その279 ごく平凡な日々
その後の数日は、慌ただしく過ぎていきました。
私としても、記憶に関してあれこれ探られるより、その方が助かる、――というべきところで。
とりあえず私に求められているのは、八月末に襲来するというロケットをぶった切ること。
そのために、日々の鍛錬を欠かさないこと、くらいでしょうか。
ずばーっと頭の上にミサイルが降ってくるから、それを《必殺剣Ⅹ》でずばーっとやる、と。
どうも話を聞く限り、これはそう難しくなさそう。
それこそ、――前世の私との特訓に比べれば、朝飯前にちょちょいと済ませられるレベルです。マジで。
というわけでここ数日は、久々にのんびりした日々を過ごすことができました。
時々気が向けば、動画制作のお手伝いなんかもしたりして。
せっかくなのでここに、私が過ごしたごく平凡な一日のスケジュールを記しておきましょう。
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【AM 07:00 起床】
朝起きた後は、目が冴えるまで素振りするのが日課です。
配られたスマホで、”歌姫”ミズキさんの曲を流したりしながら。
早朝に”アビエニア城”を見上げると、なんだか遠くまで来たものだなあ、と、ぼんやり思ったりして。
【AM 08:00 シャワーの後、朝ごはん】
朝食は、いつも従業員用の食堂で摂ることにしています。
ちなみにここで働いているのは、”グランデリニア”から出張してきた人々。
一応、ここの他ではウエスタン・エリアの『カウボーイ・キッチン』が開業中で、こちら側に出向けば”守護”のみんなと会うことができるみたい。まだ顔出したことないですけど。
朝ご飯はいつも、かりかりに焼いたクリスピー・ベーコンとトースト、山盛りのサラダに、野菜ジュースと決まっています。
ベーコンはとんでもなく硬く焼かれているもので、噛むとパリッとスナック菓子のよう。なんでも、一泊十万円くらいする高級ホテルで働いていたシェフが焼いたものなんですって。うまい。
【AM 08:30 作戦会議】
朝食を食べ終わると、そのまま明日香さん主導による”本日の動画”に関する会議が始まります。
彼女はいつも夜遅くまで起きていて、昨今の流行り廃りをチェックしているのだそう。
明日香さん曰く、「最初の一週間はいろいろ試してみるべき」とのことで、綴里さん、毎日いろいろやらされてるみたい。
ちなみに一番「真似できないな」って思った動画は、茹でたダイオウグソクムシを喰わされるやつ。
のちに本人から感想を聞いたところ、「皮は柔らかい海老の殻、身は魚っぽい」そうです。
【AM 10:00 買い出し】
この時間帯にはいつも、”グランデリニア”側の地下倉庫にて、フリーマーケットが開かれます。
この時ばかりは”アビエニア”側に住むヴィヴィアンたちも”グランデリニア”へ向かうことが許されており、都内で収集してきた様々な物資(衣装、機材、嗜好品など)と、自らが持つ”
この荒廃した世界で、ウェブマネー取引が行われているのはきっと、この場所だけでしょうね。
【PM 00:00 昼ごはん】
腹具合にもよりますが、お昼は基本的に、お茶か野菜ジュース一杯だけと決めています。
なんかダイエット中のOLみたいですけど、あんまりお腹空かないのでしゃーない。私たち”プレイヤー”は、スキルや魔法を使わない限り、食事を摂る必要はありませんから。
【PM 00:30 動画撮影・編集】
午後は綴里さんを主役とした動画撮影に時間を使っています。
これはもちろん、納得のいくものができるかどうかでいくらでも時間がかかります。
私の仕事はとくに決まっておらず、必要に応じて物資を買い足したり、カメラを回したり、おやつを差し入れしたり。
一番気楽で楽しいポジションと言えるかも知れません。
【PM 06:00 動画うpと反省会】
早く仕事が終われば、この頃には何もかも終わらせて、みんなでアップロードした動画の反応を確認します。
”非現実の王国”において採用されている動画共有システムは、アップロードされた動画が
そして、
【PM 07:00 晩ごはん】
晩ごはんは昼ごはん以上に、食べたり食べなかったり。
ただ、普通人の藍月美言ちゃんのお腹が空いたら可哀想なので、最低でも一人は(魔法を無駄撃ちしてでも)彼女とお昼を一緒にすることに決めています。
でも美言ちゃん、最近付き合い悪いんですよねー。
友だちでもできたのかしら?
