その133 ”賭博師”さんのスキルがわりとチートだった件。

「ふははははははははははははははは」

「おほほほほほほほほほほほほほほほ」

「左うちわだのう。”戦士”さんよ?」

「そうですわねえ、”賭博師”さん?」


 私たちは、特に理由もなくフワッフワのドレス(100ゴールド)に着替えて、お茶とクッキーを愉しんでいました。


 《夢幻のダイスロール》+《ペテン》コンボによる錬金術で、我々の貯金は既に三十万ゴールドを超えています。


「チョロいな、“マスターダンジョン”」


 などという発言まで飛び出す始末で。


「油断は禁物ですよ。チートアイテムを手に入れたからって調子に乗り過ぎると、手痛いしっぺ返しを喰らう……、と。『ドラえもん』が私たちに教えてくれた、大切な教訓です」

「たしかになぁ~。うふふふ」


 わかっているのかいないのか。

 “賭博師”さんは、にこにこと笑みを浮かべています。


「そんじゃ、改めて資金の使い道を決めようぜ!」

「そうですね」


 さっそく、”雑貨屋”さんの端末を見ながら、二人であれこれ検討を。


「とりあえず、武器を揃えましょう」

「俺はどうせ魔法主体で戦うだけだし、荷物になるだけかも知れんな」

「それでも、ナイフくらいは持っていていいのでは?」

「まあ、な」

「これなんかどうです? “スタンナイフ”(80000ゴールド)。……名前の感じだと、敵を気絶させる効果っぽい? 今後、役に立つかも」

「お、それいいな」


 って訳で、早速”スタンナイフ”を購入。


「まいどありっ」


 ……と言ってボルタックさんが渡してくれたのは、刃渡り二十センチほどの、ちょっと機械的なデザインのナイフでした。

 そのままではあまり切れ味がなさそうですが、柄のところにスイッチがあって、それを押すことで、ばちばちっと電流が流れるようです。


「それじゃ、私の方は”むらまさ”を手に入れておきますね」

「おう」

「それと、他に買うものは……」


 既にあれこれとメモしてあるノートを見ながら、


「登山用のリュックとか。非常食とか、タオルとか、水とか、あとは非常食、……あるいは非常食、非常食などです」

「なるほどな」


 やはり、命綱になるのは、食べ物であると思われました。

 実際、魔力さえ足りていれば、その他のことはほとんど事足りてしまうのです。


「とにかく、カロリーが高くて、リュックに詰め込めそうなものをたくさん持って行きましょう」

「了解。それと一応、”雑貨屋”には防具類もあるみたいだが……」

「それは必要ないでしょう」

「だな。……移動するのに消耗しちゃあ、元も子もない」


 逆に、身軽になれるような防具があれば良かったのですが、残念ながら”雑貨屋”さんのラインナップは、


――82、はがねのよろい(450ゴールド)

――83、きんのよろい(650ゴールド)

――84、しろがねのよろい(1200ゴールド)


 と、こんなんばっかり。

 ゴテゴテした鎧を着て歩きまわるくらいなら、いつものジャージ姿でいた方が生存率を高めることは間違いなく。


「あと、”特殊なアイテム”で、めぼしいものはないか?」

「うーん。正直このへんは、効果がわからないものが多くて、選びにくいというか……」

「値段が高すぎるんだよな。”予備のめがね”みたいな例外はあるが、どれも、性能以上の値段な気がする」


 たしかに。

 ”金スライム”狩りによって、私たちの経済状況が極めて安定したことは間違いありません。

 が、それでも、現時点においてはまだ手が出ないアイテムも多くありました。

 いつだったか、実績の報酬として手に入れた”ちからのたね”なんか、一千万ゴールドですよ。

 いっせんまんって。

 “金スラ”千匹分って。

 これ、最初から買わせるつもりがないとしか。

 あるいは今後、”金スライム”以上に稼ぎ効率のいい”魔物”が出てくる、とかでしょうか?


