その208 向かうべき場所
その後、麻田さんは続けて、いろいろな情報を授けてくれました。
「私たち、センパイが記憶喪失になったって話を聞いてから、独自に情報を集めていたんです。それで今朝、宝浄寺さんから連絡があって。なんでも、千葉方面に向かう百花さんを見かけた人がいたらしく」
「千葉?」
「話を聞くに、――恐らくは『死者を蘇生する』”プレイヤー”を探しに行ったのではないかと」
「死者蘇生、ですか」
にわかには信じがたい話ですが、まあホイミがあるならザオラルがあってもおかしくなく。
「たぶん、彩葉ちゃんを間違って殺しちゃったこと、気にしてるのでしょう。それで、責任を取ろうとして」
「彩葉ちゃん、ですか」
ここで解説・補足タイム。
私、かつて羽喰彩葉ちゃんっていう、中学生くらいの女の子と行動を共にしていたそうです。
その娘は結局、恋河内百花とやらの攻撃に巻き込まれて命を落としてしまった、とのこと。
「しかし、千葉といっても広いですよ? いったいどこに……」
「そこなんですが……千葉の避難民の大半は、とある大きなテーマパークに集まっているそうなんです。”死者蘇生”を行う”プレイヤー”はそこにいるって」
「ちょっと待って。そのテーマパークってそれ……ひょっとして」
「はい。例のあそこです。夢の国です」
なんだか嫌な予感がします。
不思議とその名前を口に出しただけで、すぐさま私の冒険が終了してしまいそうな……。
「では、仮にその遊園地の名前を”千葉ディスティニーアイランド”と呼ぶことにしましょう」
「……? 仮称する必要、あります? センパイだって知ってるでしょ? みんなだいすきディズn」
「ストップ。ダメ、ゼッタイ」
麻田さんは少し不思議そうな顔をしましたが、やがて納得して、
「まとめると、こうです。
1、センパイの記憶を戻すことができる力は《時空系魔法》。
2、《時空系魔法》を使える人は、恋河内百花さん。
3、その百花さんはどうやら、”死者蘇生”の力を求めて千葉にいるらしい。
4、というわけでセンパイは、千葉のテーマパークに出向く必要がある。
ここまではおっけー?」
「はあ」
そんな、子供に噛んで含めるように言わなくても。
「一応すでに、日比谷康介くんと紀夫さん、君野明日香さん、宝浄寺早苗さんの四人が先遣隊として夢の国へ向かってます。四人が百花さんを見つけられればそれでいいのですが……」
「できれば、我々も動いた方がいい、と」
「ええ。ひょっとすると四人では百花さんを動かせられないかもしれませんから。……そもそも百花さん、彩葉ちゃんのことで責任を感じたからって、こんなにも長い間、私たちに連絡していないことがすでにおかしいんです。ひょっとすると、何かのトラブルに巻き込まれてるのかも」
「にゃるほど」
言いたいことはざっくりわかりました。
人々が明るく飲み食いする中、私は小さく冒険の決意を固めます。
となると、旅のお供が欲しいところですが……。
「凛音さん」
「ん」
「夜久さん」
「うむ」
「綴里さん」
「はい」
「三人とも、頼めますか」
すると三人は、ほとんどノータイムでうなずきました。
それに意外そうな顔を作ったのは、凛音さん。
「おや? 綴里はいいのかい? 航空公園の守りは」
「少し、――考えてみます。壱本芸の連中がいつ裏切るかわからない以上、これまでとは防衛のやり方を変えなくてはいけない」
「……難しいようなら、止めておくこともできる。葛西方面に進むなら、ちょうど秋葉原に寄るだろ? そこで仲間を募ることだってできるんだから」
「いえ。――今回はさすがに”戦士”さんを守ることが優先です。何せ今の”戦士”さんは、”ゾンビ”を見たことすらないのでしょう?」
初日にかるく顔見せはしたけどね。首から上だけの状態で。
「なら、いいんだけど。っていうかそうだ。”ギルド”の連中は? たしかちょっと前に、各コミュニティに”プレイヤー”が派遣されてくるって話になったじゃないか」
「彼らはいつの間にかいなくなりました」
どうやらそれはわりと想定外の言葉だったらしく、凛音さんは目を点にして、
「……え? まじ?」
「はい。ある日、トツゼンに。練馬のコミュニティ、壱本芸のコミュニティも同様のようです。でもこの一件、すでに上層部には連絡が行っていたはずですが」
「連絡不行き届きだ。……くそっ。へんにお偉い連中が学校に出入りするようになってから、こういうことがしょっちゅう起こる」
凛音さんはほっぺたを膨らませ、
「でも、なんで? 彼らだって、あたしらの縄張りを気に入ってたって話じゃないか」
「詳細は不明です。あるいは”フェイズ3”の……”クエスト”の関係かもしれません」
「”クエスト”が与えられたから、それぞれ勝手にどこぞへ行っちまったってわけか」
「恐らく。……だとしても、書き置き一つ残っていないのは気になりますが」
「やれやれ。勝手な連中だねえ!」
「あるいは”戦士”さんのように厄介な”クエスト”を与えられた可能性もあるので、一概に”勝手”とは言い切れませんよ」
……と、二人が押し黙ったタイミングで、私は口を開きます。リーダーっぽく。
「それじゃあみんな、今日はたっぷり休んで、明日の朝六時に出ましょう。目指すは一路、”千葉ディスティニーアイランド”へ。……それでいいですか?」
すると、二人は物憂げに首肯します。
「夜久さんは?」
しばらく会話に加わっていなかった彼はというと、通りがかりのテンション高めの人から紹興酒を受け取っていて、「ン……やべ、うめ、これ、なんか泣きそ……あ、……うん?」とのこと。
「明日、朝六時です。わかりましたね?」
返事は三人揃って曖昧な「うん」。
そこで再発見したことがあります。
私ってキホン、リーダー役とかに適していないんですよね。
大丈夫でしょうか。こんな私が、みんなの中心で。
言っときますけど私の方針、あんまり変わってませんからね?
一人ぼっちにしたら乳児くらい簡単に死ぬんやぞ?
そこんとこみなさんには、ちゃんと理解していただきたい。是非とも。
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