その134 れっつダンジョン探索
“情報その16”……ギルガメッシュの酒場で買える情報には、あまり役に立たないものも存在する。
”情報その17”……その階層のゴール地点には、”ボス部屋”が存在する。“ボス部屋”の中には、”フロアボス”がいる。“フロアボス”を倒すことで、次の階層へと進むことができる。
”情報その18”……”フロアボス”は”プレイヤー”が務める。
”情報その19”……”フロアボス”を倒すには、特定の条件を満たした上で、負けを認めさせる必要がある。
”情報その20”……”プレイヤー”である君と同様に、”フロアボス”が死ぬことはない。万一“フロアボス”を殺してしまった場合、次に進むための扉が開くことはなく、そのフロアをもう一度攻略し直すことになる。
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「そんじゃー、いくぞぉ」
”賭博師”さんによる緊張感のない一言から、”ダンジョン”探索が始まります。
それも無理はなく。
今回の探索は、ほとんど様子見でした。
何かまずいことがあったら即座に”帰還クリスタル”を使うつもりです。
リュックいっぱいにチョコレートやらカロリーメイトやらを突っ込んだ私たちは、意気揚々と探索の第一歩を踏み出しました。
「……で、どう進んでいく?」
「とりあえず東へ。んで、壁に突き当たったら南へ向かいます。そのまま、外周を沿うように探索してきましょう。うまくすれば、このフロア全体の大きさが確認できるはず」
もちろんこれは、迷路の東端が存在すること前提の探索法。
“ダンジョン”全体の形が四角くできている保証などないわけですし、今回はそれも含めた検証を行います。
まあ、道中がランダムに変化する上に、しかもそのパターンが予測不可能となると、もう打つ手がほとんどないようなものなんですけどねー。
「ゴールできるかどうかは、リアルラック次第ってことか……」
その後、私たちは代わり映えのしない道を延々と進んでいきました。
一時間歩いて。
二時間歩いて。
休憩を挟みつつも、前へ前へと。
いつまで経っても、東の端には辿り着きそうもありません。
……ただ、これはある程度覚悟できていたことでした。
前にここに来た”プレイヤー”は、一年もこの空間を彷徨った末、ギブアップしています。
つまり、それだけこの”ダンジョン”をクリアするのが過酷であるということでした。
なお、道中の”スライム”は、ほとんどスルーする方針で進んでいます。
あいつら動きが鈍いので、避けたほうが手っ取り早いんですよねー。
どうしても邪魔な時のみ、私が処理していく感じ。
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そして歩き続けること、およそ二十時間後。
それまでの白い壁と打って変わって、灰色の壁を発見します。
その壁伝いにしばらく進んで、
「たぶん……ここが端っこ、ですよね?」
”賭博師”さんが、コンパス(5ゴールド)を参照しながら、
「さっきからずっと、東に行く道がないようだし、……そう願いたいね」
実際、そこを東端だと判断するには、あまりにも情報が少なすぎました。
例えば、このフロア全体が、いくつかの迷路で区分けされているような構造の場合、これが巨大な氷山の一角、ということにもなりかねず。
「ただ、この灰色の壁は一つの目安になります。このまま外周をぐるっと回っていきましょう」
すると、”賭博師”さんが深くため息を付いて、
「お前が心の折れにくい相棒で助かった」
「ただ……まあ、その前に一休みしときますか」
「だな」
私たちは、そこで初めての大休憩をとることに。
数時間は仮眠をとるつもりでしたが、……なんとなく嫌な予感がしていた通り、ほとんど満足に眠ることができません。
ようやく寝付けたかな、といったタイミングで、ぶよんぶよんと”スライム”が現れ、安眠を妨げてくるためです。
当然、奴らが現れる度に、私たちは魔法によって応戦する必要があり。
予定していた休憩時間が終わる頃には、この地球上に存在するゼリー状の物質全てを憎むようになっていました。
「……くそ。せめて、安全地帯のようなものがあればな……」
「ギルガメッシュさんから買った”情報”には、その手のものに関する話はなかったんですか?」
「ない。あったらとっくに伝えてる」
「ですよねー」
一応、ギルガメッシュさんの”情報”は既に、その1~100まで購入済みです。
ただ、厳密にその内容を把握できているのは、ゴールドを支払った”賭博師”さんだけ。
そのため、私の方は”賭博師”さんから有用な情報のみ教えてもらっている状態でした。
「はっきり言って、後半の”情報”はゴミみたいなモンばっかでな。”ダンジョンマスター”の家族構成がどーとか、”ダンジョンマスター”の同級生の名前はこーとか。ちくわにきゅうりを入れ、醤油とマヨネーズで食べると美味い、みたいのもあった。……知ったこっちゃねえっての」
どうやらあのギルガメッシュさんの”情報”、後半になるにつれてハズレの確率がどんどん増えていく、とのことで。
