その120 必殺剣について。part2

 その後のレベル上げは、特に問題もなく進みます。


 道のりは単調。

 ”ダンジョン”の風景は、最初から最後まで、特に変わりなく。

 ただ、登場する”魔物”だけが妙にバリエーション豊かでした。


 二足歩行をする巨大ネズミ。

 牛の化物。

 巨大ムカデ。

 なんかヘドロの塊みたいなやつ。

 ネクタイをしめたらドンキー○ングにそっくりな、猿の怪物。

 青白い光を放つ、動く鎧。


 ”ダンジョン”内では、フツーに生きてたらなかなか出くわさない感じの、訳のわからん生命体をいっぱい見かけます。

 それらみーんな、見つけ次第片っ端からぶち殺して周った訳ですが。


 道中、危険はほとんどありませんでした。危険を感じることすらありませんでした。


 何せ、こっちにはレベル100オーバーの怪物が着いてくれている訳ですからね。

 ドラえもんの庇護下にいるのび太くんたちと同じで、わりかし安全に冒険することができたわけです。


 私たちがすべきなのは、ただ、無心に”魔物”を殺傷し続けること。


 死んだ”魔物”が消滅するという”ダンジョン”の性質は、凄惨な虐待行為をゲームのように感じさせるのにピッタリで。

 私たちはそれに、爽快感すら見出しつつあるのでした。



『グググググ……ゴオオオオオオオオオオオオオオン!』


「……”動く巨像”」

 と、私。


「”ゴーレム”」

 と、百花さん。


「えーっと、えーっと……”昏き土塊”」

 と、彩葉さん。


 私たちの目の前には、一般的な成人男性の背丈の倍ほどもある、巨大な動く像。

 ……が、合計九体ほど。


「うーん。……やっぱここは、王道の”ゴーレム”だな!」


 うん、うん、と、一人納得する彩葉ちゃん。

 ……ちなみにこのやりとり、今日で二十度目くらいです。


「よし、ねーちゃん! どっちがいっぱい”ゴーレム”をやっつけられるか、しょーぶだ!」

「はいはい」


 その頃には、私と彩葉ちゃんは二人協力して、“魔物”退治をするようになっていました。

 さすがにこの数を一人で相手にするのは骨が折れますからねー。

 ”魔物”たちも、これまでのように一撃で仕留められるほどヤワじゃなくなってきてますし。


「この群れを仕留めたら、いったん”ダンジョン”を出よう。近くに綺麗なホテルがあったはずだから、今夜はそこで休むよ」


 百花さんの言葉に、私は内心、ほっとします。

 “ダンジョン”に潜り始めてから、これで十ニ時間ほどになるでしょうか。

 始終身体を動かしていることを計算にいれれば、ブラック企業も真っ青の過酷な労働量ですよ。

 体力的には余裕があれど、さすがに精神的にクるものがあります。


 私は、ふかぁ~~~い安堵のため息を吐いた後、


「よぉし!」


 と、気合を入れます。


 これが最後だそうなので、景気よく《必殺剣》を使って終わらせますか。

 って訳で、(これまで、ちょくちょく確認してきたので、初見ではないですが)《必殺剣》の《Ⅵ》~《Ⅹ》の効果を再確認していきます。


「――《必殺剣Ⅵ》」


 呟くと同時に、刀を桃色のオーラが包み込みました。

 《必殺剣Ⅴ》がものすごい威力だったので、《Ⅵ》以降になるととんでもないことになるのでは……と思っていただけに、《Ⅵ》はちょっとだけ地味な効果。


「よいしょっ」


 この桃色のオーラに包まれている間、刀は一切の殺傷能力を失います。

 その代わり、


『ぐごごごごご……ごご、ご…………』


 斬りつけたゴーレムが、その場に膝をつき、身動き一つとらなくなりました。

 《必殺剣Ⅵ》は相手の意識を奪うことができる技なのです。

 これには、色んな使い方がありそうで、助かりました。

 もし今後、人間に襲われた時は、気兼ねもなく斬りつけることができそうです。


 では次。


「――《必殺剣Ⅶ》」


 《必殺剣Ⅵ》から《Ⅸ》までは、地味な効果が続きます。

 要するに、「斬った対象に特殊な状態異常効果を付与する」シリーズってことで。


 とりあえず、眠っている(と表現すればいいのでしょうか?)”ゴーレム”の足元をずばっと一撃。


『……ゴゴ……ゴ……』


 寝言(?)を言う”ゴーレム”さん。

 一見、何も起こっていないように見えます。

 それもそのはず。《必殺剣Ⅶ》は「徐々に相手の”魔力”を奪う」という効果であるためでした。

 目立ちませんが、これはかなり便利な技で。

 定期的に《必殺剣Ⅶ》を使えば、実質、永遠に”スキル”を使い続けることができるのです。


「――《必殺剣Ⅷ》」


 意識を奪いとった“ゴーレム”を無視して、別の“ゴーレム”を攻撃。

 すると、その”ゴーレム”の挙動がおかしくなり始めました。


『ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 さながら怪獣映画の様相で、”ゴーレム”同士の仲間割れが始まります。

