その137 修羅の道

 童話の『眠り姫』のようにこんこんと眠っていた”賭博師”さんは、ちょうど丸一日経過したその瞬間に、ぱちりと目を覚ましました。


「……おはよー」

「おはようございます」

「……………」

「……………」


 気まずい沈黙。


「ええっと。なんかよく覚えとらんのだけど」

「はい」

「……ひょっとしてオレサマ、られた?」

「典型的噛ませ犬ポジションのお勤め、大変ご苦労様でした」


 すると”賭博師”さんは、頭をぐしゃぐしゃに掻きむしり、


「くっそ、油断した! “スタンナイフ”でどーにかしようとしたのが間違いだった、――こうなったらあいつ、オレサマの《銭投げ》でミンチにして……」

「ちょいまち」


 かくかくしかじか。


「……つまりなんだぁ? あのゴスロリ女とは、真っ向勝負で勝たなきゃ意味ねーってことか?」

「みたいですねー」

「クソったれ」


 ウムムムムと頭を抱える、”賭博師”さん。


「修行する必要があるってことか。……ジャンプ漫画みてーに」

「やむを得ませぬ」


 私はそこで、”賭博師”さんが寝ている間に検証したいくつかの情報を共有することにしました。


「とりあえずわかったのは、どうやら私たちの魔法の力、――まあ、暫定的に”魔力”と呼びますが――は、実戦で使用しないかぎり、あまり力がつかないようです」

「……そうなの?」

「ええ。しばらく一人で《火系魔法》を使ってみましたが、結局”魔力”が強くなったと感じることはありませんでした」

「なるほどな」

「と、いうことなので。またしばらく、”スライム”狩りを続けようと思います。……その上で」


 私は、以前”賭博師”さんに”情報”を書き込んでもらったノートの一行(”情報その34”)を指差して、


「この専用アイテムを買いましょう」

「ああ……”修羅の指輪”か」


 『専用アイテム”修羅の指輪”は、”マスターダンジョン”内における“魔物”との遭遇率を上げる。ただし、これを装備すると呪われてしまい、別の専用アイテムによって解呪しない限り、指から外すことができなくなる。』

 当初この”情報”を見た時、とんでもない地雷アイテム(しかも、価格も二十万ゴールドと高め)だと警戒したものですが、――恐らくはこれ、本来はこういう時に使うアイテムなのでしょう。


「まあ、しょーじきオレサマとしては、さっさと次に進みたいところだが……」

「もしそうしたいなら、私は止めませんよ」

「バカ言え、相棒だろ。……オメーの言うとおり、付き合ってやるよ」



 そこで私たちは、お互いが、現時点で使える魔法系スキルについて少しおさらいすることに。

 以下のものは、私がノートにまとめたものの抜粋になります。


《火系魔法Ⅰ》

【呪文】私:《ファイア》 賭博師:《火》

【効果】人さし指の先から、ライター程度の火を出現させる魔法。《火系魔法Ⅲ》と組み合わせて使うのが普通で、単品で使うことはあまりありません。煙草吸う人とかなら、しょっちゅう使うのかも知れませんけど。


《火系魔法Ⅱ》

【呪文】私:《ファイアーボール》 賭博師:《火球》

【効果】手のひらの上に火球を出現させる魔法。綺麗な丸い形をしているので、取得した魔法の中ではこれが一番”魔力”の上達を確認しやすいです。


《火系魔法Ⅲ》

【呪文】私:《エンチャント》 賭博師:《油》

【効果】指先から透明の液体を生み出す魔法。透明の液体は、着火することで激しく燃え上がる。


《火系魔法Ⅳ》

【呪文】私:《フレイムスロワー》 賭博師:未習得

【効果】手のひらからものすごい熱の火炎を放射する魔法。強力ですが、魔力の消耗が激しく、あっという間にハラヘリ状態になってしまうので注意。


《火系魔法Ⅴ》

【呪文】私:《フレイムタワー》 賭博師:未習得

【効果】火柱を上げて、対象を一瞬にして焼きつくす魔法。火柱が発生する時、地面に魔法陣のようなものが浮き上がるので、よく注意すれば躱すことは可能。


《水系魔法Ⅰ》

【呪文】私:《ウォーター》 賭博師:《水》

【効果】指先から水を噴出する魔法。水の温度はある程度調節可能。カップ麺とか作るのに便利。


《水系魔法Ⅱ》

【呪文】私:《ウォーターボール》 賭博師:《水球》

【効果】手のひらに水の玉を出現させる魔法。投げるとものすごい勢いで飛んで行くので、コンクリートの壁に穴を開けることも。


《水系魔法Ⅲ》

【呪文】私:未習得 賭博師:《飲み物》

【効果】指先から水を出す魔法。長らく効果がよくわかっていませんでしたが、どうやら、普通より栄養価の高い水を生み出しているようです。


《雷系魔法Ⅰ》

【呪文】私:《ショック》 賭博師:《雷》

【効果】手のひらに電気を発生させ、触れたものを感電させる魔法。


《雷系魔法Ⅱ》

【呪文】私:《サンダーボール》 賭博師:《雷球》

【効果】自分の周囲に雷の玉をいくつも出現させて、狙った相手に向けて一斉に飛ばす魔法。


《雷系魔法Ⅲ》

【呪文】私:未習得 賭博師:《電源》

【効果】周囲にある電化製品に必要な電力を供給する魔法。効果範囲、時間などは調節可能。



 その後、私たちが行った”修行”に関しては……正直、あまり語って面白いようなこともなく。

 ただひたすらに、(”修羅の指輪”の効果で)山と押し寄せる三色の”スライム”を狩り続ける日々が続きます。

 ただ、思ったほどには辛い日々ではありませんでした。

 戦えば戦うほどに、自分たちが強くなっているという実感が持てたためです。


 もちろん、小さな発見も多くありました。

 魔法スキルの出力はある程度自由に変えられること。

 一部の魔法には、若干の個人差が存在すること。

 魔力の経験効率は、なるべく低いランクの魔法で行ったほうが良いこと(《フレイムタワー》よりも《ファイアーボール》でスライムを狩ったほうが、効率が良い)。

 肉体的なコンディションはもちろん、精神的な影響によっても、魔法スキルの出力がかなり変わること(特に、月一でくる“あの日”などは、魔力の出力がかなり不安定になるみたい)。


 ……と、まあ。

 そんなこんなで。


 私たちの《火系魔法Ⅱ》が、直径三十センチを優に超えるサイズになったのは、それからおよそ、一週間後のこと。

 ”マスターダンジョン”に訪れてから、ちょうど三週目の出来事でした。



情報その31……”フロアボス“を倒して先に進んでしまうと、もう二度と元のフロアに戻ることはできない。


情報その32……『ドラえもん』の主人公、野比のび太の家は「東京都練馬区月見台すすきが原」に存在する。ちなみに”ダンジョンマスター”の実家も練馬区。


情報その33……『ドラゴンボール』に登場するクリリンとミスターサタンは、実は同い年である。それとはあまり関係がないが、”ダンジョンマスター”は連載当時、クリリンと同い年であった。


情報その34……専用アイテム”修羅の指輪”は、”マスターダンジョン”内における“魔物”との遭遇率を上げる。ただし、これを装備すると呪われてしまい、別の専用アイテムによって解呪しない限り、指から外すことができなくなる。


情報その35……ハチミツは腐ることがないため、何千年前のものでも食べることができる。

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