なかなか意地の悪い仕様ですねぇ。
▼
その後、私たちはフラフラになりながらも、十時間ほど歩きます。
「さ、……さすがに嫌になってきたな」
弱音を吐き始める”賭博師”さん。
ですが、それでも私たちは行軍を止めません。
ここで折れて『冒険者の宿』に戻るのは簡単ですが、そうすると、自分の中にある何かに負けてしまう気がしたためでした。
もうこうなってくると、”スライム”など相手にする気にもなりません。
たまに倒した時に出現するゴールドも、当然のように完全無視。
荷物になるだけですし、稼ぎは別の場所で集中して行ったほうが楽ですので。
さらにそれから、二十時間後。
「お。灰色の壁……」
「……ってことは……?」
「ここが南端みたいです」
「……やっとかぁ」
”賭博師”さんは、ばたーんとその場に倒れて、
「ここ無駄にでけぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
それまで、あえて口には出してこなかった台詞を大声で叫びます。
「……この後、どーする?」
「うーん……」
私は、リュックの中にある食糧を吟味しつつ、
「この感じだと、《夢幻のダイスロール》に使える魔力はあんまり残ってなさそうですね」
「あー、……残りの食いもんぜんぶもらっても、五回がいいところかな」
「じゃ、そろそろ、運ゲーに挑戦してみますか」
「ああ。さすがにこの辺じゃ”金スライム”の存在が幸運判定にはならない気がしてきたからな」
「ええ……」
苦難に満ちた道中でしたが、いくつかわかったことがあります。
例えば、『冒険者の宿』から離れれば離れるほど、”金スライム”の出現率が高くなっている、という事実とか。
ですが、この状況下においては“金スライム”などお邪魔キャラ以外の何者でもありません。
なるほど”金スライム”は、倒すことで楽に大量のゴールドを手に入れられる魔物です。しかも、種さえわかれば倒すこともたやすい。
……しかし、”ダンジョン”の道中にいては、そのゴールドを持ち帰る手段がないのです。
もちろん、この”マスターダンジョン”において、ゴールドは貴重な存在。普通の人なら、少しでも多く持ち帰ろうとするに違いありません。
その結果、いたずらに荷物を増やしてしまう結果に終わり、疲労の蓄積を加速させてしまう……という寸法。
私にはこれが、”ダンジョンマスター”の
「魔力を使いきったら、さすがにいったん『冒険者の宿』だな」
「ええ」
「死ぬほどカレーライスを食うぞ。もう、ブロック系の食いもんはコリゴリだ」
「私は……そうですね。スパゲッティがいいです。卵とチーズの載ったカルボナーラ。それと、ウインナーがいっぱい入ったナポリタンを」
「いいねえ。――《夢幻のダイスロール》!」
転がる十面ダイス。
天使のマークが出て。
「……これで、先に進めればな」
ですが、残念ながらそう話はうまくいかず。
一時間ほど歩いた末に、
「ダメだな。何も起こらない」
そう、“賭博師”さんが言います。
「わかるんですか?」
「まーな。《夢幻のダイスロール》で起こる幸運、不幸は、だいたい一時間以内に発生するって決まりがあるんだ」
「へえ。……じゃ、何も起こらないパターンもある、と?」
「厳密には、何も起こってない訳じゃない。……普通なら躓いて転んでたところを、躓かずに済んだ、とか。そーいう幸運でした、ってことだと思う」
以前話していた「厳密に何が起こるかは選べない」というのは、そういうことでしたか。
”テキトーに歩いたルートが、ゴールへの道のりでした”みたいな幸運は引き寄せられない、と。
「……やっぱり、こればっかりは運に頼る他ないみたいですねぇ」
「ああ。理屈でどうにかなるもんじゃない。”左手の法則”が役に立たないって時点でわかってたことだけどな」
二人分の嘆息。
それでも、私たちは奇跡を信じ、《夢幻のダイスロール》を使用→一時間ほど歩くを繰り返します。
「……ダメだな。たぶん、探索する範囲が見当違いなんだと思う」
結果。
今回の探索では、”ボス部屋”を発見することはできませんでした。
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”情報その21”……”ダンジョンマスター”は、中学時代に木村拓哉と同姓同名の同級生がいたことがある。
”情報その22”…… ”ダンジョンマスター”は、ビールに最も合うおつまみはチーズおかきではないかと考えている。
”情報その23”…… ”マスターダンジョン”において、一部使用不可のスキルが存在する。
”情報その24”……マヨネーズとケチャップを一対一で混ぜたもののことを、オーロラソースという(わりとうまい)。
”情報その25”…… “マスターダンジョン”は全五階層からなり、そのフロアに存在する”ボス部屋”へたどり着くための条件は、ある程度決まっている。
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