 いま、私が斬りつけた”ゴーレム”には、敵と味方が真逆に見えているはずでした。


 ドラクエ風に表現すると、”こんらん”しているってところでしょうか。

 まあ、正確に仲間割れをさせる分、こっちの方が強力ですけど。


 んで、


「――《必殺剣Ⅸ》」


 味方にした”ゴーレム”の背後に身を隠しつつ、隙をみてもう一体をさくっと。

 すると、攻撃した“ゴーレム”の表面が、ボロボロと崩れていくのがわかります。


 代わりに、これまでの戦闘で傷ついていた私の身体が癒えていくのでした。

 これが、十二時間戦い詰めでも、体力が尽きない理由でもあります。

 この、体力の回復効果は、どうやら肉体の疲労でさえも癒す力があるらしく。

 百花さん指導による地獄のような特訓も、身体的な苦痛はさほどでもないのでした。


 仲間の一撃と、私の《必殺剣Ⅸ》を受けて、がくりと膝を折る“ゴーレム”。


 私はその頭部に向けて、――《必殺剣Ⅹ》を使います。


 同時に、私の刀が、深淵を思わせる黒に変色しました。


 ぞわぞわぞわぞわぞわ……。


 何かよくわからない、不吉なエネルギーのようなものが、刀を中心に集まってきているような……そんな感じがします。


「ごご…………ごごごごごごごご……」


 嫌な予感がしたのかもしれません。

 崩折れた”ゴーレム”は、最後の力を振り絞って、その一撃を防ごうと試みます。


 ですが、無駄でした。


 《必殺剣Ⅹ》に接触した者は、(恐らく、使用者である私も含めて)、このセカイから消失してしまうのです。


「よっこらしょぉっと!」


 疲れ果てたサラリーマンが立ち上がる時のような掛け声と共に、私は”ゴーレム”に一撃を食らわせました。

 すると、


 しゅごおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ…………。


 その巨体が、刀の中に吸い込まれていきます。


 そのまま私は、”こんらん”している”ゴーレム”と、意識を失っている”ゴーレム”を《必殺剣Ⅹ》で仕留めて、刀を鞘に納めました。


 RPG脳を持つ方にもわかりやすく《必殺剣》の効果を説明するなら、

 《必殺剣Ⅵ》は、敵を眠らせる効果。

 《必殺剣Ⅶ》は、MP吸収効果。

 《必殺剣Ⅷ》は、敵を混乱させる効果。

 《必殺剣Ⅸ》は、HP吸収効果。

 そして、《必殺剣Ⅹ》は……即死? 異次元に飛ばす?

 とにかくそんな感じの効果です。


「……ふう」


 腹具合を確認してみたところ、まだ魔力には余裕がある感じ。

 余力を残した状態で“ゴーレム”三体を仕留めることに成功したようでした。


 大事なのは、そこです。


 これまでの戦いで、相棒の彩葉ちゃんの戦い方はわかっていました。

 彼女、どうやら、限界ギリギリまで《魔法》や《必殺技》を連発する癖があるらしく。

 ”魔物”を倒す効率がいいのは結構なことですが、すぐに魔力切れを起こしちゃうんですよね。

 そんな彼女のフォローをするためにも、私の方は決して無理をしない戦法を取る必要があるのでした。


「うおおおおおおおおお! これで六体目だぁ!!」


 元気よく”ゴーレム”を叩きのめした彩葉ちゃんは、勝ち誇ったように両腕を高く掲げました。


「あーしの勝ちだな!」

「うんうん。えらいえらい」


 そう言って頭を撫でてあげると、


「えへへ~」


 邪気のない笑みを浮かべながら、少女は照れます。


 まったく、こっちの気苦労も知らずに……。

 でも可愛いので許します。


「じゃ、……そろそろ、帰ろうか」


 百花さんが、持ってきた文庫本から目を上げて、そう言いました。


「二人ともお疲れ様。戦果報告は後回しにして、今夜はゆっくりしよう」

「ふかふかのベッドと、シャワーを所望します」

「もちろん。”英雄”に相応しいスイートルームを選ぼうじゃないか」





 私たちが思いがけず”勇者”と出くわしたのは、その帰り道のできごとでした。


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