その280 核ミサイル撃退実況

 はい。あーあーあーあーあー。

 ええと、聞こえてますか? 聞こえてる? コメント流れてる?

 よし……うん。見てくれてるのは、三十人くらいか。今のところはそうだよね。

 はい、オーケイです。


 ええと、どうもこんにちは。天宮ツヅリです。


 今日はその……三十人……三十三人のみんな、”笑い姫”さんのパレートがうるさい中、よくスマホを開いてくれましたね。ありがとう。ぼっちなのかな?

 でもね、みんなは運が良いよ。

 だって今日は、ものすごい動画になるんだからさ。歴史の生き証人だよ。

 まあこの動画、アーカイブ残すんで、もしよかったら友だちにも紹介してくれると嬉しい。あともちろん、”イイネ”もね。

 ……うん、うん。

 まだ動画の主旨も説明してないのに”イイネ”ボタン、ありがと。


 ……あ、”笑い姫”さんのパレード観に行く? いやそれでもいいよ。

 でもなー? 動画は一応、つけっぱのほうがいいと思うよ? 今日の企画はすごいから。


 うん、うん。

 おーけー。わかった。

 あんまり引っ張るのもアレなので、そろそろ行ってみよう!


 ……はい! でーはー! 今日は、ちょっとね、”非現実の王国”に突撃かましてくる核ミサイルをね、ずばー! っと、刀でぶった切っちゃおうっていうね、そういう企画です。


 びっくりした?


 「唐突すぎる」「伏線もないし…」「説得力ないよ」

 ……うん、わかるよ。

 ちなみにそのネタ、藤子F不二雄先生の短編『ある日…』の引用だよね。

 私もその漫画すきだけど、さすがにそのネタはわかりにくすぎるよね。

 空気読もうね。


 でも事実なんだってさ。

 そのへん、今回のコラボ相手のメンツみて、わかってほしい。


 ええと……では、ちょっとその一人の顔を……あ、トラ子さん。こっちに手を振ってもらえません?

 アア、ダメだ、忙しいみたいです。

 カズハさんもミズキさんも、今は集中してるみたい。

 ……あっ。ちょうどいま、モモカさんが通りがかって……。

 おや。

 みんな、ようやく信じてくれた?

 そりゃそうか。モモカさんだけはガチって、みんな知ってるもんな。


 おーけー。よかった。

 じゃ、この件、拡散してもらえない? できればだけど。


 お。すごい、一気に視聴者伸びたじゃん。

 100人、200人……いいねえ。


 んでちなみに、今回の主役は、私じゃありません。

 実はこの一週間、新参の私がなぜ一生懸命、拙い動画を作り続けてきたかというと、この人を紹介するためでもありました。

 それでは早速、ご覧に入れましょう、――私の素敵なお姉様っ!

 ええと、名前は……名前どうします? え、決めてない? うっかりしてた? ええええ……。じゃ、本名は……あ、本名は絶対嫌だ。なるほど。

 ではこうしましょう。彼女の名前は後日発表するとして、今はまあ、名無しのJKとだけ呼ぶことにします。


 ではJKさん、本日の意気込みは?