だったら素敵なことですが。
ちなみに晩ごはんは、アドベンチャー・エリアにある『海賊船の食卓』が開いています。
こちら、”グランデリニア”住みの有名なシェフが日替わりで料理を用意してくれるので、毎度毎度、食事が楽しみなんですよ。
【PM 10:00 動画チェック】
できればこの時刻には眠りについているのが理想ですが、なかなかそううまくいかないのがここでの生活。
たいてい、その日の”日間ランキング”で上がってきた動画を観ているうちに日付が変わったりしています。
十代女子の創作物など、どうせ大したことがない、――と思われるかもしれませんが、これが意外と、馬鹿にならないクォリティ。
どんな場所にいても、自身のユーモアを持て余している人というのは少なからずいるものです。
【PM 11:00 就寝】
漫画喫茶のブースを思わせる住処は狭く、お世辞にも寝心地がいいとは言えません。
ですがここの少女達は、――思っていたよりもずっと、豊かな暮らしができていました。
毎日毎日、ずーっと学園祭が続いているような日々。
それがこの、”非現実の王国”における生活です。
これはこれで、悪くない暮らしのように思えています、――が。
それもこれも、志津川麗華の手のひらの上であることには変わりなく。
目をつぶると、かつてのクラスメイトの顔が浮かぶことがあります。
全ては、――志津川麗華が、《
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あ、そうそう。
この数日で一度だけ、志津川麗華、――ライカ・デッドマンの顔を拝見しています。
ライカは、恐らくかつてのディズニャーキャストが身にまとっていたお姫様みたいなドレスを身にまとい、金色に染めた髪を頭の上で結い上げた、恐らくは二十台半ばほどの女性でした。
彼女は、日曜日の午後に一度だけ、”非現実の王国”中に存在するあらゆるモニター(各自が手に持っているスマホを含める)を使って、皆に挨拶するそうです。
私が聞いた彼女の演説は、以下のものでした。
『ハロー! ヴィヴィアン! バズってる?(※これは彼女の造語で、なんか”流行生み出してる?”的な意味だそうです)
今週も、いくつかのお手紙が届いているわ。
だからそれについて、私の見解を聞いていただこうかしら。
――なぜ、少女達に動画を作らせるの?
――なぜ、少女達に家畜や畑の面倒をみさせないの?
――なぜ、少女達に生きていくのに必要ない仕事をさせてるの?
――なぜ、……”黄泉がえり”は少女達を優先するの?
この質問、ときどき届くのよね。
だから私もときどき、同じ答えを繰り返すのよ。
いいかしら、”非現実の王国”のみんな。
私の、美しくも賢い少女たち、――ヴィヴィアン・ガールズはいずれ、世界を照らす光になるの。
彼女たちの存在こそが、我々を幸福の都に導いてくれる。
少し大袈裟聞こえるかしら?
でも、決して嘘じゃないわ。
この世界は心配しなくてもいずれ、以前と同じように平和な時代が戻ってくる。
だってそうでしょう?
”プレイヤー”や、”実績報酬アイテム”。
これらを神様が賜ったのは、私たちの味方をしてくれているからなのですから。
だから私たちは、平和を取り戻した”後”の生活を考えなくちゃいけない。
想像してみて?
みんなの安全が保障され、パンが配られたあとの世界を。
きっと多くの人は、同じことを思うわ。
ヴィヴィアンはそういう時代になって初めて、きら星のように輝くの。
世界中が、あなたたちみんなに恋をするんだわ。
大衆が生きていくのに必死な間、あなたたちは、最高の娯楽文化の担い手になる。
かつて、日本のマンガやアニメ、ゲームが、世界中から評価され、注目されていたように。
我ら”非現実の王国”は、最高の”娯楽”を世界に輸出して、素晴らしい文化を花開かせるの!
それって、素敵なことだと思わない?』
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