「ただ、一つだけ興味深いアイテムを見つけました」

「どれのことだ?」


 端末を指差して、


「この、”帰還クリスタル”ってアイテムです。一万ゴールドの」

「ああ……これか」

「どうやら、これを使えばいつでも『冒険者の宿』まで戻ることができるみたいですし。念のため二人分手に入れて置きましょう。そうすれば、苦しんで死ぬのは避けられます」

「だな」


 お陰で、ずいぶんと気が楽になりました。

 ”帰還クリスタル”の取得こそが、本日最大の収穫であったといっても過言ではありません。


 その後、諸々の準備を済ませた私たちは、ひとまず『冒険者の宿』で一眠りすることに。


 ちなみに”宿”は、


――”松”コース(200ゴールド)

――”竹”コース(120ゴールド)

――“梅”コース(50ゴールド)


 の三コースがあるらしく。


 もう、『がんばれゴエモン』かな? っていうね。

 ほんと、世界観揃えてくださいよ。

 ファンタジーっぽい雰囲気の宿屋で松竹梅って……。


 もちろん私たちが選んだのは、


「「松コースで」」


 すると、”宿”の若女将さんの眼がキラリと輝いた気がしました。


「それを選ぶとはお目が高い」

「はあ」

「ちなみに、お二人はカップル?」


 一瞬、”賭博師”さんと視線を合わせて、


「ノン」

「なるほど。今夜はおたのしまない、……と」


 ……この松コースとやら、よくわかんないとこに気を利かせてきますね。


「じゃ、エッチな本は用意しておいた方がいいかしら? あるいは大人のおもちゃとか、」

「蹴倒されたくなければさっさと案内してください」


 若女将さんは顔色一つ変えずに、


「はーい。二名様ごあんなーい」



 NPCに通されたのは、一言で言うと“お姫様のお部屋”って感じの空間。


 一人で泊まるにはあまりにも大げさすぎて、ちょっと後悔してしまいます。

 逆に落ち着かない気がしますよ、これ。


 ただ、各種設備が豪華なのはグッド。

 シャワー・トイレ・冷暖房完備なのはもちろん、冷蔵庫の中には各種ジュースやお酒類がいっぱい。お菓子やおつまみ、アイスクリームなんかも食べ放題のほうでした。

 ……まあ、お腹いっぱいだったので手は伸びませんでしたけどね。


「ふう……」


 ひと息ついて。

 ごろりと、ベッドの上に寝転がり。

 ぼんやり、今後の方針を練ります。


 先ほどの話し合いで、もし“ダンジョン”で迷った場合、”賭博師”さんが《夢幻のダイスロール》を使ってくれる……ということにはなりました。

 が、あのスキル、大きく魔力を消耗してしまうデメリットがあるようで。


「しかも、引き寄せられる幸運は、厳密に選べる訳じゃあないからな。場合によっては、不必要に“金スライム”を引き寄せるだけかも知れない」


 結論。

 ”賭博師”さんに《夢幻のダイスロール》を使ってもらうのは、最後の手段。

 彼女の魔力を温存するためにも、道中の”スライム”退治は、私が優先して行うことに。


 そこで私は、ずーっと棚上げにしていた”レベル上げ”作業を行います。


 幸い、今の私は、百花さんとレベル上げをしたばかりのため、覚えられるスキルの数には余裕があります。

 そこでまず、《水系魔法》と《雷系魔法》を《Ⅱ》まで習得することにしました。

 こうしておけば、少なくとも”スライム”狩りには困りませんからね。


 ってわけで、現状のスキルをまとめると、


”流浪の戦士”

レベル:61

○基本スキル

《剣技(上級)》《パーフェクトメンテナンス》《必殺剣Ⅰ~Ⅹ》

《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》

《飢餓耐性(強)》

《スキル鑑定》

○魔法系スキル

《火系魔法Ⅰ~Ⅴ》

《水系魔法Ⅰ、Ⅱ》

《雷系魔法Ⅰ、Ⅱ》

《治癒魔法Ⅰ~Ⅴ》

○ジョブ系スキル

《攻撃力Ⅳ》

《防御力Ⅴ》《鋼鉄の服》《イージスの盾》

《魔法抵抗Ⅱ》

《精霊使役Ⅰ》《精霊の気配Ⅰ》《フェアリー》


 なお、新たに覚えられるスキル枠は、まだ八つほど残しています。

 この先、何があるかわかりませんからね。

 これ以上レベル上げができないとなると、なおさらのことでした。



”情報その11”……“マスターダンジョン”は、外部と隔絶された空間である。そのため、“従属”などによって共有されたスキルは全て失われ、元の持ち主へと返却される。


”情報その12”……“マスターダンジョン”内であっても、他の“プレイヤー”を殺して“強奪”したスキルは失われない。


”情報その13”……『冒険者の宿』では、”マスターダンジョン”専用アイテムを買うこともできる。


”情報その14”……専用アイテム“帰還クリスタル”は、使用することで“マスターダンジョン”内のどこにいても、“帰還ポイント”を作り出すことができる。


”情報その15”……“ダンジョンマスター”の好きな食べ物は、愛する妻の手作りオムレツである。

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