「えっ……意気込み、ですか?」


 はい。


「そ、そんなん急に聞かれても、困りますよ」


 そこをなんとか。


「えっとじゃあ、ミサイルが爆発すると、みんな死んじゃうと思うので、そうならないようにがんばります」


 うん……うん。

 小学生並みの感想。実に微笑ましいですね。

 ……ちょ、怒らないでくださいJKさん。

 いちおー私、動画じゃあ毒舌キャラってことになってまして……すいません。


 ……うん、うん。

 コメントも阿鼻叫喚って感じです。

 ああ……その、高高度核爆発っていうの? 電磁パルスで家電が使えなくなる、みたいな。どうもそういう心配はないみたいですね。

 たしか、モモカさんの予告によると、――爆発は高度600メートルくらいだったかな。

 東京スカイツリーよりもちょっと低いくらいだそうです。ちゃんともれなくみんなに爆風が当たるやつ。

 だから心配しなくても、生きるか死ぬかって問題です。

 「今からでも地下に避難したほうがいい?」……ああ、それでもいいですよ。

 みんなの代わりに、私がちゃーんと録画しておきますからね。

 でも、せっかくだし、肉眼で見ておくのも乙なものです。滅多に見られるものじゃないし。

 それに”笑い姫”さんのパレードも、ミサイルの到着と共に佳境になるってウワサ。だからさっきから、かなりヤケクソみたいに踊ってるんですね、彼女。


 あ、まあ心配はしないで。大丈夫ですので。


 ……って、先に作戦を説明した方が安心したよね。ごめん。

 ええとみんな、――”プレイヤー”については説明いらないよね。

 スキルの……魔法の力が使える人たちのこと。

 今回はそのスーパーパワーで、ミサイルを丸ごと消しちゃおうっていう。そんだけ。


 ……うん。心配ないって。だいじょーぶだいじょーぶだから。

 今回のコラボに参加してくれたみんなって、すっごく強い人たちだし。


 あ、そろそろ始まるみたい。

 到着時間にはまだ余裕があったんだけど、……JKさん、なんか恥ずかしがってるみたい。あんまり人前に出たがらない人だから……。

 モモカさんの操る飛竜が……ああ、あんなに遠くまで上がっていく。

 私、さすがにあそこまでは行けないからさ。邪魔しちゃ悪いし。

 でもJKさん、一応胸元にカメラ仕込んでるって話だから。その動画は後でアップロードするね。

 だからJKさんのチャンネル登録とイイネもよろしく。


 あ、ミサイルが来る時間?

 ええと、モモカさんの予告では……うん。あと数分くらいかな。

 ……なに? 急すぎる?

 まあ、それもしょうがないんじゃないかな。

 あんまり余裕持たせるとさ、不安な時間も長くなるでしょ?

 だからぱぱっとやってぱぱっと終わらせた方がいいかなって。注射と一緒。


 あと、お節介な”プレイヤー”の介入も避けたかったんだ。

 『船頭多くして船山に上る』っていうでしょ?

 参考までにJKさんのレベル、85ね。

 文句あるならJKさんボコれるレベルになってから出直してきてね。


 ……って駄弁ってるうちに……あっ!

 きたきた。

 カメラ映ってるかな? ちょっとだけうっすら、光ってるものが……。

 うわ、すごい。隕石みたい。

 

 ピカッと光って……はあはあ、一緒に落ちてきてるのは本体じゃないんだっけ。

 一応ここで、わざわざ取り寄せた百科事典で調べた、核爆発の仕組みについての情報、いる? ……あ、「いらない」「どうでもいい」「死にたくない」あっそう。残念。

 ちなみにあれ、詳しい人に聞いたところ、ミニットマンっていう単弾頭ミサイルなんだって。核出力は1,2メガトン。これはTNT火薬120万トンの爆発力だそうで……。


 って、おお。

 きたきたきたきた。

 うわーきた!

 ここですかさず、トラ子さんの《無限のダイスロール》!

 で、ミズキさんが《闘いの唄》を唄って……わあ、なんか映画のクライマックスみたいだ!

 モモカさんがミサイルのスピードを抑えてる……みたいだけどこれ、やばいんじゃ……うわ、うわうわうわ! 早い早い! 思ったより早い!


 …………ああ…………。


 ぱっと消えちゃった。ミサイル。


 JKさんがなんか魔法の刀みたいなので斬りつけただけで。

 あっさり。

 なんか、もうちょっと盛り上がる絵面になればよかったのに。

 ドギャーンズギャーンドゴオオオオオ! みたいなの。


 でもよかったね、みんな生き残れて。


 ……で、数字は……わあ! なんだこの再生数!

 王国にいる人、ほぼ全員が見てるじゃん!

 イイネもいっぱい! やったー! 大富豪だ!

 みんなありがとー!


 あ、我等の救世主、名無しのJKさんがアップする動画もよろしくね!

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