その281 壁ある二人

「はい! ってわけで、本日のランキング一位も、名無しのJKで『世界救ってみた』でした~。

 目の前にずんずん迫ってくるミサイルがFPS視点で楽しめる怪作!

 いやあ、なんど繰り返しみても、大迫力の一本だあね! 

 みんなのプリンセスが活躍するところもエモい! エモエモのエモ!


 ちなみに、消えちゃったミサイルは本人にもどこ行ったかわからないんだってさ! ここじゃないどこかって、どこ? 異世界? 別次元? あんがい、向こうのミサイル基地だったりしてね!

 ま、私としちゃあ、ここに落っこちてこなきゃあどこでもいいけど。


 ……はい!

 ってわけで、今日はここまでだ!

 いつも動画をありがとう、ヴィヴィアン・ガールズ!


 今日は楽しかったね。でも明日はもっと楽しくなるよね、ハメ太郎?


「へけけっ。くしくし!」(なぞの野太い男性の声)


 そんじゃ、また明日~!

 しーゆーねくすとたーいむ♪」



 クドリャフカさんのやかましい茶番劇が終わり、社員食堂は再び、少女達の喧騒に包まれました。

 私は、「ねえ、あの人が……」みたいなひそひそ声に耐えながら、お昼ごはん代わりの野菜ジュースを飲んでるところ。

 すぐそばの席には藍月美言ちゃんが座っていて、伊勢エビにホタテ、ローストビーフなど、少し不釣り合いな豪華具材が乗っかったチキンラーメンを啜っています。


「……美味しい? 美言ちゃん」

「うん。まあまあ。でもナマヤケの肉がまずい」


 この少女はここのところ、ちょっとした成果を上げていました。

 地下に隠された”無限湧き”のゲートの存在と、閉鎖された地下区域の大まかな地図、そして志津川麗華が手に入れた”実績報酬アイテム”の一部が保管された倉庫についての情報などを、――その旺盛な好奇心で見つけ出してきたというのです。


「ねえ、美言ちゃん」

「なんだよ」

「あなた、まだ私に、――隠してること、ありません?」

「ないけど?」

「そうですか」


 しれっとした表情の彼女に、私は小さく嘆息しました。

 美言ちゃんとの間に、カッチカチの硬度を誇る壁がある感じ、気のせい?

 いや気のせいではないでしょうね。

 うーむ。


 彼女の独断専行に関しては厳重注意の必要がありましたが、――今どき、それを禁じる法がないのも事実。彼女が大人顔負けの成果を上げられたのも事実。

 美言ちゃんが、こと”生き抜く”ことに関して、あるいは我々よりも長けている可能性がある、というのも事実であって。

 命を賭けるべきは”プレイヤー”となった我々だけであるべきで、普通人である彼女は安全地帯で引きこもっていてほしい、というのは傲慢な考えなのかもしれません。


「私たちは仲間なのですから、困ったことがあったらいつでも相談にのりますからね」

「あー……おーけーおーけー。りょ」


 ……うむ。なんか通じてないっぽい。

 仲間の尊さがわからんとは、さては少年漫画とか読まないなオメー。


「それじゃ、またミサイルがふってきたらよろしく」


 まあ、とはいえ、――数日前の核ミサイルの一件に関しては、彼女的にもそこそこ関心するところがあったらしく、以前ほど冷たい感じではなくなっていますが……。


「……ところで」

「ん」

「おまえはこのあと、どうするつもり?」

「どうする、というと?」

「アタマもすっかり良くなったし、ミサイルもけしたし。まだここでやること、あるの?」

「もちろんあります。――できればライカさんに頼んで、《魂修復機ソウル・レプリケーター》の扱いについて考え直してもらいたいところですが」

「でもそれ、ムリっぽいって明日香がいってたよね。ちょっとまえに」

「ええ」


 ライカさんにとって《魂修復機ソウル・レプリケーター》は、自身の立場を保障する、極めて重要なアイテム。そう簡単に手放しはしないでしょう。

 実際、彼女、遠隔地にいてもスイッチ一つで《魂修復機ソウル・レプリケーター》を破壊できるように細工しているらしく。


――正直、何度か暗殺計画を立ててみたんだけど、どうも厳重でね。”先生”も、この一件に関しては慎重に動いてもらいたい。


 とは、他ならぬ恋河内百花さんの弁。

 《魂修復機ソウル・レプリケーター》、前世では核ミサイルによって粉々に破壊されただけあって、今回はどうしても手元に置きたいそうです。


「でも、――まあ、こっちには一つ、とっても強いカードがありますからね。それを使えば、取引も不可能じゃないかな、と」

「ふうん」


 アキバで、ギャル三人娘からもらった実績報酬アイテム、――”マクガフィン”。

 話によるとこれは、


――物々交換の時に出すと、これは相手にとって何より魅力的に思える。ただし相手の手に渡った瞬間に効力がなくなる。


 とのこと。

 これ、うまく取引に使えません? 使えますよねきっと。


「ってわけで当面は、公式の場で志津川麗華さんに謁見するのが目標になっておりまする」

「あー……だから、綴里だけじゃなくおまえまで動画、つくってるのか」

「そういうこと。決してその、豪華なラーメンのためではないのです」

「ふむ」


 そして美言ちゃんは、ずずずずずっと、チキンラーメンをスープまで飲み干して、


「まあ、だったら私も、てつだってやるよ。どーせヒマだし」

「そうしていただくと助かります。……地下で”ゾンビ”退治しているよりは、よっぽど健康的ですから」

「なにそれ。イヤミってやつ?」

「あなたのことを想っているんですよ」

「……ふん」

「あと私のことは”おまえ”ではなく、”おねえちゃん”とか”おねえさん”とか、そういう風にお呼びください」

「やだ」

「わあい。冷たあい」


 どうやったら好感度上がるの、この娘。攻略の糸口が見えないんですけど。


「だいたいおまえ、子ども相手にデスマスいうなよ。なめられるぞ」


 その上、逆に説教までされる始末。

 しかし、ここで彼女と言葉遣いに関する議論をしたところで、仕方ありますまい。


 私たちは微妙な雰囲気のまま、席を立ちます。

 それだけで、周囲の目線が動くのを感じました。

 ……うーん、慣れないなあ、こういうの。


「それで? この後のよていは?」

「ええと……確か、”実況姫”さんとのコラボ動画を撮影する予定……だったかな」

「りょーかい」


 いつでもどこでも堂々としている美言ちゃん。

 案外、私も少しは見習った方がいいのかも。

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