちょいと下準備が必要だが……それで全員、無事に現実世界に帰れるよ」
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